「長編(完結)」
目覚めたテヨン
目覚めたテヨン 2
僕はメガネをかけなおすと、電話の受話器を取った。
顧問弁護士に電話して、屋根部屋についての書類を持ってきてもらうことにした。
弁護士が、不動産管理会社の担当者を伴って、オフィスに来た。
カバンから、いくつかの書類を出す。
屋根部屋のある建物の売買契約書、登記簿、賃貸契約書、管理会社との契約書、その他いろいろ。
「どうされました?売却でもなさいますか?」
「いえ、そうではなく、ちょっと、どんな人が住んでるのか確認したくて。」
「では、こちらの賃貸契約書をご覧になってください。」
弁護士の指し示す書類を手に取って、ぱらぱらとめくった。
1階と、2階・・・屋根部屋のがない。
「あの・・・上の、屋根部屋の契約書はないんですか?」
管理会社の担当者が えっ というような顔をした。
「上の屋根部屋は、あなたが使っておられるのでしょう?
つい、最近、火災報知器 等々点検にお伺いしたはずですが?」
「あっ、そうですね。・・・問題なかったです。」
「上はまだ新しいですし、何も問題はなかった と、現場の者からも報告を受けております。
あ、上も誰かにお貸しになりますか?
屋根部屋にしては立派なんで、かえって、借り手も見つかりにくいかも知れませんが・・・。」
「あ、いえ、そのままで。・・・時々、・・・ああ、そう、絵を描きたいときにあそこに行くので。」
うまく、ごまかせただろうか?
下の階の壁紙の張り替え とか、この建物の 前の持ち主が住んでいた部屋をリフォームして貸しましょう とか、
管理担当者が、いろいろ言っていたけれど、いいようにして下さい、とだけ伝えた。
彼は、自分の考え通りにできるのが嬉しそうだった。
弁護士たちは帰って行った。
あの屋根部屋の名義は僕。
賃貸契約はしていないのに、女性が住んでいる。
僕の身代わりが住んでいたと言う屋根部屋に、住んでいる君は誰なんだ?
オフィスの中をうろうろと歩き回った。
どういうことだ?
女性が住んでいた。しかも、見覚えがあるような・・・。
頭の中は、堂々巡りを繰り返す。
身代わりの男の住まい。
彼は、まだあそこに住んでいるのか?彼女と?
消息不明じゃないのか?
なんだか、癪に障った。
あのコ、「僕の身代わり」の彼女なのか?
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
社長室を尋ねると、ピョ社長が書類に目を通していた。
「よお、ヨンチーム長、今度の企画はどうだ?」
「はい。順調です。」
今 手がけている商品企画の報告と、販売戦略について説明した。
社長は頷きながら、別の書類にサインをすると、秘書に手渡して、ふと、僕を見た。
「ところで、ヨンチーム長。君の昇進の話が出ているんだがね。」
「え?・・・もう少し、勉強した方がいいかな と、思っているんですが・・・。」
「一度は、代表職にまで就いているからな。このまま チーム長 というのもおかしな話なんだ。」
社長は、困ったように息を吐く。 そして、応接室に入るよう促された。
秘書がコーヒーを置いて出ていく。
バタン。
ドアが閉まったのを確認して、社長は僕を見た。
「テヨン。 君は、ここの所、次々にヒットを飛ばしてる。例え、代表になったとしても、誰も文句は言わないだろうよ。」
ピョ社長は、二人きりになると、僕を名前で呼ぶ。テヨンと。
僕は、目をつむった。・・・考えをまとめたい。
僕はおばあ様の期待に、応えらているのだろうか?
