「短編集」
番外編
赤い糸 (生まれ変わっても 番外編)
それは、少々風の強い日のことでございました。
平日の昼下がり、そのお客様は当店を訪れられたのでございます。
自動ドアが開き、お客様が入ってみえられたとき、いつものように従業員一同、いらっしゃいませ、と声をお掛けいたしました。
直後、若い女性従業員、いえ、年配の従業員も含めたすべての女性が、お客様を見て息を飲んでおりました。
仕立てのよいジャケットを着て、片側の肩にだけバックパックを背負い、背も高く姿勢も良い、すらっとしたその姿は、一目で店内の女性を魅了してしまったのでございます。
お客様はそんなことを気になさる風もなく、店内をぐるりと見廻して、ショウケースに近付かれました。
熱心に商品をご覧になりながら、店内を歩かれます。
宝石(いし)付きの婚約指輪が並べられたショウケースの前で足をお止めになると、じっと中をご覧になられています。
男性がお独りで当店のような店に来られ、婚約指輪を見る、プロポーズをなさるおつもりだと窺えます。
このような時、たいていのお客様は、どのようなものを準備してよいものか分からずお悩みになられます。
贈るべき意中の女性をお連れになって一緒に選ばれる方もありますし、母親と思しき方をお連れになる場合もございます。
そのお客様はお独りでした。
普段ですと、女性従業員がアドバイスを差し上げるべく、お客様のお傍に行って声をお掛けするのですが、この日は違いました。
従業員はおろか、そのとき店内にいらっしゃったお客様まで、女性という女性がこのお客様に見惚れてしまっていたのでございます。
互いに牽制し合って、接客どころではございませんでした。
お客様の生涯で、最も大切な節目である結婚をサポートして差し上げるのに、適切なアドバイスを差し上げられないようでは当店の信用も地に落ちてしまいます。
そこで、私がそのお客様を接客することにいたしました。
「いらっしゃいませ。」
にこやかに近付いた私を振り返られて、お客様も微笑まれました。
なんと、まあ、・・・これでは、女性従業員がまともな接客をできるはずがございません。
「婚約指輪でございますか?」
「ええ。・・・でも、僕が思うようなものがないようなんです。」
宝石(いし)にしろ、デザインにしろ、明確な希望をお持ちの様子で、私は安堵いたしました。
プロポーズを決意したものの、おろおろと心配されている方、舞い上がってどうしてよいのか分からずにいる方、今まで、それはそれは色々な男性達を見てきたのでございます。
無事に結婚の承諾を得られれば、後日、結婚指輪をお求めに、お二人でみえられたりもなさいます。
謝意などお伝えいただくと、本当に嬉しく、従業員一同で祝福を述べたりもいたします。
・・・中には、二度とみえられないお客様もいらっしゃいます。
贈る婚約指輪に明確な希望をお持ちのお客様は、圧倒的に前者が多いのでございます。
結婚の承諾を得る自信がおありだということでもあるからでしょう。
安心して接客ができる、そう思いました。
「どのようなものをお求めですか?」
「翡翠です。」
「翡翠でございますか?」
「変ですか?」
思わず、怪訝な顔をしてしまった私を見て、お客様が苦笑をされました。
「いえ、そんなことはございません。私のような年代ならともかく、お客様のようにお若い方が翡翠とは、意外だったものですから。」
「彼女が、翡翠のネックレスを大切にしていて・・・それと、対(つい)になるようなものを探しているんです。」
これは、安心して接客どころか、いつもより難題を与えられそうだ、と緊張をいたしました。
「どのようなネックレスをお持ちなのでしょうか?デザインや色をお伺いしても?」
翡翠と一口に言いましても、様々な色がございます。インペリアルグリーンと呼ばれる深緑の石はダイヤよりも高価なものでございます。
