「長編(完結)」
記憶
記憶 1
陽も傾きかけた芙蓉池(プヨンジ)。
昼間の暑さが嘘みたいに、水面(みなも)を吹き渡る風は涼やかだった。
薄紅色の可憐な花が風にくすぐられ、その芳香を辺りに漂わせている。
蓮に、抱きしめられているようだ。
イ・ガクは、腹心の臣下である三人さえも遠ざけて、独りそこに佇んでいた。
三人は遠巻きに、愁いに満ちたイ・ガクの背中を見つめている。
陽も沈み、どんどん遠目が効かなくなる。
黄昏時のほの暗さは、そこにある総ての物の輪郭を曖昧にし始めていた。
薄暗がりに、何者かが潜むやも知れぬ。
しかし、そんな世子に対する危険以上に、イ・ガク自身の存在が曖昧になって消え去ってしまうのではないか、と臣下達は不安になった。三人は、静かに主君に近付き頭を垂れる。
イ・ガクは、三人の気配に気付き振り向いた。
「何だ?」
「チョハ。暗くなってまいりました。」
「そうだな。」
イ・ガクはまた池の方に向き直り、水面に視線を落とした。
もう少し、蓮に、抱かれていたいのだ。
チサンは手に持っていた行燈に火を灯した。
三人は、イ・ガクが動こうとするまでそこで待つ。
蓮の花が咲くころ、その芳香と共にイ・ガクは愁いに包まれる。
季節が巡れば花は咲く。だが、何度その季節が巡っても、自分には手に入れられない花がある。
美しい、蓮の花の名を持つ、愛しき者。
せめて、その芳香でこの身を包まれたい。
もう陽も完全に落ちてしまったというのに、芙蓉池の水面に一匹の蝶が舞った。
名残惜しそうに芙蓉池を離れようとしたイ・ガクの目の端で、小さな人影が動いた。
「誰だ!」
池の畔で、その影はびくっと肩を震わせた。
イ・ガクの叫び声に三人の臣下に緊張が走る。
ヨンスルがイ・ガクの前に飛び出し、チサン、マンボが両脇から世子を守る。
ヨンスルが刀を抜いた。
「何者だ!」
ヨンスルを始め、皆が目を凝らして人影を睨みつける。
「・・・子供?」
小さな子供が恐怖に目を見開いて、震えていた。
「ヨンスル。・・・よい。子供だ。刀を納めよ。」
ヨンスルは刀を鞘に戻したが、イ・ガクを庇うようにそこで構えていた。
「怯えておるではないか。下がれ、ヨンスル。」
「ですが・・・。」
「チョハ、危険です。」
「刺客やも知れませぬ。」
三人が口々に言うのを制して、イ・ガクは前に出た。
「そなた、どこから入り込んだ?ここがどこか分かっておるのか?」
子供は、ふるふると首を横に振った。
イ・ガクはチサンの手から行燈を奪うと、子供の顔が見えるようにかざした。
「知らないうちにここに居たの。そしたらお花のいい匂いがして・・・池に、いっぱいお花が咲いていたから、それを見ていただけです。」
変わったいでたちをした、女の子だった。
髪はまとめられておらず、肩ほどまでの長さしかない。
しかし、その服装を四人はなんとなく知っている。
「そなた・・・ソウルから、来たのか?」
大きく頷く女の子の双眸を見て、イ・ガクは、この者を知っている、と思った。
幼き日のプヨンと同じ瞳をした少女。
____________
こちらは、ハ*様のコメントから想を得たものです。
ハ*様、ありがとうございます。(少し、設定は違ってますが、ありちゃん風味でお楽しみ頂けると嬉しいです。
)
結局、新連載と言うことになってしまいました。
話数は、そんなに長くはならないと思いますが、更新頻度は・・・です。ごめんなさい。
昼間の暑さが嘘みたいに、水面(みなも)を吹き渡る風は涼やかだった。
薄紅色の可憐な花が風にくすぐられ、その芳香を辺りに漂わせている。
蓮に、抱きしめられているようだ。
イ・ガクは、腹心の臣下である三人さえも遠ざけて、独りそこに佇んでいた。
三人は遠巻きに、愁いに満ちたイ・ガクの背中を見つめている。
陽も沈み、どんどん遠目が効かなくなる。
黄昏時のほの暗さは、そこにある総ての物の輪郭を曖昧にし始めていた。
