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「短編集」
読みきり

幸せを運ぶ鳥

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好く晴れた日の朝。

パク・ハは店の前を掃除していた。
空から、すいーっと地面すれすれに何かが降りてくる。

「あ、ツバメ。」

黒くスレンダーなその小鳥は、自由自在にすいすいと飛び廻っている。

しばらく飛び廻った後、パク・ハの店の軒先にとまり、羽を休めるその姿が愛らしかった。


ピチュクチュピチュクチュピチュクチュ、ピルルルーッ


特有のさえずりでなわばりを主張し始める。
パク・ハは目を細めてその姿を見やった。

巣をかけるのかな?・・・初めてね。

ツバメはすいーっと飛び去り、彼女は店の中に入った。



カラン、と鐘が鳴る。

「いらっしゃいませ。」

パク・ハがドアの方を見ると、テヨンが入って来たところだった。

テヨンはにこにことしながらカウンターに近付いて来た。
他に客がいないのをいいことに、そのまま、パク・ハに口づける。

「外から見られちゃうわ。」

「大丈夫だよ。・・・それに、見られたって構わないだろ?」

「人に見せるもんじゃないでしょ?」

「そう?見せつけてやりたいぐらいだけど?」

パク・ハは、もうっ、と口の中で言って、リンゴを手に取った。

「リンゴジュースでいい?」

「うん。・・・ところで、さ。ツバメがいるね。」

「そうなの。最初は一羽だけだったけど、昨日ぐらいから、ペアになったらしくて・・・。
夜は、二羽で仲好く軒先で寝るようになったの。」

「そうか。・・・商売繁盛するな。・・・今日は遅くなるから、先に帰ってて。」

テヨンはジュースのカップを受け取り、カウンターに紙幣を置いて店を出て行った。
彼女は店の前を通り過ぎるテヨンに手を振った。ウィンドウ越しに彼も手を振っている。


彼は、要らないとパク・ハが言っても、必ず代金を置いていく。
相応の対価を得る。商売の基本だろ?テヨンはそう言って笑う。
しかし、彼自身は、会社の倉庫に在庫が余ってた、とか、少し傷があるけど問題ないよ、とか、試作品だ、とか言っては色々な商品をパク・ハに渡す。そして、その対価を受け取ろうとはしない。

国で五本の指に入ろうかとは言うような大企業の御曹司。そうであるばかりでなく、彼自身が会社に多大な利益をもたらし、同年代の若者よりもずっと稼いでいる。
パク・ハの商売など足許に及ばないぐらいの、途方もないビジネスを展開している恋人、いや、今は婚約者だ。

ツバメが来たから、商売繁盛するって、テヨンさんが言っても、説得力ないわよね。

パク・ハはくすりと笑って軒先を見た。
ツバメの夫婦が、くちばしに泥を咥えて一生懸命に巣作りに励んでいる。


ジュイ、ジュイ。ピピピピピッ


ツバメの鳴き声が耳に心地よかった。



パク・ハは毎日ツバメを見ては微笑んだ。
日に日に巣は大きくなっていく。夜はそこで夫婦仲好く眠りに付いている。

巣の真下の地面には彼らの落し物。彼女は毎日きちんと掃除した。
頭上注意の張り紙もした。


ある日、穏やかな笑顔の女性客がジュースを買った後、パク・ハに一枚の段ボールを差し出した。

「これをね、ツバメの巣のすぐ下に付けてやるといいわよ。飲食店だし、嫌がるお客さんもいるでしょ?
頭に落とされたんじゃたまらないし、ね。雛が孵る前に付けると良いわ。」