「まあ、代表になる、ならないは、役員会の承認も要るからな。・・・次の辞令で━━━。」
「社長。」
目を開け、社長の言葉を遮った。いささか、失礼だったか。
「・・・あ、すみません。」
「ん、構わんよ。何だ?」
「屋根部屋のことなんですが・・・。」
僕は、社長に、屋根部屋とそこに住む女性のことを、矢継ぎ早に質問した。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
自分自身のオフィスに戻って、デスクに着いた。
ふーっと息を吐く。
彼女の名前は、やはりパク・ハ だった。
パク・ハ さんは、この会社に勤めていた時期もあり、予想通り、僕の身代わりの男が大切にしていた女性だった。
屋根部屋で同居していたと聞かされて、今更ながら、狼狽えてしまった。
彼の消息はやはり不明だという。
今は、パク・ハ さん 一人があの屋根部屋に住んでいる。
彼はいなくなっってしまった、もう会えない、と彼女は言っていたらしい。
ピョ社長は、彼が戻って来るかもしれないからと、そのまま、屋根部屋に住んでもらうことを提案したそうだ。
社長は、僕が目覚めた後、僕の社会復帰のために奔走していて、パク・ハさんのことをすっかり忘れてしまっていたと言った。
社長も、僕も、身代わりの男には、大恩がある。
もし、あの屋根部屋の売却などを考えているのなら、彼女の住居を保障してやってほしい。
社長はそう言って、頭を下げるほど、身代わりの男に感謝し、信頼を寄せていた。
おばあ様。僕は、彼の代わりができていますか?
「僕の身代わり」が、彼のはずだったのに、僕は、彼に「なり代わらなければならない」という気にさせられる。
そのぐらい、彼の存在は大きかった。
僕が目覚めてから、社長の前にも、僕の前にも現れていないのに。
おまけに、パク・ハさんの存在を知って、なんだか、とてもイライラするんだ、自分に。
彼女には、会ったことがある気がする。絶対。・・・でも、どこでだったか、思い出せない。
長く昏睡状態だったため、僕には、記憶障害があった。
NYで、テム従兄さんに会ったことを覚えていない。
ボートの上で、絵を描いたような記憶はあるが、誰かと一緒だったかと聞かれると、はっきりしない。
だから、テム従兄さんに殴られて海に落ちたことも、僕自身の記憶にはない。
携帯に残された写真を見て、警察で従兄さんがそう言っていたと聞かされて、そうなのかと思うだけだった。
僕ではない僕のしてきたこと、本当の僕が体験したはずのこと、それらを人から聞かされれば聞かされるほど、訳がわからなくなる。
彼女のことは、自分で思い出したい と、心から思った。
顧問弁護士に電話して、屋根部屋についての書類を持ってきてもらうことにした。
弁護士が、不動産管理会社の担当者を伴って、オフィスに来た。
カバンから、いくつかの書類を出す。
屋根部屋のある建物の売買契約書、登記簿、賃貸契約書、管理会社との契約書、その他いろいろ。
「どうされました?売却でもなさいますか?」
「いえ、そうではなく、ちょっと、どんな人が住んでるのか確認したくて。」
「では、こちらの賃貸契約書をご覧になってください。」
弁護士の指し示す書類を手に取って、ぱらぱらとめくった。
1階と、2階・・・屋根部屋のがない。
「あの・・・上の、屋根部屋の契約書はないんですか?」
管理会社の担当者が えっ というような顔をした。
「上の屋根部屋は、あなたが使っておられるのでしょう?
つい、最近、火災報知器 等々点検にお伺いしたはずですが?」
「あっ、そうですね。・・・問題なかったです。」
「上はまだ新しいですし、何も問題はなかった と、現場の者からも報告を受けております。
あ、上も誰かにお貸しになりますか?
屋根部屋にしては立派なんで、かえって、借り手も見つかりにくいかも知れませんが・・・。」
「あ、いえ、そのままで。・・・時々、・・・ああ、そう、絵を描きたいときにあそこに行くので。」
うまく、ごまかせただろうか?
下の階の壁紙の張り替え とか、この建物の 前の持ち主が住んでいた部屋をリフォームして貸しましょう とか、
管理担当者が、いろいろ言っていたけれど、いいようにして下さい、とだけ伝えた。
彼は、自分の考え通りにできるのが嬉しそうだった。
弁護士たちは帰って行った。
あの屋根部屋の名義は僕。
賃貸契約はしていないのに、女性が住んでいる。
僕の身代わりが住んでいたと言う屋根部屋に、住んでいる君は誰なんだ?
オフィスの中をうろうろと歩き回った。
どういうことだ?
