「長編(完結)」
記憶
記憶 11
東宮殿で待てと言われて待てるわけがない。
臣下三人は慌てて駆け出した。
「馬!我らも馬で追うぞ!」
「チョハは一体どちらに?」
「分かりきったことを!あそこだ!」
馬は飛ぶように駆けてゆく。
パク・ハは馬の首にしがみつき、イ・ガクを振り向きたくても振り向けずにいる。
「・・・チョハ?」
必死にしがみつきながらようよう言った。
「しゃべるでない。舌を噛むぞ。」
イ・ガクは身を低くして、パク・ハに覆いかぶさるようにした。
刹那、馬は勢いよく地を蹴って宙を舞い、宮殿を囲う塀を軽々と飛越する。
どっと着地して、馬の背の二人にも衝撃が伝わってくる。
イ・ガクはそのままの勢いで馬を走らせ続けた。
馬の蹄の音だけが一定の拍子を刻んで鳴り響いている。
パク・ハは振り向いてはいけない気がして、ただ、前方を見ていた。
林を抜け、野原を走り、馬は駆け続ける。
突然、イ・ガクが手綱を引き馬はまた一声いなないた。
かっ、かっ、と蹄を打ち付けてその場に止まる。
前方は崖だった。
「・・・チョハ?」
そなたはここに居たいか?
私の傍に、居たいか?
イ・ガクが何も言わないのでパク・ハは再度世子に呼びかけた。
「チョハ?」
パク・ハはイ・ガクを振り向き、驚きに目を見開いた。
「チョハ?泣いてるの?」
声もなくイ・ガクが涙を流している。
「・・・お腹、痛いの?」
「・・・かつて・・・ここを飛んで、そなたの家に墜ちたのだ。」
「え?」
そなたの許へ行けはしないかと、何度もここに来た。
また時を越えられるのではないかと・・・。
死してそなたに会えるのなら、それも良い・・・と、思ったのだ。
「ここからお家に帰るの?・・・怖いよ。」
パク・ハは崖を見て肩を竦めた。イ・ガクがいるから安心していられるが、馬の上から覗き込む崖の下は一層暗く深いように思われた。
「ここからは還れぬ。」
おそらく・・・ここを飛んだとて、時を越えることは叶わぬであろう。
「・・・このまま、チョハの傍に居ようかな?」
パク・ハがイ・ガクを見上げた。
イ・ガクは目を見開いている。
「そなた・・・。還りたくはないのか?」
「・・・帰っても・・・。」
振り向きもしなかった姉の背中が、思い浮かぶ。
「私、大人になるまで、ここに・・・居ようかな?・・・ダメ?」
私とてそなたと一緒に居たいのだ。だが、しかし・・・
「ここでは、そなたを幸せにしてやることはできぬ。」
籠に閉じ込め、人の心の裏に怯え、常に緊張を強いられ・・・パッカが、パッカではなくなる。
「パッカ。自由なそなたの世界に戻るがよい。」
パク・ハの瞳をじっと見ていたイ・ガクが気遣う様に言葉を繋いだ。
「・・・そなた、もしや、元の世界が辛いのか?」
小さなパク・ハは目にいっぱい涙を溜めて微かに頷いた。
「元の世界に還れば・・・辛いことも、悲しいこともあろう。だが、そなたの朗らかさと強さがあれば、きっと大丈夫だ。」
イ・ガクはパク・ハをじっと見る。
「大人になったら、そなたを、必ずや、迎えに参る。」
「本当?!」
「ああ、必ずだ。・・・その時、私の名は『ヨン・テヨン』だ。」
「・・・ヨン・・・テヨン?」
パク・ハは不思議そうに、何度もその名を呟いていた。
「そうだ。『ヨン・テヨン』だ。覚えておれ。」
パク・ハはしばらく考え込んでいたが、顔を上げ、花が零れる様に笑った。
「うん!分かった。じゃあ、指切りしよう!!」
そうだな。約束だ。
小指と小指を絡め合う。
「指切り拳万、嘘吐いたら、針千本、呑ぉーます!」
パク・ハが元気に言いながら小指の絡まった手を上下させ始めたその時、その指の感触が一瞬消えた。
驚き、目を見開くイ・ガク。
まるで明滅する星のように、小さなパク・ハの姿が薄らいだかと思ったらまた濃くなる。
もう、往くのか?・・・往ってしまうのか?
「指切った!」
その宣言と同時に一瞬姿が消え、また戻った。
パッカ!往くな!
イ・ガクは思わず小さなパク・ハを抱きしめていた。
臣下三人は慌てて駆け出した。
「馬!我らも馬で追うぞ!」
「チョハは一体どちらに?」
「分かりきったことを!あそこだ!」
馬は飛ぶように駆けてゆく。
パク・ハは馬の首にしがみつき、イ・ガクを振り向きたくても振り向けずにいる。
「・・・チョハ?」
必死にしがみつきながらようよう言った。
「しゃべるでない。舌を噛むぞ。」
イ・ガクは身を低くして、パク・ハに覆いかぶさるようにした。
刹那、馬は勢いよく地を蹴って宙を舞い、宮殿を囲う塀を軽々と飛越する。
どっと着地して、馬の背の二人にも衝撃が伝わってくる。
イ・ガクはそのままの勢いで馬を走らせ続けた。
馬の蹄の音だけが一定の拍子を刻んで鳴り響いている。
パク・ハは振り向いてはいけない気がして、ただ、前方を見ていた。
林を抜け、野原を走り、馬は駆け続ける。
突然、イ・ガクが手綱を引き馬はまた一声いなないた。
かっ、かっ、と蹄を打ち付けてその場に止まる。
前方は崖だった。
「・・・チョハ?」
そなたはここに居たいか?
