「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-
生まれ変わっても 37
枕が変わると眠れない、という性質でもなかったが、さすがになかなか寝付けず、まだ暗いうちに目が覚めた。
顔を洗おうとテヨンが部屋の外へ出ると、ヨンスルに出会った。朝の挨拶を交わす。
「お早いお目覚めですね?よくお眠りになられましたか?」
「いや、それが寝付けなくて・・・。」
「無理もございません。ですが、今日は遠出になりますゆえ、朝餉はしっかりとお召し上がりください。」
テヨンはぎくりとした。
「・・・オムライス?」
「左様です。」
昨夜もオムライスだった。いくらおいしくても、こうも続いては・・・。
しかし世話になっている以上文句も言えない。
「食べ終わる頃には、あの二人もここへ参るはずです。」
この店はヨンスルの住まいでもあった。
たった一人の身内であった父親が亡くなり、天涯孤独となってしまった彼が管理も兼ねてここに住んでいる。
毎日、毎食、オムライスを食べているのかとヨンスルに訊いてみた。
普段は王世子の側近くに付き従っているから宮殿で食事をとることが多い、そうでなくても近くの飯屋で食べる、自炊はほとんどしない、とそう答えが返ってきた。
「なぜ、僕にはオムライスを作ってくれるんです?」
「チョハがオムライスをお好みゆえ・・・。」
「毎食は・・・ちょっと・・・。」
テヨンは遠慮がちにそう言って、頭を掻いた。
「他の物は作れませぬ。」
彼が作る、という選択肢以外はないらしい。
ヨンスルの言った通りオムライスを食べ終わったころ、マンボとチサンがやって来た。
とは言っても、まだようよう空が白み始めたころだ。
一通りの挨拶を交わす。
「僕の為にすみません。お店、休ませちゃって。」
「我らの本分はチョハにお仕えすること。商いは常のことではございません。」
「ここに貴方様がおられる以上、貴方様に従うは当然のことと考えております。」
「・・・私も、そう考えます。」
実際のところ、この三人が居なければ眠る場所も確保できなければ、まともに食事も摂れないだろう。
オムライスに不満を漏らしたことを、テヨンは反省した。
馬に跨り、四人は出発した。
人々も起き出して、いろいろな生活の音が聞こえ始める。
マンボとチサンがテヨンの両脇を守るように馬を駆った。
ヨンスルは後ろを警戒しながら、テヨンの背後を守っている。
臣下三人が先を急いでいるように見え、テヨンは、よほど遠いのかな、と思った。
都の賑わいを抜けて、家々も、行き交う人々もまばらになってくる。
途中で人々が長い行列を作っているのが見えた。
テヨンはそちらに視線をやる。
「あれは、恵民署(へミンソ)です。近頃チョハが薬剤の供給を増やしたばかりですが、また、あんなに行列になっている・・・。」
「増やせば増やすだけ横流しも増える。チョハ御自らがお出ましになられて、少しはマシになったはずだが・・・」
いつの世も、特権階級というのは、貧しい者から搾取し私腹を肥やすものらしい。
日が高く上り中天に差し掛かる頃、目的地に着いた。
山深い森の中、木々は鬱蒼と茂り昼間でも薄暗く感じる。
凛と張りつめた空気が、心なしか冷たいような気もした。
馬を木に繋いで、首を撫でてやる。
「ここから少し歩きます。」
テヨンは静かに頷いた。
森の中を進むと、ひっそりと小さな黄色の花が咲いていた。
テヨンはその花を手折る。
更に歩くと、急に目の前が開け、木々に遮られていた陽光が降り注ぎ、眩しさに思わず顔をしかめる。
目の前に墓と思しきこんもりとした丸い盛り上がりが見えた。
草に覆われた、緑の丸い盛り上がり。
緑色の球体を、きっちり半分に割ってそこに置いたようにも見えるそれは、小さくとも、十分に手入れが行き届いていた。定期的に誰かが訪れている証拠だ。
テヨンは、ゆっくりと歩み寄り今しがた摘んできた花を手向ける。
そっと手を触れてみる。土から温もりが伝わってくるような気がした。
ゆっくりと膝まづき頬を充てた。
・・・パッカ。
閉じられたテヨンの目から涙が落ちる。
パク・ハはもちろん生きている。
しかし、この時代、彼女はその生命を差し出した。自分の為に。
プヨンさん。どうか、安らかに・・・。生まれ変わった君の魂の持ち主を、僕は絶対に幸せにする。