女性が住んでいた。しかも、見覚えがあるような・・・。
頭の中は、堂々巡りを繰り返す。
身代わりの男の住まい。
彼は、まだあそこに住んでいるのか?彼女と?
消息不明じゃないのか?
なんだか、癪に障った。
あのコ、「僕の身代わり」の彼女なのか?
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社長室を尋ねると、ピョ社長が書類に目を通していた。
「よお、ヨンチーム長、今度の企画はどうだ?」
「はい。順調です。」
今 手がけている商品企画の報告と、販売戦略について説明した。
社長は頷きながら、別の書類にサインをすると、秘書に手渡して、ふと、僕を見た。
「ところで、ヨンチーム長。君の昇進の話が出ているんだがね。」
「え?・・・もう少し、勉強した方がいいかな と、思っているんですが・・・。」
「一度は、代表職にまで就いているからな。このまま チーム長 というのもおかしな話なんだ。」
社長は、困ったように息を吐く。 そして、応接室に入るよう促された。
秘書がコーヒーを置いて出ていく。
バタン。
ドアが閉まったのを確認して、社長は僕を見た。
「テヨン。 君は、ここの所、次々にヒットを飛ばしてる。例え、代表になったとしても、誰も文句は言わないだろうよ。」
ピョ社長は、二人きりになると、僕を名前で呼ぶ。テヨンと。
僕は、目をつむった。・・・考えをまとめたい。
僕はおばあ様の期待に、応えらているのだろうか?
「まあ、代表になる、ならないは、役員会の承認も要るからな。・・・次の辞令で━━━。」
「社長。」
目を開け、社長の言葉を遮った。いささか、失礼だったか。
「・・・あ、すみません。」
「ん、構わんよ。何だ?」
「屋根部屋のことなんですが・・・。」
僕は、社長に、屋根部屋とそこに住む女性のことを、矢継ぎ早に質問した。
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自分自身のオフィスに戻って、デスクに着いた。
ふーっと息を吐く。
彼女の名前は、やはりパク・ハ だった。
パク・ハ さんは、この会社に勤めていた時期もあり、予想通り、僕の身代わりの男が大切にしていた女性だった。
屋根部屋で同居していたと聞かされて、今更ながら、狼狽えてしまった。
彼の消息はやはり不明だという。
今は、パク・ハ さん 一人があの屋根部屋に住んでいる。
彼はいなくなっってしまった、もう会えない、と彼女は言っていたらしい。
ピョ社長は、彼が戻って来るかもしれないからと、そのまま、屋根部屋に住んでもらうことを提案したそうだ。
社長は、僕が目覚めた後、僕の社会復帰のために奔走していて、パク・ハさんのことをすっかり忘れてしまっていたと言った。
社長も、僕も、身代わりの男には、大恩がある。
もし、あの屋根部屋の売却などを考えているのなら、彼女の住居を保障してやってほしい。
社長はそう言って、頭を下げるほど、身代わりの男に感謝し、信頼を寄せていた。
おばあ様。僕は、彼の代わりができていますか?
「僕の身代わり」が、彼のはずだったのに、僕は、彼に「なり代わらなければならない」という気にさせられる。
そのぐらい、彼の存在は大きかった。
僕が目覚めてから、社長の前にも、僕の前にも現れていないのに。
おまけに、パク・ハさんの存在を知って、なんだか、とてもイライラするんだ、自分に。
彼女には、会ったことがある気がする。絶対。・・・でも、どこでだったか、思い出せない。
長く昏睡状態だったため、僕には、記憶障害があった。
NYで、テム従兄さんに会ったことを覚えていない。
ボートの上で、絵を描いたような記憶はあるが、誰かと一緒だったかと聞かれると、はっきりしない。
だから、テム従兄さんに殴られて海に落ちたことも、僕自身の記憶にはない。
携帯に残された写真を見て、警察で従兄さんがそう言っていたと聞かされて、そうなのかと思うだけだった。
僕ではない僕のしてきたこと、本当の僕が体験したはずのこと、それらを人から聞かされれば聞かされるほど、訳がわからなくなる。
彼女のことは、自分で思い出したい と、心から思った。
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