「長編(完結)」
目覚めたテヨン
目覚めたテヨン 16
セナさんは、困ったような、哀しんでいるような、複雑な表情を浮かべた。
「・・・パク・ハは哀しみに沈んではいます。昨日も母があなたの名前を出したとき、無理に笑っていました。」
「彼が僕の振りをしていたから、お母さんに本当のことが言えないのでしょう?巻き込んですみません。」
口では謝ってみたものの、僕自身も複雑な心境なのだ。
そう、彼が「ヨン・テヨン」として色々なことを解決してくれた。
そして、その居場所を僕に譲るようにしていなくなり、僕が目覚めた。
僕が目覚めずに、彼がそのまま「ヨン・テヨン」であり続ければ良かったのかも知れない。
幾度となくそう思っては苦しんできた。
いっそ真実をお伝えしてはどうですか?お母さんに。
そう言おうとして止めた。病気の母親に言えなくて、彼女は僕に頼んでいるのだ。
「テヨンさん、違うんです。あなたは、パク・ハに会うべきなのよ!」
セナさんは突然立ち上がり、その反動でガタンと椅子が大きな音を立ててずれた。周りの客たちの注目を集めてしまい、あわてて、ごめんなさいと言って、座り直す。
「パク・ハは・・・彼のことを諦めてるんです。彼は、もう二度と現れることはないの。お願いします。どうか、パク・ハに会いに行ってやってください。」
「やはり僕は彼の身代わりでしかないようですね。その心に他の男が住んでいる女性を包み込めるほど、度量のある男ではありませんよ、僕は。」
「私だって、あなたを、彼の身代わりにしようだなんて思ってないわ!」
その口調が激しくなってきて、僕は驚いた。
最初に躊躇っていただけあってその決意は固いのだろう。
「パク・ハが、なぜ今もあの屋根部屋に暮らしているかご存知ですか?」
「彼が戻って来るのを待っているのでしょう?社長に勧められて。」
「社長の勧めも確かにあったでしょう。ですが、彼は戻ってこないんです。人がどう思おうと、パク・ハはそのことを知っています。あなたなら、二度と会えないと分かっている恋人と生活していた場所に、たった独りで暮らすことができますか?思い出だけを頼りに?」
それは・・・辛い選択だな。彼女の顔色にもそれが表れていた。笑顔を失ってしまって・・・。
病気の母親の前で恋人の振りをしてやるぐらい、どうということはないのかも知れない。
だけど、彼女の心が彼のものなのは明らかだ。
ああ、僕はパク・ハさんのことが好きなのか。
ここにきてやっと自分の気持ちを自覚した。
でも、だからと言って、恋人を失って傷心の彼女に近づけるのか?
まして、僕は彼にそっくりなんだろ?付け入るみたいで・・・嫌だ。
・・・恋人を失って・・・。「失う」?
「セナさん。イ・ガクが二度と現れないとはどういうことですか?」
「・・・彼は消えてしまったんです。」
「消えた?・・・さっきの手が消えたという話ですか?消えるところを見た?」
「私は見ていません。パク・ハがそう言ったんです。『彼は消えてしまった。もう二度と会えない。』って。他の人は失踪したと捉えたようですが、私は、本当に掻き消えたんだろうと思っています。」
人が掻き消える・・・。そんなことが、あるのか?
イ・ガクという人間はその存在の痕跡が全くない。ただ、人の記憶に残っているだけなのだ。そして僕という人間がいるから、皆、僕を彼だと思っている。それで何もかもが巧くいっている。
僕自身と、パク・ハさんを除けば。
「あの屋根部屋は誰のものです?・・・分かりませんか?パク・ハが待っているのは、イ・ガクさんではなくて、ヨン・テヨンさん、あなたなんです。」
思わず、セナさんの顔をじっと見た。
「イ・ガクさんが傍にいた時から、あなたの描いた絵を、ずっと大切に持っているんですよ。パク・ハは。」
僕の描いた絵だって?