「色は、淡くて柔らかい・・・パステルグリーンで、デザインは・・・口で言うより描いた方が早いですね。」
お客様は、そう言うなり肩からバックパックを降ろすと鉛筆を取り出されました。続いて、紙か、ノートか、描くものを探り出そうとしておられます。
「紙をお持ちしますので、お待ちください。」
近くの従業員に、紙を一枚持って来るように指示いたしました。
紙を受け取ったお客様は、ここで描いても?と言ってショウケースの上を指されました。
どうぞ、と申し上げましたら、いい紙ですね、とにこりと笑われます。
「当店ではデザインもいたしますから、デザイナーが使う紙でございます。」
「そうですか。じゃ、きちんと描かなきゃ、申し訳ないな。」
さらさらと慣れた手つきで鉛筆を動かされます。
紙の上を滑る鉛筆が、その下のガラスに当たって、時々、コツッ、コツッと音を立てていました。
紙の上に女性の胸元が描き出され、鎖に通された翡翠のトップが描き出されました。
女性のお顔まで描いてほしいと思うほどの腕前でございます。
「こちらと対(つい)に、ということであれば・・・、刳り貫きリングがよろしいかと思います。」
お客様は、くりぬきリング?と口の中でつぶやかれました。
「プラチナなどの台に翡翠をはめ込むのではなく、翡翠自体を刳り貫いて指輪にするのです。
史劇ドラマなどで見たことはございませんか?朝鮮時代の王室の女性がしているのを。
その時代の物は非常に幅があって指も閉じられないほどですが、今は技術も進歩していますので、細く繊細な指輪に仕上げられますよ。」
お客様は少し考えるような素振りをなさいました。
「それに、ダイヤを埋め込むことはできますか?」
やはり、難題を与えられてしまいました。
「・・・加工の段階で翡翠が割れてしまうかもしれませんので・・・小さなダイヤでしたら・・・」
「できれば、三つ、入れて欲しいんです。」
原石の状態によっては刳り貫くだけでも割れるかもしれないのに、そこにダイヤを三つも埋め込めとは・・・いやはや、このお客様は・・・・とんでもない難題を吹っかけてこられます。
「職人泣かせでございますが・・・同時に職人魂に火を点けることにもなるでしょうね。」
職人だけでなく、私の接客魂にも火を点けてしまわれました。
何としてもご希望を叶えて差し上げたい、とそう思ったのでございます。
「・・・ただ・・・」
お客様は口籠る私を見て、ああ、と仰ってジャケットの内ポケットから財布を出されました。
中からブラックカードを抜き取り、ショーケースの上に置かれます。
「こんな若造が支払えるのかと、よく訊かれます。車一台分ぐらいなら現金で用意できますよ。」
やはり、思った通り、どこかの御曹司でいらっしゃるのでしょう。財布も高級ブランドのものでございました。
車一台分と言うのも、おそらく高級車を指していると思われます。
「大変、失礼を申し上げました。」
「あなたは、ただ、としか仰ってませんよ。」
カードを仕舞われながら、片目を瞑っておられます。
いやはや、こんなスマートな若者が居るものなのかと驚かされました。
女性が放っておかないことでしょう。
そのお客様とのやり取りは非常に楽しいものでございました。
オーダーでご注文いただく場合、個室で打ち合わせをさせて頂きます。
ご要望をお伺いして、より細かくご希望に添うためでございます。
「出来上がりまでにどのくらいかかりますか?」
「そうでございますね、・・・一月から四十日程でしょうか。」
「二週間で、造っていただけませんか?」
「二週間でございますか?」
なんと、まあ、やはり難題を突き付けてこられるのですね。
「再来週の火曜日には必要なんです。」
「・・・実質、十二日しかございませんね。」
これは、困りました。・・・職人に寝ずに仕事をしろと言うわけにもまいりません。
ですが、人を従わせてしまう、不思議な魅力のあるお客様でございます。
