「短話シリーズ」
明星
明けの明星
僕は逃げてきた。祖国から。
何不自由ない生活をさせてもらってるくせに、我儘なのはよくわかってる。
僕に会社を継がせたいというハルモニの愛が・・・重たかった。
周りは羨ましがっていたけど・・・
僕は、会社にもビジネスにも、何の魅力も感じなかった。
「英語を学びたい」「経営を勉強する」そう言って、ハルモニを説得した。
ハルモニは僕に甘いから、心配しながらも了承してくれた。
そうしてアメリカにやって来た。
僕の事を知らない人の中で生活するのは、楽しかった。
「御曹司」「お坊ちゃん」そんなレッテルを貼られないことが、嬉しかった。
元々興味のない会社経営の勉強は全く頭に入らず、好きな絵ばかりを描いている。
ただ、ここは僕がいるべき場所ではないと感じる。
心が落ち着かないんだ。
韓国にいた時と・・・同じ。
そんな僕が心許せるのは、子供の時からよく見る夢の中のヒト。
明るい光の中に優しい笑顔の女性 がいる。
はっきりと顔は見えないのだけど、すごく幸せな気持ちになる。
この夢を見たときは、必ず早朝に目が覚める。
そして、東の空に決まって「明けの明星」が輝いている。
「明けの明星」は朝を連れてくる星よ。
どんなに辛いことがあっても明るい朝が来るのよ。
亡くなったオモニの言葉を思い出す。
あの女性 はオモニだろうか?僕はマザコンなのかな・・・。
思わずのように苦笑いが漏れる。
オモニ、僕には明るい朝じゃない。現実に引き戻される朝だ。
ベッドから抜け出して、リビングの窓の外「明けの明星」を眺めていた。
僕に、明るい朝が来ることが・・・あるんだろうか?
「テヨン、こんな朝早くからどうしたんだ?」
物思いに耽っていると、陽気な声が聞こえてくる。
声の主はルームメイトのマイク。
彼は“如何にも”というアメリカ人。明るくてノリのいい奴だ。
「マイクこそ、また朝帰りかい?パーティーは楽しかった?」
「もちろん!テヨンも来ればよかったのに。」
誘われて、何回かパーティーにも行ったけど・・・僕には合わなかった。
皆のように楽しむことが、どうしてもできないんだ。
それが分かるらしくて、マイクは最近誘ってこなくなった。
「テヨンは何をしてたんだ?」
「星を見てた。」
「星?あぁ、好きな女のことを考えていたのか。」
まったく・・・また女の話かよ。
「女じゃないよ。星だよ。」
僕は溜息交じりに肩を竦めてみせた。
「だって、あの星はビーナスだぜ?愛しの女神を思ってたんだろ?」
「明けの明星」は金星。そうだな、ビーナスだ。
「僕には、そんなヒトはいないよ。」
「もったいない!お前はすごくモテるんだぜ。自覚がないようだけどな。
明後日もパーティーがあるから一緒に行こうぜ!
きっとビーナスに出会えるよ~。」
力無く笑う僕にウィンクして、マイクはバスルームに入って行った。
◇◇◇
蝶?
こんな街角で?
ひらひらと舞う蝶を眼で追って・・・僕は思わずのように手を伸ばしていた。
伸ばした手の先、蝶が羽を休めたのは―――
僕の・・・明星 。
こんな所に居たんだね!
テム従兄さんと待ち合わせた街角で、僕は僕の女神 を見つけた。
夢の中の女性 は君だったんだね?
そう、その笑顔だ。
現実に会えるなんて、思ってもなかったよ。
僕は「開けの明星」のように輝くその笑顔を
夢中になって、描いた。
オモニ。
「明けの明星」は僕にも明るい朝を連れて来てくれそうだよ。
何不自由ない生活をさせてもらってるくせに、我儘なのはよくわかってる。
僕に会社を継がせたいというハルモニの愛が・・・重たかった。
周りは羨ましがっていたけど・・・
僕は、会社にもビジネスにも、何の魅力も感じなかった。
「英語を学びたい」「経営を勉強する」そう言って、ハルモニを説得した。
ハルモニは僕に甘いから、心配しながらも了承してくれた。
そうしてアメリカにやって来た。
僕の事を知らない人の中で生活するのは、楽しかった。
「御曹司」「お坊ちゃん」そんなレッテルを貼られないことが、嬉しかった。
元々興味のない会社経営の勉強は全く頭に入らず、好きな絵ばかりを描いている。
ただ、ここは僕がいるべき場所ではないと感じる。
心が落ち着かないんだ。
韓国にいた時と・・・同じ。
そんな僕が心許せるのは、子供の時からよく見る夢の中のヒト。
明るい光の中に優しい笑顔の
はっきりと顔は見えないのだけど、すごく幸せな気持ちになる。
この夢を見たときは、必ず早朝に目が覚める。
そして、東の空に決まって「明けの明星」が輝いている。
「明けの明星」は朝を連れてくる星よ。
どんなに辛いことがあっても明るい朝が来るのよ。
亡くなったオモニの言葉を思い出す。
あの
思わずのように苦笑いが漏れる。
オモニ、僕には明るい朝じゃない。現実に引き戻される朝だ。
ベッドから抜け出して、リビングの窓の外「明けの明星」を眺めていた。
僕に、明るい朝が来ることが・・・あるんだろうか?
「テヨン、こんな朝早くからどうしたんだ?」
物思いに耽っていると、陽気な声が聞こえてくる。
声の主はルームメイトのマイク。
彼は“如何にも”というアメリカ人。明るくてノリのいい奴だ。
「マイクこそ、また朝帰りかい?パーティーは楽しかった?」
「もちろん!テヨンも来ればよかったのに。」
誘われて、何回かパーティーにも行ったけど・・・僕には合わなかった。
皆のように楽しむことが、どうしてもできないんだ。
それが分かるらしくて、マイクは最近誘ってこなくなった。
「テヨンは何をしてたんだ?」
「星を見てた。」
「星?あぁ、好きな女のことを考えていたのか。」
まったく・・・また女の話かよ。
「女じゃないよ。星だよ。」
僕は溜息交じりに肩を竦めてみせた。
「だって、あの星はビーナスだぜ?愛しの女神を思ってたんだろ?」
「明けの明星」は金星。そうだな、ビーナスだ。
「僕には、そんなヒトはいないよ。」
「もったいない!お前はすごくモテるんだぜ。自覚がないようだけどな。
明後日もパーティーがあるから一緒に行こうぜ!
きっとビーナスに出会えるよ~。」
力無く笑う僕にウィンクして、マイクはバスルームに入って行った。
◇◇◇
蝶?
こんな街角で?
ひらひらと舞う蝶を眼で追って・・・僕は思わずのように手を伸ばしていた。
伸ばした手の先、蝶が羽を休めたのは―――
僕の・・・
こんな所に居たんだね!
テム従兄さんと待ち合わせた街角で、僕は僕の
夢の中の
そう、その笑顔だ。
現実に会えるなんて、思ってもなかったよ。
僕は「開けの明星」のように輝くその笑顔を
夢中になって、描いた。
オモニ。
「明けの明星」は僕にも明るい朝を連れて来てくれそうだよ。
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