「ありがとうございます。」

パク・ハは遠慮なく受け取った。

「私も、ツバメが大好きなの。」

女性客はにこにこしながら帰って行った。



翌日、テヨンに頼んで、そのダンボールを設置してもらうことにした。

彼は脚立に上ってツバメの巣に近付いた。
ツバメの留守を狙って作業をしていたが、どこからともなく巣の持ち主が現れる。


ツピーッ ツピーッ ツピーッ ツピーッ


威嚇音を発しながら飛び廻る。テヨンを追い払おうと必死だ。

「ごめん、ごめん。もう、終わったよ。」

テヨンは急いで脚立を降りた。

威嚇音に反応した他のツバメも集まって来て、テヨンの頭上ではたくさんのツバメ達が飛び交っていた。

「ひどいな。間借りしてるのはあいつらの方なのに。」

テヨンはパク・ハに笑いかけた。

「あのダンボールくれた人、ほんとに、ツバメが好きなんだね。」

下から見上げると、人から見える位置にツバメのイラストが描かれており『見守ってください』とも添えられている。

「そうね。」

パク・ハは幸せそうに微笑んだ。


その女性客は、それから毎日パク・ハの店を訪れるようになった。
ツバメの様子を眺め、ジュースを買って、パク・ハと談笑して行く。

「毎日、ありがとうございます。・・・でも、ジュースをお買いにならなくても、ツバメに会いにくるだけでもいらっしゃって下さい。」

「あら、商売人とは思えない発言ね。」

「いいえ。三回に一回は買ってくださればと思ってます。」

「まあ!」

女性二人で、うふふふと笑い合った。

「ここにツバメが来るのは初めてよね?」

「はい。だから、嬉しくて。」

パク・ハはにっこりと微笑んだ。

「うふふ。あなた、いい表情(かお)になったもの。前は寂しそうだったわ。でも、今は幸せでしょ?」

パク・ハは一瞬目を見開いたが、すぐに、はいっ、と微笑んだ。

「だから、ツバメが来たのよ。」

「え?」

「ツバメが幸せを運んでくると思っている人が多いけど、そうじゃないのよ。」

パク・ハの不思議顔に、女性客は穏やかに微笑んだ。


ツバメはね、幸せで安心できる所だから、そこに巣をかけるのよ。


「良かったわね。・・・また、来るわ。」

女性客は店を出て行った。


カラン


女性客と入れ替わるようにテヨンが入って来た。

パク・ハはカウンターを飛び出し、テヨンに抱きついた。
テヨンは驚いたが、すぐに微笑んで、パク・ハをしっかりと抱きとめる。

「何?どうしたの?・・・見られちゃうよ、いいの?」

テヨンを見上げるパク・ハの瞳が揺れていた。

「泣いてるの?何かあった?」

「ううん。」

パク・ハは首を左右に振った。

「幸せなの。・・・テヨンさん、愛してるわ。」

テヨンはにっこりと微笑んで、パク・ハにキスをした。


ジュイ ジュイ ピチュクチュピチュクチュピチュクチュ ジュイッ! 
ピチュクチュピチュクチュピチュクチュ ピルルルルーッ


外ではツバメがさえずっている。

幸せで、安心できるその場所で

彼らもまた、愛の言葉をささやいているのだ。 



____________

多くの方が、私共夫婦に暖かく優しい言葉を下さいました。
本当に、感謝しています。

ここの読者様の一人でもある友人が、私の「ツバメが来た!」の一言に対して、とても優しい言葉をくれました。
その嬉しさをどう表現すべきか・・・
自分のために書いたようなこのお話、私の喜びと感謝が、友人のみならず、私を応援してくださる読者の皆様に伝わることを願いつつ、UPしてみます。

ちなみにツバメのさえずりはこちら↓

動画お借りしてます。

ツバメのさえずりを文字に起こすのは、無理がありますね。(苦笑)
でも、昔の人って「土喰って、虫喰って、渋ーい」って表現してましたよね。
聞こえなくもない?かな・・・?
 【 お礼画像と、時々SS 掲載してます 
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Re: NoTitle か****様へ

