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「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-

生まれ変わっても 43

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テヨンはイ・ガクの額に手を当てた。
熱は少し下がっている。

「夜にはまた高熱が出て、発疹も出始めるはずだ。伝えた通りに、頼む。」

チスは静かに頷き、はい、チョハ、と答えた。
テヨンは、イ・ガクの口に水を含ませてやる。

頼むから、合併症だけは引き起こしてくれるなよ。

テヨンは祈るような思いで、イ・ガクを見つめた。

・・・イ・ガク。僕は、これから王世子として王宮に向かう。
僕が責任を持つ。・・・だから、頑張ってくれ。



臣下三人を従えて、テヨンは馬を駆った。
恵民署の様子を一刻も早く知りたかった。

イ・ガクが診たというその子供が、麻疹の最初の患者かどうかは分からない。
しかし、その前には流行り病の噂もなかったらしいから、やはりその子が最初なのだろう、とテヨンは踏んでいた。
願わくば、ずっと恵民署に留まっていてくれることを!


恵民署に近付いてきた。

様子がおかしい。
二日前、湯治場へ向かう道すがら目にしたのは、民衆が作った長い行列だった。
しかし、今はどうだ。行列どころか、静けさまで漂っている。

いよいよ近付いてみると、その建物から一定の距離を保って、周りをぐるりと囲むように竹垣が組まれている。
所々に槍を持った兵士まで配置されていた。

馬を降り、四人が近付くと兵士は槍を突き付けて追い帰そうとしてくる。

「無礼者!畏れ多くも、このお方は・・・」

チサンが叫ぶのを手を上げて制したテヨンは、ゆっくりと頭(かぶり)を振った。
チサンは頭を下げて引き下がる。

テヨンは袞龍袍(コルリョンボ)ではなく、普通に両班の着るような道袍(トポ)を纏っていた。
世子だと名乗ったところで事態が早く片付くわけでもない。

「中へ入れてくれないか?」

「ならん!!ここは閉鎖されたのだ!」

「恵民署が?何故?」

「知らん!誰も中に入れるなとの命令だ!帰れっ!!」

テヨンが後ずさったので、三人の臣下達も下がったが、テヨンの合図でヨンスルが兵士の槍を蹴り上げた。
目にも留まらぬ速さで、兵士たちをその場に伸してしまう。
騒ぎを聞きつけた他の兵士が集まってきたが、皆、ヨンスル一人に制圧されてしまった。

「さすがだな。」

思わず、テヨンは口先を尖らせ、ひゅーっと鳴らした。

竹垣を縛り付けてあった縄をヨンスルが刀で切り、三人は力任せにこじ開けた。

どうぞ、と道を開けてくれた三人に、君たちはここで待て、と言い置いてテヨンは建物に向かって走って行く。
チョハ!と叫ぶ臣下を振り向いて、いいから待て、と更に言った。


建物の入口は、ご丁寧に板で幾重にも打ち付けられている。窓という窓も、総て外から固く閉じられていた。

「おい!誰か中に居るか?」

テヨンは打ち付けられた扉をどんどんと叩く。返事はない。
扉を塞ぐ板は、打ち付けられてそう時間は経っていないらしく、頑丈に貼りついている。
テヨンは板に両手を掛けると、渾身の力を込めて引き剥がしにかかった。


臣下達は遠目にテヨンを見ながら、自分たちも板を剥がすような素振りをしていた。


メリメリと音を立てて板は外れていく。

こんな力仕事、久しぶりだ。勘弁してくれよ。

ぜぇぜぇと肩で息をしながら、外した板を投げ捨てた。

ようやく扉自体の木目が見えた。そこをめがけて力いっぱい蹴りつける。
バタン!と大きな音を立てて扉は開いた。


やった!開いたぞ!臣下達は、手を取り合って喜んでいる。


テヨンは、板を外したことでできた隙間から、身を折り畳むようにして中に入った。


チョハァ!テヨンが一人で恵民署の内部に入ったのを見て、心配のあまり声を上げる臣下達。


恵民署の中は、むっとした淀んだ空気が充満していた。

「おい、誰か居ないか?」

様子を伺いながら中に進んだ。
また扉があったのでそれも開けると、やはり淀んだ空気が流れ出てきた。
その部屋の奥には、医員と思しき男が一人、座り込んでいた。
彼は自分の肩を抱きながら、ガタガタと震えている。

「君っ!大丈夫か?どうしたんだ、何があった?」

テヨンは医員に駆け寄った。
彼は虚ろな目でテヨンを見上げたが、ぶつぶつと何か呟いている。

「おいっ!しっかりしろ!」

テヨンは彼の肩を掴むと、ゆさゆさと前後に揺すった。

「死ぬ。・・・皆、疫病で死ぬんだ・・・。」

正気を失っている医員をその場に置いて、テヨンは更に内部を探り、別の扉を開けた。

その部屋では、数人の医員と医女達が横たわり、苦しげに喘いでいた。
医員や医女だけではない。治療を受けていたと思われる民も、何人かいる。
皆一様に苦しげな息遣いで、そこにいた。