薄暗がりに、何者かが潜むやも知れぬ。
しかし、そんな世子に対する危険以上に、イ・ガク自身の存在が曖昧になって消え去ってしまうのではないか、と臣下達は不安になった。三人は、静かに主君に近付き頭を垂れる。
イ・ガクは、三人の気配に気付き振り向いた。
「何だ?」
「チョハ。暗くなってまいりました。」
「そうだな。」
イ・ガクはまた池の方に向き直り、水面に視線を落とした。
もう少し、蓮に、抱かれていたいのだ。
チサンは手に持っていた行燈に火を灯した。
三人は、イ・ガクが動こうとするまでそこで待つ。
蓮の花が咲くころ、その芳香と共にイ・ガクは愁いに包まれる。
季節が巡れば花は咲く。だが、何度その季節が巡っても、自分には手に入れられない花がある。
美しい、蓮の花の名を持つ、愛しき者。
せめて、その芳香でこの身を包まれたい。
もう陽も完全に落ちてしまったというのに、芙蓉池の水面に一匹の蝶が舞った。
名残惜しそうに芙蓉池を離れようとしたイ・ガクの目の端で、小さな人影が動いた。
「誰だ!」
池の畔で、その影はびくっと肩を震わせた。
イ・ガクの叫び声に三人の臣下に緊張が走る。
ヨンスルがイ・ガクの前に飛び出し、チサン、マンボが両脇から世子を守る。
ヨンスルが刀を抜いた。
「何者だ!」
ヨンスルを始め、皆が目を凝らして人影を睨みつける。
「・・・子供?」
小さな子供が恐怖に目を見開いて、震えていた。
「ヨンスル。・・・よい。子供だ。刀を納めよ。」
ヨンスルは刀を鞘に戻したが、イ・ガクを庇うようにそこで構えていた。
「怯えておるではないか。下がれ、ヨンスル。」
「ですが・・・。」
「チョハ、危険です。」
「刺客やも知れませぬ。」
三人が口々に言うのを制して、イ・ガクは前に出た。
「そなた、どこから入り込んだ?ここがどこか分かっておるのか?」
子供は、ふるふると首を横に振った。
イ・ガクはチサンの手から行燈を奪うと、子供の顔が見えるようにかざした。
「知らないうちにここに居たの。そしたらお花のいい匂いがして・・・池に、いっぱいお花が咲いていたから、それを見ていただけです。」
変わったいでたちをした、女の子だった。
髪はまとめられておらず、肩ほどまでの長さしかない。
しかし、その服装を四人はなんとなく知っている。
「そなた・・・ソウルから、来たのか?」
大きく頷く女の子の双眸を見て、イ・ガクは、この者を知っている、と思った。
幼き日のプヨンと同じ瞳をした少女。
____________
こちらは、ハ*様のコメントから想を得たものです。
ハ*様、ありがとうございます。(少し、設定は違ってますが、ありちゃん風味でお楽しみ頂けると嬉しいです。

結局、新連載と言うことになってしまいました。

話数は、そんなに長くはならないと思いますが、更新頻度は・・・です。ごめんなさい。

~ Comment ~
新連載スタートですね。
ありがとうございます。
切ないイ・ガクからの始まり、ソウルから来たプヨンと同じ瞳を持つ少女。
もうすっかり心を掴まれました。
イ・ガクに会わせて下さって、ありがとうございます。テヨンは幸せですから、どうしてもイ・ガクに心が行きます。
私も何かひらめくヒントになるようなコメントが書ければいいのですが…(^_^;)
すみません(T_T)
ありがとうございます。
切ないイ・ガクからの始まり、ソウルから来たプヨンと同じ瞳を持つ少女。
もうすっかり心を掴まれました。
イ・ガクに会わせて下さって、ありがとうございます。テヨンは幸せですから、どうしてもイ・ガクに心が行きます。
私も何かひらめくヒントになるようなコメントが書ければいいのですが…(^_^;)
すみません(T_T)
新作…!
先日はリンクの件、ありがとうございました!
お世話になりました(^^)
そしてなんと新作ですか!