「分かりました。最優先で仕事に掛からせましょう。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
「では、最後にサイズをお教えください。」
「・・・サイズ?」
喜びに明るくなったお顔が、曇ってしまわれました。
「・・・ご存知ではあられませんか?」
よくあることでございます。ですが・・・
「プラチナやゴールドでしたら、後からサイズ直しもできますし、実際そのようなカップルも多くいらっしゃいます。ですが・・・翡翠の刳り貫きリングとなりますと、ジャストサイズでお造りしませんと・・・。
すぐに石の選定と切り出し作業に掛からせますので、三日以内にサイズをお教えください。そうでなければ、お客様のご希望の日までに仕上げるのは難しいかと存じます。」
「・・・分かりました。すぐに調べます。」
その後、書類にサインをいただき、正式にご注文を承ったのでございます。
翌日、そのお客様は再度ご来店なさいました。
カウンターの中に、私の姿を見つけると嬉しそうに近付いてこられました。
「このサイズです。」
差し出された掌の上に、赤いリボンが載せられていました。
「失礼いたします。」
私はその赤いリボンの輪を受け取ってゲージ棒にはめ込みました。
ショウケースからそのサイズの指輪を取り出しお客様にお見せしたのでございます。
「サイズ的にはこれぐらいかと存じます。」
お客様はリングを手に取りしげしげと見つめておられました。
「これぐらいなのかな・・・細いですね。・・・昨日、彼女の指に結んだリボンがそれなんです。」
「それでしたら、間違いないのではございませんか?」
「そうですね。・・・それで、お願いします。」
「かしこまりました。・・・ところでお客様、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「はい?」
「なんと仰って、このリボンをお相手の指に結ばれたのでございましょう?恋人のリングサイズをご存じないと仰られて、どうやって測ったらいいかとよく相談を受けるものですから、参考までにお伺いしても?」
ああ。
『運命の赤いリボン』だと言って、彼女と僕の指に結わえ付けたんですよ。
しかも、最初にわざと親指に結んだものだから、『赤い糸』も知らないのか、それに小指だ、と言って笑われました。
お客様ははにかんだようにお笑いになられました。
女性が放っておくはずがない、そのようなお方でございます。
職人も、大いに職人魂を刺激され、それこそ寝る間も惜しんで作業に当たってくれたのでございます。
約束の日の朝、ぎりぎりではございましたが、職人も、私も、納得のいくものをご準備することができました。
これなら、お客様も、贈られる女性もお喜びいただけることでございましょう。
その日の夕刻、そのお客様が商品を受け取りにみえられました。
「ご注文の御品でございます。」
お客様は満足そうに頷いておられます。
包装してもいいかとお伺いしましたら、リボンはこれを、と赤いリボンを差し出されました。
「『運命の赤いリボン』でございますね。かしこまりました。・・・少し長いようですので、先を少々カットしてもよろしいでしょうか?」
任せると仰られたので、長めのリボンを華やかに飾り付けさせていただきました。
余ったリボンをどういたしましょうか、とお伺いしましたら、彼女のサイズでリボンをリングのようにして欲しい、それも一緒に贈るから、と仰られました。
かしこまりました、と申し上げ、私は、微笑まずにはおられませんでした。
「贈られる方はお幸せでございますね。」
お客様はにこやかにお帰りになられました。
女性に放っておかれるはずがない、そのようなお客様だったのでございます。
しかしながら、
運命の赤い糸はただ一本、もうすでに、独りの女性と繋がっておられる、そのようなお客様だったのでございます。
_________
メリー・クリスマス!
