「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-
生まれ変わっても 34
前話はこちら→生まれ変わっても 33
__________________________________________________
テヨンは水の中でもがいた。
ぶくぶく ぶくぶく ぼごぼごぼご
あぶくだらけで何も見えない。池の中のはずなのに、水が押し寄せてくる。
パッカ!・・・パッカ!どこ?
指先にに誰かの手が触れた。
パッカ?
掴もうとした時、手応えなくすり抜けてしまった。
テヨンが我に返った時、ずぶ濡れのまま座り込んでいた。古ぼけた木戸の前に。
ゆっくりと立ち上がると、髪や袖口から水滴が滴り落ちて小さな水たまりを作った。
辺りを見廻すと、見覚えのない風景が広がっている。・・・いや、広がっている風景に見覚えは、あった。
民俗村?
舗装されていない土の道。
背の低い土壁の塀。
茅葺の屋根。
幼いころ、祖母に連れられて遊びに行ったことのある観光地と同じ風景。
史劇ドラマのロケも行われる場所。
しかし、どうも様子が違う。
行き交う人々が訝しむようにテヨンを見ていた。
皆、韓服を着ている。
テヨンも着たことのあるような色鮮やかで光沢のある絹の韓服とは違う、もっと粗末で、着古した感のある韓服を身に纏った人々。
まさか・・・。
突然、テヨンは何者かに背中を押され、目の前の木戸に押し付けられた。
「うわっ!」
「しっ、お静かに。こちらにお入りを。・・・おい、開けてくれ。私だ!」
男が声を掛けると、閂(かんぬき)を抜く音がして、木戸は開かれた。
男は辺りの様子を伺いながらテヨンを木戸の内側に押し込めると、再び木戸を閉じ、閂も差した。
「どうした、ソン司書(サソ)。今日は休みではないのか?」
テヨンの目の前に体格のよい男が立っている。彼はふわぁとあくびをしテヨンを横目で見た。
「チョハ!・・・なぜそのようないでたちでこちらに!しかもずぶ濡れではあられませんか!お体に障ります。
・・・そもそも、もう、出歩かれてよろしいので?」
彼はテヨンを見てあわてたようにそう言って、地面にひれ伏した。
「ウ翊賛(イクチャン)。チョハではあられないようだ。着替えを準備して差し上げてくれ。ト内官(ネグァン)も呼んだ方がよさそうだ。」
ウ翊賛と呼ばれた男はそろそろと顔を上げ、立ち上がった。
「・・・使いを出そう。」
眉の太いソン司書と呼ばれた男と、体格のよいウ翊賛という男を、テヨンは交互に見つめる。
「手荒な真似をして、申し訳ございませんでした。あのままでは官軍に捕まってしまわれると思いましたので・・・。
私は、ソン・マンボと申します。こちらはウ・ヨンスルと申す者。」
二人はテヨンに深々と頭を下げた。
「あなたは、ヨン・テヨン殿ではあられませんか?」
「そうですけど・・・。」
「やはり。・・・ここは朝鮮です。我々の許へ落ちて来られて幸いでした。とにかくその濡れた衣を着替えなくては。どうぞ、こちらへ。」
「え?・・・あ、はい。」
テヨンが彼らを知らなくても、彼らは自分のことを知っている。そして、ウ・ヨンスルはテヨンををチョハと呼んだ。
この二人は、パク・ハから聞いていたイ・ガクの臣下三人組のうちの二人なのだろう。
朝鮮時代ならば、テヨンには右も左も分からない。それに全身ずぶ濡れなのもどうにかしたい。
