「長編(完結)」
記憶
記憶 3
臣下達は呆然と主君と少女を見つめていたが、歩き出した二人の後をあわてて追った。
「チョハ。恐れながら、本当にパッカヌイなのでございますか?」
「どこへ、お連れになられるのです?」
「何故、パク・ハ殿が子供に?」
イ・ガクは立ち止まり、臣下達を振り向いた。
「幼き日のプヨンと同じ瞳をしておる。何より、本人がパッカだと言うのだ。・・・幼きパッカが、飛ばされてきたのであろう。何故かは、分からぬが・・・。どのみち、あんな所に幼子を置いておくわけにはゆかぬ。」
行くぞ、と言ってまたイ・ガクは前を向いた。
イ・ガクは小さなパク・ハの手を引いて東宮殿へと戻ってきた。
そこへ控えていた内官達は少女の姿に眉を顰めたが、王世子に一瞥されて、下げていた頭を更に低くした。
「今宵は、この三人に宿直(とのい)を命じる。それ以外の者はもう下がって休むがよい。」
古参の内官が、チョハ、なりませぬ、と抗議の声を上げた。
何故だ、と世子に睨まれて、老練の内官も一瞬ひるんだ。
「た、たった三人とは・・・危険にございます。」
「我が朝鮮で、一番、安全なのはどこだ?」
「・・・宮殿、でございます。」
「そうだ。そちもよく分かっておるではないか。」
それに、とイ・ガクは後ろに控えるヨンスルを振り返って、彼に向けて顎をしゃくった。
「そち達内官が、十人束になったとて、ウ翊賛一人に敵いはしまい?宮殿外でも、ウ翊賛がおれば安心して眠れるぞ。」
世子は高らかに笑う。
これには流石の老内官も引き下がるしかなかった。
が、しかし、世子の傍、怪しいいでたちの少女が気になる。
「チョハ。その者は?・・・見たところ、風変わりないでたちにございます。」
内官は言葉を選びつつ、己が少女を怪しんでいるのだ、ということを伝えた。
「蓮の花の化身、よ。」
イ・ガクは、ふっと息を吐いた。瞳は柔らかく微笑んでいるように見える。
「は?」
「芙蓉池の畔で迷っておった。おそらく、宮女見習いであろう。」
「ならば、私が尚宮に引き渡してまいりましょう。」
何処かに連れて行かれる!パク・ハは、繋がれているイ・ガクの手をぎゅっと握った。
恐れずともよい。イ・ガクはパク・ハの手を握り返した。
「よい。何故、芙蓉池におったのか、私が直接に詮議するため連れて参ったのだ。」
そちも下がって休むがよい、と老内官を退けた。
老内官は、物言いたげに溜息を吐いたが、これ以上何を言っても無駄と踏んだか、世子に挨拶をし他の内官と共に下がって行った。
誰もいなくなったのを確認し、イ・ガクは、小さなパク・ハと共に臣下三人を伴い、自らの居室へと入った。
イ・ガクは衣の裾を払い、くつろいだ様子でそこへ座する。
「パッカ、座れ。」
パク・ハはイ・ガクの目の前にちょこんと腰を下ろした。
彼は満足そうに頷くと、そこに立ったままの臣下に視線を移した。
「チサン、パッカの為に衣を準備して参れ。マンボ、水刺間(スラッカン)へ行って、何かパッカの食べられそうな物を見繕ってくるがよい。ヨンスルは二人が戻るまで外を見張っておれ。」
三人は、はっと返事をすると踵を返した。
程なくして、チサン、マンボが戻って来た。
イ・ガクは、ヨンスルも部屋の中へ入るように促し、三人は揃ってイ・ガクの前に腰を落ち着けた。
マンボの持ってきた、餅や料理の載せられた膳をパク・ハがじっと見ている。
「なんだ、パッカ?涎を垂らさんばかりだな。」
イ・ガクは意地悪く言った。声色が嬉しそうだ。
パク・ハはイ・ガクを睨みつけた。
何よ!優しそうだと思ったのに!
