「短話シリーズ」
企業戦士
ヒット商品
ドアをノックすると、はい、と返事があった。
「失礼します。」
私はドアを潜り一礼する。
デスクに着いたヨン・テヨン本部長は、デスクの上のそれを睨みながら考え込んでいた。
「・・・お呼びですか?」
「ああ、キムチーム長。」
本部長は顔を上げ、これなんですけどね、とそれを持ち上げる。
「・・・フライパン?・・・ですね。」
本部長が手にしているフライパンは新品ではなさそうだ。
・・・微妙に底が変形してもいる。
「女性でも軽々と持てるぐらい軽量で、強度も高いモノを作れないかと思って・・・。」
ああ、新商品の開発か・・・。
厚みを増せば強度は高まる、が・・・
軽量化を目指すなら、出来るだけ薄く、が基本。
「軽量化と強度の両立・・・なかなかの難題ですね。」
ん?フライパンに強度って必要か?
熱伝導とか、テフロン加工、或いは最近流行りのダイヤモンドコーティングとか、そんなものの方が、重要なんじゃないか?
「そうなんですけどね。・・・これじゃ護身用にはイマイチなんですよ。」
は?
『護身用』と言ったか?
「本部長?・・・それ、フライパン、ですよね?」
「そうですよ?」
いや、フライパンは調理器具であって、護身用具ではないはず・・・。
思わず眉根を寄せる私を見て、年下だが仕事のできる上司は、ああ、と口の中で小さく言った。
「パッカが、勇敢にもこれで暴漢と戦って・・・
そいつの頭を殴ったそうなんですが、フライパンの方が変形してしまって・・・。」
はい?
パク・ハさんが、暴漢と戦った?
その暴漢の頭を殴ったらフライパンの方が変形した?
パク・ハさんのジュースショップに不埒な男が侵入し、あわやというところで本部長が救い出した、と聞いてはいたが・・・
フライパンで応戦していたとは・・・あの美人が・・・。
あ、いや、そこが問題ではなく・・・。
「いざという時の護身用にするなら、もっと強度があった方がいい。しかも女性が持つことを考えれば軽量化は必須かと・・・。」
・・・言っていることが・・・何かズレている気がするのは、私の気のせいだろうか?
「軽量化を図るなら薄くせざるを得ず、薄くすれば強度を得ることはできません。
相反する二つの課題を両立できれば、間違いなくその商品のヒットが望めるでしょう。
着眼点は良いと思います。」
そう、着眼点は良いのだ。
いや、しかし、私の気のせいではなく、本部長はズレている。
「ですが、それはフライパンに対する着眼点ではない、のではないでしょうか?
本部長。護身用でしたら、フライパンである必要はないかと思いますが・・・。」
本部長は、え?と言うような顔をする。
「護身用と言うのなら、それに特化した物・・・例えば、スタンガンとか催涙スプレーなんかを、
パク・ハさんに持っていただくようにした方が、良いのではないですか?」
ヨン・テヨン本部長。優しげな容貌のイケメンなうえに、紛れもない御曹司。
仕事もできて次期社長としても文句のつけようがない。
だが、しかし、恋人のパク・ハさんのこととなると・・・何かが、少し、狂うことがある。
「フライパンで殴られてフライパンの方が変形するなんて・・・・そいつの頭の方が特殊です。
身を守るために攻撃するのであれば、やはり重さは物を言います。」
私は真面目くさって続ける。
「普通の強度の頭、要するに石頭でない暴漢に襲われたとしても、女性がフライパンを振りかぶるのは大変でしょう。
やはり、フライパンは、護身用には向かないかと思われます。」
本部長も真面目な顔で聞き入ってくれている。
「パク・ハさんが持たれるにちょうど良い護身用具は、部下に調べさせて後でお持ちします。」
「え?そうですか?・・・ありがとうございます。」
本部長は嬉しそうに頷いた。
この人の弱みがパク・ハさんであることは明白だ。
「本部長。今のお話で思いついたのですが・・・」
私から別の提案をさせていただこう。
「フライパンと言えば・・・
本来の使用目的である調理器具として見た場合、熱伝導、焦げ付きにくさ、そういったところが主婦の目に留まる要素かと思います。
そこを重視すればやはり厚みを増すことが手っ取り早い。
そうなれば、軽量化は犠牲にせざるを得ず、女性には重い、ということになります。
そこで、提案なのですが・・・
熱伝導も良く焦げ付かず、更には今までになく軽い、そんなフライパンを開発してはどうでしょう?」
「え?・・・あ、そう、ですね。」
私は一呼吸おいて続けた。
「主婦が望むフライパンを開発できれば、ヒット間違いなしです。
許可を頂ければ、早速リサーチに取り掛かりたいと思いますが?」
「え?あ、じゃあ、一応、企画書を・・・。」
「分かりました。
・・・それから、そのフライパンはパク・ハさんがお使いになられていたものですよね?」
「はい。そうです、けど・・・。」
「料理をなさるのにお困りでしょう?後でフライパンの方も新品をお持ちしますので、パク・ハさんにお渡しください。」
「え?・・・ありがとう、キムチーム長。」
「どういたしまして。」
私はにっこりと微笑む。
「では、後程。」
私は一礼して本部長室を後にした。
本部長は、私が仕えるに足ると認めた稀有な上司だ。
で、あればこそ、上司の軌道修正をさりげなくすること、それも部下の務めであると思う。
軽くて、使い勝手の良いフライパン。
さあ、忙しくなるぞ。
私は新しい企画に心躍らせたのである。
___________
またまたしょうもないもん書いてしまいました。(汗)
フライパンって、テフロン加工とか、マーブルコーティングとか、
結構、色んなものを試したのですが・・・熱伝導が良く、保温性も良いものって、重いんですよね。
あの重さは、武器になる!と思います。(笑)
それが変形したって言うんだから・・・どんな石頭かって言うんですよ。(笑)
テヨンの着眼点はそこでした。(苦笑)
チャーハンなど、炒めものをふるには軽い方が良いので・・・
軽さを追求して、チタン製のものも使ったのですが・・・軽いのは良いのだけど、食材がすぐ焦げる。とほほ・・・
軽くて、食材のすべりがよく(ふりやすいということ)、手入れのしやすいフライパンはないものか・・・
キムチーム長の着眼点はそこでした。
新商品・・・私が欲しいです。(手頃な値段で・・・)
キムチーム長ヨロシク!
