「短編集」
海霧
海霧(きり)の彼方
こちらは、映画 『海霧(邦題:海にかかる霧)』 の二次創作になります。
完全ネタバレですし、映画の世界観を壊したくないと仰る方は閲覧ご注意ください。
__________
もしあの時、その呼びかけに応えていたなら・・・
もしあの時、更に強く呼びかけてくれていたなら・・・
その行く先は、変わっていたのだろうか?
もしあの時、先に目を覚ましたのが彼女でなかったなら・・・
その行く道は、違っていたのだろうか?
「ドンシクさん。」
ホンメは彼の名を呼んだ。
「ドンシクさん。」
目を開けようとしない彼の、その名をもう一度呼んだ。
「ドンシクさん。」
目を開けない彼を、揺すった。
その胸にホンメが自身の頭を預けたとき、彼が目を閉じたまま掠れる声で囁いた。
「家に帰らなきゃ。・・・家に・・・」
ホンメはドンシクの胸を離れ、隣に横たわる。
自身の胸を押さえ、嗚咽を漏らした。
「大丈夫。・・・ホンメ・・・」
ドンシクは起き上がらなかった。
むせび泣く彼女を慰めたかったのか・・・
ホンメの
ドンシクの
その胸に去来したものは何だったのか・・・
「ドンシクさん。・・・ありがとう。」
浜辺に横たわったまま聞いた、ホンメの最後の声。
ホンメが残したものは、左腕の傷を覆った布きれと足跡。
陸 を目指すその足跡を、ただ、見つめた。
その後を追っていたなら・・・
その人生は変わっていたのだろうか?
その後のことはよく覚えていない。
次に目を覚ましたのは病室で、ハルモ二が傍らにいた。
「ドンシク、ゆっくりとおやすみ。」
その言葉通りにゆっくりと眠りについた。
何日かして、海洋警察の人間が病室にやって来た。
「通報したのは俺です。海霧 で視界が悪くて・・・」
「立ち往生した?」
「・・・船長が少し船を走らせましたが、やはり危険だから、と船を停めました。」
「そこへ、大型貨物船が航行してきたわけですね。」
「・・・はい。」
海洋警察のその係官は、ドンシクと会話をしながらメモを取って行く。
「・・・あの、・・・船の・・・船長や、他の乗組員達は・・・」
係官は首を振り、残念ですが、と呟いた。
「貴方だけでも、無事で良かった。」
お大事にしてください、と彼は去って行った。
総ては海が飲み込んでしまった。
海霧 に閉ざされたあの日の出来事、総てを。
忘れようにも忘れられないあの日の記憶。
悪夢でありながら、甘酸っぱいとも言える切なさも残る夢。
海から離れ陸 に上がった今の人生は、あの日が導いたものなのか・・・
ドンシク自身にも分からない。
仕事が終わり食堂に行った。
どの店でもそうするように、ラーメンを注文する。
「アジュンマ。・・・青唐辛子がありますか?」
「ラーメンに?」
「はい。一つください。」
耳に飛び込んできたその会話に、思わずそちらを見た。
ただ顔を上げれば、その女性と子供が目に飛び込んで来た。
ほっそりとした華奢な背中の女性と、向かいの席に幼い少女とその弟だろうか。
少女がドンシクを見る。
その面差しは・・・
こちらに背を向けるその女性が、少女の口にラーメンを運んでやっている。
もしあの時、その呼びかけに応えていたのなら・・・
もしあの時、更に強く呼びかけてくれていたのなら・・・
その行く先は、変わっていたのだろうか?
もしあの時、先に目を覚ましたのが彼女でなかったのなら・・・
その行く道は、違っていたのだろうか?