彼女は、ふん、とそっぽを向く。
「腹が減っておろう?食べても良いぞ。」
「要らない!」
「やせ我慢をするな。」
ほら、とイ・ガクは餅を一つつまみあげると自らの口に入れた。わざとゆっくり噛みしめながら、美味いぞ、食べぬのか?私が全部、食べてしまうぞ、と笑った。
パク・ハは顔をそむけたままだったが、視線は膳の上に固定されている。
ぐう、きゅるきゅるきゅる。
「腹の虫が鳴いておるではないか。」
イ・ガクは更に楽しげに笑った。
臣下達は半ば呆れて世子を見つめていたが、こんな風に笑う主君を見たのは久しぶりで、この小さな少女は間違いなくパク・ハなのだ、と納得をしていた。
「要らない!要らないったら、要らない!」
「ははは。そう、言うな。・・・私が悪かった。そなたの為の膳だ。」
イ・ガクは膳をパク・ハの方へ押しやり、手を伸ばすとパク・ハの顔を両手で挟み込むようにして彼の方へ向かせた。
食べぬか、と餅をパク・ハの口の前に持って来る。
パク・ハは、あーんと口を開けた。イ・ガクはそこへ餅を入れてやる。
「美味いか?」
パク・ハは餅を口いっぱいに頬張りながら、うんうんと頷いた。
イ・ガクはまた声を立てて笑い、臣下達も一緒に笑った。
「チョハ。恐れながら、本当にパッカヌイなのでございますか?」
「どこへ、お連れになられるのです?」
「何故、パク・ハ殿が子供に?」
イ・ガクは立ち止まり、臣下達を振り向いた。
「幼き日のプヨンと同じ瞳をしておる。何より、本人がパッカだと言うのだ。・・・幼きパッカが、飛ばされてきたのであろう。何故かは、分からぬが・・・。どのみち、あんな所に幼子を置いておくわけにはゆかぬ。」
行くぞ、と言ってまたイ・ガクは前を向いた。
イ・ガクは小さなパク・ハの手を引いて東宮殿へと戻ってきた。
そこへ控えていた内官達は少女の姿に眉を顰めたが、王世子に一瞥されて、下げていた頭を更に低くした。
「今宵は、この三人に宿直(とのい)を命じる。それ以外の者はもう下がって休むがよい。」
古参の内官が、チョハ、なりませぬ、と抗議の声を上げた。
何故だ、と世子に睨まれて、老練の内官も一瞬ひるんだ。
「た、たった三人とは・・・危険にございます。」
「我が朝鮮で、一番、安全なのはどこだ?」
「・・・宮殿、でございます。」
「そうだ。そちもよく分かっておるではないか。」
それに、とイ・ガクは後ろに控えるヨンスルを振り返って、彼に向けて顎をしゃくった。
「そち達内官が、十人束になったとて、ウ翊賛一人に敵いはしまい?宮殿外でも、ウ翊賛がおれば安心して眠れるぞ。」
世子は高らかに笑う。
これには流石の老内官も引き下がるしかなかった。
が、しかし、世子の傍、怪しいいでたちの少女が気になる。
「チョハ。その者は?・・・見たところ、風変わりないでたちにございます。」
内官は言葉を選びつつ、己が少女を怪しんでいるのだ、ということを伝えた。
「蓮の花の化身、よ。」
イ・ガクは、ふっと息を吐いた。瞳は柔らかく微笑んでいるように見える。
「は?」
「芙蓉池の畔で迷っておった。おそらく、宮女見習いであろう。」
「ならば、私が尚宮に引き渡してまいりましょう。」
何処かに連れて行かれる!パク・ハは、繋がれているイ・ガクの手をぎゅっと握った。
恐れずともよい。イ・ガクはパク・ハの手を握り返した。
「よい。何故、芙蓉池におったのか、私が直接に詮議するため連れて参ったのだ。」
そちも下がって休むがよい、と老内官を退けた。
老内官は、物言いたげに溜息を吐いたが、これ以上何を言っても無駄と踏んだか、世子に挨拶をし他の内官と共に下がって行った。
誰もいなくなったのを確認し、イ・ガクは、小さなパク・ハと共に臣下三人を伴い、自らの居室へと入った。
イ・ガクは衣の裾を払い、くつろいだ様子でそこへ座する。
「パッカ、座れ。」
パク・ハはイ・ガクの目の前にちょこんと腰を下ろした。
彼は満足そうに頷くと、そこに立ったままの臣下に視線を移した。
「チサン、パッカの為に衣を準備して参れ。マンボ、水刺間(スラッカン)へ行って、何かパッカの食べられそうな物を見繕ってくるがよい。ヨンスルは二人が戻るまで外を見張っておれ。」
三人は、はっと返事をすると踵を返した。
程なくして、チサン、マンボが戻って来た。
イ・ガクは、ヨンスルも部屋の中へ入るように促し、三人は揃ってイ・ガクの前に腰を落ち着けた。
マンボの持ってきた、餅や料理の載せられた膳をパク・ハがじっと見ている。
「なんだ、パッカ?涎を垂らさんばかりだな。」
イ・ガクは意地悪く言った。声色が嬉しそうだ。
パク・ハはイ・ガクを睨みつけた。
何よ!優しそうだと思ったのに!
