「長編(完結)」
目覚めたテヨン
目覚めたテヨン 19
僕たちは互いに見つめ合ったまま涙を流していた。
どのぐらいそうしていたのか。
右手に彼女の手の温もりを感じて、嬉しさに呑気にも微笑んだ。が、突然我に返ってあわてた。
今日初めて会った女性の手を握るなんて。
互いの存在は知っていた。名前も知っているし、どこの何者かも知っている。
でも「会った」と言えるのは今日が初めてなのに。
とは言え、いきなり離すのも失礼な気がして、握っていた手を少し緩めてみた。
すると彼女はゆっくりと手を引きショルダーバッグからハンカチを取り出した。
僕に差し出してくれる。
「あ、持ってます。すみません。」
彼女は再びその手を引こうとしたが、僕がハンカチごと、またその手を握ったので、驚いて僕の顔を見た。
「やっぱり、貸してください。」
僕は、足元に置いていたバックパックから急いで自分自身のハンカチを取り出して彼女に渡す。
「じゃあ、私も借ります。」
パク・ハさんはにっこりと微笑んだ。
互いに互いのハンカチで涙を拭う。
パク・ハさんのハンカチはふわりといい香りがした。
嬉しい。・・・なんだろ、この感じ。
「洗って返しますね。」
そう言って僕のハンカチをバッグにしまう。
「そのまま持っていてくれませんか。交換です。」
彼女のハンカチを、目に留まるようにひらひらと振って見せてから、僕は笑った。
「あの、初めまして、と言うのも変かも知れないですけど・・・ヨン・テヨンです。」
いきなり、遅かったねとか言っておいて、手も握っておいて、今更だけど・・・他に話の切り出し方を思いつかなかった。
「パク・ハです。素敵な絵をありがとうございます。」
モデルがいいから。
笑顔ならもっと素敵ですよ。
言葉にしたら喜んでくれるのだろうか。それとも、軽い男と思われるのだろうか。
「・・・気に入ってもらえたのなら嬉しいです。・・・緑も気持ちいいですし、少し歩きませんか?」
そうして並んで歩き始めた。
何か話さなければ、と思うものの何を言っていいのか分からない。
数メートル進んだとき、顔にぽつっと水滴が当たった。
雨だ。風も出てきて、薄暗くなってきている。
僕は咄嗟にパク・ハさんの手を握ると走り出した。彼女も僕に引っ張られて走り出す。
「一雨きそうです。建物は遠い。車に行きましょう。」
パク・ハさんは小さく頷いた。
今日は、手ばかり握ってる。・・・初対面なのに。
拒もうとしない彼女を不思議にも思ったが、嬉しさの方が大きかった。
助手席のドアを開けて彼女を座らせる。ドアを閉じると、運転席にまわって僕もシートに身を沈めた。
運転席のドアを閉じると同時に、待っていたかのように雨が激しく降り始めた。
「ぎりぎりでしたね。」
それでもわずかに濡れた肩の水滴を、パク・ハさんがさっきの僕のハンカチで拭おうとしてくれる。
「後ろに、タオルが・・・。」
「私が取ります。」
パク・ハさんは身をよじって、シートの間から後部座席に手を伸ばす。
助手席側の後ろにあるタオルは、かえって彼女の方からは取りにくく、小柄なこともあって取れずにいた。
彼女の方に身を寄せるようにして僕も手を伸ばした。
タオルに手が届いて引き寄せたとき、まだ元の体制に戻っていなかった彼女の顔が僕の目の前にあって、お互いに目を見開いた。
どきどきどきどき。
鼓動が伝わるかと思って、急いで離れた。彼女はそんな僕を見ている。
警戒された?