しかもずっと会いたいと思ってたイガク!!
ありがとうございます~(^^)
これでまた更新の楽しみが出来ます!
子供登場とはなんとも意味深な。。
えっパッカなの?それとも……。
……続きが気になるばかりです(._.)
仕事と平行しての執筆は大変だと思いますで、無視せずありちゃんさんのペースで更新お待ちしてます(^^)
お世話になりました(^^)
そしてなんと新作ですか!
しかもずっと会いたいと思ってたイガク!!
ありがとうございます~(^^)
これでまた更新の楽しみが出来ます!
子供登場とはなんとも意味深な。。
えっパッカなの?それとも……。
……続きが気になるばかりです(._.)
仕事と平行しての執筆は大変だと思いますで、無視せずありちゃんさんのペースで更新お待ちしてます(^^)
- #626 kaya
- URL
- 2015.05/29 15:39
- ▲EntryTop
Re: F****様へ
F****様
記事ごとにありがとうございます。
はい、うだうだ悩んでいたお話です。
結局、見切り発車の連載に・・・。
お尻に火が点かないとやらないタイプなもので・・・(汗)
女の子は誰なのか・・・しばらく、妄想をお楽しみください。w
私も皆様の発想に驚かされること、しばしば。ああ、それ、書いてってよく思います。w
(それで、自分で書いちゃうと言う図々しさよ。^_^;)
イ・ガク、またまた切なく登場ですね。(汗)
癒しのお話にできるよう頑張ります。(^^ゞ
記事ごとにありがとうございます。
はい、うだうだ悩んでいたお話です。
結局、見切り発車の連載に・・・。
お尻に火が点かないとやらないタイプなもので・・・(汗)
女の子は誰なのか・・・しばらく、妄想をお楽しみください。w
私も皆様の発想に驚かされること、しばしば。ああ、それ、書いてってよく思います。w
(それで、自分で書いちゃうと言う図々しさよ。^_^;)
イ・ガク、またまた切なく登場ですね。(汗)
癒しのお話にできるよう頑張ります。(^^ゞ
Re: ふにゃん様へ
ふにゃん様
> 新連載スタートですね。
> ありがとうございます。
よもや、まさかの新連載!あ、お礼なんて言われちゃうと、申し訳ない。(汗)
> もうすっかり心を掴まれました。
おうぅ。(/_;) 嬉しいです。ありがとうございます。
> 私も何かひらめくヒントになるようなコメントが書ければいいのですが…(^_^;)
> すみません(T_T)
いえ、いえ、謝らないでください。いつも、励まされ、力を頂いてます。
それに「夢」のお話は、ふにゃんさんのコメが発端でしたよ。
これからもヨロシクお願いいたします。(ネタください。w って、何?その他力本願!)
> 新連載スタートですね。
> ありがとうございます。
よもや、まさかの新連載!あ、お礼なんて言われちゃうと、申し訳ない。(汗)
> もうすっかり心を掴まれました。
おうぅ。(/_;) 嬉しいです。ありがとうございます。
> 私も何かひらめくヒントになるようなコメントが書ければいいのですが…(^_^;)
> すみません(T_T)
いえ、いえ、謝らないでください。いつも、励まされ、力を頂いてます。
それに「夢」のお話は、ふにゃんさんのコメが発端でしたよ。
これからもヨロシクお願いいたします。(ネタください。w って、何?その他力本願!)
Re: 新作…! kaya様へ
kaya様
> 先日はリンクの件、ありがとうございました!
> お世話になりました(^^)
こちらこそ、ありがとうございました。(PC版は)表紙ページに持ってきたので、分かりやすくなったと思います。
> そしてなんと新作ですか!
はい。やばいです。(汗)テヨンも書きつつイ・ガクも!大丈夫か?私?
> 子供登場とはなんとも意味深な。。
> えっパッカなの?それとも……。
しばらく妄想をお楽しみください。w 何なら、続きを書いて頂いても・・・。(←こらーっ!)
> 仕事と平行しての執筆は大変だと思いますで、無視せずありちゃんさんのペースで更新お待ちしてます(^^)
ありがとうございます。(することあるときに限って、別のことをしたくなると言う、ね。汗)
> 先日はリンクの件、ありがとうございました!
