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「短編集」
読み切り

나비(ナビ)‐蝶

 ←生まれ変わっても 33 →6か月経過のご報告と拍手コメント(1/14~16)のお礼です。
年若い宮女(クンニョ)はその場でガタガタと震えていた。
彼女はハッと我に返ると、額を床に擦り付けてひれ伏す。

「チョハ!申し訳もござりませぬ!」

「チョハ!大丈夫でございますか?」

「大事ない。」

宮女はイ・ガクに茶を淹れようとして、緊張のあまり、湯をこぼしてしまった。
幸い彼に湯がかかることはなかったが、ファヨンは手拭いで拭おうとしている。

「私にはかかっておらぬから気にするな。それよりも、そなたの手の方が真っ赤ではないか。すぐに冷やしてまいれ。」

イ・ガクは宮女を気遣った。

「まあ、本当に、真っ赤ですわ。・・・チョハもお許し下された。そなた、下がって治療してまいれ。」

「チョハ。嬪宮媽媽。申し訳ございませぬ。」

「よい。下がりや。・・・チョ尚宮、この者を下がらせよ。」

はい、と頭を下げると、チョ尚宮は宮女を立ち上がらせ、王世子と世子嬪の前から辞した。



「それにしても、この手拭い。・・・・実に見事な刺繍だ。私が貰い受けても佳いだろうか?」

「お恥ずかしゅうございます。そのようなものでよろしければ、お納めくださいませ。」

「また、謙遜を・・・。嬪宮。もっと他にもそなたの刺繍が見てみたい。」

「恐れ多いことでございます。チョハの御為でしたら、夜を徹してでも刺すことと致しましょう。」

「嬪宮、それはならぬ。・・・夜はきちんと休まれるが佳い。嬪宮が倒れてしまっては、私は自分を責めねばならなくなる。」

まあ、。・・・ほほほほほ。
ははははは。


イ・ガクとファヨンの笑い声が響いているのを扉越しに聞きながら、チョ尚宮は溜息を吐いた。

「大丈夫か?・・・そなた、二度とチョハとマーマーの前に姿を現すではないぞ。」

チョ尚宮は宮女にそう告げた。

イ・ガクの意識に印象付けられた宮女は、ことごとくファヨンによって遠ざけられる。
年若いこの宮女もそうされることだろう。

チョ尚宮の予想通り、イ・ガクが立ち去った後、ファヨンからこの宮女を二度と寄こしてはならぬと告げられた。

嬪宮媽媽が射るような眼差しであの者を見つめておいでだった。チョハのご寵愛は、嬪宮媽媽だけのものであると言うのに。・・・チョハがお許し下されて・・・宮女の命が無事だっただけでも良しとせねばなるまい。



「嬪宮媽媽。プヨン様がみえられましてございます。」

通せ、とのファヨンの声に従いプヨンが世子嬪の居室に入った。

「マーマー。お呼び出しに従い、参上いたしました。」

「座るがよい。」

姉と妹は向かい合った。

「プヨン。チョハが、蝶の刺繍をいたくお気に召された。」

「恐れ多いことでございます。」

プヨンは深々と頭を下げた。薄布の下で自然と笑みがこぼれる。

「また刺繍を刺して持って参れ。」

「はい。」

「そなたが刺したことは、他言無用じゃ。」

「・・・はい。思し召しのままに。」

プヨンの表情が硬くなる。
しかし 薄布に隠されて、目前の姉にもそうとは分からない。



プヨンは自室で針を持っていた。

一針、一針、思いを込めて刺繍を刺していく。
布の上に糸で蝶が描き出されていった。

「見事だ。本物の蝶も見分けがつかぬぞ。」

イ・ガクの軽やかな笑い声が思い出される。



見事な蝶の手拭いに、プヨンは墨を含ませた筆を充てた。
片隅に文字を入れる。

ㅂㅇ

부용(プヨン)自分の名を示す文字。

濃い墨の文字ははっきりとそこにある。
プヨンはその文字の部分を水に浸した。墨が流れ、薄れていく。

自分の名前が薄れていく。

プヨンは、水の中に流れ出す墨をじっと見つめた。


私の想いも、水に流れ去れば良いものを・・・。


白い布の上に微かに文字の痕跡が残った。
目を凝らしてよく見なければ分からないほど、その文字は薄れている。

チョハはハングルをお読みではない。
それでも、いつかお気づきになられるかも知れない。
ああ、浅ましい私をお許しください。
どんなに水に浸しても、完全には消せないのです。
私の浅ましい心のように。


蝶が、今にも羽ばたいて飛んで行ってしまいそうだった。


ひらひらと、ゆらゆらと、儚く、美しく舞う・・・私は蝶になりたい。
蝶になって、愛する方のお傍に、飛んで行きたい。

___________

ま***さんのコメントにインスパイアされて書いてみました。
ま***さん、ありがとうございます。

皆様のコメントからお話の"種"を、たくさん、たくさん、いただいています。
総ての読者様に、感謝申し上げます。m(__)m
___________
 【 お礼画像と、時々SS 掲載してます 

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~ Comment ~

儚く美しい

大好きなプヨンを書いてくださり、ありがとうございます。

>濃い墨の文字ははっきりとそこにある。
プヨンの自意識、嫋やかでいて強い芯を持つプヨンらしさを的確に表現されて、すばらしい!

あ”~、もっとコメントを書きたいのに、旦那に呼ばれた~
専属運転手、だんなの迎えに行ってまいります(涙

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Re: 儚く美しい

阿波の局様

いやぁ、時代物は難しいですね。(汗)

そんなに深く考えずに書いちゃったので恐縮です。

現実的な生活を総て置いておいて浸りたくなる時がよくあります。W
お忙しい中を頻繁においでくださり、ありがとうございます。m(__)m

Re: 連鎖 ほ**さんへ

ほ**さま

拍手コメ、またですかぁ。何なんでしょうねぇ。(>_<)

嬪宮の手によるもの、ということになってるのに、ハングルの略字とは言え名前を残したのはなんでだろうと思っていました。(いや、答えは明白ですが・・・)
分かるか分からないかの痕跡を残す、その方法はなんだろうと思って・・・糸で縫いつけちゃったらバレバレだし、あえて墨で書いて洗い流したのかなぁ・・・なんて、思って。

ファヨンも可哀そうな人ではありますよね。(・・・なんか、妄想できそうだけど・・・また、種?w)
朝鮮時代にどうにもならないから、300年後に繋いだ・・・から、切ないんですよね。(涙)

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Re: タイトルなし か****様へ

か****さま
こんにちは。
イ・ガクは優しいですが、ファヨンには更に優しかったはず・・・なのに、信じられないんでしょうね。

プヨンの切なさを思えば、パッカは幸せにならなければなりませんよね。
イ・ガクも切ないんで、テヨンにも幸せになってもらわなきゃならんです。

インフル、流行ってますから、気を付けてくださいね。
実はうちの旦那も正月明けにインフルやりました。(今は元気になってます。)
昨年も、だったのですが、2年連続、私には伝染らず・・・。(インフルエンザに避けられた?w)
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