クリスマスの今宵
ささやかながら、皆様にお贈りしたかった物語です。
なお、石の加工についてはよく知りません。翡翠にダイヤを埋め込めるかどうか・・・でも、そんなリングがあったら素敵だと思いませんか?(すでにパク・ハに贈っちゃったし。)
__________
平日の昼下がり、そのお客様は当店を訪れられたのでございます。
自動ドアが開き、お客様が入ってみえられたとき、いつものように従業員一同、いらっしゃいませ、と声をお掛けいたしました。
直後、若い女性従業員、いえ、年配の従業員も含めたすべての女性が、お客様を見て息を飲んでおりました。
仕立てのよいジャケットを着て、片側の肩にだけバックパックを背負い、背も高く姿勢も良い、すらっとしたその姿は、一目で店内の女性を魅了してしまったのでございます。
お客様はそんなことを気になさる風もなく、店内をぐるりと見廻して、ショウケースに近付かれました。
熱心に商品をご覧になりながら、店内を歩かれます。
宝石(いし)付きの婚約指輪が並べられたショウケースの前で足をお止めになると、じっと中をご覧になられています。
男性がお独りで当店のような店に来られ、婚約指輪を見る、プロポーズをなさるおつもりだと窺えます。
このような時、たいていのお客様は、どのようなものを準備してよいものか分からずお悩みになられます。
贈るべき意中の女性をお連れになって一緒に選ばれる方もありますし、母親と思しき方をお連れになる場合もございます。
そのお客様はお独りでした。
普段ですと、女性従業員がアドバイスを差し上げるべく、お客様のお傍に行って声をお掛けするのですが、この日は違いました。
従業員はおろか、そのとき店内にいらっしゃったお客様まで、女性という女性がこのお客様に見惚れてしまっていたのでございます。
互いに牽制し合って、接客どころではございませんでした。
お客様の生涯で、最も大切な節目である結婚をサポートして差し上げるのに、適切なアドバイスを差し上げられないようでは当店の信用も地に落ちてしまいます。
そこで、私がそのお客様を接客することにいたしました。
「いらっしゃいませ。」
にこやかに近付いた私を振り返られて、お客様も微笑まれました。
なんと、まあ、・・・これでは、女性従業員がまともな接客をできるはずがございません。
「婚約指輪でございますか?」
「ええ。・・・でも、僕が思うようなものがないようなんです。」
宝石(いし)にしろ、デザインにしろ、明確な希望をお持ちの様子で、私は安堵いたしました。
プロポーズを決意したものの、おろおろと心配されている方、舞い上がってどうしてよいのか分からずにいる方、今まで、それはそれは色々な男性達を見てきたのでございます。
無事に結婚の承諾を得られれば、後日、結婚指輪をお求めに、お二人でみえられたりもなさいます。
謝意などお伝えいただくと、本当に嬉しく、従業員一同で祝福を述べたりもいたします。
・・・中には、二度とみえられないお客様もいらっしゃいます。
贈る婚約指輪に明確な希望をお持ちのお客様は、圧倒的に前者が多いのでございます。
結婚の承諾を得る自信がおありだということでもあるからでしょう。
安心して接客ができる、そう思いました。
「どのようなものをお求めですか?」
「翡翠です。」
「翡翠でございますか?」
「変ですか?」
思わず、怪訝な顔をしてしまった私を見て、お客様が苦笑をされました。
「いえ、そんなことはございません。私のような年代ならともかく、お客様のようにお若い方が翡翠とは、意外だったものですから。」
「彼女が、翡翠のネックレスを大切にしていて・・・それと、対(つい)になるようなものを探しているんです。」
これは、安心して接客どころか、いつもより難題を与えられそうだ、と緊張をいたしました。
「どのようなネックレスをお持ちなのでしょうか?デザインや色をお伺いしても?」
翡翠と一口に言いましても、様々な色がございます。インペリアルグリーンと呼ばれる深緑の石はダイヤよりも高価なものでございます。
「色は、淡くて柔らかい・・・パステルグリーンで、デザインは・・・口で言うより描いた方が早いですね。」
お客様は、そう言うなり肩からバックパックを降ろすと鉛筆を取り出されました。続いて、紙か、ノートか、描くものを探り出そうとしておられます。
「紙をお持ちしますので、お待ちください。」
近くの従業員に、紙を一枚持って来るように指示いたしました。
紙を受け取ったお客様は、ここで描いても?と言ってショウケースの上を指されました。
どうぞ、と申し上げましたら、いい紙ですね、とにこりと笑われます。
