FX

「長編」
記憶

記憶 8

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イ・ガクは自分と向かい合うように腰を落ち着けていたパク・ハに手招きをした。
自分は少し横にずれて文机の前を空ける。そこに座れ、という意味だ。

パク・ハは立ち上がり、促されるまま文机の前に座り直す。
文机には、硯に墨、筆が用意され、いつでも筆を落とせるように紙も置かれていた。
斜め後ろのイ・ガクを見上げるように、パク・ハは顔を後ろに向けた。

「名前を、書いてみよ。」

「え?なんで?・・・筆なんて、使ったことない。」

「良いから、書いてみよ。」

パク・ハはおずおずと筆を手に取った。親指と人差し指で筆を挟むようにして持ち、下から中指を添える。要するに鉛筆の持ち方をした。

「・・・筆の持ち方も知らぬのか?」

「だから、使ったことないって言ったのに・・・。」

パク・ハは下唇を突き出した。
イ・ガクはパク・ハの背後ににじり寄る。そのまま後ろから長い腕を伸ばして、右手はパク・ハの手を包み込むようにして筆を握らせる。左手はやはりパク・ハの左手を包み込み、紙の上に置いた。

「良いか?まず、背筋を伸ばせ。姿勢が大事だ。
小筆ならば、かような持ち方でも良いが、この筆ならば、中指も使うがよい。」

「え、こう?」

「そうだ。薬指と小指は軽く添わせよ。そして、筆は真っ直ぐに立てねばならぬ。
余計な力は抜いて、穂先を紙に置くようなつもりで書くのだ。
そのまま、そなたの名前を書いてみよ。」

イ・ガクは手を離した。
パク・ハはぎこちなく筆を動かす。


박 하


「それはハングルではないか。漢字で書かぬか。」

「漢字なんて知らないよぉ。」

イ・ガクは自分を見上げてくるパク・ハの顔を覗き込んだ。

「・・・自分の名の漢字だぞ?」

「・・・アッパに教えられた気はするけど・・・忘れた。」

パク・ハは恥ずかしそうに、えへへ、と笑っている。
イ・ガクは呆れたように息を吐いたが、何も言わなかった。
そして、またパク・ハの手を包み込んだ。


朴 荷

イ・ガクの手に導かれてパク・ハの筆が紙の上に字を浮かび上がらせる。

「そなたの名だ。・・・蓮の花の意である。」

「蓮の花?」

イ・ガクは目を伏せ、微かに笑った。

臣下三人は二人の様子を微動だにせずに見つめていたが、胸に迫るものがあり、イ・ガクの顔を見た。
イ・ガクは三人に視線を移すと何やら目配せをする。三人は立ち上がり部屋を出て行った。

「蓮の花は芙蓉プヨンとも言う。」

「・・・芙蓉プヨン・・・」


パッカ、そなたの名だ。・・・忘れてはならぬ。


イ・ガクが不意にパク・ハを後ろから抱きすくめた。
パク・ハは驚きイ・ガクを振り返ろうとしたが、彼が腕の力を強めたので身動きできなかった。


「今のそなたは・・・あまりにも・・・小さい。」


イ・ガクは、呟くように、喘ぐように、囁くように、そう言った。


「パッカ、覚えておくのだ。」

何を?名前の漢字?芙蓉プヨンのこと?

「・・・覚えておくことが、多いね。」

パク・ハはイ・ガクに包み込まれたまま、笑う。

「大人になったら、そなたは、私の妻になる。そのことも覚えておくのだ。」

パク・ハは背中を反らせようとした。今度こそ振り返ろうと力を込める。
しかし、イ・ガクに敵うはずもない。

「・・・チョハ?・・・私・・・まだ九歳だよ?」

「私が最初に婚姻したのは、そなたよりも、幼い時だった。」

は?九歳よりも小さい時に結婚した?奥さん、居るの?
今、何歳よ?・・・結婚して何年?・・・ひっどぉい!

パク・ハは渾身の力を込めて振り向こうとした。
イ・ガクは、なんだ?とでも言いたげにその力を緩める。

「サイっテー!! 奥さん居るのに、私に、プロポーズした!!」

パク・ハはイ・ガクを睨みつける。
離せ!このサイテー男!浮気者!とイ・ガクをポカスカと殴り始めた。

イ・ガクは唇の片端を上げて意地悪く笑ったかと思ったら、パク・ハを引き寄せ、今度は正面から胸に掻き抱いた。

「こら、暴れるでない。・・・私の妻になるを望んだは、そなたの方ではないか。」

「は?何、わけの分かんないこと、言って!あんたとは会ったばかりでしょ!」

パク・ハはイ・ガクの胸に手を突っ張って睨み上げながら言う。

「はははは。・・・小さくても、威勢だけは良いな。それでこそ、パッカだ。
しかし・・・今は、おとなしくせぬか。」

イ・ガクは力を込めて、再びパク・ハを自らの胸の中に収めた。

「最初の妻は、もういない。」

本当に妻にしたかった女人には・・・もう、会えぬ。

「パッカ。そなたが大人になって、私に出会う時・・・・そなたは私の妻になる。」

そういう運命なのだ。

「・・・チョハ?・・・苦しい。」

イ・ガクの胸の中でパク・ハがくぐもった声を出す。
彼はその手を緩めた。
パク・ハは顔を上に向けて大きく息継ぎをし、言葉を繋いだ。

「離婚したの?・・・奥さん、出て行っちゃった?」

はあ?とイ・ガクは片眉を上げた。

「チョハと結婚してあげてもいいけど・・・私が、大人になるまで、待てる?」

イ・ガクは一瞬視線を彷徨わせ、にやりと笑うと微かに頷いた。

「私が、大人になるまで、他の誰とも結婚しちゃ、ダメだよ?」

「・・・約束しよう。今後、他の誰であろうと・・・世子嬪を娶ることはしない。側室も、迎えぬ。」


だから・・・早く、大きく・・・大人になれ。
あの屋根部屋で、私の訪れを、待っておれ。




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~ Comment ~

どっどらえも~ん

お久しぶりです(*^^*)
だっだめだ(T_T)
泣けてきます(/ー ̄;)

