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「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-

生まれ変わっても 47

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王の居室である熙政堂(ヒジョンダン)。

「チョナ。世子チョハが起こしでございます。」

内官の言葉に王は頷いた。

「通せ。」

王世子が姿を現し、王に礼を捧げる。
彼が再び立ち上がるのを待ちきれずに、王は声を掛けた。

「世子、待ちかねたぞ。座るがよい。」

「チョナ。ただ今、帰還致しました。」

テヨンは、静かにそこへ座す。
世子の着座を確認して、王は傍らに控える内官に目配せをした。内官はすっと扉の外へと出て行く。
人払いをしたにも関わらず、王は小声で目の前の息子に話しかけた。

「世子、驚いたぞ。」

「チョナ。ご心配をお掛け致しまして、申し訳ございませんでした。」

「無事で何よりであった。・・・して、その身に何が起こったと申すのだ?」

「父上、実は・・・」


テヨンは、イ・ガクの身に起こったことを王に説明した。もちろん、すぐに回復し、今、王の目の前に居る彼こそがイ・ガクであるとして話して聞かせる。

王は、王世子が一時でも恐ろしい疫病に倒れたと聞いて、驚きを隠さなかった。

麻疹に対する知識を、王が持ち合わせていなくて幸いだった、とテヨンは思う。
麻疹が、二日や三日で回復するはずはないのだから・・・。
テヨンの表情はいたって落ち着いてはいるが、袞龍袍のその中で、背中には汗が伝っていた。
他の誰に疑われても、王にだけは、自分が王世子イ・ガクであると信じてもらわなければならない。

テヨンの緊張をよそに、王は、目の前の彼を、我が息子であると信じて疑ってはいなかった。


「麻疹が流行ると申すか?」

「はい。恵民署は何者かが閉鎖をし、それは、褒められたことではございませんが、結果として民に疫病が蔓延するを防ぐことにはなりました。しかし、然るべき報告が成されず、発生源の特定が遅れております。このままでは国の大事となりましょう。」

「うむ。」

王は眉間にしわを寄せて、顎髭を撫でつけた。

「父上。此度の件、総てを私に任せては頂けませんでしょうか?」

「なに?・・・世子、そなた、何をしようと言うのだ?」

王は驚き目を見開いた。

「疫病の発生源には見当がついております。まずはそこへ赴き、疫病を封じ込めます。」

「なんと!そなた、一度は病に倒れたと言うに、また倒れでもしたら、なんとする!」

「恐れながら、チョナ、麻疹は一度罹れば二度は罹らぬと聞き及びます。・・・麻疹で命を落とす者も少なくはございませぬ。ですが、私は、生きております。」

テヨンは真っ直ぐに王を見た。

「チョナ。私は、天より命を賜ったと心得ます。王すなわち天、なれば、何卒、国の為、民の為、疫病を鎮めるを、私にお命じ下さい。」

テヨンは王の前にひれ伏した。

「世子。・・・ガク、ガクや。・・・そこまで言うからには何か考えがあってのことであろう。
・・・相分かった。疫病退治の総てを、そなたに任せることとする。」

「ははぁ。恐れ入ります。チョナ。」

テヨンは更に頭を低くした。



チサンとマンボは、熙政堂の外で他の内官たちと同じようにじっとテヨンを待っている。

やがて、王の御前を辞して世子が外へ出てきた。
チサンとマンボの顔を見て、テヨンは微かに唇の端を上げた。
イ・ガクにそっくりなその表情は、守備は上々であったと物語っている。

テヨンは足早に東宮殿に向かった。

チサン、マンボ、内官たちが王世子の後を附いて歩く。
テヨンは、なんと煩わしいことかと思っていた。内官達を撒いてしまいたい衝動に駆られる。
流石にそれは拙いとは思うが、とにかく早く世子の私室に逃げ込んでしまいたかった。


東宮殿のイ・ガクの部屋に入ると、すぐに人払いをした。
チサンが外の様子を確かめ、扉をぴっちりと閉じる。

テヨンはそこに胡坐をかいて座り、翼善冠を脱いだ。

「チョハ。なりませぬ。」

チサンが小声で諌める。

「ごめん。ちょっと楽にさせてくれないか。流石に、王様との謁見は、緊張した。」

テヨンはほーっと溜息を吐いた。

「チョハ。・・・それで、如何でございましたか?」

マンボが小声でテヨンに尋ねる。

「うん。全部、僕に任せてくれるって。明日の早朝には重臣達を集めてもらうようにしてもらったから、朝議の後、すぐ出発できるようにしておきたいな。今日中に内医院にも行って、いろいろ手配もしなくちゃ。」

