「長編(完結)」
目覚めたテヨン
目覚めたテヨン 12
通話ボタンをタップした。
「もしもし。」
「テヨンか?俺だ。寝ていたのか?」
「はい。」
「起こして悪かったな。大丈夫か?ソリさんが心配していたぞ。」
「大丈夫です。」
僕は、ベッドに腰掛けた。
「何を話したんだ?倒れるなんて。」
倒れると言うほどではなかったけれど、大叔母がそう言ったのだろう。
イ・ガクのことを思い出したことや、大叔母と話した内容などを社長に告げ、彼の名はイ・ガクです、と付け加えた。
社長は、そうか、知らなかったよ、と呟いた。
そう言えば・・・。
「社長。どうして、僕がホン秘書と婚約していたことを教えてくれなかったんですか?」
「お前がしたことじゃあないだろう?」
そりゃ、正確にはそうだけど・・・。
「1年以上も前のことだ。それに、仕事には関係ないからな。」
どれだけ、仕事人間なんだよ・・・。
「お前は期待以上に成果を上げてくれたから、誰もとやかく言いはしないさ。気にするな。」
社長の言う通りには違いなかった。今では僕も社内で、いや、社外でも、それなりの発言力を有している。
「テヨン。明日も休んでいいから、病院へ行け。」
「え?・・・大丈夫です。」
「これは、社長命令だ。分かったな。」
「・・・分かりました。」
通話を終え、スマホをベッドに投げ出す。そのまま、自分自身もベッドに大の字になった。
社長命令?・・・大叔母様命令だろ。
社長の僕への気遣いには違いなかったが、なんだか可笑しくて独りくすくすと笑った。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
イ・ガクと僕。
別人なのは分かった。その確信を得たと思ったとき、心が軽くなった気がした。
しかし、もっと別の感情を引き出されてもいた。
それは、海での事件を思い出せないことに関わる。
テム従兄さんからNYに来るという連絡を受け、待ち合わせをした。そこまでははっきりと覚えている。
その後のことは、ボートの上でスケッチをしたことをおぼろげに覚えているだけで、いきなり病院のベッドの上から始まる記憶。
ボートの上で言い争いになった。
人から聞かされた話だったが、それは、記憶にはなくとも、当然あり得たことだと僕は納得していた。
テム従兄さんの、嫉妬と羨望が入り混じった視線をいつも感じていた。
いつしか恨みにも似た感情が混じり始めていたことも。
祖母は僕に対して、大きな愛情を注いでくれていた。
テム従兄さんは、それを欲しがっていた。
祖母が会社のことを話題にする度、僕は何かとはぐらかしては逃げていたが、従兄さんは、祖母を支えようとしていた。
従兄さんが会社に入って勉強すると言ったとき、僕は絵の勉強をすると言った。
僕が祖母のもとを離れ、傍に従兄さんが居れば、祖母の愛情はテム従兄さんのものになると思った。
そうすれば、テム従兄さんの視線から逃れられると思った。
そうして、総てから逃げてNYへ向かった。
僕は、祖母の期待から逃げ出し、テム従兄さんの欲しているものを譲り渡した気でいた。
ところが、祖母は変わらなかった。僕に期待し続け、帰国を促してくる。
僕は気付いていなかったが、従兄さんの欲しいものを譲ってあげたつもりでいたその傲慢さもまた、従兄さんの苦しみを増す結果になっていた。
僕が祖母から逃げなければ、テム従兄さんの視線から逃げようとせず向き合っていれば、海での事件は起きなかったはずだ。誰も苦しまなかったし、祖母も亡くならずにすんだかも知れない。
思い出せないんじゃない。思い出したくないんだ。
ボートの上で言い争い、従兄さんに海に落とされた。
その事実を思い出してしまったら、そういう結果を導いたのは、結局のところ僕自身だったと認めざるを得なくなる。
そのことが何よりも苦しく、恐ろしく、辛い。
イ・ガクが僕だったのなら、たとえわずかの間だったとしても祖母の期待に応え、祖母を喜ばせることができた期間があった、ということだったのに・・・。
そう思って逃げることも、許されなくなった。
「誰か、僕を助けて。」
そう、口をついて出たとき、止め処もなく涙が溢れ出た。
涙を拭うこともせずに泣き続けた。
どこからともなく一匹の蝶が飛んできてひらひらと舞っている。
僕は、蝶を捕らえようとしたのか何なのか自分でも分からないまま、まるで、助けを求めるように手を伸ばした。
その先に優しく微笑むパク・ハさんの姿を見た。
「もしもし。」
