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「短編集」
読みきり

痛み

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ベッドの軋む音が響いていた。
時折、艶めいたパク・ハの吐息が混じって聞こえる。

テヨンがその動きを速めると、パク・ハは苦悶の表情を浮かべた。


彼が初めて彼女を貫いた時、やはり彼女は苦悶の表情を浮かべながら、痛みに耐えていた。

それから幾度となく身体を重ね、パク・ハがそんな表情(かお)をする度に、テヨンは『辛いの?』『痛い?』と問うていたが、彼女はいつも首を横に振っていた。

そして、いつしか、悦楽にその身を任せている時も、彼女はそんな表情(かお)をするのだ、とテヨンは気付いた。


やがて深い悦びが彼女を支配し始めると、とろんとした目でテヨンのことを見つめ、幸せそうに『愛しているわ』と呟く。
途端に彼はパク・ハへの愛しさで頭がいっぱいになり、独占欲とも征服欲とも言えるような男の本能のまま、激しい迸りを彼女へ向けて放つことになるのだ。


その夜も二人は満ち足りた時間を過ごし、離れがたく、肌を合わせたまま見つめ合った。

「・・・また・・・しようね。」

パク・ハの囁きに、テヨンの龍がぴくりと反応する。

「いつ?・・・今すぐでもいいよ。」

「ばか。」

パク・ハの方からテヨンに口づけた。
すぐに唇を離そうとするのを、テヨンがパク・ハのうなじを手で押さえて強引に長い口づけにする。
彼女に肩を押されて、彼はようやく唇を離した。


パク・ハに腕枕をしてやりながら、テヨンは身体を横に向けて彼女の方を見た。
彼女は目を瞑って行儀よく上を向いて横たわっている。

「パッカ?寝ちゃった?」

彼女はテヨンの声に目をぱちりと開けると、顔だけ彼の方に向けた。
薄い上掛け布団の下で、テヨンの手が、何も着けていないパク・ハの腹部をそっと撫でる。

パク・ハの腹部のみぞおちあたりには、メルセデスベンツのマークを思わせるような手術痕があった。
マークの右に向かう線だけが長く脇腹近くまで伸びている。

「訊いてもいい?」


テヨンがパク・ハを初めて抱いた時、彼女が全く男を知らなかったことに驚いた。
そして彼は、優しくしなければ、とばかり考えて、腹部の手術痕のことなど気にも留めていなかった。
よくよく考えてみれば、こんな大きな傷痕を気にしない女性はいないのではないだろうか。
パク・ハは初めてのとき、恥ずかしがって胸や秘所を必死に隠そうとしていたが、この傷痕を隠すような素振りは見せなかった。

それから、何度身体を重ねても、パク・ハは手術痕のことには全く触れない。
テヨンは、彼女が触れて欲しくないのだろう、と思ったから彼も触れはしなかった。

しかし、いつのことだったか、パク・ハは悦びを感じ始めると、例の苦悶の表情を浮かべながら、無意識にこの傷痕を自分の指で触っていた。
そして彼は、それを度々見かけた。
彼女が傷痕を慈しんででもいるように、テヨンには見えたのだった。


薄らと桜色をしているその線の上を、テヨンは人差し指でつつーっとなぞった。

まず右の脇腹の始点から三本の線の接点のあるみぞおちまでを辿る。そこから、今度は上に向かう線を辿れば、胸の谷間の直前で終わっている。更にそこで折り返して同じ線の上を、みぞおちに向かってテヨンの指が辿っていく。

