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「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-

生まれ変わっても 42

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青年は緊張の面持ちでそこに座していた。

さほど広くはない部屋であったが、窓枠や室内に配置されている調度品には、繊細で優美な装飾が施されている。
やはり身分の高い両班の住まいなのだろう、と彼は思った。

しばらくそのまま待っていると、部屋の奥に置かれていた衝立が動き、人が顔を出した。
衝立の向こうには扉がある。どうやら、そこから出てきたらしい。
てっきり壁だと思っていたから、青年は驚きのあまり息を飲んだ。

彼の様子を見てテヨンは苦笑した。

「驚かせて、ごめん。この奥の部屋に居たんだ。」

色鮮やかで光沢のある絹の道袍(トポ)をその身に纏い、高価そうな飾り紐の付いた笠を被っているテヨンを見て、彼は、やはり身分の高い両班だ、と思うとともに、その両班の若さに驚いた。
自分より年長らしいから、その感想も変と言えば変なのだが、彼がここに来るに至った経緯を振り返れば、もっと年嵩の、老主人とでもいうような人物が現れると思っていたのだ。


その青年、チャ・チスはその日のお目当ての品々を買い揃え、自宅に帰ろうとしていた。
帰り道の途中、薬材を扱っている店の柱に奇妙な貼り紙がしてあるのを見つけた。

麻疹に罹ったことがある者を探している、という内容だった。
彼は、何だろう?と思った。

「すみません。あの貼り紙、どういう意味ですか?」

店主と思しき男に声を掛ける。

「ああ、頼まれて貼ってるんでさぁ。あんた、麻疹を患ったことがあるんで?」

「はい、子供のころに。」

「そりゃ、運が良かったね。子供だったから良かったんだろう。・・・ここへ行ってみな。」

店主はチスに地図を渡した。

「なんでも、褒美がもらえるってことですよ。紹介すれば、私どもも褒美がもらえるんでさ。」

そう言って店主は揉み手をしながらにやにやと笑った。

チスは褒美など興味がなかったが、好奇心にかられて地図に描かれてある場所に向かうことにした。


湯治場であるこの地は、宿屋や店が連なり、田舎でありながら結構な賑わいを見せている。
そんな賑わいを抜けて、寂しげな場所にやって来た。

小さな家に時折、人が出入りしているのが見える。

チスはその家に入っていった。

扉をくぐると、待ち構えていたように人がいて、どこで聞いてきたかと尋ねらた。
店主に渡された地図を見せろということだったので、それを渡す。
地図の端には番号が振ってあり、それでどこからの紹介かを確認しているらしかった。

ほんとに、褒美を出してまで探しているのか・・・。

まず名前を訊かれ、いつ、どこで、どういう状況で麻疹に罹り、どんな症状だったか、事細かに訊かれた。
褒美欲しさに、嘘を吐く者もいるらしい。
しかし、次の言葉を聞けば、多くの者が、嘘でしたと言ってそそくさと帰って行った、と前置きして、目の前の男はチスに言った。

一度麻疹に罹った者は、二度は罹らぬ。麻疹に苦しむ尊いお方がおられる。そのお住まいにて、住み込みで働いてほしい。

チスは大いに驚いた。
男は更に続けた。

衣食住は保障する。十分な報酬も与える。完治すれば、そのときは褒美も与えられるだろう。どうか?

構いませんが・・・。

チスの答えを受けて、男は顔を綻ばせた。そして、こっちへ、と言ってチスを奥の部屋に連れて行った。

幼いころ、麻疹が流行った。自分だけでなく、両親も、近所の人も、遊び友達も、多くの人が病を得た。
そして、みんなその時に死んでしまった。
チスはその苦しみが分かるだけに、麻疹に苦しむその尊いお方と、その家族のことが哀れに思えたのだ。


チサン、マンボ、ヨンスルの三人は、飄々とした表情のチスを見やった。

「座られよ。」

「はい。」

「麻疹に罹ったは、真実なのか?」

「はい。先ほどの人に言った通りです。」

「我らの主が麻疹で苦しんでおられる。そのご看病をしてくれる者を探しておるのだ。」

住まいで働く、というのは病人の世話役か・・・。それは、皆、嫌がるだろう、とチスは思った。

「麻疹は一度罹れば、二度は罹らぬと聞く。しかし、稀に二度目も発症することがあるそうだ。だが、その場合、軽く済むだろうとの仰せではあった。しばらく自宅へも帰れぬであろうが・・・それでも、引き受けてくれるか?」