永遠に愛すると誓ったんだ。
臣下達は何も言わず、頭を垂れて、ただテヨンが立ち上がるのを待っていた。
「・・・ありがとう。気が済んだよ。」
黙々と来た道を戻り、馬が繋がれている場所へ向かった。
「これから、どうなさいますか?」
マンボが馬を撫でながらテヨンに問うた。
「宮殿に行けないだろうか?・・・イ・ガクに会えない?」
テヨンの言葉にマンボが頭を下げる。
「そう仰るだろうと思っておりました。」
チサンも頭を下げ、言葉を繋いだ。
「チョハは宮殿においでではございません。」
ヨンスルは黙って頭を下げている。
「え?・・・じゃあ、どこに?」
つい最近この近くの湯治場にやって来て、まだそこに滞在しているのだと言う。
湯治に出かけるという名目でプヨンの墓を訪れた。
そんな理由でもつけなければ墓参りにも来れない、しかもひっそりと・・・。
テヨンは、王世子たるイ・ガクの真の苦しみを見たような気がした。
謀反人の一族の娘、まともに葬ることを反対する重臣も多かった。
しかし他ならぬ王世子の命を救ったのはプヨンだ。
山深い森の中、ひっそりと、でも丁重に弔うことをイ・ガクは強引に認めさせた。
鬼気迫る王世子の様子に、反対していた重臣も押し黙ったのだと言う。
「今なら、日の高いうちに着けましょう。」
それで、急いでいたのか・・・。
四人は再び馬上の人となった。
顔を洗おうとテヨンが部屋の外へ出ると、ヨンスルに出会った。朝の挨拶を交わす。
「お早いお目覚めですね?よくお眠りになられましたか?」
「いや、それが寝付けなくて・・・。」
「無理もございません。ですが、今日は遠出になりますゆえ、朝餉はしっかりとお召し上がりください。」
テヨンはぎくりとした。
「・・・オムライス?」
「左様です。」
昨夜もオムライスだった。いくらおいしくても、こうも続いては・・・。
しかし世話になっている以上文句も言えない。
「食べ終わる頃には、あの二人もここへ参るはずです。」
この店はヨンスルの住まいでもあった。
たった一人の身内であった父親が亡くなり、天涯孤独となってしまった彼が管理も兼ねてここに住んでいる。
毎日、毎食、オムライスを食べているのかとヨンスルに訊いてみた。
普段は王世子の側近くに付き従っているから宮殿で食事をとることが多い、そうでなくても近くの飯屋で食べる、自炊はほとんどしない、とそう答えが返ってきた。
「なぜ、僕にはオムライスを作ってくれるんです?」
「チョハがオムライスをお好みゆえ・・・。」
「毎食は・・・ちょっと・・・。」
テヨンは遠慮がちにそう言って、頭を掻いた。
「他の物は作れませぬ。」
彼が作る、という選択肢以外はないらしい。
ヨンスルの言った通りオムライスを食べ終わったころ、マンボとチサンがやって来た。
とは言っても、まだようよう空が白み始めたころだ。
一通りの挨拶を交わす。
「僕の為にすみません。お店、休ませちゃって。」
「我らの本分はチョハにお仕えすること。商いは常のことではございません。」
「ここに貴方様がおられる以上、貴方様に従うは当然のことと考えております。」
「・・・私も、そう考えます。」
実際のところ、この三人が居なければ眠る場所も確保できなければ、まともに食事も摂れないだろう。
オムライスに不満を漏らしたことを、テヨンは反省した。
馬に跨り、四人は出発した。
人々も起き出して、いろいろな生活の音が聞こえ始める。
マンボとチサンがテヨンの両脇を守るように馬を駆った。
ヨンスルは後ろを警戒しながら、テヨンの背後を守っている。
臣下三人が先を急いでいるように見え、テヨンは、よほど遠いのかな、と思った。
都の賑わいを抜けて、家々も、行き交う人々もまばらになってくる。
途中で人々が長い行列を作っているのが見えた。
テヨンはそちらに視線をやる。
「あれは、恵民署(へミンソ)です。近頃チョハが薬剤の供給を増やしたばかりですが、また、あんなに行列になっている・・・。」
「増やせば増やすだけ横流しも増える。チョハ御自らがお出ましになられて、少しはマシになったはずだが・・・」
いつの世も、特権階級というのは、貧しい者から搾取し私腹を肥やすものらしい。
日が高く上り中天に差し掛かる頃、目的地に着いた。
山深い森の中、木々は鬱蒼と茂り昼間でも薄暗く感じる。
凛と張りつめた空気が、心なしか冷たいような気もした。