「当店ではデザインもいたしますから、デザイナーが使う紙でございます。」
「そうですか。じゃ、きちんと描かなきゃ、申し訳ないな。」
さらさらと慣れた手つきで鉛筆を動かされます。
紙の上を滑る鉛筆が、その下のガラスに当たって、時々、コツッ、コツッと音を立てていました。
紙の上に女性の胸元が描き出され、鎖に通された翡翠のトップが描き出されました。
女性のお顔まで描いてほしいと思うほどの腕前でございます。
「こちらと対(つい)に、ということであれば・・・、刳り貫きリングがよろしいかと思います。」
お客様は、くりぬきリング?と口の中でつぶやかれました。
「プラチナなどの台に翡翠をはめ込むのではなく、翡翠自体を刳り貫いて指輪にするのです。
史劇ドラマなどで見たことはございませんか?朝鮮時代の王室の女性がしているのを。
その時代の物は非常に幅があって指も閉じられないほどですが、今は技術も進歩していますので、細く繊細な指輪に仕上げられますよ。」
お客様は少し考えるような素振りをなさいました。
「それに、ダイヤを埋め込むことはできますか?」
やはり、難題を与えられてしまいました。
「・・・加工の段階で翡翠が割れてしまうかもしれませんので・・・小さなダイヤでしたら・・・」
「できれば、三つ、入れて欲しいんです。」
原石の状態によっては刳り貫くだけでも割れるかもしれないのに、そこにダイヤを三つも埋め込めとは・・・いやはや、このお客様は・・・・とんでもない難題を吹っかけてこられます。
「職人泣かせでございますが・・・同時に職人魂に火を点けることにもなるでしょうね。」
職人だけでなく、私の接客魂にも火を点けてしまわれました。
何としてもご希望を叶えて差し上げたい、とそう思ったのでございます。
「・・・ただ・・・」
お客様は口籠る私を見て、ああ、と仰ってジャケットの内ポケットから財布を出されました。
中からブラックカードを抜き取り、ショーケースの上に置かれます。
「こんな若造が支払えるのかと、よく訊かれます。車一台分ぐらいなら現金で用意できますよ。」
やはり、思った通り、どこかの御曹司でいらっしゃるのでしょう。財布も高級ブランドのものでございました。
車一台分と言うのも、おそらく高級車を指していると思われます。
「大変、失礼を申し上げました。」
「あなたは、ただ、としか仰ってませんよ。」
カードを仕舞われながら、片目を瞑っておられます。
いやはや、こんなスマートな若者が居るものなのかと驚かされました。
女性が放っておかないことでしょう。
そのお客様とのやり取りは非常に楽しいものでございました。
オーダーでご注文いただく場合、個室で打ち合わせをさせて頂きます。
ご要望をお伺いして、より細かくご希望に添うためでございます。
「出来上がりまでにどのくらいかかりますか?」
「そうでございますね、・・・一月から四十日程でしょうか。」
「二週間で、造っていただけませんか?」
「二週間でございますか?」
なんと、まあ、やはり難題を突き付けてこられるのですね。
「再来週の火曜日には必要なんです。」
「・・・実質、十二日しかございませんね。」
これは、困りました。・・・職人に寝ずに仕事をしろと言うわけにもまいりません。
ですが、人を従わせてしまう、不思議な魅力のあるお客様でございます。
「分かりました。最優先で仕事に掛からせましょう。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
「では、最後にサイズをお教えください。」
「・・・サイズ?」
喜びに明るくなったお顔が、曇ってしまわれました。
「・・・ご存知ではあられませんか?」
よくあることでございます。ですが・・・
「プラチナやゴールドでしたら、後からサイズ直しもできますし、実際そのようなカップルも多くいらっしゃいます。ですが・・・翡翠の刳り貫きリングとなりますと、ジャストサイズでお造りしませんと・・・。
すぐに石の選定と切り出し作業に掛からせますので、三日以内にサイズをお教えください。そうでなければ、お客様のご希望の日までに仕上げるのは難しいかと存じます。」
「・・・分かりました。すぐに調べます。」
その後、書類にサインをいただき、正式にご注文を承ったのでございます。
翌日、そのお客様は再度ご来店なさいました。
カウンターの中に、私の姿を見つけると嬉しそうに近付いてこられました。
「このサイズです。」
差し出された掌の上に、赤いリボンが載せられていました。
「失礼いたします。」
私はその赤いリボンの輪を受け取ってゲージ棒にはめ込みました。