ソン・マンボに導かれるまま、テヨンは建物へと入っていった。
まさか、僕が朝鮮時代に来てしまうなんて・・・。前世も、今生も、タイムスリップの才能があるんだろうか。
呑気にそんなことを思ったのは、過去へとやって来ながらも、自分のことを知っている人物に出会えた安心感からだったかもしれない。
小さなタイムスリップなら一度経験してるけど・・・。目覚めたとき、二年半も飛んでたからな。
テヨンは苦笑した。
濡れそぼった全身を拭い、この時代の服装に着替えたテヨンと、マンボ、ヨンスルの三人は部屋で腰を下ろした。
「テヨン殿。その・・・我々のことはご存知でいらっしゃいますか?」
マンボが何から話そうか、と考えている風でそう言った。
「ええ。ソン・マンボさんとウ・ヨンスルさん。あと、ここにはいらっしゃらないけど、ト・チサンさんですよね。パッカから一部始終聞いてます。」
「パク・ハ殿とお会いになられたのですね?パク・ハ殿は息災ですか?」
ヨンスルが勢い込んでテヨンに尋ねた。
「え、ええ。」
テヨンは短くそう言ったが、脳裏にはパク・ハと芙蓉池に落ちたことが思い浮かんだ。
「パッカ!そう、僕たちは芙蓉池に落ちて・・・パッカを置いてきてしまったんです。きっと心配してる。僕は、還らなきゃ。」
立ち上がり、狼狽えて出て行こうとするテヨンの前に、ヨンスルが無言で立ちはだかる。
「テヨン殿。落ち着いてください。出て行ってもどうにもならない。・・・きっと還ることはできます。あなたは何かを成すために朝鮮に来られたのでしょう。我々がそうだったように・・・。」
「そうです。我々がお手伝い申し上げます。・・・パク・ハ殿の為にも。」
そのとき、扉が勢いよく開いて目の細い男が飛び込んできた。テヨンも知っている内官の服装をしている。
「ソン司書!ウ翊賛!ヨン・テヨンが現れたって?!」
飛び込んできたト・チサンは、テヨンを見てあわてて床にひれ伏した。
「チョハぁ。失礼いたしました。私に罰をお与えください。」
「僕がヨン・テヨンです。頭をあげてください。僕は王世子じゃない。」
「ト内官。遅かったではないか。」
「何を言う。この格好のまま来たのだぞ!」
チサンは立ち上がり、袖を広げて胸も張った。衣装を見てみよ、と言わんばかりだ。
マンボは溜息を吐いて、首を数回、横に振った。
チサンに、そこに座られよ、と指示してから、テヨンに向き直る。
「テヨン殿。これで、皆、揃いました。・・・あなたは何を成すために、朝鮮に参られたのですか?」
朝鮮に何しに来たか?・・・僕が訊きたいよ。
テヨンはただ立ち尽くすばかりだった。
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テヨンは水の中でもがいた。
ぶくぶく ぶくぶく ぼごぼごぼご
あぶくだらけで何も見えない。池の中のはずなのに、水が押し寄せてくる。
パッカ!・・・パッカ!どこ?
指先にに誰かの手が触れた。
パッカ?
掴もうとした時、手応えなくすり抜けてしまった。
テヨンが我に返った時、ずぶ濡れのまま座り込んでいた。古ぼけた木戸の前に。
ゆっくりと立ち上がると、髪や袖口から水滴が滴り落ちて小さな水たまりを作った。
辺りを見廻すと、見覚えのない風景が広がっている。・・・いや、広がっている風景に見覚えは、あった。
民俗村?