「・・・パク・ハは哀しみに沈んではいます。昨日も母があなたの名前を出したとき、無理に笑っていました。」
「彼が僕の振りをしていたから、お母さんに本当のことが言えないのでしょう?巻き込んですみません。」
口では謝ってみたものの、僕自身も複雑な心境なのだ。
そう、彼が「ヨン・テヨン」として色々なことを解決してくれた。
そして、その居場所を僕に譲るようにしていなくなり、僕が目覚めた。
僕が目覚めずに、彼がそのまま「ヨン・テヨン」であり続ければ良かったのかも知れない。
幾度となくそう思っては苦しんできた。
いっそ真実をお伝えしてはどうですか?お母さんに。
そう言おうとして止めた。病気の母親に言えなくて、彼女は僕に頼んでいるのだ。
「テヨンさん、違うんです。あなたは、パク・ハに会うべきなのよ!」
セナさんは突然立ち上がり、その反動でガタンと椅子が大きな音を立ててずれた。周りの客たちの注目を集めてしまい、あわてて、ごめんなさいと言って、座り直す。
「パク・ハは・・・彼のことを諦めてるんです。彼は、もう二度と現れることはないの。お願いします。どうか、パク・ハに会いに行ってやってください。」
「やはり僕は彼の身代わりでしかないようですね。その心に他の男が住んでいる女性を包み込めるほど、度量のある男ではありませんよ、僕は。」
「私だって、あなたを、彼の身代わりにしようだなんて思ってないわ!」
その口調が激しくなってきて、僕は驚いた。
最初に躊躇っていただけあってその決意は固いのだろう。
「パク・ハが、なぜ今もあの屋根部屋に暮らしているかご存知ですか?」
「彼が戻って来るのを待っているのでしょう?社長に勧められて。」
「社長の勧めも確かにあったでしょう。ですが、彼は戻ってこないんです。人がどう思おうと、パク・ハはそのことを知っています。あなたなら、二度と会えないと分かっている恋人と生活していた場所に、たった独りで暮らすことができますか?思い出だけを頼りに?」
それは・・・辛い選択だな。彼女の顔色にもそれが表れていた。笑顔を失ってしまって・・・。
病気の母親の前で恋人の振りをしてやるぐらい、どうということはないのかも知れない。
だけど、彼女の心が彼のものなのは明らかだ。
ああ、僕はパク・ハさんのことが好きなのか。
ここにきてやっと自分の気持ちを自覚した。
でも、だからと言って、恋人を失って傷心の彼女に近づけるのか?
まして、僕は彼にそっくりなんだろ?付け入るみたいで・・・嫌だ。
・・・恋人を失って・・・。「失う」?
「セナさん。イ・ガクが二度と現れないとはどういうことですか?」
「・・・彼は消えてしまったんです。」
「消えた?・・・さっきの手が消えたという話ですか?消えるところを見た?」
「私は見ていません。パク・ハがそう言ったんです。『彼は消えてしまった。もう二度と会えない。』って。他の人は失踪したと捉えたようですが、私は、本当に掻き消えたんだろうと思っています。」
人が掻き消える・・・。そんなことが、あるのか?
イ・ガクという人間はその存在の痕跡が全くない。ただ、人の記憶に残っているだけなのだ。そして僕という人間がいるから、皆、僕を彼だと思っている。それで何もかもが巧くいっている。
僕自身と、パク・ハさんを除けば。
「あの屋根部屋は誰のものです?・・・分かりませんか?パク・ハが待っているのは、イ・ガクさんではなくて、ヨン・テヨンさん、あなたなんです。」
思わず、セナさんの顔をじっと見た。
「イ・ガクさんが傍にいた時から、あなたの描いた絵を、ずっと大切に持っているんですよ。パク・ハは。」
僕の描いた絵だって?
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