「長編(完結)」
生まれ変わっても
生まれ変わっても 22
後ろから廻されたパク・ハの両手が、テヨンのお腹のあたりでしっかりと組まれている。
組まれたその両手を、テヨンが自分の手で、そっと上から包み込む。
「分かった。」
テヨンは静かにそれだけ言って、彼女が腕を離そうとするまで、そのままでいた。
朝、カーテンの隙間から光が伸びてきて、テヨンの顔に当たった。
眩しさを感じて、目を開ける。
ゆっくりとその身を起こして、辺りを見廻した。
いつもの自分の部屋とは違う景色が目に飛び込んできて、一瞬、考えた。
すぐに、屋根部屋のイ・ガクの部屋だったと気付く。
そうだ。昨夜、パッカと・・・。
隣に寝ていたはずのパク・ハの姿がなかった。
彼はベッドを抜け出した。
朝食に並べられた、数種類の総てのおかずと、汁物と、ご飯を全部、平らげた。
満足そうに、おいしかった、というテヨンを、パク・ハは嬉しそうに見ている。
「太っちゃいそうだ。」
パク・ハは、うふふ、と笑いながら、コーヒーの入ったカップをテヨンに差し出した。
きれいに何もなくなった皿をテーブルから下げると、自分もコーヒーカップを持って、テヨンの向かいに腰かけた。
「おば様に、何か言われる?」
「言われるだろうね。」
テヨンは苦笑した。
パク・ハの店の前で車を停めた。そっと口づけを交わしパク・ハが車を降りていく。
「テヨンさん、行ってらしゃい。」
「うん、行ってきます。」
彼女が手を振るのへ、テヨンも手を振り返して発車した。
新婚夫婦が玄関先で交わすような会話だな、とテヨンは思った。自然に口角が上がる。
会社に到着し、テヨンは彼自身のオフィスに向かった。
エレベーターを降り、廊下を歩いていると、後ろから呼び留められた。
振り向くと、社長付きの秘書だった。
「おはようございます。ヨン本部長。」
「おはようございます。」
「本部長、社長がお呼びです。」
「社長が?」
「はい。」
朝から何だろう?内心、首を傾げる。
すぐ行きます、と答えると、秘書は一礼してその場を去った。
テヨンは一旦オフィスに入ると、荷物を置いて、社長室に向かった。
そう言えば・・・。
歩きながらスマホを手に取る。思った通り、早朝にソリからの着信履歴が残っていた。メールも。
後でもいいか・・・。
社長室のドアをノックすると、入れ、とテクスの返事があった。
ドアを開け、一礼する。
「おはようございます。」
「ああ。」
テクスはデスクに肘をついて、顔の下で両手を組んでいた。
組んだ手の上に顎を載せている。
「中高年女性に向けた、パッケージ旅行を企画しているそうだな。」
「・・・はい。」
「昨夜はどこに泊まった?」
旅行の企画のことはともかく、自分が昨夜どこで過ごしたかについて尋ねられるとは思いもよらず、テヨンは言葉に詰まった。
「パク・ハさんの所か?」
そんなことまで、社長に報告しなければならないのだろうか?