> お世話になりました(^^)
こちらこそ、ありがとうございました。(PC版は)表紙ページに持ってきたので、分かりやすくなったと思います。
> そしてなんと新作ですか!
はい。やばいです。(汗)テヨンも書きつつイ・ガクも!大丈夫か?私?
> 子供登場とはなんとも意味深な。。
> えっパッカなの?それとも……。
しばらく妄想をお楽しみください。w 何なら、続きを書いて頂いても・・・。(←こらーっ!)
> 仕事と平行しての執筆は大変だと思いますで、無視せずありちゃんさんのペースで更新お待ちしてます(^^)
ありがとうございます。(することあるときに限って、別のことをしたくなると言う、ね。汗)
Re: t*******様へ
t*******様
引き込まれていただけたなら、嬉しい限り。♪
(しかし、引き込んでおいて、放置プレイになりそ。(T_T))
イ・ガクは切ない。ひたすら切ない。申し訳ないほど、切ない・・・。
おチビちゃんに癒されてくれるかな?
引き込まれていただけたなら、嬉しい限り。♪
(しかし、引き込んでおいて、放置プレイになりそ。(T_T))
イ・ガクは切ない。ひたすら切ない。申し訳ないほど、切ない・・・。
おチビちゃんに癒されてくれるかな?
Re: か****様へ
か****様
気を持たせる始まりで・・・その後、放置プレイ、みたいな・・・。(汗)
か****さんが骨抜きになってくれたのに、どれもこれもお話が止まってる・・・
申し訳ないです。<m(__)m>
仕事の山を一つ越えたので、また、ちまちま頑張りますねぇ。
気を持たせる始まりで・・・その後、放置プレイ、みたいな・・・。(汗)
か****さんが骨抜きになってくれたのに、どれもこれもお話が止まってる・・・
申し訳ないです。<m(__)m>
仕事の山を一つ越えたので、また、ちまちま頑張りますねぇ。
NoTitle
ありちゃんさん、おはようございます。
「記憶」読み始めました(*^_^*)
ありちゃんさんの、切なくも美しい文章に引き込まれます。
他の方も書かれていましたが、イ・ガクのこと気になります…。
年末の慌ただしさが近づいてきましたね。
ありちゃんさんもお忙しいと思いますが、体調崩さないようにお互い気をつけましょう。
「記憶」読み始めました(*^_^*)
ありちゃんさんの、切なくも美しい文章に引き込まれます。
他の方も書かれていましたが、イ・ガクのこと気になります…。
年末の慌ただしさが近づいてきましたね。
ありちゃんさんもお忙しいと思いますが、体調崩さないようにお互い気をつけましょう。
- #1126 瑞月
- URL
- 2015.11/27 08:06
- ▲EntryTop
Re: 瑞月さまへ
瑞月さま
おはようございます!
「記憶」もお読み頂けてるのですね。感謝!
(朝鮮時代のテヨンを放置で申し訳ないです。汗)
> ありちゃんさんの、切なくも美しい文章に引き込まれます。
いや、恐縮です。
これを書いて随分経ってから「蓮」の花について確認して・・・・(>_<)
これ以外にも、夜の芙蓉池に蓮が咲きまくってます。(苦笑)
あ、それはこの際どうでもいいですね。
イ・ガクの動向に注目していてください。
> 年末の慌ただしさが近づいてきましたね。
> ありちゃんさんもお忙しいと思いますが、体調崩さないようにお互い気をつけましょう。
はい。ありがとうございます。妄想で寒さも吹き飛ばしましょう!
おはようございます!
「記憶」もお読み頂けてるのですね。感謝!
(朝鮮時代のテヨンを放置で申し訳ないです。汗)
> ありちゃんさんの、切なくも美しい文章に引き込まれます。
いや、恐縮です。
これを書いて随分経ってから「蓮」の花について確認して・・・・(>_<)
これ以外にも、夜の芙蓉池に蓮が咲きまくってます。(苦笑)
あ、それはこの際どうでもいいですね。
イ・ガクの動向に注目していてください。
> 年末の慌ただしさが近づいてきましたね。
> ありちゃんさんもお忙しいと思いますが、体調崩さないようにお互い気をつけましょう。
はい。ありがとうございます。妄想で寒さも吹き飛ばしましょう!
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