「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-
生まれ変わっても 35
皆の間に沈黙が横たわっている。
この時代で何を成すのかと問われても、テヨン自身も皆目見当がつかない。
本来生きるべき時代でなら、自分の成すべきことは決まりきっている。
パク・ハがいつも笑っていられるように・・・。
彼女こそ自分の総てだ、とテヨンは思う。
朝鮮時代へ飛ばされて来てしまったことと、彼女とに、何か関係があるのだろうか・・・。
立ち尽くして考え込むテヨンの答えを、いくら待ってみても、沈黙が横たわるのみだった。
最初に沈黙を破ったのはマンボだった。
「テヨン殿。とりあえずお座りください。」
テヨンは仕方なく腰を下ろした。
「こちらに飛ばされるまでの状況をお教えください。そこから糸口が掴めるやも知れませぬ。」
「パッカと芙蓉池に落ちたんです。そして、気付いたらここの木戸の前に座り込んでた。」
「パッカヌイと池に落ちて、パッカヌイの店に落ちてくるなんて・・・本当にお二人の縁(えにし)は深いと見える。」
チサンが腕組みしながら頷いている。
「パッカの店?」
「ここは、パク・ハさんの名を冠した"オムライす"の店なのです。」
マンボが説明してくれた。
「オムライス?パッカの?」
三人がうんうんと頷いた。
「そう言えば、腹が減ってはおらぬか?」
「そう言われればそうだな。」
ヨンスルとチサンが顔を見合わせる。
「"オムライす"を作るとしよう。」
目の前にオムライスが並べられた。
「腹が減っては良い考えも浮かびませぬ。まずは、腹を満たすべきだ。」
そう言われてみれば、テヨンも空腹を感じていた。
勧められるままに匙を取る。
テヨンがオムライスを一口、口に運んだのを確認すると、三人の臣下達もそれぞれの皿を取った。
卵に包まれていたのはやはりバターライスで、パク・ハのオムライスに違いない、とテヨンは思った。
初めて彼女のオムライスを食べた時、中身がケチャップ味でなかったのが意外だった。
それ以来、テヨンにとってオムライスの中身はバターライスでなければならなくなった。
そして、今、食べているのは紛れもないパク・ハのオムライスだ。
オムライスを食べながら、彼らが未来へ飛ばされてしまった時の様子を話す。
空腹で倒れそうだった彼らに、パク・ハがオムライスを作ってくれたこと。
行く当てのない彼らを、屋根部屋に受け入れてくれたこと。
そこから総ては始まった。
「それにしても、食べ方まで、チョハとそっくり同じなんですね。」
オムライスを多めに口に入れて、頬張りながらおいしそうに食べるテヨンを見て、チサンがそう言った。
「当たり前であろう。テヨン殿はチョハの生まれ変わりだ。」
マンボが呆れたように言う。
「あの・・・この時代のパッカ、プヨンさんは、どこでどうされているんですか?」
姉の世子嬪が何かの罪に問われたのなら、彼女も流刑にされてしまったかもしれない、テヨンはそう思っておずおずと尋ねた。
テヨンの言葉に、三人が凍りついたように動かなくなる。
「パッカは、世子嬪が死んで、あなた方が事件のことを調べるために僕らの時代に来た、と言っていたけど、世子嬪は生きてますよね?」
イ・ガクよりもずっと後に彼女は亡くなる。
イ・ガクは、王に即位した後にこの世を去るから、彼がまだ王世子なら、プヨンの姉の世子嬪もまだ生きているはずだ。
この時代に生きている彼らに、あまり未来を語って聞かせるのは良くないだろうと、テヨンは彼らの知っているはずの事実だけを口にした。
「僕は、ずっとそのことが気になってて。・・・あなた方が、未来でパッカに会った時には世子嬪は殺害されたと思われてたから、パッカにもそう教えたんでしょう?・・・でも史実は違う。世子嬪は生きてて、しかも流刑にされている。近いうちに歴史研究家を訪ねて色々調べてみようと思っていたんです。・・・それで、ここに来ちゃったのかな?」
「テヨン殿は、先の『世子嬪殺害事件』の真相を調べに朝鮮に参られた、とそう仰るのですか?」
「そのことが気になっていたのは事実です。僕の時代で研究家に尋ねるより、この時代に生きている当事者のあなた方に訊いた方が確実ですよね。・・・真実を知ってすっきりしたら、僕もパッカの所に還れるかな?」
ことはそう単純ではないだろうとテヨンも思うが、冗談めかして笑ってみた。
三人は顔を見合わせた。
目配せし合って、誰が話をすべきか押し付け合っている。
やはり、ソン司書が適任だろう?