あぁ・・・

パク・ハは微かに喘ぎ声を漏らした。

「ずっと気になってたんだ。これ、何かの手術痕だよね?病気でもしたの?」

最後にみぞおちから左に向かう線の上を指に辿らせながら、テヨンがそう言った。

パク・ハは困ったように微笑んで、天井を見た。

「・・・肝移植の痕なの。」

目を瞑って呟くように言う。

「え?・・・これが、そうなの?」

イ・ガクを救いたい一心で、テムの車の前に飛び出し生死を彷徨った。
そのときの移植手術の痕。

知らなかった。こんな大きな痕が残るなんて・・・。

緩みきっていたテヨンの身体に緊張が走る。

「なんで?・・・どうして、すぐに教えてくれなかったんだよ。」

「だって、訊かれなかったから。」

「訊けるわけないだろ?女の身体の傷のことなんて・・・。君はいつだってそうだ。」

「ごめんなさい。」

パク・ハの言葉にテヨンは泣きそうな顔になった。

「なんで、君が謝ってるんだよ。・・・ごめん。謝らなきゃならないのは僕の方だ。ごめん、パッカ。・・・ごめん。」

ごめん、と繰り返すテヨンの頬をパク・ハがそっと撫でた。

「謝らないでよ。あなたのそんな顔、見たくなかったの。」

そうだ。君はいつだって自分の気持ちを抑え込んでしまう。
なんで・・・そんなに優しいんだよ。・・・僕は、甘ったれの、バカだ。

テヨンは唇を噛んだ。


彼はパク・ハを抱き寄せた。
二人ともただ黙したままお互いの肌の温もりを感じ合っている。

テヨンは掌を広げるとパク・ハの手術痕の上に置いた。
ゆっくりと、円を描くように、優しく優しく撫でる。

「痛いの、痛いの、飛んでけ・・・。」

「テヨンさん。もう、ちっとも痛くないわよ。」

パク・ハはくすりと笑った。

「うん。でも、僕がそうさせてほしいんだ。過去は変えられないけど・・・。
痛いの、痛いの、飛んでけ・・・。」

パク・ハもテヨンの逞しい胸に手を当てた。

「痛いの、痛いの、飛んでけ・・・。」

彼女も同じように、彼の胸を優しく撫でる。
テヨンは少し驚いて微笑んだ。

「僕には傷なんてないよ。だから痛くなんてないのに。」

「あなたの、心が、痛そうだから・・・。」

パク・ハはテヨンを見上げて微笑む。

「まいったな。・・・やっぱり、君には敵わないよ。」

テヨンは真面目な顔をしたが、すぐに微笑んでパク・ハの首筋に顔を埋めた。


君の笑顔のためなら、何だってするよ。


二人は抱き合ったまま目を閉じた。そのまま一緒に眠りに落ちていく。



痛いの、痛いの、飛んで行け・・・

いつかその痛みも薄れ、完全に感じることは無くなるだろう。
痛んだこともあったねと、笑える、そんな日がきっと来る。


_____________
補足です。
30.5話をUPした直後、そう言えばパク・ハには手術の痕があるよね、と思っていました。
ですが、ま、いっか、と放置。(おーい。)
しばらくして、やっぱり、手術痕に触れないのはおかしいかな、とか思い始めて・・・
加筆しようかなとも思ったんです。
でも、それも無粋な気がして・・・・
結局、こんな風に書かせてもらいました。

本編では、初めての夜を過ごした後
更に一晩だけ屋根部屋で過ごして、すぐにテヨンが過去に飛ばされてしまってるので、
これは、もう少し未来のお話ってことになっています。


あと、生体肝移植の手術痕、調べてみました。
ベンツマーク
まさしくベンツですね。

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Re: やはり ほ**様へ

ほ**様

さすが!その通りですよ。微妙に・・・です。W

溶けちゃってください。ww

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Re: ステキでした。 う***様へ

う***様

> 本当にテヨンらしい
> もし、もっとドラマで描かれてたら、きっとこんなキャラクターだったのではないかな・・・
わっ、そんな風に言われたら舞い上がって還って来れなくなりそうです。W
ありがとうございます。

> キリン化プロジェクト会員(笑)
会員証、発行しますかね?W(要らんって。早ぅ続き書けって感じですね。すんません。)

ほんと、まだまだ寒いですね。う***さんもご自愛くださいませ。<m(__)m>

流石!

上から目線で失礼かと思いましたが、傷のこと、ここまで
優しく、愛おしく描けるものかと、只々、文章の美しさに
感動しています。
また、阿波の局さまのブログでのお歌もとても素敵で~
世の中には才能のある人のなんといらっしゃることかとー

読ませて頂いて、ありがとう!
本篇のほうも、楽しみで、ゆっくり待っています!

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Re: 流石! やすべぇ様へ

やすべぇ様

恐縮です。流石なんてことは全然なくて・・・・(汗)
ただ、美しいと感じて頂けたのでしたら本望です。
阿波の局さんのお歌はほんとに素敵で。ため息が出ます。

いつも、ありがとうございます。

Re: タイトルなし ふ***様へ

ふ***様

ありがとうございます。
ほんとに美しくも切ないドラマでしたので・・・。
生まれ変わりは同一人物か否か・・・
そう考えさせられてしまうので切ないのでしょうね。
マイペースな更新ですが、こちらこそよろしくお願いいたします。<m(__)m>

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Re: タイトルなし t*******様へ

t*******様

ほんとですね。
心が痛い、ときの「痛み」って言い表すことができない感じがします。
でも心も「痛み」を感じる・・・感じたくはないけれど・・・
二人はそれを労わりあって幸せになるのかなぁ、なんて。
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