同じ空の下

有名な温泉地の高級旅館。
緑に囲まれた離れに案内される。

夏の太陽はまだ高い。

「お客様・・・ええっと
キャンユー、スピーク、イングリッシュ？」

見事なカタカナ英語で仲居の女性が言った。

テヨンはくすりと笑って日本語で答える。

「英語もできますが、日本語も大丈夫です。
ああ、漢字で言われると分かりません。」

仲居は一瞬キョトンとして、くっくと笑った。

「失礼致しました。・・・私、英語は苦手なもので。
お客様は日本語がお上手でいらっしゃいますね。
私も漢字は喋れませんので、平仮名で話させて頂きます。」

テヨンのユーモアにユーモアで応えた。
なかなか頭もよく、宿のレベルの高さを感じさせてくれる。

「お使い頂く『浴衣』をお選びください。
花火大会もございますので、そちらに着て出かけて頂いても構いませんよ。」

女性用の浴衣が何種類か並べられた。

テヨンが通訳してやると、パク・ハは声を上げて喜んだ。嬉しそうに浴衣を吟味し始める。
そこは女性同士、ああでもない、こうでもないと盛り上がっているのだが、韓国語と日本語である。
テヨンはどうにも可笑しくなって、口許を綻ばせながら、彼女は英語ができますよ、と仲居に伝えた。
それを受けて、仲居も英語でパク・ハに話しかける。
カタカナ英語と言っても、きちんと意思の疎通ができているのだから、やはりサービス能力は高いと言えた。

テヨンは、旅行の新企画にこの宿を候補に入れようと思った。
仕事の役に立っているのだから、この旅行も意義があると言える。
実は無理矢理に休暇をねじこんでしまったことに、少し申し訳なさを感じていたのであるが、良い視察になったこととて大義名分を得た気がしていた。