「失礼します。」
私はドアを潜り一礼する。
デスクに着いたヨン・テヨン本部長は、デスクの上のそれを睨みながら考え込んでいた。
「・・・お呼びですか?」
「ああ、キムチーム長。」
本部長は顔を上げ、これなんですけどね、とそれを持ち上げる。
「・・・フライパン?・・・ですね。」
本部長が手にしているフライパンは新品ではなさそうだ。
・・・微妙に底が変形してもいる。
「女性でも軽々と持てるぐらい軽量で、強度も高いモノを作れないかと思って・・・。」
ああ、新商品の開発か・・・。
厚みを増せば強度は高まる、が・・・
軽量化を目指すなら、出来るだけ薄く、が基本。
「軽量化と強度の両立・・・なかなかの難題ですね。」
ん?フライパンに強度って必要か?
熱伝導とか、テフロン加工、或いは最近流行りのダイヤモンドコーティングとか、そんなものの方が、重要なんじゃないか?
「そうなんですけどね。・・・これじゃ護身用にはイマイチなんですよ。」
は?
『護身用』と言ったか?
「本部長?・・・それ、フライパン、ですよね?」
「そうですよ?」
いや、フライパンは調理器具であって、護身用具ではないはず・・・。
思わず眉根を寄せる私を見て、年下だが仕事のできる上司は、ああ、と口の中で小さく言った。
「パッカが、勇敢にもこれで暴漢と戦って・・・
そいつの頭を殴ったそうなんですが、フライパンの方が変形してしまって・・・。」
はい?
パク・ハさんが、暴漢と戦った?
その暴漢の頭を殴ったらフライパンの方が変形した?
パク・ハさんのジュースショップに不埒な男が侵入し、あわやというところで本部長が救い出した、と聞いてはいたが・・・
フライパンで応戦していたとは・・・あの美人が・・・。
あ、いや、そこが問題ではなく・・・。
「いざという時の護身用にするなら、もっと強度があった方がいい。しかも女性が持つことを考えれば軽量化は必須かと・・・。」
・・・言っていることが・・・何かズレている気がするのは、私の気のせいだろうか?
「軽量化を図るなら薄くせざるを得ず、薄くすれば強度を得ることはできません。
相反する二つの課題を両立できれば、間違いなくその商品のヒットが望めるでしょう。
着眼点は良いと思います。」
そう、着眼点は良いのだ。
いや、しかし、私の気のせいではなく、本部長はズレている。
「ですが、それはフライパンに対する着眼点ではない、のではないでしょうか?
