「短編集」
読みきり
夏の願い
玄関のロックを解除した。
パッカを起こさないように、そーっとドアを開けて忍び込むように中へ・・・。
ダイニングキッチンに灯りが点いている。
忍び足でダイニングを覗くと・・・パッカがテーブルに突っ伏して寝入っていた。
僕の気配に気づいて、彼女はパッと目を覚ます。
「あっ!テヨンさん、おかえりなさい。
いつの間にか眠っちゃって・・・。すぐ、食事、温めるね。」
「いいよ。疲れてるんだろ?
僕は大丈夫だから。
こんな所で寝てないで、寝室で寝てくれよ。」
「ありがとう。テヨンさん。
・・・ホントに大丈夫?」
「自分の食事を温め直すぐらい、できるよ。ゆっくり、寝てていいよ。」
「・・・ごめんね。」
そう言いながら欠伸をする。
「いいよ。ほら、眠そうじゃないか。」
パッカの瞼は重そうで、疲れているのが見て取れる。
ごめん、と繰り返す彼女を寝室に追いやった。
僕は、物分りの良い夫を演じている、だけ。
眠る前に、パッカがちゃんと用意してくれた食事を、一人で、味わう。
最近は仕事が忙しくて、屋根部屋に戻るのは深夜だ。
パッカは文句も言わずにいてくれる。
自分だって仕事があるのに、ちゃんと家事もやってくれる。
感謝はしているんだ。
でも、欲張りな僕がいて・・・
もっと、もっと、君に触れたい。
だけど
疲れて眠るパッカを見ると申し訳なくて、そっと抱きしめて眠るのが精一杯。
今夜も寝息を立てるパッカの隣に滑り込んだ。
キスをしても目を覚ます気配はない。
そんな日が、続いている。
「今日はミミと会うんだろう?よろしく伝えて。」
パッカの店は定休日。
「じゃ、行ってくるね。」
「ええ。伝えるわ。
気をつけてね。いってらっしゃい。」
いつものように、パッカの唇に軽く触れるだけのキスをする。
笑顔の彼女に見送られ屋根部屋を後にした僕は、仕事に向かった。
社外で打ち合わせを終えて戻ろうとした時だった。
ガラスの向こう側に、パッカの姿!
嬉しくなって、思わず外に駆け出した。
パッカ!
と呼びかけようとしたのに・・・
動けなく、なる。
パッカが嬉しそうに手を振って駆け寄って行く先には・・・
僕の知らない男・・・。
男 もパッカと同じように、嬉しそうに彼女を迎えて・・・
すぐ近くのマンションに、二人で一緒に消えてった。
パッカ。
ミミと会うんじゃなかったの?
最近、定休日はミミと会っていると話していたのに・・・。
嘘だったの?
ずっとその男と会っていたの?
心の奥で、パリンと音を立てて・・・何かが壊れた。
君の優しさに甘えて、仕事にかまけていたから?
そう言えば、メールも、電話も短くて・・・。
惜しんだつもりはなかったけれど・・・君の為に時間を割いて、なかったから?
でも、それでも、毎日キスを交わして出かけてたじゃないか?
毎朝、笑顔で見送ってくれてただろう?
僕だけを愛していると、言ったじゃないか!
自責の念と、彼女を責めるもう一人の自分。
心は引き裂かれて、頭がおかしくなりそうだ!
「ああ、キムチーム長?
急遽、他に片付ける用件が出来たので、社に戻るのが遅くなります。」
かろうじて残っていた理性で電話をかけた。
鉛のように重くなった身体を引きずるようにして、最初にいた商業ビルに戻る。
呆然と、ガラス越しにマンションを見つめていた。
かなり時間が経って、パッカが出てきた。
逃がさない!
全速力で駆け出した。
「パッカ!!」
人目も気にせず、大声で叫ぶ。
「テヨンさん!どうしてここに・・・?」
大きな瞳をさらに大きく見開いて、パッカが驚いている。
感情を抑えるなんて・・・とても、無理だった。
どす黒い気持ちとともに、荒く言葉を投げつける。
「パッカ、何をしていたの?
ミミと会っているはずじゃなかったの?
・・・一緒にいた男は誰?」
最後の一言だけは、力なく小声になった。
「あーあ、バレちゃった。
ごめんなさい、隠してて。」
僕とは対照的に、パッカは微笑んで答えた。
えっ?あっさり認めるの?
さっきよりも更に大きな衝撃を受けて・・・
心も身体も、バラバラに壊れていく、ようだ・・・。
「内緒にして、ビックリさせたかったのに。」
「・・・充分に驚いてるよ。」
もう、これ以上の言葉を、パッカの口から聞く勇気が、ない。
でも
君を失いたくない。
君を失う訳にはいかないんだよ!
「・・・ごめん、パッカ。」
「そうよ。テヨンさんが悪いのよ。」
・・・やっぱり、そうなんだね。
僕が、君に甘えすぎていた、から・・・
「海に行こう、なんて言うから。」
へっ?
はい?・・・海?