舗装されていない土の道。
背の低い土壁の塀。
茅葺の屋根。
幼いころ、祖母に連れられて遊びに行ったことのある観光地と同じ風景。
史劇ドラマのロケも行われる場所。
しかし、どうも様子が違う。
行き交う人々が訝しむようにテヨンを見ていた。
皆、韓服を着ている。
テヨンも着たことのあるような色鮮やかで光沢のある絹の韓服とは違う、もっと粗末で、着古した感のある韓服を身に纏った人々。
まさか・・・。
突然、テヨンは何者かに背中を押され、目の前の木戸に押し付けられた。
「うわっ!」
「しっ、お静かに。こちらにお入りを。・・・おい、開けてくれ。私だ!」
男が声を掛けると、閂(かんぬき)を抜く音がして、木戸は開かれた。
男は辺りの様子を伺いながらテヨンを木戸の内側に押し込めると、再び木戸を閉じ、閂も差した。
「どうした、ソン司書(サソ)。今日は休みではないのか?」
テヨンの目の前に体格のよい男が立っている。彼はふわぁとあくびをしテヨンを横目で見た。
「チョハ!・・・なぜそのようないでたちでこちらに!しかもずぶ濡れではあられませんか!お体に障ります。
・・・そもそも、もう、出歩かれてよろしいので?」
彼はテヨンを見てあわてたようにそう言って、地面にひれ伏した。
「ウ翊賛(イクチャン)。チョハではあられないようだ。着替えを準備して差し上げてくれ。ト内官(ネグァン)も呼んだ方がよさそうだ。」
ウ翊賛と呼ばれた男はそろそろと顔を上げ、立ち上がった。
「・・・使いを出そう。」
眉の太いソン司書と呼ばれた男と、体格のよいウ翊賛という男を、テヨンは交互に見つめる。
「手荒な真似をして、申し訳ございませんでした。あのままでは官軍に捕まってしまわれると思いましたので・・・。
私は、ソン・マンボと申します。こちらはウ・ヨンスルと申す者。」
二人はテヨンに深々と頭を下げた。
「あなたは、ヨン・テヨン殿ではあられませんか?」
「そうですけど・・・。」
「やはり。・・・ここは朝鮮です。我々の許へ落ちて来られて幸いでした。とにかくその濡れた衣を着替えなくては。どうぞ、こちらへ。」
「え?・・・あ、はい。」
テヨンが彼らを知らなくても、彼らは自分のことを知っている。そして、ウ・ヨンスルはテヨンををチョハと呼んだ。
この二人は、パク・ハから聞いていたイ・ガクの臣下三人組のうちの二人なのだろう。
朝鮮時代ならば、テヨンには右も左も分からない。それに全身ずぶ濡れなのもどうにかしたい。
ソン・マンボに導かれるまま、テヨンは建物へと入っていった。
まさか、僕が朝鮮時代に来てしまうなんて・・・。前世も、今生も、タイムスリップの才能があるんだろうか。
呑気にそんなことを思ったのは、過去へとやって来ながらも、自分のことを知っている人物に出会えた安心感からだったかもしれない。
小さなタイムスリップなら一度経験してるけど・・・。目覚めたとき、二年半も飛んでたからな。
テヨンは苦笑した。
濡れそぼった全身を拭い、この時代の服装に着替えたテヨンと、マンボ、ヨンスルの三人は部屋で腰を下ろした。
「テヨン殿。その・・・我々のことはご存知でいらっしゃいますか?」
マンボが何から話そうか、と考えている風でそう言った。
「ええ。ソン・マンボさんとウ・ヨンスルさん。あと、ここにはいらっしゃらないけど、ト・チサンさんですよね。パッカから一部始終聞いてます。」
「パク・ハ殿とお会いになられたのですね?パク・ハ殿は息災ですか?」
ヨンスルが勢い込んでテヨンに尋ねた。
「え、ええ。」
テヨンは短くそう言ったが、脳裏にはパク・ハと芙蓉池に落ちたことが思い浮かんだ。
「パッカ!そう、僕たちは芙蓉池に落ちて・・・パッカを置いてきてしまったんです。きっと心配してる。僕は、還らなきゃ。」
立ち上がり、狼狽えて出て行こうとするテヨンの前に、ヨンスルが無言で立ちはだかる。
「テヨン殿。落ち着いてください。出て行ってもどうにもならない。・・・きっと還ることはできます。あなたは何かを成すために朝鮮に来られたのでしょう。我々がそうだったように・・・。」
「そうです。我々がお手伝い申し上げます。・・・パク・ハ殿の為にも。」
そのとき、扉が勢いよく開いて目の細い男が飛び込んできた。テヨンも知っている内官の服装をしている。
「ソン司書!ウ翊賛!ヨン・テヨンが現れたって?!」
飛び込んできたト・チサンは、テヨンを見てあわてて床にひれ伏した。
「チョハぁ。失礼いたしました。私に罰をお与えください。」
「僕がヨン・テヨンです。頭をあげてください。僕は王世子じゃない。」
「ト内官。遅かったではないか。」
「何を言う。この格好のまま来たのだぞ!」
チサンは立ち上がり、袖を広げて胸も張った。衣装を見てみよ、と言わんばかりだ。
マンボは溜息を吐いて、首を数回、横に振った。
チサンに、そこに座られよ、と指示してから、テヨンに向き直る。
「テヨン殿。これで、皆、揃いました。・・・あなたは何を成すために、朝鮮に参られたのですか?」
朝鮮に何しに来たか?・・・僕が訊きたいよ。
テヨンはただ立ち尽くすばかりだった。
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~ Comment ~
Re: NoTitle やすべぇ様へ
やすべぇ様
テヨンが、過去へ行っちゃいました。
いきなり臣下3人組に出会うことができて彼はラッキーでした。
どんな展開になるのか・・・
多分、お待たせしちゃいます。(汗)でも楽しく待てると言って頂けて嬉しいです。
テヨンが、過去へ行っちゃいました。
いきなり臣下3人組に出会うことができて彼はラッキーでした。
どんな展開になるのか・・・
多分、お待たせしちゃいます。(汗)でも楽しく待てると言って頂けて嬉しいです。
Re: NoTitle めい様へ
めい様
> これはもしかして、壮大な展開になるのでは?