本部長。護身用でしたら、フライパンである必要はないかと思いますが・・・。」
本部長は、え?と言うような顔をする。
「護身用と言うのなら、それに特化した物・・・例えば、スタンガンとか催涙スプレーなんかを、
パク・ハさんに持っていただくようにした方が、良いのではないですか?」
ヨン・テヨン本部長。優しげな容貌のイケメンなうえに、紛れもない御曹司。
仕事もできて次期社長としても文句のつけようがない。
だが、しかし、恋人のパク・ハさんのこととなると・・・何かが、少し、狂うことがある。
「フライパンで殴られてフライパンの方が変形するなんて・・・・そいつの頭の方が特殊です。
身を守るために攻撃するのであれば、やはり重さは物を言います。」
私は真面目くさって続ける。
「普通の強度の頭、要するに石頭でない暴漢に襲われたとしても、女性がフライパンを振りかぶるのは大変でしょう。
やはり、フライパンは、護身用には向かないかと思われます。」
本部長も真面目な顔で聞き入ってくれている。
「パク・ハさんが持たれるにちょうど良い護身用具は、部下に調べさせて後でお持ちします。」
「え?そうですか?・・・ありがとうございます。」
本部長は嬉しそうに頷いた。
この人の弱みがパク・ハさんであることは明白だ。
「本部長。今のお話で思いついたのですが・・・」
私から別の提案をさせていただこう。
「フライパンと言えば・・・
本来の使用目的である調理器具として見た場合、熱伝導、焦げ付きにくさ、そういったところが主婦の目に留まる要素かと思います。
そこを重視すればやはり厚みを増すことが手っ取り早い。
そうなれば、軽量化は犠牲にせざるを得ず、女性には重い、ということになります。
そこで、提案なのですが・・・
熱伝導も良く焦げ付かず、更には今までになく軽い、そんなフライパンを開発してはどうでしょう?」
「え?・・・あ、そう、ですね。」
私は一呼吸おいて続けた。
「主婦が望むフライパンを開発できれば、ヒット間違いなしです。
許可を頂ければ、早速リサーチに取り掛かりたいと思いますが?」
「え?あ、じゃあ、一応、企画書を・・・。」
「分かりました。
・・・それから、そのフライパンはパク・ハさんがお使いになられていたものですよね?」
「はい。そうです、けど・・・。」
「料理をなさるのにお困りでしょう?後でフライパンの方も新品をお持ちしますので、パク・ハさんにお渡しください。」
「え?・・・ありがとう、キムチーム長。」
「どういたしまして。」
私はにっこりと微笑む。
「では、後程。」
私は一礼して本部長室を後にした。
本部長は、私が仕えるに足ると認めた稀有な上司だ。
で、あればこそ、上司の軌道修正をさりげなくすること、それも部下の務めであると思う。
軽くて、使い勝手の良いフライパン。
さあ、忙しくなるぞ。
私は新しい企画に心躍らせたのである。
___________
またまたしょうもないもん書いてしまいました。(汗)
フライパンって、テフロン加工とか、マーブルコーティングとか、
結構、色んなものを試したのですが・・・熱伝導が良く、保温性も良いものって、重いんですよね。
あの重さは、武器になる!と思います。(笑)
それが変形したって言うんだから・・・どんな石頭かって言うんですよ。(笑)
テヨンの着眼点はそこでした。(苦笑)
チャーハンなど、炒めものをふるには軽い方が良いので・・・
軽さを追求して、チタン製のものも使ったのですが・・・軽いのは良いのだけど、食材がすぐ焦げる。とほほ・・・
軽くて、食材のすべりがよく(ふりやすいということ)、手入れのしやすいフライパンはないものか・・・
キムチーム長の着眼点はそこでした。
新商品・・・私が欲しいです。(手頃な値段で・・・)
キムチーム長ヨロシク!
~ Comment ~
Re: にやにやが止まらない…ふたたび? 阿波の局さまへ
阿波の局さま
いつも、ありがとうございます。^^
> あの…ありちゃんさんってどうしてこう…こういうの上手いんでしょ。
> たまりません。
そうですか?ありがとうございます。そんな褒められ方、小踊ってます。♪
> 今、実は新幹線の中。
お出掛けでしたか。移動中にありがとうございます。
私自身が書いてる途中に吹き出していたと言う・・・ww
> ついでに、そのフライパン開発されたら私も欲しい。
ねぇ!このフライパンを望む声は多かったです。
ホント、キムチーム長、またヒット商品を飛ばしそうです!!
いつも、ありがとうございます。^^
> あの…ありちゃんさんってどうしてこう…こういうの上手いんでしょ。
> たまりません。
そうですか?ありがとうございます。そんな褒められ方、小踊ってます。♪
> 今、実は新幹線の中。
お出掛けでしたか。移動中にありがとうございます。
私自身が書いてる途中に吹き出していたと言う・・・ww
> ついでに、そのフライパン開発されたら私も欲しい。
ねぇ!このフライパンを望む声は多かったです。
ホント、キムチーム長、またヒット商品を飛ばしそうです!!
Re: やーん!! k***様へ
k***様
あ、やっぱり?
k***さんのキムチーム長への愛はよく存じております。ww
ありがとうございます。
パク・ハのせいで天然になるテヨン。(笑)
キムチーム長の株を上げるだけです。ww
多分、これからも登場します。(だって、面白いんだもーん。)
あ、やっぱり?
k***さんのキムチーム長への愛はよく存じております。ww
ありがとうございます。
パク・ハのせいで天然になるテヨン。(笑)
キムチーム長の株を上げるだけです。ww
多分、これからも登場します。(だって、面白いんだもーん。)
にやにやが止まらない…ふたたび?
たまりません。
今、実は新幹線の中。
満席です。
むふっと声を出さずに読むのに苦労いたしました。
タブレットを覗きこんでにやにやしている怪しいおばさんになってます^^;
パク・ハが好きすぎてズレてしまっているテヨンのなんと可愛らしいこと。
ついでに、そのフライパン開発されたら私も欲しい。
モニタしたあげてもいいよってキムチーム長にお伝えください❗️