「長編(完結)」
目覚めたテヨン
目覚めたテヨン 3
オフィスの内線電話が鳴った。
社長だった。
今度、香港から株主のチャン会長が来るという。
僕は会うのが初めてだが、向こうは僕のことを知っているので、打ち合わせをしておこうと言われた。
思わず溜息が出る。
身代わりがいてくれたおかげで今の僕の地位があるのは事実だけど・・・。
やっぱり、絵を描きながらのんびり暮らすべきだったか・・・。
会社は、社長に任せて、遊んで暮らすこともできた。
でも、おばあ様のことを思うと、それではまずいんじゃないかと思った。
身代わりが、僕以上に僕だったように思えて、くやしくもあった。
こうして、ことあるごとに「僕の身代わり」がどうした、こうしたと、打ち合わせをしなければならないのは、
苦痛なことであった。
本当は、そんなに神経質になる必要もないのだけれど。
記憶障害があると言えば誰も怪しまない。
だけど、僕の知らない話をされることこそ苦痛に感じる。それが嫌で、やっていることだった。
エレベーターで、階上に上がる。
社長室のドアをノックした。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
チャン会長は、我が社の株を、全体の25%ほど保有している。
それで、テム従兄さんが取り入ろうとしていた。
だけど、チャン会長は、僕(の身代わり)に肩入れしてくれた。
行方不明だった娘さんがらみで、テム従兄さんが、いろいろやったから。
その時に代表職に着けた「ヨン・テヨン」が、そのまま、今の僕だと思っている。
と、そんな話だった。
娘は2人いて、行方不明だっのは妹の方。
以前聞いた話では、姉の方は、祖母の秘書もしていたことがあるが、テム従兄さんと共に、祖母の死に関わってもいる。
彼女は自首して、罪を償っていた。
それにしても、テム従兄さん、いろんな人、巻き込んで・・・。
テム従兄さんの、悪事の数々を知ってしまうのも苦痛だった。
だから、裁判の傍聴は避けてきたのだけど、会社に入った以上、知らなければならないことも多かった。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
チャン会長は、品の良い、美しい婦人だった。
社長室併設の応接室で、社長と、僕と、3人で談笑する。
そんなに堅苦しい話はしなかったが、チャン会長は、祖母の話に触れて涙を流して僕に詫びた。
「あなたのおばあ様のことでは、本当に申し訳ないと思っているわ。」
「・・・もう、済んだことです。それに、セナさんは、罪を償われているのですから・・・。」
実際、今さら誰かを責めて恨んでも仕方のないことだ。
「そう言っていただけると・・・。」
チャン会長は、上品に涙を拭うと、まっすぐに僕を見た。
「・・・それに、インジュの姉ですもの。許して下さるのね。
・・・インジュとは、仲良くしてる?」
今度は、いたずらっぽく微笑んで見せる。
僕は平静を装いながらも、困惑していた。
インジュ? 仲良くって・・・?
妹の方は、名前さえ聞かされてもいない。
いや、姉の方にだって、会ったこともないのだ。
思わず、社長の方を見た。
社長は小さく首を横に振った。社長も分からないらしい。
「また、屋根部屋で、インジュの手料理を一緒に食べたいわね。」
屋根部屋だって?
手料理を? また? 一緒に?
そうか!
彼が、屋根部屋でチャン会長と食事をしたことがあるんだな。
・・・インジュっていうのは、・・・もしかして、パク・ハさんのことか。
チャン会長の娘と、彼は親密で・・・母親にも認められてる?
・・・こうして、いろいろな人に関わってきたんだな。
僕の名前で。僕と同じ顔で。
身代わりをするなら、その記録ぐらい残しておけよ!
僕は微笑みながら、心の中で悪態をついた。
僕を名乗って、女のコと仲良くなって、その母親にも認められて・・・。
僕自身は彼女と会ってもいないのに・・・。
どう答えろって言うんだよ。
だいたい、女のコ 一人 残してどこ行ってんだよ?
彼女がかわいそうだろ?
