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「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-

生まれ変わっても 46

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恵民署のほど近く、小さな集落のとある家で、臣下三人は右に左に忙しく動き廻っていた。
テヨンは恵民署には近付くなと言うが、様々な物資の手配を求めてくるから、当然、拠点が必要になる。

食料、清潔な布、病人のための着替え、消毒用だという酒、最低限必要だと言われた物をかき集めてきたが、三人が個々に動いて手配できるものなど高が知れている。
テヨンもそのことはよく解っていた。

「急いで王宮に向かおう。」

テヨンの言葉を受けて、臣下三人は安堵の表情を浮かべた。
王世子が帰還するという連絡は既に王宮に届いていたし、いくら大丈夫だと言われても、疫病患者の溢れる恵民署で、その病人の世話を王世子自身がしているなど、臣下達には神経が磨り減る思いだった。

三人は即刻湯あみの準備を整え、着替えも準備した。

王世子として王宮に臨む。のみならず、ウィルスを落とす必要もあって、テヨンは全身を洗い流す。

石鹸、一つあるだけで違うはずだけど・・・。

この時代、石鹸はまだない。
二十一世紀なら当たり前のことが、この時代ではままならない。
王世子と言えども、簡単に命を落としかねないのだ。

「チョハ。お湯加減は如何でございますか?」

外からヨンスルに声を掛けられて、湯に浸かっていたテヨンは、丁度いいよ、と答えた。

このように粗末なところで申し訳ありませぬ、と臣下達は頭を下げたが、こじんまりとしていても土壁に囲まれたこの家は、これからの活動拠点とするには十分だ。
きちんと風呂場だってあるから、とりあえずの防疫もできるだろう。

「頼んでおいた件は、調べがついた?」

「はい。後ほど報告するつもりでしたが、おおよそチョハの推測通りかと。」

「そうか。」

テヨンはざばりと湯から上がった。


光沢のある濃紺の袞龍袍(コルリョンボ)をさらりとその身に纏う。
翼善冠(イクソングァン)を被り姿勢を正す。

テヨンは目を瞑り、しばしその場に佇んだ。
やがて静かに目を開けると、そこに控える臣下三人を見やった。

「還るぞ。」

「「「はっ。」」」

臣下達は、王世子、イ・ガクの姿をそこに見ていた。



馬を駆って一息に王宮へ。



昌徳宮(チャンドックン)の正門たる敦化門(トンファムン)を潜り、テヨンは王宮へ足を踏み入れた。

王世子イ・ガクとして。

テヨンの知る昌徳宮は、多くの人で賑わう観光スポット。
建物の造作も、敷かれた石畳の感触も、同じようであっても全然違う。

ここで出会うだろう人々は、例え下人、下女であったとしても彼のことを見知っている。
彼には誰一人として見知った者がいないのに、だ。

目覚めたテヨンが、会社に通い始めたそのときのように。

思えば、あの頃は訳も分からずイ・ガクの振りをし続けた。(正しくは、自分の振りをしているイ・ガクの振りを、だが。)
今は自分の意志でイ・ガクに成り代わろうとしている。

大袈裟でなく、今や国の行く末がテヨンの両肩にかかっていた。そのことも全部引き受けてここに立った。
後ろには、彼を支えようとしてくれる優秀で忠実な臣下が三人もいる。


王世子として生きる。

イ・ガクの生き方がそこに在る。
それは、自分には真似できそうにないとテヨンは思ってきたが、存外、動機は単純なことなのかも知れない。

国の行く末の、更にその先に愛する女人がいる。

今日を乗り越えなければ明日はない。
明日がなければ三百年の後の世などあり得ようはずもない。

イ・ガクはそうして今まで三年を過ごしてきて、これからもそうやって生きていくのだろう。

テヨンもまた、そのように瞬間、瞬間を越えていくしかない。
できるとかできないとかではなく、今はただやれることをやっていくだけ。

でも、できませんでした、などと言えようはずもないところが、つらいところだ。
テヨンは微かに苦笑した。

宮女や内官とすれ違えば、誰もが頭を垂れて立ち止まり王世子に道を譲ってくれる。テヨンの表情を見つめる者など誰もいなかった。


前方から身分の高そうな官吏が歩いてくる。

「チョハ。吏曹判書(イジョパンソ)でございます。恵民署堤調(ヘミンソチェジョ)も兼任している者です。」

チサンが耳打ちしてくれた。

あれが、カン・ヨンチョルか。


ヨンチョルはテヨンの姿を認めた。
濃紺の袞龍袍、頭上には翼善冠。遠目からでも王世子だと分かる。
よもやこの王宮内で王世子を騙ろうなどという大胆不敵な者はおるまい。

真に、世子か?

