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「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-

生まれ変わっても 44

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恵民署でただ一人無事だった医員、ハン・ヨンジンはテヨンによく従った。

彼はテヨンを手伝って、病人達を、重症な者ほど部屋の奥へ寝かせるようにし、身体を拭いてやり、水を与えた。
意識があって少しでも食事を摂れそうな者には粥を与える。

その中に子供が一人いた。
イ・ガクが接触し麻疹のウィルスを貰ってしまったその男の子である。

男の子は、肌に麻疹の発疹の名残を留めていたが、熱はすっかり下がっていた。
彼は若干衰弱してはいたが、テヨンの差し出した粥を嬉しそうに口に運んだ。

医員や医女達は、明らかにここへ来た病人からウィルスに感染してしまったようで、今、正に麻疹の高熱と発疹に苦しんでいる。
恵民署に従事していたわけではないらしい大人達、つまり治療の目的でやって来たらしい民達は、麻疹の症状自体は治まっていたが、ひどく衰弱している。
麻疹は大人の方が重症化しやすい。皆、息も絶え絶えで、意識を失っている者もいた。
一先ず、死者が出ていないことにテヨンはホッとしていたが、このままでは時間の問題である。


男の子は粥を平らげると、部屋の奥で苦しむ大人たちに目を遣った後、テヨンを見た。

「・・・おじさん達は、いつ、元気になりますか?・・・チョハ。」

テヨンを見上げる子供の目は、助けを求めるように見開かれている。
彼は熱にうなされながらも、尊い王世子が、病気の自分に触れ、励ましてくれたことを覚えていた。
世子チョハなら、苦しむおじさん達を助けてくれる、と純粋に信じている。

「あのおじさん達は、知り合いかい?」

「はい。チョハ。」

「みんな元気になるよう、できる限りのことはする。・・・君、名前は?」

「はい、チャン・ポンソクです。チョハ。」

テヨンはにこりと笑って、ポンソクの頭を撫でた。

「ポンソク。きちんと食べて、元気になるんだ。おじさん達が元気になるよう、君にも手伝ってもらうからね。」

「はい!チョハ。」

ポンソクもにっこりと笑う。



一方、その会話を聞いて驚いたのは、医員のハン・ヨンジンである。

「貴方様は・・・チョハ?・・・なので、ございますか?」

テヨンはヨンジンを振り向いた。

そう言われてみれば、目の前の両班の顔に見覚えがある。
王世子チョハが、突然、視察に現れたとき、下っ端の自分などはずっと頭を下げているしかなかった。
その尊顔を拝することなど、一生叶いはしまいと思ったから、不敬にもちらちらと盗み見た。

その王世子が、そこにいて、病人の世話をしている。

ヨンジンは、あわてふためいてその場にひれ伏し、額を床に擦りつけた。

「お許しくださいませ!チョハ!!」

「突然、どうしたんだ?・・・何を、許せって?・・・君、何か悪いことした?」

「申し訳ございません!チョハァ!」

更に額を床に擦りつけるヨンジンを見て、テヨンは訳が分からないという表情(かお)をした。
ポンソクに向かって、ねぇ?おかしいよね?と笑いながら同意を求める。

「はい!チョハ。」

ポンソクは、世子の笑顔が嬉しくて、元気よく返事をした。


テヨンは目を閉じ、一呼吸置くと、目を開けヨンジンに向き直った。

「ハン・ヨンジンよ。面(おもて)を上げよ。」

「ははぁ。」

「私に、何を詫びておるかは知らぬが、許せと申すなら許そう。」

「お、恐れ入ります。チョハァ。」

ヨンジンはまた頭を下げる。

「ただし、この恵民署で医員としての務めをしっかりと果たせ。さすれば、今までのそなたの罪の一切を、問うことはしない。それで佳いな?」

「恐れ入ります。チョハ。」

平伏するヨンジンを前に、テヨンは内心苦笑していた。


王世子ごっこは、思ってた以上に・・・疲れる・・・。


テヨンが溜息を吐いたのを、平伏するヨンジンは気付かない。


とりあえず、看護はヨンジンに任せて、テヨンはポンソクと話をした。

麻疹に苦しむ大人たちは、ポンソクと同じ集落から一緒に来たのだと言う。
その集落では、すでに麻疹が流行し始めていたのだ。
彼らは薬と治療法を求めて、恵民署にやって来た。
ポンソクの家には赤ん坊が居て、両親は身動きが取れないからと、体調を崩していた彼だけ、隣のおじさんに連れられて恵民署にやって来た。
恵民署に来てから彼は発熱し、そこへたまたまイ・ガクが視察に訪れた。
その後、次々に大人達も発症していったということらしい。