彼女は、ふん、とそっぽを向く。
「腹が減っておろう?食べても良いぞ。」
「要らない!」
「やせ我慢をするな。」
ほら、とイ・ガクは餅を一つつまみあげると自らの口に入れた。わざとゆっくり噛みしめながら、美味いぞ、食べぬのか?私が全部、食べてしまうぞ、と笑った。
パク・ハは顔をそむけたままだったが、視線は膳の上に固定されている。
ぐう、きゅるきゅるきゅる。
「腹の虫が鳴いておるではないか。」
イ・ガクは更に楽しげに笑った。
臣下達は半ば呆れて世子を見つめていたが、こんな風に笑う主君を見たのは久しぶりで、この小さな少女は間違いなくパク・ハなのだ、と納得をしていた。
「要らない!要らないったら、要らない!」
「ははは。そう、言うな。・・・私が悪かった。そなたの為の膳だ。」
イ・ガクは膳をパク・ハの方へ押しやり、手を伸ばすとパク・ハの顔を両手で挟み込むようにして彼の方へ向かせた。
食べぬか、と餅をパク・ハの口の前に持って来る。
パク・ハは、あーんと口を開けた。イ・ガクはそこへ餅を入れてやる。
「美味いか?」
パク・ハは餅を口いっぱいに頬張りながら、うんうんと頷いた。
イ・ガクはまた声を立てて笑い、臣下達も一緒に笑った。
~ Comment ~
いいなぁ~
お早うございます!
久しぶりでイガクが笑っているのに、これを読んでいるうち
じわっと涙が滲むのは何なのでしょうか?
今後の展開は勿論、気になりますが、
切なさと、幸せが入り混じった、この一時は
とっても、心が満たされてます。
久しぶりでイガクが笑っているのに、これを読んでいるうち
じわっと涙が滲むのは何なのでしょうか?
今後の展開は勿論、気になりますが、
切なさと、幸せが入り混じった、この一時は
とっても、心が満たされてます。
イ・ガクを心から笑わせることが出来るのはパッカですよね~♪
小さいけど、意地っ張りなとこは、やはりパッカ
イ・ガクが楽しそうで嬉しいです。
どんな展開になるのか?全く想像出来ません。
楽しみ(*^^*)楽しみ(*^^*)
小さいけど、意地っ張りなとこは、やはりパッカ
イ・ガクが楽しそうで嬉しいです。
どんな展開になるのか?全く想像出来ません。
楽しみ(*^^*)楽しみ(*^^*)
Re: か****様へ
か****様
おはようございます。
ちびのパッカも書いてみると楽しいです。♪
喜んで頂いてありがとうございます。
イ・ガクが好きになるか・・・パッカですから、ね・・・。
もちろん、大人にするようなことはしない・・・と信じてます。
25,000番目の初訪の方は現れませんねぇ。
私のやり方に問題多し、でしたから・・・(汗)
新ルールで受け付けてます。<m(__)m>
梅雨時はお洗濯が大変!掃除だってなんだかじめっとしてて躊躇しません?