「テヨンか?俺だ。寝ていたのか?」
「はい。」
「起こして悪かったな。大丈夫か?ソリさんが心配していたぞ。」
「大丈夫です。」
僕は、ベッドに腰掛けた。
「何を話したんだ?倒れるなんて。」
倒れると言うほどではなかったけれど、大叔母がそう言ったのだろう。
イ・ガクのことを思い出したことや、大叔母と話した内容などを社長に告げ、彼の名はイ・ガクです、と付け加えた。
社長は、そうか、知らなかったよ、と呟いた。
そう言えば・・・。
「社長。どうして、僕がホン秘書と婚約していたことを教えてくれなかったんですか?」
「お前がしたことじゃあないだろう?」
そりゃ、正確にはそうだけど・・・。
「1年以上も前のことだ。それに、仕事には関係ないからな。」
どれだけ、仕事人間なんだよ・・・。
「お前は期待以上に成果を上げてくれたから、誰もとやかく言いはしないさ。気にするな。」
社長の言う通りには違いなかった。今では僕も社内で、いや、社外でも、それなりの発言力を有している。
「テヨン。明日も休んでいいから、病院へ行け。」
「え?・・・大丈夫です。」
「これは、社長命令だ。分かったな。」
「・・・分かりました。」
通話を終え、スマホをベッドに投げ出す。そのまま、自分自身もベッドに大の字になった。
社長命令?・・・大叔母様命令だろ。
社長の僕への気遣いには違いなかったが、なんだか可笑しくて独りくすくすと笑った。
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イ・ガクと僕。
別人なのは分かった。その確信を得たと思ったとき、心が軽くなった気がした。
しかし、もっと別の感情を引き出されてもいた。
それは、海での事件を思い出せないことに関わる。
テム従兄さんからNYに来るという連絡を受け、待ち合わせをした。そこまでははっきりと覚えている。
その後のことは、ボートの上でスケッチをしたことをおぼろげに覚えているだけで、いきなり病院のベッドの上から始まる記憶。
ボートの上で言い争いになった。
人から聞かされた話だったが、それは、記憶にはなくとも、当然あり得たことだと僕は納得していた。
テム従兄さんの、嫉妬と羨望が入り混じった視線をいつも感じていた。
いつしか恨みにも似た感情が混じり始めていたことも。
祖母は僕に対して、大きな愛情を注いでくれていた。
テム従兄さんは、それを欲しがっていた。
祖母が会社のことを話題にする度、僕は何かとはぐらかしては逃げていたが、従兄さんは、祖母を支えようとしていた。
従兄さんが会社に入って勉強すると言ったとき、僕は絵の勉強をすると言った。
僕が祖母のもとを離れ、傍に従兄さんが居れば、祖母の愛情はテム従兄さんのものになると思った。
そうすれば、テム従兄さんの視線から逃れられると思った。
そうして、総てから逃げてNYへ向かった。
僕は、祖母の期待から逃げ出し、テム従兄さんの欲しているものを譲り渡した気でいた。
ところが、祖母は変わらなかった。僕に期待し続け、帰国を促してくる。
僕は気付いていなかったが、従兄さんの欲しいものを譲ってあげたつもりでいたその傲慢さもまた、従兄さんの苦しみを増す結果になっていた。
僕が祖母から逃げなければ、テム従兄さんの視線から逃げようとせず向き合っていれば、海での事件は起きなかったはずだ。誰も苦しまなかったし、祖母も亡くならずにすんだかも知れない。
思い出せないんじゃない。思い出したくないんだ。
ボートの上で言い争い、従兄さんに海に落とされた。
その事実を思い出してしまったら、そういう結果を導いたのは、結局のところ僕自身だったと認めざるを得なくなる。
そのことが何よりも苦しく、恐ろしく、辛い。
イ・ガクが僕だったのなら、たとえわずかの間だったとしても祖母の期待に応え、祖母を喜ばせることができた期間があった、ということだったのに・・・。
そう思って逃げることも、許されなくなった。
「誰か、僕を助けて。」
そう、口をついて出たとき、止め処もなく涙が溢れ出た。
涙を拭うこともせずに泣き続けた。
どこからともなく一匹の蝶が飛んできてひらひらと舞っている。
僕は、蝶を捕らえようとしたのか何なのか自分でも分からないまま、まるで、助けを求めるように手を伸ばした。
その先に優しく微笑むパク・ハさんの姿を見た。
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