僕の心中を知ってか知らずか、彼女は僕の手からタオルを取ると肩や背中を拭って、頭まで拭いてくれる。
お子様扱いされてるのかな・・・。
「パク・ハさん。」
「その呼び方は止めて。敬語もダメ。・・・私も普通に話すから。ねっ?」
「え?・・・じゃ、パッカヌナ?」
「もっとダメよ!年上ってばれちゃうじゃない。」
口を尖らせてて・・・か、かわいい。
熱くなるのを感じて、多分赤くなっているだろう顔を見られまいと、口に拳を当てながらうつむき加減にくすくすと笑った。
「笑うなんて酷いわ。」
膨れる彼女がかわいくて、笑いは止まらない。
「・・・ごめん、ごめん。そんなこと気にするの?・・・朝鮮時代なら、もっと年上の女の人とでも結婚してただろ?」
彼女が大きく目を見開いて驚いたので、結婚という言葉は拙かったかと、僕はあわてた。
「いや、そんなつもりじゃなくて・・・例えばの話で・・・とにかく、パッカはかわいいから、年上には見えないよ。」
彼女の希望通り、呼び捨てにした。さも言い馴れてる風に「かわいい」と褒めてみながら・・・。
「パッカは、NYの待ち合わせ場所にも来てくれてたの?」
1番気になっていたことを訊いてみた。彼女は静かに頷いた。
「・・・ごめん。行けなくて。・・・長い間、待たせてすみませんでした。」
本来、最初に言いたかった言葉を口にする。
僕が描いた君の絵を、ずっと持っていてくれたということは、僕を待っていてくれたのだ、と思ってもいいんだよね?
「テヨンさんは、いつあの絵を描いたの?」
「どっち?・・・NYの絵?」
彼女がこくんと頷いた。
「君、僕にリンゴを投げつけただろ?覚えてる?」
パッカはちょっと考えて、ハッとした顔をした。
えーっと驚きの声を上げる。全然、気付かなかったと言って、ごめんなさいと繰り返した。
恐縮する彼女に、真面目な顔で、痛かったよと更に追い打ちをかけたので、増々小さくなりながら、ごめんなさいと繰り返す。
僕は胸に手を当てて、ここに矢も打ち込んだだろ?と彼女の顔を覗き込んだ。
「一目惚れだよ。・・・あの時から、僕は君が好きだ。」
彼女はまたその目を大きく見開く。
よく泣くね。
涙に濡れる彼女の頬に、僕はそっと口づけていた。・・・会ったのは今日が初めてだったのに。
彼女の涙と共に、外の雨もいつの間にか止んでいた。
_____________________________________________________________________________________________________
この後は「生まれ変わっても 1」に続きます。
どのぐらいそうしていたのか。
右手に彼女の手の温もりを感じて、嬉しさに呑気にも微笑んだ。が、突然我に返ってあわてた。
今日初めて会った女性の手を握るなんて。
互いの存在は知っていた。名前も知っているし、どこの何者かも知っている。
でも「会った」と言えるのは今日が初めてなのに。
とは言え、いきなり離すのも失礼な気がして、握っていた手を少し緩めてみた。
すると彼女はゆっくりと手を引きショルダーバッグからハンカチを取り出した。
僕に差し出してくれる。
「あ、持ってます。すみません。」
彼女は再びその手を引こうとしたが、僕がハンカチごと、またその手を握ったので、驚いて僕の顔を見た。
「やっぱり、貸してください。」
僕は、足元に置いていたバックパックから急いで自分自身のハンカチを取り出して彼女に渡す。
「じゃあ、私も借ります。」
パク・ハさんはにっこりと微笑んだ。
互いに互いのハンカチで涙を拭う。
パク・ハさんのハンカチはふわりといい香りがした。
嬉しい。・・・なんだろ、この感じ。
「洗って返しますね。」
そう言って僕のハンカチをバッグにしまう。
「そのまま持っていてくれませんか。交換です。」
彼女のハンカチを、目に留まるようにひらひらと振って見せてから、僕は笑った。
「あの、初めまして、と言うのも変かも知れないですけど・・・ヨン・テヨンです。」
いきなり、遅かったねとか言っておいて、手も握っておいて、今更だけど・・・他に話の切り出し方を思いつかなかった。
「パク・ハです。素敵な絵をありがとうございます。」
モデルがいいから。
笑顔ならもっと素敵ですよ。
