「長編(連載中)」
花火
花火 6
花火が始まるまでには時間もある。
二人は案内されるまま『屋形』の中へ。
畳敷きの座敷が広がっていた。
八畳程もあるだろうか。二人には十分な広さと言える。
広めの座卓が置かれてあり、食事の準備も整えられていた。
パク・ハは目を丸くして食卓を見た後、テヨンを見上げた。
その様子がなんとも可愛くて、彼は微笑みながら頷く。
「よろしければ、お料理をお運び致します。」
「お願いします。」
二人が食卓に着いたのを確認し、男性は奥に引っ込んだ。
代わりに、失礼します、と先程の仲居が現れる。
「貴女でしたか。」
「はい。お帰りになられるまで、私がお世話させて頂きます。
どうぞ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」
「ありがとう。ところで・・・」
「はい、なんでございましょう。」
「もっと広い船もあるんですか?」
テヨンの問い掛けに少し驚いた顔をする。
「申し訳ございません。こちらでは、手狭でしたでしょうか?」
仲居はどう対処すべきかを考えている風だった。
テヨンは少し考えて、広い船に変えられますか?と言った。
仲居は、確認して参ります、と一礼して奥に引っ込む。
内心は慌てているのだろうが、その所作は落ち着き払っていた。
間もなくして障子がすらりと開いた。
先刻の男性従業員が姿を見せる。後ろには仲居の女性も控えていた。
「申し遅れました。私、当旅館の番頭をしております、平嶋と申します。数ある旅館の中から私共の旅館をお選びくださいましてありがとうございます。」
番頭の平嶋は名刺を差し出した。
テヨンはそれを受け取る。
「こちらの座敷では、手狭でお気に召さないとお伺い致しましたが・・・」
「いや、気に入らないって訳じゃないんだけど、もう少し広くても良いかなと思って。」
「左様でございますか。
本日は花火大会でございますもので・・・、生憎、総ての船が出払っております。もし、よろしければ、船の貸し切り料は頂きませんので、こちらでお食事を召し上がって頂くという訳には参りませんでしょうか?」
いやはや、船のサービス料をおまけしようとは、太っ腹なことである。
「そんな!タダって訳には行かないでしょう!倍の金額を払いますから大きい船を準備してもらえませんか?」
「申し訳ございません。ご用意をしたくても船がないのです。
ご予約時に船の大きさを確認しなかった当方の落ち度でございます。船の貸し切り料をサービスさせて頂くと言う形での対応にさせては頂けないでしょうか?」
深く頭を下げる平嶋の後ろで、仲居も深々と頭を下げている。
宿泊人数が二人だけなのに、大きな屋形船を準備しなければならないなど考えもしなくて当然のことだろう。
ましてテヨンが予約を入れたのは当日の午前中なのだ。
屋形船を確保できたこと自体が奇跡と言える。
意地悪が過ぎたかな。
テヨンの正体を明かしていないからこそ、この宿のサービスの実態が解るというものだ。
「すみません。僕は随分と無茶を言ってお二人を困らせているようだ。」
「滅相もございません!」
「よく見れば、こじんまりとして良い感じだ。
調度類もセンスが良い。」
平嶋の顔が明るくなった。
「ありがとうございます!
