「短編集」
読みきり
苦行
僕は、玄関の前で深呼吸をした。
これから、苦行が待っている。
「ただいま。」
靴を脱いで、リビングへ。
「おかえりなさい。」
パッカが、キッチンからひょいと顔を覗かせて、にっこりと笑う。
すぐに僕の傍に来て、いつものように出迎えてくれた。
白いほっそりとした腕が、僕の首に絡みつく。
でも・・・
「今日はただいまのキスはできないんだ。」
苦行の始まり。
「どうしたの?」
「どうも・・・風邪をひいたらしい。
食欲もなくて・・・。」
パッカの腕が解けた。
「大変!
何か少しでも口に入れないと・・・。
冷凍スープがあるわ。すぐに温めてあげる。」
彼女はキッチンに戻りかけて、僕を振り返った。
「部屋で休んでて。」
ちゃんと用意してくれている食事に手をつけられなくなったのに、彼女は一言の文句も言わずに、かいがいしく世話を焼こうとする。
「いや、ダイニングで食べるよ。」
「大丈夫?」
「ああ。」
部屋に運ばせるなんて・・・。
「・・・明日の仕事は絶対に休めないし、薬を飲んでさっさと寝るよ。」
「うん。」
「パッカにうつすといけないから・・・」
自分自身に言い聞かせるように、そう言ったんだ。
「今日は別々の部屋で寝よう。」
本格的な、苦行の始まり。
◇◇◇
冷たいシーツに、一人でもぐりこむ。
体は辛いのに眠れない。
何度か寝返りを繰り返した時、部屋のドアが静かに開く音がした。
パッカ・・・来ちゃだめだ。
「今夜は一人にしておいてくれないか?
今、苦行に耐えてるところだから・・・。」
僕は枕に顔を押し付けた。
「苦行?」
「パッカにうつしちゃいけないから・・・
今夜は君に触れない。
この上ない苦行だろ?」
パッカはくすりと笑ったかと思ったら、僕の警告を無視して、ベッドの端っこに座った。
「それは・・・大変な苦行ね。」
人の気も知らないで、彼女が更に笑う。
僕が君に触れられないことが、どんなに辛いのか分からないんだ!
そんな思いを知ってか知らずか、パッカが僕を覗き込む。
「私はそんなに簡単に風邪ひかないわ。頑丈なのよ?
ずっと余裕のない生活をしてきて、寝込んでる暇なんてなかったの。」
・・・ごめんよ。
甘やかされて育った、やわなお坊ちゃんで。
心の中で自分自身に悪態をつく。
「それでも、体調を崩した時もあってね。
もし、このまま死んじゃっても誰も気づいてくれないんだ。
私は一人ぼっちなんだ。
そう思ったら、すごく寂しくなって・・・
布団をかぶって情けないほどに泣いたの。」
パッカは、身体を起こした。
「だから・・・
今、一人じゃないってことがとても幸せなの。
大事な人を、看病してあげられることが・・・
本当に嬉しいの。」
僕も思わず、起き上がる。
パッカは穏やかに微笑んでいた。
「パッカ、お願いがあるんだけど。」
「なあに?」
「僕が眠るまで・・・
手を握っててくれないか?」
彼女は嬉しそうに笑って、手を伸ばしてきた。
「お易いご用よ。だから、横になって。」
指と指を絡め合って、ぎゅっと握る。
そのまま身体を横たえた。
僕の苦行は、あっけなく終わってしまった。
やわな男で構わない。
今は、彼女に甘えたい。
「明日の朝は、
とびきり美味しいお粥をつくってあげる。」
パッカの手は小さいけれど
僕の手の方が大きなはずなのだけれど
彼女の手は僕の手を優しく包みこんでいる。
彼女の温もりが、手の先から心の奥まで伝わってくる。
彼女の存在は、どんな薬よりもよく効く。
僕の万能薬。
苦行なんて無意味だった。
自分自身の修行にもならなければ、パッカの為にすらなってない。
やわな男で結構だ!
パッカが喜ぶなら、それでいい!
看病させても喜んでくれて・・・
元気になれば、もっと喜んでくれるに違いない。
僕は、そうやって・・・
君に甘えて生きていくんだろうな。
ありがとう。パッカ。
「明日のお粥、楽しみにしてるよ。」
彼女の手を握り締め、目を閉じた。
僕は、安心感と幸福感の中で、彼女の温もりを独り占めする。
遠のく意識の向こうで・・・
彼女の唇が、僕の額に触れるのを感じていた。
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これから、苦行が待っている。
「ただいま。」
靴を脱いで、リビングへ。
「おかえりなさい。」
パッカが、キッチンからひょいと顔を覗かせて、にっこりと笑う。
すぐに僕の傍に来て、いつものように出迎えてくれた。
白いほっそりとした腕が、僕の首に絡みつく。
でも・・・
「今日はただいまのキスはできないんだ。」
苦行の始まり。
「どうしたの?」
「どうも・・・風邪をひいたらしい。
食欲もなくて・・・。」
パッカの腕が解けた。
「大変!