私の脳ではたかが知れてると思います。(汗)
でも、「世子嬪の死の真相」は彼も知りたがってるので、そこはそうなんですが・・・
いろいろ、あるかも・・・あるんですかね?
何にしましても、少しお待たせしちゃうと思います。<m(__)m>
> これはもしかして、壮大な展開になるのでは?
私の脳ではたかが知れてると思います。(汗)
でも、「世子嬪の死の真相」は彼も知りたがってるので、そこはそうなんですが・・・
いろいろ、あるかも・・・あるんですかね?
何にしましても、少しお待たせしちゃうと思います。<m(__)m>
Re: 再会 ほ**様へ
ほ**様
マンボに見つけてもらえて良かったです。w
パク・ハもテヨンも彼らのその後の人生とか気になってますが、彼らだってパク・ハのこと、気にしてるに違いないですもんね。
それに3人がいなきゃ、成すべきことも成せないに違いありません。
成すべきことって、何でしょう?・・・私も存じ上げません。(おーい、だいじょぶか?)
マンボに見つけてもらえて良かったです。w
パク・ハもテヨンも彼らのその後の人生とか気になってますが、彼らだってパク・ハのこと、気にしてるに違いないですもんね。
それに3人がいなきゃ、成すべきことも成せないに違いありません。
成すべきことって、何でしょう?・・・私も存じ上げません。(おーい、だいじょぶか?)
- #268 ありちゃん
- URL
- 2015.01/21 10:56
- ▲EntryTop
Re: タイトルなし か****様へ
か****様
こんにちは。
テヨン、過去に飛びましたね。ずぶ濡れのまま。w
臣下3人組みに会えて、良かった、良かった。
>続き、早く読みたーい((っ´・ω・c))ウズウズ
首が長くなるかも知れませんのでご注意ください。(汗)
> ありちゃんさん、買ったんですね ☆*:.。.o(≧▽≦)o.。.:*☆
ライブ参戦できませんでしたので、このぐらいは・・・と思いまして。
新曲もいいんですが、Back Seat の日本語バージョンがいいです。♡
こんにちは。
テヨン、過去に飛びましたね。ずぶ濡れのまま。w
臣下3人組みに会えて、良かった、良かった。
>続き、早く読みたーい((っ´・ω・c))ウズウズ
首が長くなるかも知れませんのでご注意ください。(汗)
> ありちゃんさん、買ったんですね ☆*:.。.o(≧▽≦)o.。.:*☆
ライブ参戦できませんでしたので、このぐらいは・・・と思いまして。
新曲もいいんですが、Back Seat の日本語バージョンがいいです。♡
Re: NoTitle F****様へ
F****様
お気遣いありがとうございます。
楽しみだと言っていただけて嬉しいです。
私は我が道を行く人なんで大丈夫ですよ。w
お気遣いありがとうございます。
楽しみだと言っていただけて嬉しいです。
私は我が道を行く人なんで大丈夫ですよ。w
NoTitle
32話で消えた時はなんか、すごく悲しかったのですが、
300年前に行っても、知ってる人がいてすごく心づよいですね。
これで、楽しく待つことが出来ます。