二人に押されて、マンボが口を開いた。
「テヨン殿。やはり、貴方はチョハであられる。」
三人は一度立ち上がり、テヨンの前にひれ伏し、最高の礼を捧げた。
テヨンは驚いて、止めてくれ、僕は王世子じゃない、と両手を振って彼らの頭を上げさせようとする。
「ヨン・テヨン様。我らが『王世子邸下(ワンセジャチョハ)』とお呼びするのは宮殿におられる、ただお一方ゆえ、御名でお呼びすることをお許しください。」
貴方様が仰っておられる、先の世子嬪、廃妃ホン氏は確かに生きております。
マンボの口から真実が語られ始めた。
_________________
*チサンがパク・ハを呼ぶときの누이(ヌイ) は時代劇で使われている、「姉・妹・年下の女性」を呼ぶときの言い方です。ドラマの中でも「パッカヌイ」って言ってます。
*ハングルには2種類のスがあります。ドラマでは、本来使われる"オムライス"の"스(ス)"ではなく"수(す)"を使ったと公式ガイドブックに書いてあったのでそう表記しました。(私には同じ音に聞こえます。
)
この時代で何を成すのかと問われても、テヨン自身も皆目見当がつかない。
本来生きるべき時代でなら、自分の成すべきことは決まりきっている。
パク・ハがいつも笑っていられるように・・・。
彼女こそ自分の総てだ、とテヨンは思う。
朝鮮時代へ飛ばされて来てしまったことと、彼女とに、何か関係があるのだろうか・・・。
立ち尽くして考え込むテヨンの答えを、いくら待ってみても、沈黙が横たわるのみだった。
最初に沈黙を破ったのはマンボだった。
「テヨン殿。とりあえずお座りください。」
テヨンは仕方なく腰を下ろした。
「こちらに飛ばされるまでの状況をお教えください。そこから糸口が掴めるやも知れませぬ。」
「パッカと芙蓉池に落ちたんです。そして、気付いたらここの木戸の前に座り込んでた。」
「パッカヌイと池に落ちて、パッカヌイの店に落ちてくるなんて・・・本当にお二人の縁(えにし)は深いと見える。」
チサンが腕組みしながら頷いている。
「パッカの店?」
「ここは、パク・ハさんの名を冠した"オムライす"の店なのです。」
マンボが説明してくれた。
「オムライス?パッカの?」
三人がうんうんと頷いた。
「そう言えば、腹が減ってはおらぬか?」
「そう言われればそうだな。」
ヨンスルとチサンが顔を見合わせる。
「"オムライす"を作るとしよう。」
目の前にオムライスが並べられた。
「腹が減っては良い考えも浮かびませぬ。まずは、腹を満たすべきだ。」
そう言われてみれば、テヨンも空腹を感じていた。
勧められるままに匙を取る。
テヨンがオムライスを一口、口に運んだのを確認すると、三人の臣下達もそれぞれの皿を取った。
卵に包まれていたのはやはりバターライスで、パク・ハのオムライスに違いない、とテヨンは思った。
初めて彼女のオムライスを食べた時、中身がケチャップ味でなかったのが意外だった。
それ以来、テヨンにとってオムライスの中身はバターライスでなければならなくなった。
そして、今、食べているのは紛れもないパク・ハのオムライスだ。
オムライスを食べながら、彼らが未来へ飛ばされてしまった時の様子を話す。
空腹で倒れそうだった彼らに、パク・ハがオムライスを作ってくれたこと。
行く当てのない彼らを、屋根部屋に受け入れてくれたこと。
そこから総ては始まった。
「それにしても、食べ方まで、チョハとそっくり同じなんですね。」
オムライスを多めに口に入れて、頬張りながらおいしそうに食べるテヨンを見て、チサンがそう言った。
「当たり前であろう。テヨン殿はチョハの生まれ変わりだ。」
マンボが呆れたように言う。
「あの・・・この時代のパッカ、プヨンさんは、どこでどうされているんですか?」
姉の世子嬪が何かの罪に問われたのなら、彼女も流刑にされてしまったかもしれない、テヨンはそう思っておずおずと尋ねた。
テヨンの言葉に、三人が凍りついたように動かなくなる。
「パッカは、世子嬪が死んで、あなた方が事件のことを調べるために僕らの時代に来た、と言っていたけど、世子嬪は生きてますよね?」
イ・ガクよりもずっと後に彼女は亡くなる。
イ・ガクは、王に即位した後にこの世を去るから、彼がまだ王世子なら、プヨンの姉の世子嬪もまだ生きているはずだ。
この時代に生きている彼らに、あまり未来を語って聞かせるのは良くないだろうと、テヨンは彼らの知っているはずの事実だけを口にした。
「僕は、ずっとそのことが気になってて。・・・あなた方が、未来でパッカに会った時には世子嬪は殺害されたと思われてたから、パッカにもそう教えたんでしょう?・・・でも史実は違う。世子嬪は生きてて、しかも流刑にされている。近いうちに歴史研究家を訪ねて色々調べてみようと思っていたんです。・・・それで、ここに来ちゃったのかな?」
「テヨン殿は、先の『世子嬪殺害事件』の真相を調べに朝鮮に参られた、とそう仰るのですか?」
「そのことが気になっていたのは事実です。僕の時代で研究家に尋ねるより、この時代に生きている当事者のあなた方に訊いた方が確実ですよね。・・・真実を知ってすっきりしたら、僕もパッカの所に還れるかな?」
ことはそう単純ではないだろうとテヨンも思うが、冗談めかして笑ってみた。
三人は顔を見合わせた。
目配せし合って、誰が話をすべきか押し付け合っている。
やはり、ソン司書が適任だろう?