か****様

こんにちは。
傘を使ったウン除け、私も見たことあります。アイデアですよね。
ウチはお菓子の箱なんかをタコ糸で吊るします。

テヨンは、パク・ハは僕のもの!を誇示したいはず。
でないと、他の男に言い寄られちゃいますからねぇ。ww

旦那も、若い頃、手術した後もタバコやめられなかったそうですよ。
私と結婚するころには止めてましたけどね。
おかげで、徐々に回復してきている模様です。
油断は禁物ですから、ゆっくり養生させたいと思います。
お気遣い、ありがとうございます。

癒されました(*^^*)

ありちゃんさん、お久しぶりです。
お休みのお知らせがあったので、どうしたんだろう?と思いながら月が変わる頃に覗こうと思い、久しぶりに訪問してみたら…
大変な状況なのに度々更新してくださっていてありがとうございます。そしてやっぱりほっこりと幸せになれるお話が♡本当にありがとうございますっ!明日からはユチョンの新ドラマが始まりますね〜屋根部屋と同じ脚本家さんだとか。また妄想もくもくしちゃうような素敵なドラマだといいですね(^^)
旦那様も大変ですが、周りの事をする方がもっと大変だと思います。ありちゃんさんまで体調崩さないように、こちらの更新もですが日々もゆっくりとしてくださいね。

Re: 癒されました(*^^*) ちょぶ様へ

ちょぶ様

こんばんは。返信コメが遅れて申し訳ありません。

自分のストレス解消の為に書いたお話ですが、ほっこりと幸せになれたと言って頂けると
やはり嬉しいです。(^.^)
新しいドラマも楽しみですよね。
日本に来て、更にレンタルになるまでにどのくらいかかるんでしょう?
うずうずします。w

私へのお気遣いもありがとうございます。
気の向くまま行動してますので、大丈夫です。<m(__)m>

やっと来れました。
時々覗いてるので、アップされたのはわかっていたのですが、ゆったりこのお話の世界に浸って読みたいので、我慢我慢と…。

幸せな二人の日常大好きです。
平凡な毎日がどれ程幸せか感じられます。

テヨンとパクハが幸せならば嬉しいと感じつつ、イ・ガクのことを思ったり、ムガクのことを考えたり…
昨日フライグで借りたスリーディズの後半も楽しみですが、やはり私は屋根部屋が好きみたいです♪

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Re: タイトルなし ふにゃん様へ

ふにゃん様

ゆったり浸ってとは、なんともありがたいお言葉。

3daysは、私の近所のレンタルビデオ屋さんも、昨日からレンタル開始と告知されていました。
昨日は行くことができず、今日行ってみたら、全巻出払ってました。(涙)
また出遅れました。(汗)

私も妄想が進むのは、屋根部屋が一番のようです。
どのドラマも好きは好きなんですけどね。
というわけで、これからもテヨンとパク・ハの幸せな日常を書いていけたらなぁと思います。
(時々、イ・ガクも・・・。)

Re: タイトルなし み**様へ

み**様

こんばんは。
ありがとうございます。
主人のこともご心配いただきありがとうございます。

実は、ユチョンの新ドラマ、昨夜リアルタイムで見たのですが・・・
ネット環境が悪いのか、途切れるは、画面が映らなかったりするは、
「ユチョンを見せてくれー!」と叫んでいました。
どのみち、言葉も分かりませんので、やはり最終的にはレンタル頼みですが、
仰る通り、ユチョン、素敵でしたね。♡
(半分くらい見逃してると思います。きちんと映ってくれなくて。涙)

仕事の都合上、本来は10時にネットでテレビを視聴というのはできないのですが
夫の入院を逆手にとって10時にPC前にスタンバイしている私なのです。(なんちゅう嫁でしょう!)
今日は病院の夫にユチョンのドラマについて語って来ました。w
さきほど、タオルでヤンモリにした自撮り写真を、夫に送信しておきました。ww

主人には、早く元気になってほしいけど、退院してきたらネットテレビは見れない・・・。
あと何回ムガクに会えるかしら・・・。というわけで、今夜も、途切れても、画面真っ暗でも、
トライするつもりです!
み**さんも、今夜もトライされますよね?共に頑張りましょう!(何をだ?w)



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