「短話シリーズ」
明星
かわたれ星
―――かわたれ星
明けの明星の異名。
「かわたれ」は「彼 は誰 」、
薄暗くて、彼が誰なのかよく分からない夜明け時を示す言葉。
成り立ちが同じ「たそがれ=誰 そ彼 」は夕方を表すが、「かわたれ」は明け方に用いられる。
その昔、昼と夜の境目である かわたれ時 や たそがれ時 は、この世とあの世がつながる「逢魔 が時 」と言われた。
すれ違う人の顔もはっきりと分からないこの時刻、この世のものではない妖魔や鬼があたりをうろつき、神隠しなどの怪異をもたらすと考えられていた。
(新聞のコラム欄より引用)
◇◇◇
未だ夜も明け染めぬ芙蓉池。
花もない芙蓉池。
薄暗がりにイ・ガクは独り佇んでいる。
そこにある総ての物質の輪郭は曖昧で、どこからが水面で、どこまでが水面なのか・・・
東の空に、かわたれ星だけが一際、明るく輝いていた。
暗い水面にぼんやりと人影が浮かんだ・・・ようにイ・ガクには見えた。
彼はゆらりと虚ろな視線を移した。
焦点の定まらぬ瞳に何を映しているのか。
「パッカ。」
何者かに向かって手を差し伸べる。
愛しき者の手が己が手を取ろうとする。
「そなたは・・・プヨンか?」
かわたれ星が瞬いた。
「・・・私を恨んでおるか?
すまぬ、プヨン。・・・すまぬ。」
かわたれ時―――
逢魔 が時 ―――
この世のものならぬものが現れるという・・・
私を
そなたの許へ
そなたの住まう地へ
連れて行ってくれ
この手を取れ
この身を連れ去れ
東の空が明るくなってくる。かわたれ星もだんだんとその光を弱めていく。
暗かった水面に人影はなく、イ・ガクの頬に涙が伝った。
東宮殿に戻ったイ・ガクをチサンが待ち構えていた。
「チョハ。逢魔 が時 に御一人で出歩くのはお止め下さい。」
イ・ガクは何も言わなかった。
「プヨン様がチョハをお連れになるはずがございません!命を賭してチョハを救われた方ではあられませんか!
チョハを連れ去るとすれば、それは鬼です。チョハのお望みの所へ行けるはずもございません。」
「・・・分かっておる。」
そう、そなたは命を賭した。
パッカになっても・・・
私の為に。
パッカ
そなたもかわたれ星を見ておるか?
彼 は誰
パク・ハはプヨンであり、プヨンはパク・ハ。
イ・ガクはテヨンであり、テヨンはイ・ガク。
やがて日が昇り、かわたれ星も空から姿を消す。
誰なのか判別がつかなかった者も、その姿がはっきりとする。
かわたれ星は
明るい朝を連れてくる。
明けの明星の異名。
「かわたれ」は「
薄暗くて、彼が誰なのかよく分からない夜明け時を示す言葉。
成り立ちが同じ「たそがれ=
その昔、昼と夜の境目である かわたれ時 や たそがれ時 は、この世とあの世がつながる「
すれ違う人の顔もはっきりと分からないこの時刻、この世のものではない妖魔や鬼があたりをうろつき、神隠しなどの怪異をもたらすと考えられていた。
(新聞のコラム欄より引用)
◇◇◇
未だ夜も明け染めぬ芙蓉池。
花もない芙蓉池。
薄暗がりにイ・ガクは独り佇んでいる。
そこにある総ての物質の輪郭は曖昧で、どこからが水面で、どこまでが水面なのか・・・
東の空に、かわたれ星だけが一際、明るく輝いていた。
暗い水面にぼんやりと人影が浮かんだ・・・ようにイ・ガクには見えた。
彼はゆらりと虚ろな視線を移した。
焦点の定まらぬ瞳に何を映しているのか。
「パッカ。」
何者かに向かって手を差し伸べる。
愛しき者の手が己が手を取ろうとする。
「そなたは・・・プヨンか?」
かわたれ星が瞬いた。
「・・・私を恨んでおるか?
すまぬ、プヨン。・・・すまぬ。」
かわたれ時―――
この世のものならぬものが現れるという・・・
私を
そなたの許へ
そなたの住まう地へ
連れて行ってくれ
この手を取れ
この身を連れ去れ
東の空が明るくなってくる。かわたれ星もだんだんとその光を弱めていく。
暗かった水面に人影はなく、イ・ガクの頬に涙が伝った。
東宮殿に戻ったイ・ガクをチサンが待ち構えていた。
「チョハ。
イ・ガクは何も言わなかった。
「プヨン様がチョハをお連れになるはずがございません!命を賭してチョハを救われた方ではあられませんか!
チョハを連れ去るとすれば、それは鬼です。チョハのお望みの所へ行けるはずもございません。」
「・・・分かっておる。」
そう、そなたは命を賭した。
パッカになっても・・・
私の為に。
パッカ
そなたもかわたれ星を見ておるか?
パク・ハはプヨンであり、プヨンはパク・ハ。
イ・ガクはテヨンであり、テヨンはイ・ガク。
やがて日が昇り、かわたれ星も空から姿を消す。
誰なのか判別がつかなかった者も、その姿がはっきりとする。
かわたれ星は
明るい朝を連れてくる。
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