二人に押されて、マンボが口を開いた。
「テヨン殿。やはり、貴方はチョハであられる。」
三人は一度立ち上がり、テヨンの前にひれ伏し、最高の礼を捧げた。
テヨンは驚いて、止めてくれ、僕は王世子じゃない、と両手を振って彼らの頭を上げさせようとする。
「ヨン・テヨン様。我らが『王世子邸下(ワンセジャチョハ)』とお呼びするのは宮殿におられる、ただお一方ゆえ、御名でお呼びすることをお許しください。」
貴方様が仰っておられる、先の世子嬪、廃妃ホン氏は確かに生きております。
マンボの口から真実が語られ始めた。
_________________
*チサンがパク・ハを呼ぶときの누이(ヌイ) は時代劇で使われている、「姉・妹・年下の女性」を呼ぶときの言い方です。ドラマの中でも「パッカヌイ」って言ってます。
*ハングルには2種類のスがあります。ドラマでは、本来使われる"オムライス"の"스(ス)"ではなく"수(す)"を使ったと公式ガイドブックに書いてあったのでそう表記しました。(私には同じ音に聞こえます。

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~ Comment ~
Re: 真実 ほ**様へ
ほ**様
はい。マンボが一番ふさわしいでしょう。
3人それぞれ重要な役割を担ってますが、マンボってキーマンですよね。
今更のように、オムライスの中のごはんに触れてます。(汗)
朝鮮にバターはなかったから・・・豚の脂で代用か?とか想像したり・・・
(豚は友達な私です。w)
はい。マンボが一番ふさわしいでしょう。
3人それぞれ重要な役割を担ってますが、マンボってキーマンですよね。
今更のように、オムライスの中のごはんに触れてます。(汗)
朝鮮にバターはなかったから・・・豚の脂で代用か?とか想像したり・・・
(豚は友達な私です。w)
- #302 ありちゃん
- URL
- 2015.01/30 09:56
- ▲EntryTop
Re: タイトルなし か****様へ
か****様
おはようございます。
オムライスと言えば、中身はケチャップ味のチキンライス!で育った私もびっくりして見てました。
(今更のようにそこに触れると言うね。w)
食べるシーン、本当においしそうですよね。あれは、絶対、作り甲斐がある!
ドラマを見てる私たちは全部知ってますけど、テヨンは(パク・ハも)知らないことだらけですもんね。
テヨンの反応は如何に・・・?(また、首が長くなりますよ。きっと。汗)
おはようございます。
オムライスと言えば、中身はケチャップ味のチキンライス!で育った私もびっくりして見てました。
(今更のようにそこに触れると言うね。w)
食べるシーン、本当においしそうですよね。あれは、絶対、作り甲斐がある!
ドラマを見てる私たちは全部知ってますけど、テヨンは(パク・ハも)知らないことだらけですもんね。
テヨンの反応は如何に・・・?(また、首が長くなりますよ。きっと。汗)
- #303 ありちゃん
- URL
- 2015.01/30 10:06
- ▲EntryTop
Re: オムライス う***様へ
う***様
パク・ハの作るオムライスは中のごはんが白いんです。
最初、私はチャーハン?って思いました。w
ほんと、寒いですよね。
お言葉に甘えて皆さんの首を伸ばすべく(えっ?)ゆっくり更新させてもらってます。(汗)
パク・ハの作るオムライスは中のごはんが白いんです。
最初、私はチャーハン?って思いました。w
ほんと、寒いですよね。
お言葉に甘えて皆さんの首を伸ばすべく(えっ?)ゆっくり更新させてもらってます。(汗)
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