馬を木に繋いで、首を撫でてやる。
「ここから少し歩きます。」
テヨンは静かに頷いた。
森の中を進むと、ひっそりと小さな黄色の花が咲いていた。
テヨンはその花を手折る。
更に歩くと、急に目の前が開け、木々に遮られていた陽光が降り注ぎ、眩しさに思わず顔をしかめる。
目の前に墓と思しきこんもりとした丸い盛り上がりが見えた。
草に覆われた、緑の丸い盛り上がり。
緑色の球体を、きっちり半分に割ってそこに置いたようにも見えるそれは、小さくとも、十分に手入れが行き届いていた。定期的に誰かが訪れている証拠だ。
テヨンは、ゆっくりと歩み寄り今しがた摘んできた花を手向ける。
そっと手を触れてみる。土から温もりが伝わってくるような気がした。
ゆっくりと膝まづき頬を充てた。
・・・パッカ。
閉じられたテヨンの目から涙が落ちる。
パク・ハはもちろん生きている。
しかし、この時代、彼女はその生命を差し出した。自分の為に。
プヨンさん。どうか、安らかに・・・。生まれ変わった君の魂の持ち主を、僕は絶対に幸せにする。
永遠に愛すると誓ったんだ。
臣下達は何も言わず、頭を垂れて、ただテヨンが立ち上がるのを待っていた。
「・・・ありがとう。気が済んだよ。」
黙々と来た道を戻り、馬が繋がれている場所へ向かった。
「これから、どうなさいますか?」
マンボが馬を撫でながらテヨンに問うた。
「宮殿に行けないだろうか?・・・イ・ガクに会えない?」
テヨンの言葉にマンボが頭を下げる。
「そう仰るだろうと思っておりました。」
チサンも頭を下げ、言葉を繋いだ。
「チョハは宮殿においでではございません。」
ヨンスルは黙って頭を下げている。
「え?・・・じゃあ、どこに?」
つい最近この近くの湯治場にやって来て、まだそこに滞在しているのだと言う。
湯治に出かけるという名目でプヨンの墓を訪れた。
そんな理由でもつけなければ墓参りにも来れない、しかもひっそりと・・・。
テヨンは、王世子たるイ・ガクの真の苦しみを見たような気がした。
謀反人の一族の娘、まともに葬ることを反対する重臣も多かった。
しかし他ならぬ王世子の命を救ったのはプヨンだ。
山深い森の中、ひっそりと、でも丁重に弔うことをイ・ガクは強引に認めさせた。
鬼気迫る王世子の様子に、反対していた重臣も押し黙ったのだと言う。
「今なら、日の高いうちに着けましょう。」
それで、急いでいたのか・・・。
四人は再び馬上の人となった。
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~ Comment ~
Re: すっごく、 やすべぇ様へ
やすべぇ様
恐縮です。
語彙は私の方が少ない気がします・・・。(汗)
やすべぇ様の表現こそ作中で使いたいぐらいです。
いつも、ありがとうございます。
恐縮です。
語彙は私の方が少ない気がします・・・。(汗)
やすべぇ様の表現こそ作中で使いたいぐらいです。
いつも、ありがとうございます。
- #341 ありちゃん
- URL
- 2015.02/10 09:06
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Re: タイトルなし か****様へ
か****様
私も朝からオムライスでもおっげーですけどね。w
テヨンの場合、来てすぐの昼と夜、そして朝ですから・・・。PPP
韓国の昔ながらのお墓は土饅頭って言いますよ。
言われてみれば重そうかも・・・。布団いっぱいかけられて眠ってるみたいですね。
イ・ガクに会いに行ったテヨン。どうなることやら・・・。
私も朝からオムライスでもおっげーですけどね。w
テヨンの場合、来てすぐの昼と夜、そして朝ですから・・・。PPP
韓国の昔ながらのお墓は土饅頭って言いますよ。
言われてみれば重そうかも・・・。布団いっぱいかけられて眠ってるみたいですね。
イ・ガクに会いに行ったテヨン。どうなることやら・・・。
すっごく、
語彙がきわめて不足しているので、上手く
言えませんが、イ.ガクの深い哀しみと 辺りの
景色、円い土饅頭を覆った目に沁みるような緑...
イ.ガクと自分、プヨンとパッカ、解き明かしていく縁...
哀しみが全て、自分の元に集まったような、テヨンの
気持ち、抱きしめてあげたいくらいです。
続きがすごく、楽しみです!