「長編(完結)」
記憶
記憶 12
イ・ガクは何事もなかったように東宮殿に戻って来た。
帰る道すがら臣下三人に出会ったが、イ・ガクはもとより、誰も何も言わなかった。
手綱を握る腕の中に小さなパク・ハを閉じ込めたまま、馬をゆっくりと歩かせる。
その後ろを三人の臣下は従った。
お二人がご無事で、良かった。
イ・ガクが、パク・ハの処遇をどうするつもりなのかは分からない。
彼女を『本来生きるべき時代に還す』ことを譲る気はなさそうではあるが、
その方法に見当がついているわけでもなさそうである。
そして、そのまま一日が過ぎた。
パク・ハの身体が消えそうな気配はなかった。
イ・ガクは後ろ髪をひかれる思いで政務に向かい、終わると急いでパク・ハの許に帰って来る。
あの時のように、ずっと手を握ったまま過ごすわけにはいかぬ。
私のおらぬ間に、消えるでない。
夜、パク・ハが寝入ったのを確認してイ・ガクは臣下三人を部屋に招き入れた。
「パッカの身体が消えるのを見たか?」
三人は首を横に振る。
「チョハはご覧になったのでございますか?」
「昨日だ。」
馬でパク・ハを連れ出した時。
「パッカは、私の傍に居たいと申した。」
「パッカヌイが?!」
「やはり、朝鮮に留置くべきです!」
「パク・ハ殿もそう望んで?!」
三人は色めき立って口々に叫ぶ。
イ・ガクは手を上げて制した。
「大人になったら迎えに参る、と約束を交わしたら・・・一瞬、消えた。」
三人はそれぞれに驚き、困ったような哀しんでいるような表情を浮かべている。
「どう思う?」
誰も何も答えなかった。
「・・・パッカが還らねばならぬのは、確かなようだ。」
王世子の呟きは、まるで自分に言い聞かせているようだ、と三人は思った。
「パッカ、起きよ。」
翌朝、空が白み始めた頃、イ・ガクはパク・ハを起こした。
少女は、うーんと眠そうに目を擦る。
「芙蓉池に参る。」
眠そうにしているパク・ハの手を引いて芙蓉池に向かう。
パク・ハはまだ目が覚めきっていないようで、ふらつきながらイ・ガクに従った。
ともすればイ・ガクに寄り掛かるようにして目を瞑る。
イ・ガクは溜息を漏らし、パク・ハを抱き上げた。
彼女はイ・ガクの首に両腕を回してしがみつき、大きくあくびをした。
微睡むパク・ハを抱いたままイ・ガクは歩を進める。
「パッカ、起きよ。」
パク・ハが目を開けたのを確認するとイ・ガクは彼女を地面に降ろした。
「見よ。」
イ・ガクが指差すのは芙蓉池の水面。
薄紅色の蓮の蕾が所狭しと並んでいる。
「わあぁ。きれい!」
パク・ハは完全に覚醒し歓声を上げた。
「喜ぶのはまだ早い。」
イ・ガクがそう言ったと同時に蓮の花が次々に開き始めた。
正にポンっと音がしそうなほど、突然パカッと花開く。
花が開くと同時にその芳香も漂い始めた。
「どうだ?」
「すごく、きれい!!」
パク・ハの笑顔にイ・ガクも微笑む。
「早起きは三文の得と申す。・・・三文どころではないと、私は思うがな。」
しばらく蓮の開花を楽しんでいたが、不意にイ・ガクが袖の袂から何かを取り出した。
「パッカ、これを。」
パク・ハは不思議そうにそれを受け取った。
「そなたのノリゲだ。名を刻んである。」
蓮の花を模した飾りを裏返せば、漢字で彼女の名が記してあった。小さくハングルも添えられている。
「くれるの?」
「そなたのだ、と申したであろう? 名が刻んである、と。」
「ありがとう!!」
パク・ハは嬉しそうに蓮のノリゲを胸に抱えた。
あ!と彼女は何か閃いたようにイ・ガクを見上げる。
イ・ガクも、何だ?と少女の顔を見た。
「もしかして、婚約指輪の代わり?」
幼き少女の大人ぶったその発言に、イ・ガクは一瞬驚いた顔をする。
「・・・そうであるな。・・・そんなところだ。」
「ありがとう!!」
再度そう言って、なお一層、大切そうにそのノリゲを見つめる。
「チョハ?」
「何だ?」
パク・ハはイ・ガクを見上げ、真面目な顔をしている。
「チョハ。・・・・結婚してもいいよ。」
イ・ガクは訝しげな顔をした。
「その返事は既に聞いたではないか。」
「そうじゃなくて・・・もし・・・もしも、だけどね。
私に会えなくなるようなことがあれば
他の誰かと結婚してもいいよ。」
イ・ガクは驚きに目を見開いた。
帰る道すがら臣下三人に出会ったが、イ・ガクはもとより、誰も何も言わなかった。
手綱を握る腕の中に小さなパク・ハを閉じ込めたまま、馬をゆっくりと歩かせる。
その後ろを三人の臣下は従った。
お二人がご無事で、良かった。
イ・ガクが、パク・ハの処遇をどうするつもりなのかは分からない。
彼女を『本来生きるべき時代に還す』ことを譲る気はなさそうではあるが、
その方法に見当がついているわけでもなさそうである。
そして、そのまま一日が過ぎた。
パク・ハの身体が消えそうな気配はなかった。
イ・ガクは後ろ髪をひかれる思いで政務に向かい、終わると急いでパク・ハの許に帰って来る。
あの時のように、ずっと手を握ったまま過ごすわけにはいかぬ。
私のおらぬ間に、消えるでない。
夜、パク・ハが寝入ったのを確認してイ・ガクは臣下三人を部屋に招き入れた。