「断ってもよろしいので?」

三人は表情を曇らせ、顔を見合わせた。

「・・・断ると言うなら、致し方ない。総てを納得したうえで、それでも引き受けてくれる者を探して来い、との仰せなのだ。」

「いいですよ。」

「まことか?!」

「また罹ったとしても、軽く済むんでしょう?だったら、いいですよ。」

三人はまた顔を見合わせ、隠すことなくホッとした表情をした。

「時間がないのだ。そうと決まれば、今すぐ、そのお方の住まいに連れて行く。良いか?」

「構いませんが。」

家族もいない天涯孤独の身。引き受けていた仕事も終わったばかりで次の仕事の依頼もない。
衣食住は保障されると言うし、ちょうど良い。チスは飄々としている。

これは前金だ、と言って巾着袋を渡された。
これを受け取れば、もう逃げられないということだ。
貰えるものを拒む必要はない、とチスは巾着を懐に収めた。

「我らの主がどなたなのか、明かすわけにはいかぬのだ。少しの間、我慢してくれ。」

チスは目隠しをされ、そして、本来、女人の使う扉の付いた輿に載せられた。


チスがこの仕事を引き受けた理由。
それは仕事の依頼の仕方にあった。

幼いころ両親を失ったチスは、親類縁者をたらい回しにされ、奴婢ではなかったものの、奴婢同然に扱われた。
ある時、身分の高い両班が幼いチスを使用人として引き取った。

主人は、彼を人間として扱い、教育も与えてくれた。その才能を認め、かわいがってもくれた。
今はその家も離れ、この湯治場の村で独りひっそりと暮らしているが、その主人への恩を忘れたことはない。

無理矢理にでなく、十分な報酬を与え、起こりうる危険も知らせたうえで、嫌なら断っても良い、と、そんな風に仕事を与えてくれる両班など、お世話になった旦那様しか知らない。

麻疹に苦しむ尊いお方の、夫人か親か知らないが、かつての主人のような立派な人物なのだろう、とチスは思ったのだ。


チスは輿の中でも目隠しをしたままでいた。外したところで、どうせ、また着けられるだろう。
そのまま目を瞑っていれば耳の感覚も冴えてくる。悪いことではない。

輿が止まり、地上に降ろされた。

手を取られ部屋に通されると、すまなかった、と言って目隠しを外してくれた。
騙されて連れて来られた、というわけでもなさそうだ。

チスはそこに座して、待っていた。


尊いお方の世話をしてほしいと依頼してきたのは、若い両班だったのだ。
そのことだけが、飄々としていたチスを驚かせていた。


チスが立ち上がって頭を下げようとするのを、テヨンは制した。

「いいよ、挨拶は。時間がないから。」

テヨンはチスの前にあぐらをかいて座ると、いきなり頭を下げた。

「引き受けてくれて、ありがとう。あの三人も苦労したみたいだし・・・助かるよ。」

自分に挨拶はいいと言った両班が、明らかに身分の低いチスに頭を下げた。それだけでも衝撃的な出会いである。
親しげに話してくるテヨンに呆気をとられていると、矢継ぎ早に質問をされた。

名前は?
チャ・チスです。
年齢は?
今年二十二になりました。

出身地は?今、どこに住んでいる?家族は?ぽんぽんと飛ばされる質問に答えていく。

「仕事は?」

「絵を描くことを生業としております。」

「そうなの?絵師ってやつ?・・・僕も絵は好きだよ。でも今は絵の話はしてられないから・・・」

そして、麻疹についての注意事項や、病人の世話の仕方、これから屋敷内で発病する人が出るかも知れない、など、テヨンは考えられる限りの可能性と対処法を示した。

「後で、きちんと書いたものを渡すから・・・。」

チスはふんふんと頷きながら聴いた。

「それから、ここで見聞きしたことは、他言無用だ。」

今までと違って低い声で言われ、チスはテヨンをじっと見た。

しゃべれば命はない、とそう言っているのか・・・。

「彼が良くなるまではここに監禁状態だし、ここを出てしゃべったところで、誰も信じないと思うよ。笑い者になるだけだから、ここでのことは、忘れた方がいい。」

テヨンはにっと笑った。
チスは拍子抜けして、苦笑する。

一体、このお方は、どういうお方なんだ?

「じゃあ、彼に会せるけど、驚かないで。」


テヨンと共に、病人が寝ているという奥の部屋に案内されたチスは、目を見開き、驚いた。
イ・ガクと、テヨンを交互に見やる。

「彼は、この国の王世子だ。」

チスは、テヨンの言葉に更に驚く。

王世子・・・だって?

