FX

「短編集」
番外編

ウインナ珈琲(目覚めたテヨン 番外編)

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パク・ハはいつものように独りきりの朝食を済ませた。
お気に入りのカップにコーヒーを注ぎ入れ、上にたっぷりとホイップクリームを載せる。

この豪華過ぎる屋根部屋で一人きりの暮らしになって、二年近くが経とうとしていた。

三日前、久し振りに香港で暮らす実母と姉に会った。

義母とは時々会ってお茶を飲んだり、食事を共にしたりしている。
姉のホン・セナが、香港の実母チャン・ソンジュの下で暮らすようになって三か月程だったが、義母のコン・マノクはやはり寂しいようで、パク・ハによく連絡を寄こしてくるようになっていた。
パク・ハにしてみても寂しいのはマノクと同様だったから、一緒に過ごすのを嬉しく思っていた。ただ、ヨン・テヨンの話題になった時どう誤魔化すかだけが気がかりなだけで。

パク・ハはホイップクリームをペロッと舐めた。
甘さが口に広がり、イ・ガクを思い出す。

イ・ガクが目の前でその姿を消し、朝鮮に戻ってしまって、パク・ハは三日三晩泣いた。
四日目の朝、鏡を見て自分の顔のその酷さに思わず笑った。

泣くのは三日間と決めていた。

この屋根部屋を出るつもりで、ホーム&ショッピング社の社長となったピョ・テクスに連絡を取った。
引っ越します、と伝えると、君たちは恩人だから屋根部屋は君たちのものになるよう取り計らうとピョ社長は言う。
そして、数日後、テヨンの大叔母であるソリを連れて屋根部屋に話し合いにやってきた。

彼は姿を消したと伝えると、二人とも、まさか文字通りに消えてしまったなどとは思わないから、どこに行ったのか、心当たりはないのか、戻ってこないのかと、彼の行方をパク・ハに尋ねた。
パク・ハは、彼には二度と会えませんと答えるしかなかった。
それでもピョ社長は、戻って来るかもしれないと言って、パク・ハを屋根部屋に住み続けるよう説き伏せ、ソリにも了承させた。
ソリは、パク・ハが恋人に棄てられたのだと結論付け、彼女を慰めるのは自分しかいないという使命感を覚えたらしい。以来、ソリはパク・ハのお店の上得意客になっている。

姉のセナが、犯した罪を法的に清算し終えてからは、姉妹らしい交流をするようになっていた。
共に買い物に行ったり、おしゃべりをしたり。

ある時、セナがイ・ガクの行方を尋ねたとき、パク・ハは、彼は消えてしまって、もう二度と会えないと答えた。
セナは文字通りに彼が消えたのだと理解をし、やはり転生の話は本当なのだと思った。
セナはパク・ハに前世の話をしてみた。
妹が、なぜ知っているのか、と驚いたので、セナは、イ・ガクが彼女を救いたい一心で話してくれたと伝えた。
私たち、悪縁ではなくなったわよね?
セナの言葉にパク・ハは微笑で答えた。
微笑んではいてもパク・ハの寂し気な瞳がいたたまれなくて、セナはそれ以上イ・ガクの話を続けなかった。

パク・ハはその夜もウインナコーヒーを淹れた。

パク・ハはイ・ガクが朝鮮時代の王世子であることを、セナにも話さなかった。
転生の話を信じたらしい姉にも話さなかったのは、前世で姉が彼の妃だったことを言いたくなかったのもあるし、彼の生まれ変わりがヨン・テヨンであることも伝えたくなかったからだ。

テヨンと出会う運命だった。

イ・ガクにそう言われたことがある。
その後のイ・ガクと自分との幸せだった時間を思えば、テヨンとの未来があるのだろうと思いはする。
しかし、そのことを具体的に考えられるわけもなかった。

テヨンが目覚めたことはピョ社長が教えてくれた。
パク・ハは、そのことを喜んだ。
その日もウインナコーヒーを飲みながら、これでイ・ガクは本当にいなくなってしまったんだ、と思った。

テヨンの様子はソリが時々伝えてくれていた。
パク・ハはテヨンのことを尋ねない。ソリが話すとりとめもないおしゃべりの中に、たまにその名が出てくるのを聞いているだけ。
ソリの方は、恋人を失ったパク・ハが可哀そうで、テヨンを紹介しようかと思ったこともあるが、テクスに今は止めておけと言われた。
テクスはテクスで、テヨンの様子を見ながら、いつか二人を会せなければならないと考えてはいた。

パク・ハは、心にぽっかりと開いてしまった穴を埋めるのが簡単ではなく、仕事に身が入らないこともしばしばだ。特にイ・ガクからの手紙を見つけてからは、お客さんがいてもぼんやりとしていることが多かった。


母達と姉と食事に行ったとき、実母がテヨンさんは元気そうね、と言った。
どう答えたものか困っているパク・ハに変わって、セナが、口を開く。

「昨日会って何を話したの?」

「また、屋根部屋でインジュの手料理を一緒に食べたいって言ったら、一瞬、驚いてたわ、照れたのかしら?」

パク・ハを見ながらくすくすと笑う母に、曖昧に微笑むしかなかった。

「あんたも照れてるのかい?」

「オンマたち、あんまり、からかったら可哀そうよ。」

セナが助け船を出してくれて、和やかなまま何事もなく食事会を終えることができた。



気持ちが上向かないとき、彼女はウインナコーヒーを入れる。
甘いものが大好きだったイ・ガクを想いながら、自分を鼓舞するために。

ホイップクリームの溶け込んだ、甘くて苦いコーヒーを飲み終えた。

お店を繁盛させなきゃ。


屋根部屋を出てお店に向かう。


店のドアを開けようとカギを取り出した時、ドアの隙間に何か挟まっていることに気付いた。

1枚の絵ハガキだった。
メモが貼られた南山公園の絵ハガキ。

「오늘 5시에 이곳에서 만나주세요 ^^ 」
今日の5時に こちらで 会ってください ^^

裏を返すと、うつむき加減のパク・ハが描かれている。
見覚えのあるタッチで描かれた鉛筆画。ㅌㅇのサイン。


その日、パク・ハは少し早めに店終いをし、南山公園に向かった。
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鍵コメさま

コメント、ありがとうございます。
テヨン、思い出しましたよ。こちらはパク・ハサイドのお話ですが、テヨン目線でも書きます。
もう少し、お待ちくださいね。
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