テヨンは翼善冠を人差し指に引っ掛けて、器用にくるくると廻した。

「さてと、遊んでる場合じゃないな。」

翼善冠を被り直すと、テヨンは立ち上がった。
内医院に行こう、と彼が言い、チサンら二人が、はい、と頷いた時、外で待つ内官に声を掛けられた。

「チョハ。」

「何だ?」

「世子嬪媽媽が起こしでございます。」

テヨンは驚いて、チサンとマンボを見た。

〔世子嬪?・・・が、いるのか?〕

テヨンに、より一層小さな声で尋ねられ、二人は無言でこくこくと頷いた。

〔聞いてないよ!〕

史実として、イ・ガクは再び世子嬪を迎えている。
それは、彼が王世子として生きた証に他ならない。

テヨンはそのことをすっかり失念していた。
王宮で遭遇するのは、内官、宮女、並み居る重臣、父王だけではなかったのだ。

〔チョハ。お座りください。我らは退出致します。〕

〔いや、待て!〕

小声でぼそぼそと言い合っていたが、外の内官が更に声高く呼びかけてくる。

「チョハ?世子嬪媽媽でございます。」

〔帰ってもらってもいいかな?〕

テヨンは、眉根を寄せている。
二人はぶんぶんと首を横に振った。

〔〔それは、なりません!〕〕

〔だったら、二人とも、ここに居ろ!〕

〔まさか、でございましょう?〕
〔チョナとも渡り合ったではございませぬか。相手は女人でございます。何を躊躇っておいでですか?〕

〔女性だから問題なんじゃないか!〕

「チョハぁ?」

訝しむような内官の声がする。
途端にマンボがテヨンの手を掴んだ。失礼いたします、と力尽くでテヨンを座らせようとする。

〔うわ!マンボ!〕

不意を突かれて、テヨンは尻もちをつくように座り込んだ。

「チョハは、お召し替え中でございます。しばしのお待ちを!」

チサンが外に向かって叫んだ。

〔チサナ!! 〕


二人は、部屋を飛び出し、世子嬪に深々と頭を下げる。

「媽媽、お待たせ致しまして申し訳ございませんでした。どうぞ、お入りくださいませ。」

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世子嬪は、どんな娘なのかな?
嫌な娘でも嫌だし、良い娘ならいいんだけど、どこか寂しく…(T_T)
いやいやチョハが少しでも癒されるなら…(^_^;)


テヨンやり手ですね。さすが生まれ変わり♪

Re: t*******様へ

t*******様

GW、長かったですね。
連休中の方が、色々、忙しいですよね。分かります。
私も、お話を書くのは難しかったですもん。(苦笑)

成り切りテヨン。ほんとに、成り切ってますよね。
でも世子嬪には たじたじ みたいです。w
書いてる私も楽しいです。♪




Re: か****様へ

か****様

GW、お疲れ様でした。娘ちゃんも大変でしたね。でも、お母さんも大変だぁ。(>_<)
お陰様で、主人も順調に回復中、私も元気です。w

息子が分からない王もどうなんだ?って感じですね。ww
王世子ごっこをしてたら、世子嬪が!
ままごとでもしますか?w

世子嬪登場でお話をぶった切ってすみません。いけずでした?ごめんなさい。m(__)m

Re: ふにゃん様へ

ふにゃん様

> いやいやチョハが少しでも癒されるなら…(^_^;)
ふにゃんさんの愛を感じる一言ですね。♡
世子嬪の正体を明かす前で終わらせてごめんなさぁい。

> テヨンやり手ですね。さすが生まれ変わり♪
ええ、ええ。テヨンはやはり恰好よくなくては!です。

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Re: F****様へ

F****様

テヨン、オロオロしてますねぇ。w
全く仰る通りで、イ・ガクがどんな接し方をしていたか、の予備知識がないと言うのが
きっついところと思われます。ww
どうする気なんでしょうねぇ。

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