言葉にしたら喜んでくれるのだろうか。それとも、軽い男と思われるのだろうか。
「・・・気に入ってもらえたのなら嬉しいです。・・・緑も気持ちいいですし、少し歩きませんか?」
そうして並んで歩き始めた。
何か話さなければ、と思うものの何を言っていいのか分からない。
数メートル進んだとき、顔にぽつっと水滴が当たった。
雨だ。風も出てきて、薄暗くなってきている。
僕は咄嗟にパク・ハさんの手を握ると走り出した。彼女も僕に引っ張られて走り出す。
「一雨きそうです。建物は遠い。車に行きましょう。」
パク・ハさんは小さく頷いた。
今日は、手ばかり握ってる。・・・初対面なのに。
拒もうとしない彼女を不思議にも思ったが、嬉しさの方が大きかった。
助手席のドアを開けて彼女を座らせる。ドアを閉じると、運転席にまわって僕もシートに身を沈めた。
運転席のドアを閉じると同時に、待っていたかのように雨が激しく降り始めた。
「ぎりぎりでしたね。」
それでもわずかに濡れた肩の水滴を、パク・ハさんがさっきの僕のハンカチで拭おうとしてくれる。
「後ろに、タオルが・・・。」
「私が取ります。」
パク・ハさんは身をよじって、シートの間から後部座席に手を伸ばす。
助手席側の後ろにあるタオルは、かえって彼女の方からは取りにくく、小柄なこともあって取れずにいた。
彼女の方に身を寄せるようにして僕も手を伸ばした。
タオルに手が届いて引き寄せたとき、まだ元の体制に戻っていなかった彼女の顔が僕の目の前にあって、お互いに目を見開いた。
どきどきどきどき。
鼓動が伝わるかと思って、急いで離れた。彼女はそんな僕を見ている。
警戒された?
僕の心中を知ってか知らずか、彼女は僕の手からタオルを取ると肩や背中を拭って、頭まで拭いてくれる。
お子様扱いされてるのかな・・・。
「パク・ハさん。」
「その呼び方は止めて。敬語もダメ。・・・私も普通に話すから。ねっ?」
「え?・・・じゃ、パッカヌナ?」
「もっとダメよ!年上ってばれちゃうじゃない。」
口を尖らせてて・・・か、かわいい。
熱くなるのを感じて、多分赤くなっているだろう顔を見られまいと、口に拳を当てながらうつむき加減にくすくすと笑った。
「笑うなんて酷いわ。」
膨れる彼女がかわいくて、笑いは止まらない。
「・・・ごめん、ごめん。そんなこと気にするの?・・・朝鮮時代なら、もっと年上の女の人とでも結婚してただろ?」
彼女が大きく目を見開いて驚いたので、結婚という言葉は拙かったかと、僕はあわてた。
「いや、そんなつもりじゃなくて・・・例えばの話で・・・とにかく、パッカはかわいいから、年上には見えないよ。」
彼女の希望通り、呼び捨てにした。さも言い馴れてる風に「かわいい」と褒めてみながら・・・。
「パッカは、NYの待ち合わせ場所にも来てくれてたの?」
1番気になっていたことを訊いてみた。彼女は静かに頷いた。
「・・・ごめん。行けなくて。・・・長い間、待たせてすみませんでした。」
本来、最初に言いたかった言葉を口にする。
僕が描いた君の絵を、ずっと持っていてくれたということは、僕を待っていてくれたのだ、と思ってもいいんだよね?
「テヨンさんは、いつあの絵を描いたの?」
「どっち?・・・NYの絵?」
彼女がこくんと頷いた。
「君、僕にリンゴを投げつけただろ?覚えてる?」
パッカはちょっと考えて、ハッとした顔をした。
えーっと驚きの声を上げる。全然、気付かなかったと言って、ごめんなさいと繰り返した。
恐縮する彼女に、真面目な顔で、痛かったよと更に追い打ちをかけたので、増々小さくなりながら、ごめんなさいと繰り返す。
僕は胸に手を当てて、ここに矢も打ち込んだだろ?と彼女の顔を覗き込んだ。
「一目惚れだよ。・・・あの時から、僕は君が好きだ。」
彼女はまたその目を大きく見開く。
よく泣くね。
涙に濡れる彼女の頬に、僕はそっと口づけていた。・・・会ったのは今日が初めてだったのに。
彼女の涙と共に、外の雨もいつの間にか止んでいた。
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この後は「生まれ変わっても 1」に続きます。
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