「パッカの身体が消えるのを見たか?」
三人は首を横に振る。
「チョハはご覧になったのでございますか?」
「昨日だ。」
馬でパク・ハを連れ出した時。
「パッカは、私の傍に居たいと申した。」
「パッカヌイが?!」
「やはり、朝鮮に留置くべきです!」
「パク・ハ殿もそう望んで?!」
三人は色めき立って口々に叫ぶ。
イ・ガクは手を上げて制した。
「大人になったら迎えに参る、と約束を交わしたら・・・一瞬、消えた。」
三人はそれぞれに驚き、困ったような哀しんでいるような表情を浮かべている。
「どう思う?」
誰も何も答えなかった。
「・・・パッカが還らねばならぬのは、確かなようだ。」
王世子の呟きは、まるで自分に言い聞かせているようだ、と三人は思った。
「パッカ、起きよ。」
翌朝、空が白み始めた頃、イ・ガクはパク・ハを起こした。
少女は、うーんと眠そうに目を擦る。
「芙蓉池に参る。」
眠そうにしているパク・ハの手を引いて芙蓉池に向かう。
パク・ハはまだ目が覚めきっていないようで、ふらつきながらイ・ガクに従った。
ともすればイ・ガクに寄り掛かるようにして目を瞑る。
イ・ガクは溜息を漏らし、パク・ハを抱き上げた。
彼女はイ・ガクの首に両腕を回してしがみつき、大きくあくびをした。
微睡むパク・ハを抱いたままイ・ガクは歩を進める。
「パッカ、起きよ。」
パク・ハが目を開けたのを確認するとイ・ガクは彼女を地面に降ろした。
「見よ。」
イ・ガクが指差すのは芙蓉池の水面。
薄紅色の蓮の蕾が所狭しと並んでいる。
「わあぁ。きれい!」
パク・ハは完全に覚醒し歓声を上げた。
「喜ぶのはまだ早い。」
イ・ガクがそう言ったと同時に蓮の花が次々に開き始めた。
正にポンっと音がしそうなほど、突然パカッと花開く。
花が開くと同時にその芳香も漂い始めた。
「どうだ?」
「すごく、きれい!!」
パク・ハの笑顔にイ・ガクも微笑む。
「早起きは三文の得と申す。・・・三文どころではないと、私は思うがな。」
しばらく蓮の開花を楽しんでいたが、不意にイ・ガクが袖の袂から何かを取り出した。
「パッカ、これを。」
パク・ハは不思議そうにそれを受け取った。
「そなたのノリゲだ。名を刻んである。」
蓮の花を模した飾りを裏返せば、漢字で彼女の名が記してあった。小さくハングルも添えられている。
「くれるの?」
「そなたのだ、と申したであろう? 名が刻んである、と。」
「ありがとう!!」
パク・ハは嬉しそうに蓮のノリゲを胸に抱えた。
あ!と彼女は何か閃いたようにイ・ガクを見上げる。
イ・ガクも、何だ?と少女の顔を見た。
「もしかして、婚約指輪の代わり?」
幼き少女の大人ぶったその発言に、イ・ガクは一瞬驚いた顔をする。
「・・・そうであるな。・・・そんなところだ。」
「ありがとう!!」
再度そう言って、なお一層、大切そうにそのノリゲを見つめる。
「チョハ?」
「何だ?」
パク・ハはイ・ガクを見上げ、真面目な顔をしている。
「チョハ。・・・・結婚してもいいよ。」
イ・ガクは訝しげな顔をした。
「その返事は既に聞いたではないか。」
「そうじゃなくて・・・もし・・・もしも、だけどね。
私に会えなくなるようなことがあれば
他の誰かと結婚してもいいよ。」
イ・ガクは驚きに目を見開いた。
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~ Comment ~
Re: て*****様へ
て*****さま
お返事遅くなってスミマセン。
いや、もうそんなに喜んで頂いて、嬉しいです。
(てか、待たせすぎ。汗)
イ・ガクのことを考えていたら(キャバクラ行っちゃうヤツ)王世子が降りてきました。(笑)
ラストスパートをかけて、次が最終話です。
いつも楽しんでくださってありがとうございます。
お返事遅くなってスミマセン。
いや、もうそんなに喜んで頂いて、嬉しいです。
(てか、待たせすぎ。汗)
イ・ガクのことを考えていたら(キャバクラ行っちゃうヤツ)王世子が降りてきました。(笑)
ラストスパートをかけて、次が最終話です。
いつも楽しんでくださってありがとうございます。
Re: ほ**様へ
ほ**さま
大人のパッカには誕生日プレゼントすら渡しそびれてましたもんね。
パッカも意地張って受け取らなかったし。(苦笑)
「も」に注目してくださってありがとうございます!
分かってくれて嬉しい!!
> チビでもやはりパッカ。
はい。そうなんですよ。パッカはパッカでしたね。
イ・ガク、どうするんでしょうね?
私も気になります。(って、もう書いてるっつーの!)
大人のパッカには誕生日プレゼントすら渡しそびれてましたもんね。
パッカも意地張って受け取らなかったし。(苦笑)
「も」に注目してくださってありがとうございます!
分かってくれて嬉しい!!
> チビでもやはりパッカ。
はい。そうなんですよ。パッカはパッカでしたね。
イ・ガク、どうするんでしょうね?
私も気になります。(って、もう書いてるっつーの!)
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