「・・・まあ、そのことはいい。・・・朝から電話で叩き起こされた。家族に連絡ぐらい入れて外泊しろ。」
ソリは、テヨンに電話が繋がらず、テクスに電話を入れたらしい。
「急に、出張に出たと言っておいた。・・・"貸し" だぞ。」
テクスがにやりと笑った。
「いいえ。社長は僕に"借り" を返しただけです。」
そう言って、テヨンもにっと笑った。
「は?俺がいつお前に"借り"を作った?」
「僕の昇進祝いパーティーで。・・・大叔母様は社長に抱き上げられたと思っています。」
「なっ・・・。それは、お前が勝手に嘘を言っただけだ。」
「社長は、抱き上げようとなさっていました。まるきり、嘘ではないでしょう?立ち上がってたら、そうなってた。」
テクスはおほんと咳ばらいをした。
「ともかく、お前には"貸し" がもう一つある。」
え?と口の中で言ったテヨンに社長が畳み掛けるように言う。
「旅行の企画はいい。どうして、ソリさんにモニターを頼んだ?家を空けてもらいたい理由でもあるか?どうなんだ?」
テヨンは二の句が継げない。
「そうまでしておいて、昨夜、外泊とはな・・・。出張だとでも言えば済むことだろう?」
テヨンは、その手があったか、と、さっき思わされたばかりだった。
「上司が部下を私的に動かし始めた時から、会社の私物化が始まる。まして、それが経営者なら、その会社は破綻という坂を下り始める。気付いた時には止められないほどの早さで、だ。」
テクスは、組んでいた手を下げ、テヨンを見据えた。
「いいか。お前の肩には、ホーム&ショッピング社の全社員と、その家族の生活が懸かっている。そのことを、覚えておけ。」
「・・・はい。」
「必ず商品としてモノにしろ。お前が責任を持ってヒットさせるんだ。・・・それで"貸し" をなしにしてやる。」
戻っていい、と言われ、テヨンはまた一礼して社長室を出た。
パッケージ旅行の方は、優秀なチーム長に任せた。商品としてモノにもなるだろうし、ヒットも望めるだろう。
それにしても、とテヨンは思った。
社長が、大叔母様に出張だと言ってくれて、良かった。
自分のオフィスに向かいながら、テヨンは溜息を吐いた。
ソリにからかわれたところで、そのことは気にしないが、何もなかったのに、何かあったと思われるのが嫌だった。
そう、昨夜は何もなかったのだ。
パク・ハが、そろそろとテヨンから腕を離し、もう寝ようと言った。
そして、シャワーを浴びるかと訊かれたので、テヨンは先に浴びておいでと答えた。
彼がシャワーを終えて、部屋に入った時、彼女はベッドの上で寝息を立てていた。
テヨンが布団を捲るとパク・ハは、目を覚ました。
隣をぽんぽんと叩いて、ここに来いと言う。
彼がそこに滑り込むと、嬉しそうに抱きついてきて、そのまま、また安らかに寝息を立て始めたのだ。
天使のように穢れのないその寝顔に、キスすることすら憚られて、そのまま眠りに付くしかなかった。
眠りに付くことができるならば、だが・・・。
パク・ハの柔らかな体の温もりを感じて、テヨンは生殺しにされたまま、夜を過ごしたのだった。
組まれたその両手を、テヨンが自分の手で、そっと上から包み込む。
「分かった。」
テヨンは静かにそれだけ言って、彼女が腕を離そうとするまで、そのままでいた。
朝、カーテンの隙間から光が伸びてきて、テヨンの顔に当たった。
眩しさを感じて、目を開ける。
ゆっくりとその身を起こして、辺りを見廻した。
いつもの自分の部屋とは違う景色が目に飛び込んできて、一瞬、考えた。
すぐに、屋根部屋のイ・ガクの部屋だったと気付く。
そうだ。昨夜、パッカと・・・。
隣に寝ていたはずのパク・ハの姿がなかった。
彼はベッドを抜け出した。
朝食に並べられた、数種類の総てのおかずと、汁物と、ご飯を全部、平らげた。
満足そうに、おいしかった、というテヨンを、パク・ハは嬉しそうに見ている。
「太っちゃいそうだ。」
パク・ハは、うふふ、と笑いながら、コーヒーの入ったカップをテヨンに差し出した。
きれいに何もなくなった皿をテーブルから下げると、自分もコーヒーカップを持って、テヨンの向かいに腰かけた。
「おば様に、何か言われる?」
「言われるだろうね。」
テヨンは苦笑した。
パク・ハの店の前で車を停めた。そっと口づけを交わしパク・ハが車を降りていく。
「テヨンさん、行ってらしゃい。」
「うん、行ってきます。」
彼女が手を振るのへ、テヨンも手を振り返して発車した。
新婚夫婦が玄関先で交わすような会話だな、とテヨンは思った。自然に口角が上がる。
会社に到着し、テヨンは彼自身のオフィスに向かった。
エレベーターを降り、廊下を歩いていると、後ろから呼び留められた。