ヨンチョルは、一瞬、足を止めたが、真っ直ぐに王世子に向かって歩みを進めた。


テヨンの目前で、ヨンチョルは立ち止まり頭を垂れた。
通り過ぎようとする王世子を盗み見ようとしたその時、王世子がその歩みを止めた。

「恵民署堤調。カン・ヨンチョル。」

「は、はい。チョハ。」

「よくやった。」

「は?」

ヨンチョルは思わず顔を上げ、王世子を凝視した。すぐさま頭を下げ、申し訳ありませぬ、ともごもごと言う。

「構わぬ。面を上げよ。」

「恐れ入ります。チョハ。」

ヨンチョルはテヨンの顔をまじまじと見て、チョハに相違ない、と思っていた。

「よく、疫病を封じ込めた。」

「・・・。チョハ。」

「恵民署に民が入らぬように守っていたのは、そなたの邸の私兵だったと聞き及んだが?」

「・・・チョハ。」

返事に窮するヨンチョルに向かって、テヨンは畳み掛けるように続ける。

「疫病を封じ込めたまでは良い。しかし、薬剤も食料も不足したままでは、病を得た者に死ねと言っているようなものだ。堤調が二人とも不在なのも頂けぬ。そなた、即刻、恵民署へ赴くべきではないのか?」

ヨンチョルは顔面蒼白となって、何も言えずにいる。

私に、疫病患者の溢れる恵民署へ行けと・・・?

「もう一人のソ堤調か、或いは、そなたが行かねば、恵民署はその役目を果たせぬ。王様の民を想われる御心を地に落とす気か?」

「め、滅相もございませぬ、チョハ!私は吏曹判書の務めに忙しく・・・ソ堤調が恵民署のことは任せろと申した故・・・ソ堤調が恵民署に居るはず・・・。」

「それは、おかしな話だ。ソ堤調は、恵民署にはおらなんだ。」

テヨンは大袈裟に首を傾げて見せた。

「ソ堤調がその責務を放棄したのなら、その罪を問わねばならぬ。・・・となれば、そなたに恵民署の一切を仕切ってもらわねばならぬな。この際、吏曹判書の職務は後回しでよい。私から王様にそのようにお伝えするから、心置きなく、民のために働いてくれ。王もお喜びになられるだろう。」

ヨンチョルの顔は、青くなったり、赤くなったり、額には玉のような汗が浮いていた。

「チョハ!・・・ソ堤調は、己の責務を放棄するような愚かなことは致しませぬ!」

「そうか?では、今、彼奴(きゃつ)はどこに居ると言うのだ?」

「そ、それは・・・何か事情があるのでございましょう。」

テヨンの後ろで三人の臣下は顔を見合わせていた。

チョハは、なかなかどうして、おやりになるではないか。

ヨンチョルは、一刻も早く王世子に立ち去って欲しいと思っているが、テヨンにその素振りは見えない。

「恐れながら、チョハ、私は火急の要件にて、これにて。」

「そうか。足止めをしてすまなかった。私も、王様へご挨拶に伺うところだったのだ。」

テヨンが歩き出すのを待たずに、ヨンチョルは大急ぎでその場を立ち去ろうとした。

「吏曹判書。恵民署の件、しかと任せたぞ。」

テヨンはヨンチョルの後ろ姿にそう声を掛けた。
ヨンチョルがあわてて振り向いた時には、歩き出した世子の後ろ姿を見送る格好になっていた。
彼は舌打ちして、再び王世子に背を向けた。

テヨンは歩きながら、ヨンスルに目配せをする。
ヨンスルは頷き、その場を離れると、カン・ヨンチョルの後を追ったのだった。

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Re: か****様へ

か****様

こんばんは。
いつも、お気遣い、感謝感謝。m(__)m

入浴シーンは、謂わばサービスショット。反応してくださって嬉しい!(^.^)
(映像でないのが残念ですが、妄想力でカーバーしてください!)
王宮で、テヨンは益々気が抜けなくなりますが、王世子ごっこ頑張ってますね。w
これからも、テヨンに声援ヨロシクなのです。m(__)m

Re: F****様へ

F****様

イ・ガクにしか見えない、とは嬉しいです。
王宮で出会う誰にも疑われては困るので、イ・ガクとして書けているのならホッとします。
テヨンはイ・ガクの振りをしつつ、失ったイ・ガクとしての記憶を、取り戻すと言うより上書きしているという感じでしょうかね。

人物相関図、確かに!
考えてみれば、私は自分の手元にはそれに近いメモを携えて書き綴っておりまして・・・
ともすると登場人物の名前を忘れるというダメダメな書き手であります。(>_<)

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