ショウケースからそのサイズの指輪を取り出しお客様にお見せしたのでございます。
「サイズ的にはこれぐらいかと存じます。」
お客様はリングを手に取りしげしげと見つめておられました。
「これぐらいなのかな・・・細いですね。・・・昨日、彼女の指に結んだリボンがそれなんです。」
「それでしたら、間違いないのではございませんか?」
「そうですね。・・・それで、お願いします。」
「かしこまりました。・・・ところでお客様、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「はい?」
「なんと仰って、このリボンをお相手の指に結ばれたのでございましょう?恋人のリングサイズをご存じないと仰られて、どうやって測ったらいいかとよく相談を受けるものですから、参考までにお伺いしても?」
ああ。
『運命の赤いリボン』だと言って、彼女と僕の指に結わえ付けたんですよ。
しかも、最初にわざと親指に結んだものだから、『赤い糸』も知らないのか、それに小指だ、と言って笑われました。
お客様ははにかんだようにお笑いになられました。
女性が放っておくはずがない、そのようなお方でございます。
職人も、大いに職人魂を刺激され、それこそ寝る間も惜しんで作業に当たってくれたのでございます。
約束の日の朝、ぎりぎりではございましたが、職人も、私も、納得のいくものをご準備することができました。
これなら、お客様も、贈られる女性もお喜びいただけることでございましょう。
その日の夕刻、そのお客様が商品を受け取りにみえられました。
「ご注文の御品でございます。」
お客様は満足そうに頷いておられます。
包装してもいいかとお伺いしましたら、リボンはこれを、と赤いリボンを差し出されました。
「『運命の赤いリボン』でございますね。かしこまりました。・・・少し長いようですので、先を少々カットしてもよろしいでしょうか?」
任せると仰られたので、長めのリボンを華やかに飾り付けさせていただきました。
余ったリボンをどういたしましょうか、とお伺いしましたら、彼女のサイズでリボンをリングのようにして欲しい、それも一緒に贈るから、と仰られました。
かしこまりました、と申し上げ、私は、微笑まずにはおられませんでした。
「贈られる方はお幸せでございますね。」
お客様はにこやかにお帰りになられました。
女性に放っておかれるはずがない、そのようなお客様だったのでございます。
しかしながら、
運命の赤い糸はただ一本、もうすでに、独りの女性と繋がっておられる、そのようなお客様だったのでございます。
_________
メリー・クリスマス!
クリスマスの今宵
ささやかながら、皆様にお贈りしたかった物語です。
なお、石の加工についてはよく知りません。翡翠にダイヤを埋め込めるかどうか・・・でも、そんなリングがあったら素敵だと思いませんか?(すでにパク・ハに贈っちゃったし。)
__________
~ Comment ~
Re: ある意味うらやましい
阿波の局さま
こんばんは。
突貫工事的に書いてしまったお話でした。(汗)
クリスマスに間に合わせようと構成は考えていたのですが、文章になっておらず・・・
取りかかったのが23日でして。(苦笑)
イヴの夜、煙突から侵入して、枕元にプレゼントを置く。
クリスマスの朝、気付いてもらえればいいか、的な・・・ぎりぎりでございました。
宝石店の社長にも物申せるような、ベテラン、ハラボジのつもりで書きました。
(ちょうど、テヨンのハラボジぐらいのイメージです。)
書き終えたら口調がうつってしまってました。ww
> テヨンは若い女性にはもちろんもてるでしょうが、おばさんキラ~です。
はい。よく解ります。そうだと思います。ww
こんばんは。
突貫工事的に書いてしまったお話でした。(汗)
クリスマスに間に合わせようと構成は考えていたのですが、文章になっておらず・・・
取りかかったのが23日でして。(苦笑)
イヴの夜、煙突から侵入して、枕元にプレゼントを置く。
クリスマスの朝、気付いてもらえればいいか、的な・・・ぎりぎりでございました。
宝石店の社長にも物申せるような、ベテラン、ハラボジのつもりで書きました。
(ちょうど、テヨンのハラボジぐらいのイメージです。)
書き終えたら口調がうつってしまってました。ww
> テヨンは若い女性にはもちろんもてるでしょうが、おばさんキラ~です。
はい。よく解ります。そうだと思います。ww
Re: タイトルなし
か****さま
こんばんは。&メリークリスマス!!