どらえも~ん、お願い
タイムふろしきをパッカに被せて~
早く大きくして~(;_q)

NoTitle

ありちゃんさん、おはようございます^^

ありちゃんさんのお話、順番に読んで行こうと決めていたのに、誘惑に負けて(笑)、こちらのお話を読んでしまいました。
イ・ガクとパク・ハの組み合わせもすごく良いですね!
やっぱり昔の人だから、話し方も昔風なんですね。何かそこも素敵です。
「生まれ変わっても」と並行して「記憶」も読んでしまおうか、それとも順番に読むか思案中です~。

Re: どっどらえも~ん ふにゃん様へ

ふにゃん様

> お久しぶりです(*^^*)

きゃあああ!ふにゃんさんだ!お久しぶりです!
また、コメ頂けて嬉しいです。\(◎o◎)/!
今日は、とてもいい日です。どうしておられるかと気になっていた方のコメがたて続けに入って!

> どらえも~ん、お願い
> タイムふろしきをパッカに被せて~
> 早く大きくして~(;_q)

コメのタイトルを読んで、なんで「ドラえもん」?って思いましたが・・・
そういうことですね。
スミマセン、またしても切なさ全開で・・・(汗)

先回のゾロ目リクのお話はお読みいただいたでしょうか?
(内緒のお部屋の方ですが)そちらはイ・ガク×パク・ハのお話です。
その続きも書くつもりですので、そちらで癒されてくださいませ。<m(__)m>

Re: 瑞月さまへ

瑞月さま

おはようございます。

> ありちゃんさんのお話、順番に読んで行こうと決めていたのに、誘惑に負けて(笑)、こちらのお話を読んでしまいました。

どんどん、誘惑に負けてください。WW

> イ・ガクとパク・ハの組み合わせもすごく良いですね!

ありがとうございます。こちらでは、パク・ハが子供ですけれど・・・。(苦笑)


> 「生まれ変わっても」と並行して「記憶」も読んでしまおうか、それとも順番に読むか思案中です~。

私にとっては嬉しい、瑞月さんのお悩み♪
「記憶」の方がゴールが近いと思います。ホントは読みきりの短編か、長くても前・後編ぐらいにしようと思ってたんですが・・・盛り込み過ぎて・・・と言うか、
長くなりそうだったんで盛り込んで連載にしてしまった、というイワク付のお話です。(苦笑)
楽しんで頂けてるようで、嬉しいです。(^.^)

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私としたことが!Σ( ̄□ ̄;)

内緒話の「楽しみ」を読み忘れておりました(@_@)
イ・ガク&パッカのラブラブを気付かないなんて…( ̄▽ ̄;)不覚…
バタバタしてたころなので、教えて下さってありがとうございました。

もちろん、続きを「楽しみ」にしておりますとも!( ̄- ̄)ゞ忠誠

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Re: か****様へ

か****様

こんばんは。

ご家族、やばいですね。手洗い、うがい、徹底ですよ!

ちびのパッカには、プヨンの魂の記憶がありますから、イ・ガクのプロポーズは即OKです!
切なさ全開でスミマセン。
ドラえもんがいて、パッカが成長しちゃったら接吻は間違いないですね。w
「あまりにも、小さい」ので手を出せないだけですから・・・。

Re: 私としたことが!Σ( ̄□ ̄;) ふにゃん様へ

ふにゃん様

> バタバタしてたころなので、教えて下さってありがとうございました。
良かったです。w

> もちろん、続きを「楽しみ」にしておりますとも!( ̄- ̄)ゞ忠誠
うふふ、ありがとうございます。

Re: て*****様へ

て*****様

大変、長らくお待たせしました。<m(__)m>
読み返さなきゃ、どんなお話だったか分からなくなってるって言う、ね。(苦笑)

> イガクがパクハを後ろから抱きしめるとこなんて胸がキュンとせつなくて。
臣下を部屋の外に出して、抱きしめたくて・・・子供だけれど将来を誓うイ・ガク。切ないですね・・・。

切ないのだけれど、書きたい。書けばまた切ない。
何なのでしょう?この感情は・・・。


Re: 後れ馳せながら t*******様へ

t*******様

ホントにありがとうございます。
t*******さんにはブログ立ち上げの当初から応援して頂いて、本当に感謝しています。
ここまで続けて来れたのは、私自身の力なんかではないです!

いや、でも、自分でもびっくりするくらい、連載、止まってます。(滝汗)
朝鮮時代が書きにくくて、書きにくくて・・・(と言うよりは、変な陰謀を絡めた自分が悪いんです。)(汗)
で、思わず現代のテヨンに逃げてしまっていると言う・・・。
早く、テヨンに、現代に還ってきてほしい。(なら、書けよっ!て自分で突っ込みます、もう。)

> これからも楽しみにしてますよ~~~って言いたいです!
ありがとうございます。
t*******さんもご無理のないようにして頂いて、これからもお付き合いくださると嬉しいです。<m(__)m>
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