主婦は大変です!
おはようございます。
ちびのパッカも書いてみると楽しいです。♪
喜んで頂いてありがとうございます。
イ・ガクが好きになるか・・・パッカですから、ね・・・。
もちろん、大人にするようなことはしない・・・と信じてます。
25,000番目の初訪の方は現れませんねぇ。
私のやり方に問題多し、でしたから・・・(汗)
新ルールで受け付けてます。<m(__)m>
梅雨時はお洗濯が大変!掃除だってなんだかじめっとしてて躊躇しません?
主婦は大変です!
Re: いいなぁ~ やすべぇ様へ
やすべぇ様
おはようございます。
イ・ガクが嬉しそうで、私も嬉しいです。
瞬間、ひとときを噛みしめてくださってありがとうございます。
暖かいお言葉に、きっとイ・ガクも喜んでいます!(/_;)
おはようございます。
イ・ガクが嬉しそうで、私も嬉しいです。
瞬間、ひとときを噛みしめてくださってありがとうございます。
暖かいお言葉に、きっとイ・ガクも喜んでいます!(/_;)
Re: ふにゃん様へ
ふにゃん様
流石、ふにゃんさん!よく、分かっていらっしゃる!
ドラマでも、朝鮮時代ならプヨンと、現代ならパク・ハといる時にしか
心から笑ってるって感じではなかったですよね。♪
私も書きながら、嬉しかったです。
いつも、ありがとうございます。
流石、ふにゃんさん!よく、分かっていらっしゃる!
ドラマでも、朝鮮時代ならプヨンと、現代ならパク・ハといる時にしか
心から笑ってるって感じではなかったですよね。♪
私も書きながら、嬉しかったです。
いつも、ありがとうございます。
NoTitle
ありちゃんさん、こんにちは!
幼いパク・ハとイ・ガクの会話。
口にお餅を入れてやるシーン・・
ほのぼのしてるはずなのに、胸が締め付けられるような気がします。
ありちゃんさんの文章、朝鮮時代はちゃんと朝鮮時代の趣があってすごいなと思います。
毎日少しずつ楽しませてもらってま~す(*^_^*)
幼いパク・ハとイ・ガクの会話。
口にお餅を入れてやるシーン・・
ほのぼのしてるはずなのに、胸が締め付けられるような気がします。
ありちゃんさんの文章、朝鮮時代はちゃんと朝鮮時代の趣があってすごいなと思います。
毎日少しずつ楽しませてもらってま~す(*^_^*)
- #1139 瑞月
- URL
- 2015.12/01 15:13
- ▲EntryTop
Re: 瑞月さまへ
瑞月さま
こんにちは。
> ほのぼのしてるはずなのに、胸が締め付けられるような気がします。
もうね、イ・ガクはどうしても切なさ全開で・・・(´・_・`)
> ありちゃんさんの文章、朝鮮時代はちゃんと朝鮮時代の趣があってすごいなと思います。
いや、そんな・・・ありがとうございます。( ´艸`)
> 毎日少しずつ楽しませてもらってま~す(*^_^*)
毎日、とは嬉しいお言葉!
なんせ更新にムラがあって・・・絶賛、読者様キリン化プロジェクト推進中ですので、少しずつお楽しみください。
ホント、いつもありがとうございます。m(__)m
こんにちは。
> ほのぼのしてるはずなのに、胸が締め付けられるような気がします。
もうね、イ・ガクはどうしても切なさ全開で・・・(´・_・`)
> ありちゃんさんの文章、朝鮮時代はちゃんと朝鮮時代の趣があってすごいなと思います。
いや、そんな・・・ありがとうございます。( ´艸`)
> 毎日少しずつ楽しませてもらってま~す(*^_^*)
毎日、とは嬉しいお言葉!
なんせ更新にムラがあって・・・絶賛、読者様キリン化プロジェクト推進中ですので、少しずつお楽しみください。
ホント、いつもありがとうございます。m(__)m
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