振り向くと、社長付きの秘書だった。
「おはようございます。ヨン本部長。」
「おはようございます。」
「本部長、社長がお呼びです。」
「社長が?」
「はい。」
朝から何だろう?内心、首を傾げる。
すぐ行きます、と答えると、秘書は一礼してその場を去った。
テヨンは一旦オフィスに入ると、荷物を置いて、社長室に向かった。
そう言えば・・・。
歩きながらスマホを手に取る。思った通り、早朝にソリからの着信履歴が残っていた。メールも。
後でもいいか・・・。
社長室のドアをノックすると、入れ、とテクスの返事があった。
ドアを開け、一礼する。
「おはようございます。」
「ああ。」
テクスはデスクに肘をついて、顔の下で両手を組んでいた。
組んだ手の上に顎を載せている。
「中高年女性に向けた、パッケージ旅行を企画しているそうだな。」
「・・・はい。」
「昨夜はどこに泊まった?」
旅行の企画のことはともかく、自分が昨夜どこで過ごしたかについて尋ねられるとは思いもよらず、テヨンは言葉に詰まった。
「パク・ハさんの所か?」
そんなことまで、社長に報告しなければならないのだろうか?
「・・・まあ、そのことはいい。・・・朝から電話で叩き起こされた。家族に連絡ぐらい入れて外泊しろ。」
ソリは、テヨンに電話が繋がらず、テクスに電話を入れたらしい。
「急に、出張に出たと言っておいた。・・・"貸し" だぞ。」
テクスがにやりと笑った。
「いいえ。社長は僕に"借り" を返しただけです。」
そう言って、テヨンもにっと笑った。
「は?俺がいつお前に"借り"を作った?」
「僕の昇進祝いパーティーで。・・・大叔母様は社長に抱き上げられたと思っています。」
「なっ・・・。それは、お前が勝手に嘘を言っただけだ。」
「社長は、抱き上げようとなさっていました。まるきり、嘘ではないでしょう?立ち上がってたら、そうなってた。」
テクスはおほんと咳ばらいをした。
「ともかく、お前には"貸し" がもう一つある。」
え?と口の中で言ったテヨンに社長が畳み掛けるように言う。
「旅行の企画はいい。どうして、ソリさんにモニターを頼んだ?家を空けてもらいたい理由でもあるか?どうなんだ?」
テヨンは二の句が継げない。
「そうまでしておいて、昨夜、外泊とはな・・・。出張だとでも言えば済むことだろう?」
テヨンは、その手があったか、と、さっき思わされたばかりだった。
「上司が部下を私的に動かし始めた時から、会社の私物化が始まる。まして、それが経営者なら、その会社は破綻という坂を下り始める。気付いた時には止められないほどの早さで、だ。」
テクスは、組んでいた手を下げ、テヨンを見据えた。
「いいか。お前の肩には、ホーム&ショッピング社の全社員と、その家族の生活が懸かっている。そのことを、覚えておけ。」
「・・・はい。」
「必ず商品としてモノにしろ。お前が責任を持ってヒットさせるんだ。・・・それで"貸し" をなしにしてやる。」
戻っていい、と言われ、テヨンはまた一礼して社長室を出た。
パッケージ旅行の方は、優秀なチーム長に任せた。商品としてモノにもなるだろうし、ヒットも望めるだろう。
それにしても、とテヨンは思った。
社長が、大叔母様に出張だと言ってくれて、良かった。
自分のオフィスに向かいながら、テヨンは溜息を吐いた。
ソリにからかわれたところで、そのことは気にしないが、何もなかったのに、何かあったと思われるのが嫌だった。
そう、昨夜は何もなかったのだ。
パク・ハが、そろそろとテヨンから腕を離し、もう寝ようと言った。
そして、シャワーを浴びるかと訊かれたので、テヨンは先に浴びておいでと答えた。
彼がシャワーを終えて、部屋に入った時、彼女はベッドの上で寝息を立てていた。
テヨンが布団を捲るとパク・ハは、目を覚ました。
隣をぽんぽんと叩いて、ここに来いと言う。
彼がそこに滑り込むと、嬉しそうに抱きついてきて、そのまま、また安らかに寝息を立て始めたのだ。
天使のように穢れのないその寝顔に、キスすることすら憚られて、そのまま眠りに付くしかなかった。
眠りに付くことができるならば、だが・・・。
パク・ハの柔らかな体の温もりを感じて、テヨンは生殺しにされたまま、夜を過ごしたのだった。
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~ Comment ~
Re: タイトルなし
ほ**様
またまた素敵なコメをありがとうございます。<m(__)m>
ほんと、しょっちゅう出張って言いそうですね。(笑)
テヨンは抱き枕にされちゃっただけですが、(苦笑)パッカは幸せだったと思います。
心身共に絆が深まるのはもうすぐ?