何か少しでも口に入れないと・・・。
冷凍スープがあるわ。すぐに温めてあげる。」
彼女はキッチンに戻りかけて、僕を振り返った。
「部屋で休んでて。」
ちゃんと用意してくれている食事に手をつけられなくなったのに、彼女は一言の文句も言わずに、かいがいしく世話を焼こうとする。
「いや、ダイニングで食べるよ。」
「大丈夫?」
「ああ。」
部屋に運ばせるなんて・・・。
「・・・明日の仕事は絶対に休めないし、薬を飲んでさっさと寝るよ。」
「うん。」
「パッカにうつすといけないから・・・」
自分自身に言い聞かせるように、そう言ったんだ。
「今日は別々の部屋で寝よう。」
本格的な、苦行の始まり。
◇◇◇
冷たいシーツに、一人でもぐりこむ。
体は辛いのに眠れない。
何度か寝返りを繰り返した時、部屋のドアが静かに開く音がした。
パッカ・・・来ちゃだめだ。
「今夜は一人にしておいてくれないか?
今、苦行に耐えてるところだから・・・。」
僕は枕に顔を押し付けた。
「苦行?」
「パッカにうつしちゃいけないから・・・
今夜は君に触れない。
この上ない苦行だろ?」
パッカはくすりと笑ったかと思ったら、僕の警告を無視して、ベッドの端っこに座った。
「それは・・・大変な苦行ね。」
人の気も知らないで、彼女が更に笑う。
僕が君に触れられないことが、どんなに辛いのか分からないんだ!
そんな思いを知ってか知らずか、パッカが僕を覗き込む。
「私はそんなに簡単に風邪ひかないわ。頑丈なのよ?
ずっと余裕のない生活をしてきて、寝込んでる暇なんてなかったの。」
・・・ごめんよ。
甘やかされて育った、やわなお坊ちゃんで。
心の中で自分自身に悪態をつく。
「それでも、体調を崩した時もあってね。
もし、このまま死んじゃっても誰も気づいてくれないんだ。
私は一人ぼっちなんだ。
そう思ったら、すごく寂しくなって・・・
布団をかぶって情けないほどに泣いたの。」
パッカは、身体を起こした。
「だから・・・
今、一人じゃないってことがとても幸せなの。
大事な人を、看病してあげられることが・・・
本当に嬉しいの。」
僕も思わず、起き上がる。
パッカは穏やかに微笑んでいた。
「パッカ、お願いがあるんだけど。」
「なあに?」
「僕が眠るまで・・・
手を握っててくれないか?」
彼女は嬉しそうに笑って、手を伸ばしてきた。
「お易いご用よ。だから、横になって。」
指と指を絡め合って、ぎゅっと握る。
そのまま身体を横たえた。
僕の苦行は、あっけなく終わってしまった。
やわな男で構わない。
今は、彼女に甘えたい。
「明日の朝は、
とびきり美味しいお粥をつくってあげる。」
パッカの手は小さいけれど
僕の手の方が大きなはずなのだけれど
彼女の手は僕の手を優しく包みこんでいる。
彼女の温もりが、手の先から心の奥まで伝わってくる。
彼女の存在は、どんな薬よりもよく効く。
僕の万能薬。
苦行なんて無意味だった。
自分自身の修行にもならなければ、パッカの為にすらなってない。
やわな男で結構だ!
パッカが喜ぶなら、それでいい!
看病させても喜んでくれて・・・
元気になれば、もっと喜んでくれるに違いない。
僕は、そうやって・・・
君に甘えて生きていくんだろうな。
ありがとう。パッカ。
「明日のお粥、楽しみにしてるよ。」
彼女の手を握り締め、目を閉じた。
僕は、安心感と幸福感の中で、彼女の温もりを独り占めする。
遠のく意識の向こうで・・・
彼女の唇が、僕の額に触れるのを感じていた。
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ミ**様へ (6/2 拍手コメント分)
いつもお気遣いありがとうございます。
通院は、確かに、その行動が億劫ですね。(汗)
生活してれば嫌でも目を使うわけですし・・・
今は、どちらかと言うと、眼自体の状況がどうのと言うよりは、
仕事とか、地域のこととか、そんなんで忙しい感じで・・・
本人はいたって元気です。(笑)
明日6/4はユチョンの誕生日!
私も、ささやかながら準備はしております。(*^。^*)
またぜひお越しくださいませ。