今日の昼間は、久々に陽射しが届いて比較的暖かかったです。
夜は寒いですけど。(>_<)
テヨン、金額なんて気にしてませんね。w
普段から値札見ないで買い物してるに違いありません。ww(羨ましい・・・)
クリスマスが終われば冬休み、年末年始。
主婦は大変ですよねぇ。
ヤケ酒は身体に悪いですから、ここのお話読み返して(何気に宣伝)やけテヨンなんてどうでしょう?
(なんじゃそりゃ。・・・てか、忙しくて、読んでらんないですよねぇ。)
か****。頑張って!僕がハグしてあげるから。♡ Byテヨン
(ちょっとは癒されますか?)
こんばんは。&メリークリスマス!!
今日の昼間は、久々に陽射しが届いて比較的暖かかったです。
夜は寒いですけど。(>_<)
テヨン、金額なんて気にしてませんね。w
普段から値札見ないで買い物してるに違いありません。ww(羨ましい・・・)
クリスマスが終われば冬休み、年末年始。
主婦は大変ですよねぇ。
ヤケ酒は身体に悪いですから、ここのお話読み返して(何気に宣伝)やけテヨンなんてどうでしょう?
(なんじゃそりゃ。・・・てか、忙しくて、読んでらんないですよねぇ。)
か****。頑張って!僕がハグしてあげるから。♡ Byテヨン
(ちょっとは癒されますか?)
- #178 ありちゃん
- URL
- 2014.12/25 22:52
- ▲EntryTop
Re: NoTitle
F****さま
とても丁寧なコメ頂きましてありがとうございます。
長いだなんて気にされないでください。思いを伝えて頂けるのがとてもうれしいです!
(私の返答の方が素っ気なくて申し訳ないです。汗)
読み直して頂けて、感謝感激なのに、お正月にも、とは。嬉しすぎます。
テヨン、結構、・・・気のせいじゃないです。それは。ww
ほんと、寒いですけど、F****さんもお体お気をつけて。よいお年をお迎えください。m(__)m
とても丁寧なコメ頂きましてありがとうございます。
長いだなんて気にされないでください。思いを伝えて頂けるのがとてもうれしいです!
(私の返答の方が素っ気なくて申し訳ないです。汗)
読み直して頂けて、感謝感激なのに、お正月にも、とは。嬉しすぎます。
テヨン、結構、・・・気のせいじゃないです。それは。ww
ほんと、寒いですけど、F****さんもお体お気をつけて。よいお年をお迎えください。m(__)m
Re: 素敵なお話をありがとうございました
オ****さま
個別の返答は不要とのことでしたが、どうしても、お返事したくて。(お気遣いありがとうございます。)
ネックレスのデザインを伝えるだけなのに、デコルテを描く必要はないですね、確かに。w
私、全く、気付きませんでした。ww
「女性の胸元が描き出され・・・」の箇所で、なんか、ムフっとは思いましたが。w
テヨンにはネックレス本体ではなくて、ネックレス付きのパッカが焼き付いてたんですかねぇ。ww
個別の返答は不要とのことでしたが、どうしても、お返事したくて。(お気遣いありがとうございます。)
ネックレスのデザインを伝えるだけなのに、デコルテを描く必要はないですね、確かに。w
私、全く、気付きませんでした。ww
「女性の胸元が描き出され・・・」の箇所で、なんか、ムフっとは思いましたが。w
テヨンにはネックレス本体ではなくて、ネックレス付きのパッカが焼き付いてたんですかねぇ。ww
ある意味うらやましい
素敵なクリスマスプレゼントありがとうございます。
手強いお客様を捌かれたベテラン販売員さんはおいくつぐらいなんでしょうね~
60代?ひょっとしてもう一度は定年退職して、お目付け役あるいは教育係としてたまに出社する嘱託的な従業員の方でしょうかね。(70代?)
数多くの男性を見てきたベテランさんにも惚れられてしまうテヨンって・・・
あ、惚れたとは一文字も書いてませんか
でも・・・さらさらと紙の上にペンを走らせるテヨンの手をじっと見てますよね。綺麗な指だな~って。(←見てるのは私か・・・あはは)
テヨンと二人きりで個室で膝詰めで・・・
あ~ん、羨ましい。(←あ、すみません。お仕事でした。)
テヨンは若い女性にはもちろんもてるでしょうが、おばさんキラ~です。