本当のラーメン。
たっぷりの海鮮と、最後に青唐辛子。
ワタリガニにホヤ
タコやナマコ
牡蛎やサザエ
最後に
青唐辛子を入れないと・・・
船乗りの元祖ラーメン。
陸 に上がったドンシクも、食べることのなくなった船乗りのラーメン 。
船も、船長も、船の仲間も、
ホンメも、
ドンシク自身でさえも、
総ては海霧 に閉ざされた、海の彼方に。
海霧 の彼方に。
完全ネタバレですし、映画の世界観を壊したくないと仰る方は閲覧ご注意ください。
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もしあの時、その呼びかけに応えていたなら・・・
もしあの時、更に強く呼びかけてくれていたなら・・・
その行く先は、変わっていたのだろうか?
もしあの時、先に目を覚ましたのが彼女でなかったなら・・・
その行く道は、違っていたのだろうか?
「ドンシクさん。」
ホンメは彼の名を呼んだ。
「ドンシクさん。」
目を開けようとしない彼の、その名をもう一度呼んだ。
「ドンシクさん。」
目を開けない彼を、揺すった。
その胸にホンメが自身の頭を預けたとき、彼が目を閉じたまま掠れる声で囁いた。
「家に帰らなきゃ。・・・家に・・・」
ホンメはドンシクの胸を離れ、隣に横たわる。
自身の胸を押さえ、嗚咽を漏らした。
「大丈夫。・・・ホンメ・・・」
ドンシクは起き上がらなかった。
むせび泣く彼女を慰めたかったのか・・・
ホンメの
ドンシクの
その胸に去来したものは何だったのか・・・
「ドンシクさん。・・・ありがとう。」
浜辺に横たわったまま聞いた、ホンメの最後の声。
ホンメが残したものは、左腕の傷を覆った布きれと足跡。
その後を追っていたなら・・・
その人生は変わっていたのだろうか?
その後のことはよく覚えていない。
次に目を覚ましたのは病室で、ハルモ二が傍らにいた。
「ドンシク、ゆっくりとおやすみ。」
その言葉通りにゆっくりと眠りについた。
何日かして、海洋警察の人間が病室にやって来た。
「通報したのは俺です。
「立ち往生した?」
「・・・船長が少し船を走らせましたが、やはり危険だから、と船を停めました。」
「そこへ、大型貨物船が航行してきたわけですね。」
「・・・はい。」
海洋警察のその係官は、ドンシクと会話をしながらメモを取って行く。
「・・・あの、・・・船の・・・船長や、他の乗組員達は・・・」
係官は首を振り、残念ですが、と呟いた。
「貴方だけでも、無事で良かった。」
お大事にしてください、と彼は去って行った。
総ては海が飲み込んでしまった。
忘れようにも忘れられないあの日の記憶。
悪夢でありながら、甘酸っぱいとも言える切なさも残る夢。
海から離れ
ドンシク自身にも分からない。
仕事が終わり食堂に行った。
どの店でもそうするように、ラーメンを注文する。
「アジュンマ。・・・青唐辛子がありますか?」
「ラーメンに?」
「はい。一つください。」
耳に飛び込んできたその会話に、思わずそちらを見た。
ただ顔を上げれば、その女性と子供が目に飛び込んで来た。
ほっそりとした華奢な背中の女性と、向かいの席に幼い少女とその弟だろうか。
少女がドンシクを見る。
その面差しは・・・
こちらに背を向けるその女性が、少女の口にラーメンを運んでやっている。
もしあの時、その呼びかけに応えていたのなら・・・
もしあの時、更に強く呼びかけてくれていたのなら・・・
その行く先は、変わっていたのだろうか?
もしあの時、先に目を覚ましたのが彼女でなかったのなら・・・
その行く道は、違っていたのだろうか?
本当のラーメン。
たっぷりの海鮮と、最後に青唐辛子。
ワタリガニにホヤ
タコやナマコ
牡蛎やサザエ
最後に
青唐辛子を入れないと・・・
船乗りの元祖ラーメン。
船も、船長も、船の仲間も、
ホンメも、
ドンシク自身でさえも、
総ては
~ Comment ~
Re: やすべぇ様へ
やすべぇ様
> 役が憑依するというか?あの場面は
> 演じるとかいう次元のものではなく
> ドンシクそのものでしたね!