彼は、あわててその場にひれ伏した。

「チョハァ。」

「驚くのも無理はない。」

そっくり同じ顔の人物がいることを言っているのか。
麻疹に罹った尊いお方が、正に、尊い王世子だったことを言っているのか。

「顔を上げてくれ。」

チスはおずおずと顔を上げた。
テヨンは屈みこみ、チスの目の高さに自分の目線を合わせ、彼の肩に手を置いた。

「私は世子に成り代わり、麻疹の拡大を抑えに行く。真の世子のことは、そなただけが頼りだ。しっかり頼む。」

「ははぁ。・・・チョハ。」

チスは、平伏しながら、とんでもないことに巻き込まれてしまった、と独りごちた。



先ほどチスが待機していた部屋に戻り、また二人向かい合って座る。

少し冷静さを取り戻したチスは、あれこれと思い巡らせていた。

あの病人が本当に王世子だったとして、そのチョハにそっくりな目の前の両班は何者なのか?
世子に成り代わる、とはどういうことなのか?
麻疹の拡大を抑える、とはどうするつもりなのか?

「混乱してるみたいだね?・・・何か訊きたいこと、ある?」

「・・・貴方様はどういう身分のお方ですか?なんとお呼びすれば?」

「僕?・・・一応、昨日から彼の代役をしてる。・・・好きに呼んでくれていいよ。皆は僕のことをチョハと呼んでるけどね。」

世子を“彼”呼ばわりするチョハは、照れたように笑っている。
どうにも不思議で、ますます混乱させられる。

「麻疹の拡大を抑える、と仰いましたが・・・そんなこと、できるのですか?」

「・・・状況を調べてみないと分からないけど、やるだけはやるさ。ウィルスを必ず封じ込めてやる。」

チスはテヨンの言葉の意味が分からない。しかし、彼の揺るぎない決意だけは感じ取った。
都にはお世話になった旦那様がいらっしゃる。旧知の者もたくさんいる。
大事な人を守りたい、とチスも思う。

「俺にできるのは・・・その、病に伏しておられる方・・・恐れながら・・・チョハのお世話をすることぐらいです。
貴方様が、麻疹を抑えることができると仰られるのでしたら、どうか、そのようになさってください。」

「うん。・・・彼を頼む。」

テヨンはチスに頭を下げた。

「民を・・・都にいる人を、守ってください。」

チスもまた頭を下げた。


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Re: タイトルなし か****様へ

か****様

こんばんは。お待たせしました!そして、次もお待たせします。(汗)
先週は更新頻度がアップしていただけに、長らくお待たせした感が強いですよね。
すみません。

麻疹も大人の男性にはそのリスクがあったんですね。(汗)
他の方もコメで教えて下さったのですが、おたふくかぜだけがそうなんだとずっと思ってました。
こんなに知識がないのによく書いてるなぁ、と泡喰ってます。

また、待っててくださいね。(懇願)


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Re: NoTitle な*様へ

な*様

お待たせしました!

麻疹なんて、感染力強いしほんと怖い病気だったんでしょうね。
ワクチンのないこの時代、テヨンはどう戦うのでしょう?

私も看病してあげたいです。w

Re: 宿命 ほ**様へ

ほ**様

こちらこそ、ありがとうございます。
そうですよ。チス君、なかなか頭がいいのです。w
苦労人ですから・・・。

チス君

チス君良い人そうで良かった~
安心して、チョハを任せられそうです。
可愛い女人だったら、妬けちゃうので…

チス君が、3人の部下達と同じようにチョハの為に尽くしてくれる家臣になってくれると良いな~
男の味方は多いほど、心強いし。

イ・ガクの側で尽くしてくれる女人は、パッカかプヨンじゃないとダメ~(T-T)な私。
チス君お願いします(何目線?)
イ・ガク頑張って
テヨン頼みます

Re: チス君 ふにゃん様へ 

ふにゃん様

イ・ガクのお世話役は男性としか考えていなかったのですが、
臣下候補ですか。思い至らなかった・・・。

チス君、飄々としてますが、良い人ですよ。♪
みんなそれぞれ頑張ってもらいましょう。(思いっきり、上から)

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Re: タイトルなし F****様へ

F****さま

> 歴史大作ドラマのようになってきましたね。
いやいや、大作なんてことはないのです。無謀なんです。これがっ(涙)
・・・事態の収拾に泡喰っています。(汗)

ホジュンは、そんなシーンがあるのですね。落ち着いたら見たいと思います。
(このお話を終えてから見ても意味ないですかね?汗)
F****さんのコメからイメージ湧いてきたので、ありがたい!活用させて頂きます。

> テヨン、パクハもイガクも私も応援してますからね!!
応援、ありがとうございます。テヨンも頑張ってくれるはず!
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