またまた素敵なコメをありがとうございます。<m(__)m>
ほんと、しょっちゅう出張って言いそうですね。(笑)
テヨンは抱き枕にされちゃっただけですが、(苦笑)パッカは幸せだったと思います。
心身共に絆が深まるのはもうすぐ?
- #85 ありちゃん
- URL
- 2014.11/18 08:52
- ▲EntryTop
Re: タイトルなし
か****さま
おはようございます。
生殺し、この言葉が書きたかっただけだという・・・意地悪な私です。(笑)
生ユチョン、生JYJ、見たいですよね。私も画面越しの口なので、一緒に画面越しに応援しましょう!
私は、それほど韓ドラを見ていなくて、俳優さんもあまり知らないのですが、「宮」はハマってユル役のジョンフンが好きで、彼が日本で出してるCDは買いましたね。(彼の日本語の発音は美しい!)
その人が出てるからそのドラマを見る、ことをしてるのはユチョンだけです。
日本人だと、玉木宏が好きですが、顔ではなく声が好きなので、映像なしでOKだったりします。(笑)
実はユチョンも声から入りました。ユチョンは姿かたちも大好きですが・・・。
基本、おじさん好きなので、(「ダイ・ハード」のブルース・ウィリスとか「エアフォースワン」のハリソン・フォードとか好きです。)ユチョンは別枠だったりします。(笑)
おはようございます。
生殺し、この言葉が書きたかっただけだという・・・意地悪な私です。(笑)
生ユチョン、生JYJ、見たいですよね。私も画面越しの口なので、一緒に画面越しに応援しましょう!
私は、それほど韓ドラを見ていなくて、俳優さんもあまり知らないのですが、「宮」はハマってユル役のジョンフンが好きで、彼が日本で出してるCDは買いましたね。(彼の日本語の発音は美しい!)
その人が出てるからそのドラマを見る、ことをしてるのはユチョンだけです。
日本人だと、玉木宏が好きですが、顔ではなく声が好きなので、映像なしでOKだったりします。(笑)
実はユチョンも声から入りました。ユチョンは姿かたちも大好きですが・・・。
基本、おじさん好きなので、(「ダイ・ハード」のブルース・ウィリスとか「エアフォースワン」のハリソン・フォードとか好きです。)ユチョンは別枠だったりします。(笑)
- #86 ありちゃん
- URL
- 2014.11/18 09:10
- ▲EntryTop
Re: タイトルなし
か****さま
こんにちは。
ジョンフンのあのネックレスは、私も欲しかったです!
のだめもハマって、コミックス全巻大人買いしました。(苦笑)
でも、二次小説にしたいのはユチョンだけです。ww
こんにちは。
ジョンフンのあのネックレスは、私も欲しかったです!
のだめもハマって、コミックス全巻大人買いしました。(苦笑)
でも、二次小説にしたいのはユチョンだけです。ww
- #88 ありちゃん
- URL
- 2014.11/18 15:18
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