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「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-

生まれ変わっても 50

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寝所で世子嬪に何もしなかった、となれば、王世子イ・ガクに非ず、と正体を暴かれるかもしれない。
王の前に引きずり出され、王を謀(たばか)った罪咎で死罪ということも・・・。

王世子の務めも果たし得ず、朝鮮で成すべきことも成し得ず、パク・ハに再び会うことが叶わないかも知れない。


しかし、例えこの地で、この命を奪われることになっても、パク・ハを裏切ることはできない!


パッカ・・・ごめん。

君を独り置いて、消えたりしないと約束したのに・・・。
もう、君に会えなくなるかも知れない・・・。

パッカ、ここで死んだとしても・・・愛してる。


テヨンは悲壮な決意でもって、世子嬪の身体を自分から引き離そうと、彼女の肩に手を掛けようとした。

その時。
世子嬪の唇がテヨンの頬を掠め、彼の耳元に寄せられた。
彼女は何事か囁くと、すっと後ろに身を引いたのだった。

「お初にお目にかかります。ヨン・テヨン様。」

えっ?

テヨンは言葉もなく、再び凍りついたように動きを止めた。
鳩が豆鉄砲を喰らったような表情(かお)をして、ぽかんと世子嬪を見つめ続ける。
世子嬪の方は無言で微笑んだままだ。

テヨンはハッと我に返った。

聞き間違い?

彼が何か言おうとするのを、世子嬪は自身の唇の前に人差し指を立てて、しっ、と制した。
また、テヨンの耳元に口を寄せる。

「テヨン様、控えの間にはお付の者がおります。」

聞き間違えてなどいなかった。

彼女の言う通り、薄い壁一枚隔てた狭い部屋に、チサンがいる。
反対側の控えの間には、世子嬪付きの尚宮がいるに違いない。
話し声も、物音も、総ては筒抜けなのだ。

テヨンは、ただ、こくこくと頷くことしかできなかった。

世子嬪はにこりと笑うと、後ずさりを始め、布団の端っこに座り直した。枕を取ると、テヨンと自分を隔てるようにして布団の中央に置く。
そして、一度テヨンの顔を見て、深々と頭を下げた。

自分のことは気にせず休んでくれ、と言いたいらしい。

テヨンも、できるだけ布団の端に身体を寄せた。
世子嬪は平伏したまま、顔を上げようとしない。テヨンが横になるまでそのままで居るつもりのようだ。

テヨンは、仕方なく布団の中で横になって、世子嬪に背を向けた。
ややあって、布団が捲られる気配がした。彼女も横になったらしい。

なんで、僕を知ってる?
いつからイ・ガクでないと分かってた?

訊きたいことは山ほどあるが、今は仕方がない。
彼女は何を考えているのか。
少なくとも、真の世子ではないと騒ぎたてて、テヨンを窮地に陥れるつもりではない、ことだけは確かなようだ。

こんな状況で眠れるわけがない。

しかし、自身の思考とは裏腹に、彼は眠りに落ちていった。



朝、テヨンはハッとして、ぱちりと目を開けた。

寝てた?・・・嬪宮は?

がばりと身をお越し、隣を見れば世子嬪の姿はない。
寝所のどこにも、彼女はいなかった。

寝所を抜け出し、続きの間の世子の部屋へ入ってみても誰もいない。

「チサン?チサンは居るか?」

扉が開いてチサンが現れる。

「チョハ。お呼びでございますか?」

「嬪宮は?」

「は?嬪宮媽媽は、お部屋でお休みなのでは?」

「知らないのか?昨夜、寝所に居たのを・・・。」

きょとんとしていたチサンは、テヨンの言葉に、真にございますか?と大袈裟なほど驚いていた。

世子付きの内官の控えの間と、世子嬪付きの尚宮の控えの間は、寝所を挟んで右と左に位置している。
壁一枚で隔てられた寝所内の総ての物音は、どちらの部屋にも筒抜けだ。
しかし、控えの間からは、一旦外に出て、世子の居室を通らなければ寝所の中には立ち入れないし、内官と尚宮が顔を合わすこともない。
寝所の中で、音もなく佇んでいられたら、そこに存在しているのかどうかすら分からないのだ。