麻疹、だ。


テヨンは踵を返して先ほどの医員の所に戻った。
医員の胸ぐらを掴んで顔を引き寄せると、平手打ちを喰らわせる。

「しっかりしないかっ!呆けてる場合じゃない!!」

テヨンは辺りを見廻し、煎じ薬らしき液体が入った器を見つけた。
それを掴みとると、医員の顔をめがけてぶちまける。

彼はゲホゲホとむせ返りながらテヨンを見た。

「な・・ゲホっなんてこと、する・・・ゴホ・・ですかっ!」

「やっと正気になったな。どうなってる?誰に閉じ込められた?」

「疫病です!ここにいたら死んでしまう!」

這って逃げようとする医員の首根っこをテヨンは掴んだ。

「大丈夫だ。見たところ君は感染していない。こんなにウィルスが充満した所に居るのに。
・・・どうやら、抗体を持っているらしいな。」

医員は合点がいかぬ風でテヨンを見上げている。

「とにかく、無事なのは君だけみたいだ。手伝ってくれ。」

「・・・何を、ですか?」

「病人の世話に決まっているだろう?」

「イヤです!死にたくない!」

テヨンは溜息を吐いた。
ゆっくりと膝まづき、片手を袖の袂に入れながら低い声で凄んだ。

「私に従えば特効薬をやろう。どうせ病で死ぬのだ、今すぐあの世に送ってやってもいいが?」

完全にテヨンのはったりだったが、疫病を恐れるこの男には効いた。

「本当ですか?本当に薬があるので?」

「ああ。ただし、一人分しか持たぬ。そなたにやってもいいが・・・私に従うか?」

「は、はい。何でも致します。」

彼は両手を擦り合わせながら、テヨンに平伏した。

「では、火を起こして湯を沸かしてくれ。」


テヨンは固く閉ざされていた窓を開けて廻った。
備蓄されているはずの食料や薬剤も見て廻る。しかし、麦一粒、残されていなかった。

厨房で必死に湯を沸かそうとしている医員に声を掛けた。

「どうして、何もないんだ?薬はおろか、食料も何もないじゃないか。」


一週間前、疫病が発生したと恵民署の責任者が報告に上がった。
責任者は恵民署には戻って来ず、代わりに兵士が差し向けられここに閉じ込められた。
治療の術も分からず、思いつく限りの薬も試した。
最初は励まし合って頑張っていたが、そのうち、同僚も次々に倒れていったのだと言う。
わずかに残る薬剤と糧食も底を尽き、彼は、心が折れてしまったのだ。


テヨンは外へ出て三人の臣下に向かって叫んだ。

「おーい!生理食塩水と消化のいい食べ物をどこかで調達して来てくれ!酒と、清潔な布もっ!」

「承知致しました!チョハ!」


テヨンの戦いは、これからだ。

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~ Comment ~

いつもはー

ちょっと、ナイーブで優しいテヨンのような感じがしていたのですが、
現代においても、仕事のできるテヨンですものーすごく、
頼りになって、恰好いいですね!
なんか、大沢たかおのドクター仁を思い出しました。
タイプは違うけれど、ユチョンに大沢さんみたいに年をとって
欲しいなぁと近頃、そう、思ったりしています。
男の人、40代、いいよねぇって、おばちゃんは懐かしんでます!

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Re: いつもはー やすべぇ様へ

やすべぇ様

テヨン、恰好よかったですか?
それは良かった。^^ 恰好いいと言ってもらえてほっとしてます。

ドクター仁ですね。日本版も韓国版も見てないので、見たいなぁとは思っております。

やすべぇさんの仰られること、分かる気がします。
ユチョンは40代になってもきっと素敵ですよね。♡

Re: タイトルなし な*様へ

な*様

イ・ガクの代役、務まってますか?
格好よく、頼もしく、できる男!(できない書き手は書くのに四苦八苦。w)

パッカの許へ還るその日まで、頑張ってもらうしかありません。w

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Re: タイトルなし F****様へ

F****様

長い、と謝られる必要は全然ございません!
むしろ、ありがたい!!
もう、書きながら、時代的背景も状況も全然分からなくて、どうするべぇと思っていたので、
いろいろ教えて頂き、本当にありがたい。
だいたい思い描いていたことで問題なさそうなので、安心しました。

テヨンのはったり、実はお気に入りです。♡

本当に、ありがとうございます!

Re: タイトルなし か****様へ

か****様

テヨン、かっこよかったですか?
そう言って頂けて、ほんとに嬉しいですし、何より、ほっとします。
できる男テヨン。如何に表現するかが大問題で・・・。
か****さんが気絶しそうなほど、かっこよかったなら、良かったです。♪

息子さん、入試!そりゃ気になりますね。
テヨンのように、できる男になるのはこれからです!期待を込めて見守りましょう!
(なぜ、私が期待する?w)

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