・・・寂しそうだった、そう言えば・・・。
笑ったら、素敵だろうに。
いつのまにかパク・ハさんのことばかり考えていた。
「テヨンさん。明日はインジュを借りるわね? セナや、育ての母親と一緒に食事に行ってくるわ。」
チャン会長の言葉にハッとする。あわてて表情を取り繕った。
「どうぞ、楽しんできてください。」
ありきたりに、無難な返事をした。
社長が確認するように、言う。
「セナさんによろしくお伝えください。・・・パク・ハさんにも。」
「ええ、ありがとう。」
チャン会長は、優雅に立ち上がり、社長と僕、それぞれと握手を交わす。
そして、にこやかに、応接室を後にした。
社長だった。
今度、香港から株主のチャン会長が来るという。
僕は会うのが初めてだが、向こうは僕のことを知っているので、打ち合わせをしておこうと言われた。
思わず溜息が出る。
身代わりがいてくれたおかげで今の僕の地位があるのは事実だけど・・・。
やっぱり、絵を描きながらのんびり暮らすべきだったか・・・。
会社は、社長に任せて、遊んで暮らすこともできた。
でも、おばあ様のことを思うと、それではまずいんじゃないかと思った。
身代わりが、僕以上に僕だったように思えて、くやしくもあった。
こうして、ことあるごとに「僕の身代わり」がどうした、こうしたと、打ち合わせをしなければならないのは、
苦痛なことであった。
本当は、そんなに神経質になる必要もないのだけれど。
記憶障害があると言えば誰も怪しまない。
だけど、僕の知らない話をされることこそ苦痛に感じる。それが嫌で、やっていることだった。
エレベーターで、階上に上がる。
社長室のドアをノックした。
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チャン会長は、我が社の株を、全体の25%ほど保有している。
それで、テム従兄さんが取り入ろうとしていた。
だけど、チャン会長は、僕(の身代わり)に肩入れしてくれた。
行方不明だった娘さんがらみで、テム従兄さんが、いろいろやったから。
その時に代表職に着けた「ヨン・テヨン」が、そのまま、今の僕だと思っている。
と、そんな話だった。
娘は2人いて、行方不明だっのは妹の方。
以前聞いた話では、姉の方は、祖母の秘書もしていたことがあるが、テム従兄さんと共に、祖母の死に関わってもいる。
彼女は自首して、罪を償っていた。
それにしても、テム従兄さん、いろんな人、巻き込んで・・・。
テム従兄さんの、悪事の数々を知ってしまうのも苦痛だった。
だから、裁判の傍聴は避けてきたのだけど、会社に入った以上、知らなければならないことも多かった。
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チャン会長は、品の良い、美しい婦人だった。
社長室併設の応接室で、社長と、僕と、3人で談笑する。
そんなに堅苦しい話はしなかったが、チャン会長は、祖母の話に触れて涙を流して僕に詫びた。
「あなたのおばあ様のことでは、本当に申し訳ないと思っているわ。」
「・・・もう、済んだことです。それに、セナさんは、罪を償われているのですから・・・。」
実際、今さら誰かを責めて恨んでも仕方のないことだ。
「そう言っていただけると・・・。」
チャン会長は、上品に涙を拭うと、まっすぐに僕を見た。
「・・・それに、インジュの姉ですもの。許して下さるのね。
・・・インジュとは、仲良くしてる?」
今度は、いたずらっぽく微笑んで見せる。
僕は平静を装いながらも、困惑していた。
インジュ? 仲良くって・・・?
妹の方は、名前さえ聞かされてもいない。
いや、姉の方にだって、会ったこともないのだ。
思わず、社長の方を見た。
社長は小さく首を横に振った。社長も分からないらしい。
「また、屋根部屋で、インジュの手料理を一緒に食べたいわね。」
屋根部屋だって?
手料理を? また? 一緒に?
そうか!
彼が、屋根部屋でチャン会長と食事をしたことがあるんだな。
・・・インジュっていうのは、・・・もしかして、パク・ハさんのことか。
チャン会長の娘と、彼は親密で・・・母親にも認められてる?
・・・こうして、いろいろな人に関わってきたんだな。
僕の名前で。僕と同じ顔で。
身代わりをするなら、その記録ぐらい残しておけよ!
僕は微笑みながら、心の中で悪態をついた。
僕を名乗って、女のコと仲良くなって、その母親にも認められて・・・。
僕自身は彼女と会ってもいないのに・・・。
どう答えろって言うんだよ。
だいたい、女のコ 一人 残してどこ行ってんだよ?
彼女がかわいそうだろ?
・・・寂しそうだった、そう言えば・・・。
笑ったら、素敵だろうに。
いつのまにかパク・ハさんのことばかり考えていた。
「テヨンさん。明日はインジュを借りるわね? セナや、育ての母親と一緒に食事に行ってくるわ。」
チャン会長の言葉にハッとする。あわてて表情を取り繕った。
「どうぞ、楽しんできてください。」
ありきたりに、無難な返事をした。
社長が確認するように、言う。
「セナさんによろしくお伝えください。・・・パク・ハさんにも。」
「ええ、ありがとう。」
チャン会長は、優雅に立ち上がり、社長と僕、それぞれと握手を交わす。
そして、にこやかに、応接室を後にした。
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