私の傍に、居たいか?
イ・ガクが何も言わないのでパク・ハは再度世子に呼びかけた。
「チョハ?」
パク・ハはイ・ガクを振り向き、驚きに目を見開いた。
「チョハ?泣いてるの?」
声もなくイ・ガクが涙を流している。
「・・・お腹、痛いの?」
「・・・かつて・・・ここを飛んで、そなたの家に墜ちたのだ。」
「え?」
そなたの許へ行けはしないかと、何度もここに来た。
また時を越えられるのではないかと・・・。
死してそなたに会えるのなら、それも良い・・・と、思ったのだ。
「ここからお家に帰るの?・・・怖いよ。」
パク・ハは崖を見て肩を竦めた。イ・ガクがいるから安心していられるが、馬の上から覗き込む崖の下は一層暗く深いように思われた。
「ここからは還れぬ。」
おそらく・・・ここを飛んだとて、時を越えることは叶わぬであろう。
「・・・このまま、チョハの傍に居ようかな?」
パク・ハがイ・ガクを見上げた。
イ・ガクは目を見開いている。
「そなた・・・。還りたくはないのか?」
「・・・帰っても・・・。」
振り向きもしなかった姉の背中が、思い浮かぶ。
「私、大人になるまで、ここに・・・居ようかな?・・・ダメ?」
私とてそなたと一緒に居たいのだ。だが、しかし・・・
「ここでは、そなたを幸せにしてやることはできぬ。」
籠に閉じ込め、人の心の裏に怯え、常に緊張を強いられ・・・パッカが、パッカではなくなる。
「パッカ。自由なそなたの世界に戻るがよい。」
パク・ハの瞳をじっと見ていたイ・ガクが気遣う様に言葉を繋いだ。
「・・・そなた、もしや、元の世界が辛いのか?」
小さなパク・ハは目にいっぱい涙を溜めて微かに頷いた。
「元の世界に還れば・・・辛いことも、悲しいこともあろう。だが、そなたの朗らかさと強さがあれば、きっと大丈夫だ。」
イ・ガクはパク・ハをじっと見る。
「大人になったら、そなたを、必ずや、迎えに参る。」
「本当?!」
「ああ、必ずだ。・・・その時、私の名は『ヨン・テヨン』だ。」
「・・・ヨン・・・テヨン?」
パク・ハは不思議そうに、何度もその名を呟いていた。
「そうだ。『ヨン・テヨン』だ。覚えておれ。」
パク・ハはしばらく考え込んでいたが、顔を上げ、花が零れる様に笑った。
「うん!分かった。じゃあ、指切りしよう!!」
そうだな。約束だ。
小指と小指を絡め合う。
「指切り拳万、嘘吐いたら、針千本、呑ぉーます!」
パク・ハが元気に言いながら小指の絡まった手を上下させ始めたその時、その指の感触が一瞬消えた。
驚き、目を見開くイ・ガク。
まるで明滅する星のように、小さなパク・ハの姿が薄らいだかと思ったらまた濃くなる。
もう、往くのか?・・・往ってしまうのか?
「指切った!」
その宣言と同時に一瞬姿が消え、また戻った。
パッカ!往くな!
イ・ガクは思わず小さなパク・ハを抱きしめていた。
~ Comment ~
Re: か****様へ
か****様
すみませ~ん。切ないですよね?・・・私も切ないです。(/_;)
でも・・・どうしても・・・こんなになっちゃって・・・許して。
すみませ~ん。切ないですよね?・・・私も切ないです。(/_;)
でも・・・どうしても・・・こんなになっちゃって・・・許して。
Re: ふぇーん(;_;) k***様へ
k***様
いつもコメントありがとうございます。
切ないですよねぇ。・・・すみません。(汗)
それにしても、過分なお褒めの言葉、ありがとうございます。
ちびのパッカが飛ぶ、と言う発想自体は読者様のコメから頂いたものなので・・・(^^ゞ
(設定はその方のお書きになったものとは随分と違いますけど。)
恐縮です。でも、嬉しいです。ありがとうございます。<m(__)m>
いつもコメントありがとうございます。
切ないですよねぇ。・・・すみません。(汗)
それにしても、過分なお褒めの言葉、ありがとうございます。
ちびのパッカが飛ぶ、と言う発想自体は読者様のコメから頂いたものなので・・・(^^ゞ
(設定はその方のお書きになったものとは随分と違いますけど。)
恐縮です。でも、嬉しいです。ありがとうございます。<m(__)m>
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