確かに言ったけど・・・それが浮気の原因?
「海と言えば、水着が必須でしょ?
夏本番まで、もう日がないもの。
困ってたら、ミミが紹介してくれたの。
すごく優秀なパーソナルトレーナーさんだって。」
パ、パーソナルトレーナー?
「定休日に通っていたの。
テヨンさんがいない時は、こっそり屋根部屋 でも教えられたメニューをこなしていたし。
ちょっとは効果が出てきたと思うけど、どう?」
腰に手を当てて、ウエストを強調して見せる。
「少しでも、テヨンさんに綺麗だと思われたかったから。」
バラバラだった心と身体が、あっという間に組み合った。
そうか、だから最近パッカは疲れて、よく寝ていたんだ・・・。
なぁんだ。
そうか、そうだよな。
僕に綺麗に見られたくって・・・。そっかぁ。
ん?でも、待てよ。
じゃ、あの男がパッカを指導しているのか?
手取り、足取り・・・?
それは・・・許せない!
今度は、猛烈な嫉妬心が湧き上がる。
「さっき、一緒にいた男がトレーナーなの?」
「え?彼のことも見ていたの?
・・・テヨンさん。
もしかして、私が浮気してると疑ってる?」
パッカが悪戯っぽく笑った。
「だって、仲良さそうに・・・」
「あの男性 は、オーナーさん!
実際に教えてくれるのは、女性のトレーナーさんよ。
私だって・・・男性に教えてもらうなんて、嫌だわ。」
ああ、良かった。
本当に
「良かった・・・。」
「私、テヨンさんから信用ないのね。」
あっ、いや・・・その・・・
「ごめん!パッカ!
疑ったりして、本当に、ごめん!」
平身低頭、謝った。
「いいわ。私も隠していたから・・・。
私も、ごめんなさい。」
パッカも律儀に頭を下げる。
でも、すぐに顔を上げて、にっと笑った。
「でも、一つぐらいお詫びのしるしを貰っちゃおっかっなぁ?
お願い、聞いてくれる?」
「どんな、お願い?」
一つでも、いくつでも、パッカのお願いなら叶えてあげたいよ。
「頑張ったご褒美に、水着、買ってくれる?」
「そんなの、お易い御用だよ。」
「ホント?やった!
じゃ、もう少し頑張ろう♪」
もちろん、僕が着てほしい水着を選ぶけど?
なんなら、僕がデザインしても・・・。
ああ、でも、ダメだ。
こんなにかわいいパッカの水着姿、他の奴に見せて堪るもんか!
そうだ!プライベートビーチを貸し切ろう。
さっきまでのショックはどこへやら、僕の頭はフル回転を始めた。
パッカを起こさないように、そーっとドアを開けて忍び込むように中へ・・・。
ダイニングキッチンに灯りが点いている。
忍び足でダイニングを覗くと・・・パッカがテーブルに突っ伏して寝入っていた。
僕の気配に気づいて、彼女はパッと目を覚ます。
「あっ!テヨンさん、おかえりなさい。
いつの間にか眠っちゃって・・・。すぐ、食事、温めるね。」
「いいよ。疲れてるんだろ?
僕は大丈夫だから。
こんな所で寝てないで、寝室で寝てくれよ。」
「ありがとう。テヨンさん。
・・・ホントに大丈夫?」
「自分の食事を温め直すぐらい、できるよ。ゆっくり、寝てていいよ。」
「・・・ごめんね。」
そう言いながら欠伸をする。
「いいよ。ほら、眠そうじゃないか。」
パッカの瞼は重そうで、疲れているのが見て取れる。
ごめん、と繰り返す彼女を寝室に追いやった。
僕は、物分りの良い夫を演じている、だけ。
眠る前に、パッカがちゃんと用意してくれた食事を、一人で、味わう。
最近は仕事が忙しくて、屋根部屋に戻るのは深夜だ。
パッカは文句も言わずにいてくれる。
自分だって仕事があるのに、ちゃんと家事もやってくれる。
感謝はしているんだ。
でも、欲張りな僕がいて・・・
もっと、もっと、君に触れたい。
だけど
疲れて眠るパッカを見ると申し訳なくて、そっと抱きしめて眠るのが精一杯。
今夜も寝息を立てるパッカの隣に滑り込んだ。
キスをしても目を覚ます気配はない。
そんな日が、続いている。
「今日はミミと会うんだろう?よろしく伝えて。」
パッカの店は定休日。
「じゃ、行ってくるね。」
「ええ。伝えるわ。
気をつけてね。いってらっしゃい。」
いつものように、パッカの唇に軽く触れるだけのキスをする。
笑顔の彼女に見送られ屋根部屋を後にした僕は、仕事に向かった。
社外で打ち合わせを終えて戻ろうとした時だった。
ガラスの向こう側に、パッカの姿!
嬉しくなって、思わず外に駆け出した。
パッカ!
と呼びかけようとしたのに・・・
動けなく、なる。
パッカが嬉しそうに手を振って駆け寄って行く先には・・・
僕の知らない男・・・。
すぐ近くのマンションに、二人で一緒に消えてった。
パッカ。
ミミと会うんじゃなかったの?