「ポンソク。君がここに来る前から、集落では病人がいたのか?」

「・・・子供に悪い風邪が流行り始めてるから、僕も気を付けなさい、とオモニに言われました。」

「君の友達も、風邪をひいていた?」

「隣のウンテが寝込んでしまって、遊びに行ったけど、遊べなくて・・・ウンテはずっと寝込んでるっておじさんが言ってました。だから、ウンテのためにおじさんは恵民署に来たのに・・・おじさんも倒れちゃった。」

ポンソクの顔に陰りが広がって行く。

「気付いたら、みんな、苦しそうに寝てて、窓も扉も開かなくて・・・。アボジもオモニも心配してるよね?チョハ、僕、どうしよう。・・・みんな、元気になる?・・・アボジとオモニと、チャヨンの所に帰れる?」

ポンソクは必死に堪えていたが、その目に涙が溜まっていく。
テヨンはポンソクを胸にかき抱いて、頭を撫でた。

「大丈夫だ、ポンソク。家には私が連れて帰ってやる。隣のおじさんも、ウンテも助けよう、な。君も早く元気になるんだ。そして、私の力になってくれるな?」

「僕、チョハの役に立てますか?」

テヨンは、ポンソクを胸から離すとその目をじっと見た。

「もちろんだ、ポンソク。・・・この病気は麻疹と言うんだ。麻疹は人から人に伝染るが、一度罹ったらもう罹らない。
だから、今、麻疹で苦しんでいる人達の為に働こう。君は、天から選ばれたんだよ。」

「僕が?天から?」

「そう。麻疹で苦しむ人々を助けろ、と天命を受けたんだよ。」

テヨンはもう一度ポンソクを胸に抱いた。


ポンソクの住む集落を、急ぎ訪れる必要がある。おそらく、麻疹は拡大し始めているに違いない。
テヨンは思案を巡らせていたが、やがて意を決したように立ち上がった。

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~ Comment ~

お早うございます!

まぁ、なんとテヨンの恰好良いこと!
パッカでなくとも、惚れてしまいますわぁ~
物語を読んでいて気づいたことがあります。
テヨンはお医者さまではないけれど、助けようとの
必死な思いから自分の知っている知識を総動員
してその役目をなそうとしている...
人は一途に思いを込めればダメだと思うことも
叶うことがあるとー
 この世界を動かす力はやっぱり、人の気持ち
なのだということ...
  テヨンを突き動かす愛はパッカへと向かう
のね。  (  軽く、嫉妬しています)
  登場人物の名前が増えて、頭を整理しながら
大きくなっていく物語の結末を楽しみにしています。

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Re: お早うございます! やすべぇ様へ

やすべぇ様

返信コメが遅れてごめんなさい。

恰好いいテヨン。書きながら、悶えている私は、バカです。w

> 人は一途に思いを込めればダメだと思うことも
> 叶うことがあるとー
>  この世界を動かす力はやっぱり、人の気持ち
> なのだということ…
なんと!深く読み込んでくださってありがとうございます。
私は、人の想いほど強いものはないと思っています。良くも、悪くも。
出来れば、皆が幸せになれるように想いを込めたいものです。

> 大きくなっていく物語の結末を楽しみにしています。
ほんとに、こんなん書きたいなぁ、と思っていた当初よりも膨れ上がってきて、どう収拾を付けるのか・・・
軽く眩暈を起こしてます。(苦笑)

Re: タイトルなし か****様へ

か****様

返信コメが遅れてごめんなさい。

王世子ごっこ、これから益々大変になりますよ。w
今まではイ・ガクを知らない人としか接してないですけど、宮廷に還れば、より王世子イ・ガクらしくしなければなりませんからね。テヨン、大丈夫かな?(苦笑)

名付け問題から解放されたのはいいのですが、膨れ上がるストーリー展開に泡喰ってます。(汗)

合格発表まで、緊張しますね。10日くらいですか?
高校から教科書は買わないといけないですもんね。制服も高いし・・・
学校行かせてもらって、親に感謝ですが・・・子がそれを分かるのは、もうちょっと先ですかね?
アボジ、オモニ、ファイティンです!

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Re: 先の展開が楽しみ う***様へ

う***様

はい。書き手も想像してなかった展開を繰り広げております。(汗)
素敵だとお褒め頂いてるテヨン。これから、どう動きだすんでしょうね。

現代に取り残されたパク・ハが気になりますが・・・
それにしても、女っ気がなくて華がないと申しますか・・・
テヨンがかっこいいからいいですかね?♪
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