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「長編(完結)」
記憶

記憶 7

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宮殿に戻り、東宮殿へ向かうと殿舎の外で内官達が待機していた。
どうやら、世子はもう執務から解放されているらしい。

三人が取り次ぎを願い出ると、一番年嵩の内官が室内のイ・ガクへ声を掛ける。

「チョハ。ト内官、ソン司書、ウ翊賛の三人が戻りましてございます。」

「通せ。・・・他の者達は下がるがよい。」

「・・・はい。仰せの通りに。」

内官達は三人組に道を譲ってやると、いそいそと下がって行った。



イ・ガクは臣下達をギロリと睨んだ。

「遅いではないか!」

三人とパク・ハが部屋に入るなり怒鳴り声が飛ぶ。

「「「申し訳ございませぬ!チョハ!!」」」

三人はその場にがばと平伏した。


夕刻までと仰せであったのに。
チョハが早過ぎるのだ。
いつもながら、あまりにも理不尽。


パク・ハは一瞬ビクッと肩を震わせたが、怯む様子はない。

「チョハ!もう、お仕事、終わったの?早かったんだね。」

にっこりと笑うと、たたっとイ・ガクに駆け寄った。

オムライスを食べ終えてすぐに、もう帰ろうとパク・ハが言った。
臣下達(特にチサン)はチョハは未だ執務中ですよ、と暗に帰宮するのを引き留めようとしたが、パク・ハはそれでも帰ると言って宮殿に戻って来たのだった。

だから、けして帰宮が遅かったわけではなく、早々に執務を終わらせたイ・ガクの方が待ち侘びてイライラしていたに過ぎない。

「チョハの言った通りだった。オムライスが美味しくて、気分が好くなったよ!」

パク・ハは屈託なく言って、イ・ガクの首に抱きついた。そのまま、頬にちゅっと口づける。
イ・ガクは驚いたように目を見開いたが、その頬は緩んでいく。

三人の臣下達を横目で見やりながら、ううんと咳払いをした。
臣下達はイ・ガクの様子を盗み見ていたのだが、自分たちの方へ視線が送られたと見るや、慌てたように更に頭を低くした。

イ・ガクはパク・ハを自分の身から引き離すとそこへ座らせ、三人に向かっておもてを上げよと言った。

「この者達の オムライす はどうであった?」

パク・ハに向き直り顔を覗き込む。

「そなたの オムライす に敵いはせぬが、それでも、なかなかのものではあったろう?」

ん?どうだ?と自慢気に、まるで自分が作って食べさせたと言わんばかりである。
パク・ハは両手を合わせて受けあった。

「うん。びっくりした!」

「ほう。そんなに美味かったか?」

イ・ガクは目を細める。

「うん。あんなの初めて食べたよ!バターライス?・・・白いご飯でも美味しいね!」

「・・・・どういう意味だ?」

イ・ガクは訝しげに、視線を臣下達に送る。
マンボが少し躊躇った後、口を開いた。

「チョハ。・・・パク・ハさんの知る オムライす の中身はケチャップで味付けた飯が入っているそうにございます。・・・しかも、パク・ハさんは、それしか知らぬ、と。」

「うん、そうよ。白い、バターライスのオムライスなんて初めて食べた。美味しかったよ。」

パク・ハは満面の笑みを浮かべる。
イ・ガクは、そうか、とだけ呟いた。

「私の知る限り、"オムライす"とはあのような物だ。・・・パッカ。大人になったら、あの"オムライす"を作るが良い。」

「うんっ!!」

「そして、我らに振る舞えるように腕を磨くのだ。」

「うん!オモニに習ってチョハにも食べさせてあげるね。」

にっこりと笑うパク・ハの頭に、イ・ガクはその手を優しく乗せた。

「私を・・・"チョハ"と呼ぶのだな?」

「うん。みんながそう呼んでるから。・・・あなたは、"チョハ"なんでしょう?」

イ・ガクは答える代りに柔らかく笑っただけだった。

「パッカ。ここ、朝鮮で食べた"オムライす"を覚えておくのだ。」


けして、忘れてはならぬ。

・・・"オムライす"も
・・・私の顔、も。

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~ Comment ~

忘れてはならぬ…

切ないですね。
パク・ハの記憶には残らないことは(もしくは、どこかで失われてしまうのが)分かってるのに言わないではいられない。

できれば、手放したくはないでしょう。
でも、返してやらなきゃいけないし(涙

白い御飯のオムライスとチョハの記憶はどういう風にパク・ハに刻み込まれるのでしょうか。

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Re: 忘れてはならぬ…  阿波の局様へ

阿波の局さま

こんにちは。コメントありがとうございます。

> 切ないですね。
> パク・ハの記憶には残らないことは(もしくは、どこかで失われてしまうのが)分かってるのに言わないではいられない。
ホントに・・・。


> 白い御飯のオムライスとチョハの記憶はどういう風にパク・ハに刻み込まれるのでしょうか。
チョハと臣下たちの為に彼女が作るのは白いご飯のオムライスだったので、刻み込まれてた事実には違いなく、刻み込んだ張本人はチョハだった、と、そういうことなのだ、と、私の中では妄想炸裂中です。

Re: F****様へ

F****様

こんにちは。お久しぶりです。コメントありがとうございます。
台風は直撃しそう、でも、ちょっと逸れてきてるかなぁ、なんて思っていたら、ホントに直撃でびっくりでした。(汗)
でも、大丈夫でした。w

タイムスリップを題材にするからには、タイムパラドックス的な内容を組み込んでみたいと思いまして・・・
(規模が小さいですけども。苦笑)
バターライスのオムライスを臣下達に教えたのはパク・ハなのだけど、パク・ハが初めて食べたバターライスのオムライスを作ったのは臣下達だった。
交通事故による記憶喪失で、その事実も忘れてしまった。という設定にさせてもらったので(ドラマとのつじつまも合わせたかったんですよね。)イ・ガクも重々承知で、「覚えておけ、忘れるな」と刻み込もうとしてる・・・そんな感じかな、と思っています。が・・・切ない、ですね。

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Re: か****様へ

か****様

こんにちは。お返事、遅くなってごめんなさい。m(__)m
ちょっといじいじいじけ虫になってて、お返事が遅くなりました。(苦笑)

でも、か****さんのコメント、ほんと和みます。(喜)
家の中の台風、お疲れ様でした。
夏休みも終わりましたが、また土日ですね。週末ごとに家庭内台風かぁ・・・大変ですね。せめて天気がいいと
ご主人と上の息子さんくらいは外に出てくれるのでしょうか?
小さいお子さんがいると大変ですよね。

> ありちゃんさん、すごーい( Д )ﻌﻌﻌﻌ⊙ ⊙  
目玉の飛び出たこの顔文字!w
か****さんの全力の応援が伝わってきます。ホントにありがとうございます。(^.^)

書き始めた当初、短編に、と思ってたはずが、短めの連載か?になり、思いのほか長くだらだら書いちゃってます。(汗)
このお話は骨組みだけは完成してますので、いましばらくお付き合いくださいね。
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