・・・それでは?」
「ええ、料理を運んでください。」
「かしこまりました。」
「平嶋さん?」
「はい。」
「それ相応の料金は請求してください。」
テヨンは優雅に微笑んで見せる。
「・・・承知致しました。」
日本語での会話と、平嶋達の様子から不安を覚えたパク・ハが、テヨンの名を呼んだ。
「テヨンさん?何かあった?」
「ごめん、ごめん。」
テヨンは、今度はパク・ハに向かって笑みを向ける。
そして平嶋に視線を送り、英語で話し出した。
「彼はミスターヒラシマ、最高のもてなしをしてくれるそうだ。」
「・・・お任せください。
良い旅の思い出をお作り頂けますよう、従業員一同、精一杯の努力をさせて頂きます。」
平嶋は流暢な英語でそう言い、仲居共々また頭を下げたのだった。
二人は案内されるまま『屋形』の中へ。
畳敷きの座敷が広がっていた。
八畳程もあるだろうか。二人には十分な広さと言える。
広めの座卓が置かれてあり、食事の準備も整えられていた。
パク・ハは目を丸くして食卓を見た後、テヨンを見上げた。
その様子がなんとも可愛くて、彼は微笑みながら頷く。
「よろしければ、お料理をお運び致します。」
「お願いします。」
二人が食卓に着いたのを確認し、男性は奥に引っ込んだ。
代わりに、失礼します、と先程の仲居が現れる。
「貴女でしたか。」
「はい。お帰りになられるまで、私がお世話させて頂きます。
どうぞ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」
「ありがとう。ところで・・・」
「はい、なんでございましょう。」
「もっと広い船もあるんですか?」
テヨンの問い掛けに少し驚いた顔をする。
「申し訳ございません。こちらでは、手狭でしたでしょうか?」
仲居はどう対処すべきかを考えている風だった。
テヨンは少し考えて、広い船に変えられますか?と言った。
仲居は、確認して参ります、と一礼して奥に引っ込む。
内心は慌てているのだろうが、その所作は落ち着き払っていた。
間もなくして障子がすらりと開いた。
先刻の男性従業員が姿を見せる。後ろには仲居の女性も控えていた。
「申し遅れました。私、当旅館の番頭をしております、平嶋と申します。数ある旅館の中から私共の旅館をお選びくださいましてありがとうございます。」
番頭の平嶋は名刺を差し出した。
テヨンはそれを受け取る。
「こちらの座敷では、手狭でお気に召さないとお伺い致しましたが・・・」
「いや、気に入らないって訳じゃないんだけど、もう少し広くても良いかなと思って。」
「左様でございますか。
本日は花火大会でございますもので・・・、生憎、総ての船が出払っております。もし、よろしければ、船の貸し切り料は頂きませんので、こちらでお食事を召し上がって頂くという訳には参りませんでしょうか?」
いやはや、船のサービス料をおまけしようとは、太っ腹なことである。
「そんな!タダって訳には行かないでしょう!倍の金額を払いますから大きい船を準備してもらえませんか?」
「申し訳ございません。ご用意をしたくても船がないのです。
ご予約時に船の大きさを確認しなかった当方の落ち度でございます。船の貸し切り料をサービスさせて頂くと言う形での対応にさせては頂けないでしょうか?」
深く頭を下げる平嶋の後ろで、仲居も深々と頭を下げている。
宿泊人数が二人だけなのに、大きな屋形船を準備しなければならないなど考えもしなくて当然のことだろう。
ましてテヨンが予約を入れたのは当日の午前中なのだ。
屋形船を確保できたこと自体が奇跡と言える。
意地悪が過ぎたかな。
テヨンの正体を明かしていないからこそ、この宿のサービスの実態が解るというものだ。
「すみません。僕は随分と無茶を言ってお二人を困らせているようだ。」
「滅相もございません!」
「よく見れば、こじんまりとして良い感じだ。
調度類もセンスが良い。」
平嶋の顔が明るくなった。
「ありがとうございます!
・・・それでは?」
「ええ、料理を運んでください。」
「かしこまりました。」
「平嶋さん?」
「はい。」
「それ相応の料金は請求してください。」
テヨンは優雅に微笑んで見せる。
「・・・承知致しました。」
日本語での会話と、平嶋達の様子から不安を覚えたパク・ハが、テヨンの名を呼んだ。
「テヨンさん?何かあった?」
「ごめん、ごめん。」
テヨンは、今度はパク・ハに向かって笑みを向ける。
そして平嶋に視線を送り、英語で話し出した。
「彼はミスターヒラシマ、最高のもてなしをしてくれるそうだ。」
「・・・お任せください。
良い旅の思い出をお作り頂けますよう、従業員一同、精一杯の努力をさせて頂きます。」
平嶋は流暢な英語でそう言い、仲居共々また頭を下げたのだった。
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