「・・・チョハ。恐れながら・・・嬪宮媽媽と・・・?」

チサンは冷や汗を垂らしている。
テヨンは何も答えない。
突然、チサンがものすごい勢いでその場にひれ伏した。

「チョハ。いえ。ヨン・テヨン様、申し訳ございません。・・・パッカヌイに、パッカヌイに・・・合わせる顔がございません。」

チサンは泣き出してしまった。

「チサナ。・・・あんまり見くびらないでくれ。パッカに後ろめたいことは、何もしてない!」

「本当に?」

チサンは斜めに顔を上げ、怪しいと言わんばかりに、テヨンを涙目のまま睨め付け(ねめつけ)た。

「何だ?その目は!だいたい、君、嬪宮が居たことも気付かなかったんだよね?・・・音もなく、声もあげさせずに、できるわけがないだろ!・・・まあ、男として?反応してしまったことを否定する気はないけど?」

テヨンはバカ正直に言って、顔を逸らした。

「それぐらいは、パッカヌイには内緒にしておきますから、ご安心ください。」

気軽にパク・ハに会えると言わんばかりの物言いをして、チサンはにやにやとテヨンを見る。
うるさい!とテヨンは言い捨てた。

「そんなことより、嬪宮は僕のことを知っていた。・・・僕のこと、話した?」

チサンは驚いて立ち上がった。

「まさか!」

三百年もの時を越えて体験したことの総ては、世子チョハと我ら三人の胸の内にだけ納められております。
我ら、臣下三人の間で、或いは世子チョハも含めた四人の間でしか、語り合うことのない内容でございます。
我ら臣下のうちの誰かが、世子嬪媽媽にお話しすることなど、あり得ませぬ。


テヨンは、目を閉じてしばらく考えていたが、ゆっくりと目を開ける。

「朝議までにしばらく時間があるよね。今から、嬪宮に会いに行くよ。」

真の王世子ではないと知りながら、そのことを黙っていると言うのなら、その真意を確かめる必要があるだろう。
___________________

東宮殿、世子の居室、寝所、控えの間の間取りですが、お話に都合のいいように創作しております。
実際の東宮殿がどんな造りなのか、私、全く存じ上げておりませんので、ご了承くださいませ。

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~ Comment ~

わぁ~い♪

怒涛の連続アップ♪
ありがとうございますm(__)mm(__)mm(__)m
嬉しいです(*^^*)


世子嬪が知ってるということは、…「しょ~ゆ~こと」ですか?
私の推理からいくと、やっぱりイ・ガクは、しょ~ゆ~ことなんでしょうか♪

ワケわからないコメントで再びすみません(^_^;)

けど、テヨン可愛いですね。
素直すぎで…(^_^;)
世子嬪、どこに消えたの?
気になります~(>_<)

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Re: わぁ~い♪ ふにゃん様へ

ふにゃん様

> 怒涛の連続アップ♪
はははは(乾いた笑いで)テヨンが誤解されてる!と思うと気が気ではなく・・・(汗)
いや、私が誤解させたんではありますが・・・(苦笑)

> 世子嬪が知ってるということは、…「しょ~ゆ~こと」ですか?
> 私の推理からいくと、やっぱりイ・ガクは、しょ~ゆ~ことなんでしょうか♪
うふふ♪ご想像にお任せですぅ。♪

> ワケわからないコメントで再びすみません(^_^;)
いえ、いえ、他の読者様へのご配慮と推察します。ありがとうございます。

Re: t*******様へ

t*******様

ああ、もう、安堵して頂けて、良かった、良かった。
激辛なスパイス、そりゃ、もう、汗、だらだらでしたでしょう?
ごめんなさーい。m(__)m

Re: F****様へ

F****様

久々の連続更新で息切れ中であります。(苦笑)
テヨンの誤解を解かなくては!と自分で撒いた種の回収に大慌てで・・・。WW

なるほど。彼女も未来から来たのか?でもテヨンは彼女を知らなかったし・・・
偽世子と、偽世子嬪で、いいかも?( ..)φメモメモ

> パクハの元に帰るため、奮起しなくては~!
はい。テヨンのお尻を叩いてやってください!(と言うことは、私のお尻が叩かれるのか・・・)

Re: か****様へ

か****様

> こんなに立て続けに更新なされて、読む私としてはすごーくうれしいんですが、旦那さんの看病は大丈夫なんですか!?
ご心配、ありがとうございます。
もう、看病らしい看病は要らないのです。皆様のお蔭!m(__)m
わがまま放題なのを、適当に捌きつつ、妄想にふけってるわけですね。
でも、そろそろキリン化プロジェクトチームが動き出しそう。W

テヨンへの誤解も解けて、か****さんの怒りも治まってようございました。w
むしろ、惚れ直していただけたようで、嬉しいです。♪

> ありちゃんさん、いいところで話、ぶった切るわ~(>_<)
> 気になりすぎて、モンモンとします(笑)
ごめんなさーい。(楽しんでます。♪ イケズとまた言われそう。苦笑)
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