最近、定休日はミミと会っていると話していたのに・・・。
嘘だったの?
ずっとその男と会っていたの?
心の奥で、パリンと音を立てて・・・何かが壊れた。
君の優しさに甘えて、仕事にかまけていたから?
そう言えば、メールも、電話も短くて・・・。
惜しんだつもりはなかったけれど・・・君の為に時間を割いて、なかったから?
でも、それでも、毎日キスを交わして出かけてたじゃないか?
毎朝、笑顔で見送ってくれてただろう?
僕だけを愛していると、言ったじゃないか!
自責の念と、彼女を責めるもう一人の自分。
心は引き裂かれて、頭がおかしくなりそうだ!
「ああ、キムチーム長?
急遽、他に片付ける用件が出来たので、社に戻るのが遅くなります。」
かろうじて残っていた理性で電話をかけた。
鉛のように重くなった身体を引きずるようにして、最初にいた商業ビルに戻る。
呆然と、ガラス越しにマンションを見つめていた。
かなり時間が経って、パッカが出てきた。
逃がさない!
全速力で駆け出した。
「パッカ!!」
人目も気にせず、大声で叫ぶ。
「テヨンさん!どうしてここに・・・?」
大きな瞳をさらに大きく見開いて、パッカが驚いている。
感情を抑えるなんて・・・とても、無理だった。
どす黒い気持ちとともに、荒く言葉を投げつける。
「パッカ、何をしていたの?
ミミと会っているはずじゃなかったの?
・・・一緒にいた男は誰?」
最後の一言だけは、力なく小声になった。
「あーあ、バレちゃった。
ごめんなさい、隠してて。」
僕とは対照的に、パッカは微笑んで答えた。
えっ?あっさり認めるの?
さっきよりも更に大きな衝撃を受けて・・・
心も身体も、バラバラに壊れていく、ようだ・・・。
「内緒にして、ビックリさせたかったのに。」
「・・・充分に驚いてるよ。」
もう、これ以上の言葉を、パッカの口から聞く勇気が、ない。
でも
君を失いたくない。
君を失う訳にはいかないんだよ!
「・・・ごめん、パッカ。」
「そうよ。テヨンさんが悪いのよ。」
・・・やっぱり、そうなんだね。
僕が、君に甘えすぎていた、から・・・
「海に行こう、なんて言うから。」
へっ?
はい?・・・海?
確かに言ったけど・・・それが浮気の原因?
「海と言えば、水着が必須でしょ?
夏本番まで、もう日がないもの。
困ってたら、ミミが紹介してくれたの。
すごく優秀なパーソナルトレーナーさんだって。」
パ、パーソナルトレーナー?
「定休日に通っていたの。
テヨンさんがいない時は、こっそり
ちょっとは効果が出てきたと思うけど、どう?」
腰に手を当てて、ウエストを強調して見せる。
「少しでも、テヨンさんに綺麗だと思われたかったから。」
バラバラだった心と身体が、あっという間に組み合った。
そうか、だから最近パッカは疲れて、よく寝ていたんだ・・・。
なぁんだ。
そうか、そうだよな。
僕に綺麗に見られたくって・・・。そっかぁ。
ん?でも、待てよ。
じゃ、あの男がパッカを指導しているのか?
手取り、足取り・・・?
それは・・・許せない!
今度は、猛烈な嫉妬心が湧き上がる。
「さっき、一緒にいた男がトレーナーなの?」
「え?彼のことも見ていたの?
・・・テヨンさん。
もしかして、私が浮気してると疑ってる?」
パッカが悪戯っぽく笑った。
「だって、仲良さそうに・・・」
「あの
実際に教えてくれるのは、女性のトレーナーさんよ。
私だって・・・男性に教えてもらうなんて、嫌だわ。」
ああ、良かった。
本当に
「良かった・・・。」
「私、テヨンさんから信用ないのね。」
あっ、いや・・・その・・・
「ごめん!パッカ!
疑ったりして、本当に、ごめん!」
平身低頭、謝った。
「いいわ。私も隠していたから・・・。
私も、ごめんなさい。」
パッカも律儀に頭を下げる。
でも、すぐに顔を上げて、にっと笑った。
「でも、一つぐらいお詫びのしるしを貰っちゃおっかっなぁ?
お願い、聞いてくれる?」
「どんな、お願い?」
一つでも、いくつでも、パッカのお願いなら叶えてあげたいよ。
「頑張ったご褒美に、水着、買ってくれる?」
「そんなの、お易い御用だよ。」
「ホント?やった!
じゃ、もう少し頑張ろう♪」
もちろん、僕が着てほしい水着を選ぶけど?
なんなら、僕がデザインしても・・・。
ああ、でも、ダメだ。
こんなにかわいいパッカの水着姿、他の奴に見せて堪るもんか!
そうだ!プライベートビーチを貸し切ろう。
さっきまでのショックはどこへやら、僕の頭はフル回転を始めた。
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