ホントに!パク・ユチョンを微塵も感じませんよね。
> 私も、どんよりと先に目を覚ましたのが、ドンシクだったら?
> と考えてみたりしましたがー
そうなんですよね。
後を追っていたら?とか、もう、いろいろ考えてしまって。
と言っても、最初に観たときは全然そんな余裕がなかったんですよ。
衝撃の展開に付いて行くのがやっとで・・・
最初の時は、私は「うっ」とか「ひっ」とか声に出しちゃってましたから、
えらい迷惑なヒトだったと思います。(^_^;)
> わたしが見たときも周りはユチョンペンばかりだったと思います。
> 都心を外れた映画館ですが、終わって、言葉にならない
> 思いで、目が潤んでる人が多かったとおもいます。
私が最初に見た映画館では、けっこう男性もおられて、ん?ペン?とか思ったんですよね。
いや、男性がペンではいけないわけではないのですが・・・。
でも、今回は、リクエストが集まっての上映でしたから、
(チケットを購入することでそれが投票となり、上映決定してから代金の支払いが発生する。)
どう考えてもペンばかりです。(ウチの旦那は私に動員された。)
そう言う意味でも、ユチョン人気はすごいし、ペンのパワーもすごいと思います。
> お話、どうもありがとう!思いは全部語ってくれました。
こちらこそ、コメントまで頂いてありがとうございます!
> 役が憑依するというか?あの場面は
> 演じるとかいう次元のものではなく
> ドンシクそのものでしたね!
ホントに!パク・ユチョンを微塵も感じませんよね。
> 私も、どんよりと先に目を覚ましたのが、ドンシクだったら?
> と考えてみたりしましたがー
そうなんですよね。
後を追っていたら?とか、もう、いろいろ考えてしまって。
と言っても、最初に観たときは全然そんな余裕がなかったんですよ。
衝撃の展開に付いて行くのがやっとで・・・
最初の時は、私は「うっ」とか「ひっ」とか声に出しちゃってましたから、
えらい迷惑なヒトだったと思います。(^_^;)
> わたしが見たときも周りはユチョンペンばかりだったと思います。
> 都心を外れた映画館ですが、終わって、言葉にならない
> 思いで、目が潤んでる人が多かったとおもいます。
私が最初に見た映画館では、けっこう男性もおられて、ん?ペン?とか思ったんですよね。
いや、男性がペンではいけないわけではないのですが・・・。
でも、今回は、リクエストが集まっての上映でしたから、
(チケットを購入することでそれが投票となり、上映決定してから代金の支払いが発生する。)
どう考えてもペンばかりです。(ウチの旦那は私に動員された。)
そう言う意味でも、ユチョン人気はすごいし、ペンのパワーもすごいと思います。
> お話、どうもありがとう!思いは全部語ってくれました。
こちらこそ、コメントまで頂いてありがとうございます!
3/9 21:49 に拍手コメントをくださった読者様へ
3/9 21:49 拍手ページからコメントをくださった読者様。
申し訳ありません。文字化けしてしまっていて、せっかくのコメントもお名前も分からずにおります。(>_<)
FC2側の問題だと思います。本当にスミマセン。
よろしかったら、再度ご連絡を頂けないでしょうか?
お願いします。m(__)m
申し訳ありません。文字化けしてしまっていて、せっかくのコメントもお名前も分からずにおります。(>_<)
FC2側の問題だと思います。本当にスミマセン。
よろしかったら、再度ご連絡を頂けないでしょうか?
お願いします。m(__)m
ドンシク
演じるとかいう次元のものではなく
ドンシクそのものでしたね!
私も、どんよりと先に目を覚ましたのが、ドンシクだったら?
と考えてみたりしましたがー
わたしが見たときも周りはユチョンペンばかりだったと思います。
都心を外れた映画館ですが、終わって、言葉にならない
思いで、目が潤んでる人が多かったとおもいます。
お話、どうもありがとう!思いは全部語ってくれました。