「長編(完結)」
生まれ変わっても
生まれ変わっても 2
ノックの音がした。
手にした書類に印鑑を押すと、ピョ・テクスは顔を上げた。
「入れ。」
ノックの主に許可の声を掛けた。
「失礼します。」
一礼してテヨンが入ってくる。
「お呼びですか?」
テヨンは、ホーム&ショッピング社、社長のテクスに呼び出され、社長室へとやって来た。
「ああ。よく来た。まあ、座れ。」
目の前の応接ブースを顎でしゃくって、テクス自身も腰掛ける。
社長の着席を確認してから、テヨンもまた腰を下ろした。
テクスはテーブルに一枚の封筒を置くと、テヨンの方に向かって指で滑らせる。
「本部長の辞令だ。」
テヨンは封筒を取り上げ、中身を確認した。
社長も昇進した本人も特に深い感慨を抱いてはいない。淡々としていると言ってもよい。
昇進の辞令と言っても、それは形式上のことだった。
テヨンは既に今までの役職以上の仕事をこなしており、今受け取った辞令で役職名が追いついた格好だ。
「実質は今までと特に変わらんが・・・責任の所在がはっきりしたということだ。」
テクスがにやりと笑った。
テヨンの従兄のヨン・テムがいなくなってから空席になっていた経営企画本部長の仕事は、社長が責任を持つ形で、現実にはテヨンが采配をふるっていた。
テクスにしてみればこれは通過点に過ぎず、最終的にはヨン・テヨンを代表取締役に据えようというのが彼の目論みだ。
テヨンが目覚めたとき、最初から彼を社長に据えようと思っていた。ところがテヨンが戸惑いを見せ、実際、社会人としても初めてだったことから、とりあえずチーム長の位置につけた。
いきなりチーム長というのも不安がないではなかったが、テクスは敢えて個人のオフィスも与えて教育を始めた。
チーム長という立場で個人オフィスを持つなど異例のことで、社内に反発もあった。
しかし、テヨン自身がその反発の声を小さくさせた。
本人が実績を積み上げ、社内だけでなく社外でもその発言力を大きくしてみせたのだ。
そうあることを期待していたテクスも驚くほどの早さで。
もうすぐだ。もうすぐ本来の姿に戻る。
「微力を尽くします。」
テヨンはにこりと笑った。
テクスは、テヨンの表情を見てふふんと鼻を鳴らした。この頃、機嫌がいいと聞いてはいたが・・・。
「それで、どうだったんだ?」
「何がです?」
「とぼけるな。メールまでしてきたのは誰だ?」
ああ、とテヨンは小さくつぶやいて照れくさそうに、頭を掻いた。
女のコに会いに行って、どうだったかと聞かれても・・・。
「かわいかったです。」
は?なんだそれは。テクスは顔をしかめた。
「まあ、いい。無事に会えたんなら。・・・とにかく、辞令は渡したぞ。」
テヨンは入ってきたときと同様、一礼して社長室を出て行った。
デートの様子を根掘り葉掘り聞くような野暮な趣味を持ち合わせてはいない。
会えたのなら、それでいい。・・・後は本人同士の問題だ。
テヨンが目覚める前、パク・ハが引っ越したいと言ってテクスに連絡を寄こした。
当然、テヨンの身代わりの彼も一緒に屋根部屋を出るものだと思った。
テクスはテヨンが目覚めるのは難しいだろうと思っていたから、彼を遠くにやりたくないと考えていた。
ヨン・ドンマン、テム親子を排斥した後、社内の安定と体制強化に力を注いでいたテクスには、意識不明ではないヨン・テヨンが必要だったのだ。いざという時の為に。
彼らを引き留めようと、テヨンの唯一の身内となったソリを伴い屋根部屋に赴いたら、彼の姿はなかった。
それどころか、パク・ハを置いて姿を消したと言うではないか。
ソリは、彼がパク・ハを捨てたと言うが、ありえないとテクスは思った。
とにかくパク・ハを引き留めておけば帰って来るのではないか、というのがテクスの考えだった。
そうこうするうちにテヨンが目を覚ました。
目覚めただけでも奇跡だったのに、会社を継ぐ意思も見せた。
彼は、結局姿を見せない。
テヨンは巧くやっている。身代わりの彼も、今、仕事をこなしているテヨンではなかったのかと思うほどに。
もう、テヨンの代わりは必要ない。
ただ、パク・ハが気の毒だった。テヨンが目覚めたと知らせたとき、そのことを心から喜んでくれた彼女だったが、愁いを帯びたその姿は、テクスでさえも切なくさせた。
お節介にもソリが、パク・ハにテヨンを紹介しようか、と言い出し、テクスは、今は止めておいた方がいいと止めた。
テクスも、テヨンがパク・ハに出会えば恋に落ちるのではないか、と直感的に思ってはいたが、それは今ではない、とこれまた直感が教えていた。
テヨンが、屋根部屋に住む女性のことを訊いてきたとき、時が来たか、とテクスは思った。
止まっていた何かが動きだし、テヨンの身代わりだった「あいつ」の名前も、テヨン自身の口から教えられた。
時が来て二人は出会った。
後は本人同士の問題だ。
恋人関係になって、やがて結婚し、後継者も得られたら、それが本来の姿のような気がする。
テクスはゆっくりとかぶりを振って自嘲気味に薄く笑った。
本来の姿?ふん、俺の希望だな。・・・テヨンを社長にして、俺は会長になってのんびりしてやる。
手にした書類に印鑑を押すと、ピョ・テクスは顔を上げた。
「入れ。」
ノックの主に許可の声を掛けた。
「失礼します。」
一礼してテヨンが入ってくる。
「お呼びですか?」
テヨンは、ホーム&ショッピング社、社長のテクスに呼び出され、社長室へとやって来た。
「ああ。よく来た。まあ、座れ。」
目の前の応接ブースを顎でしゃくって、テクス自身も腰掛ける。
社長の着席を確認してから、テヨンもまた腰を下ろした。
テクスはテーブルに一枚の封筒を置くと、テヨンの方に向かって指で滑らせる。
「本部長の辞令だ。」
テヨンは封筒を取り上げ、中身を確認した。
社長も昇進した本人も特に深い感慨を抱いてはいない。淡々としていると言ってもよい。
昇進の辞令と言っても、それは形式上のことだった。
テヨンは既に今までの役職以上の仕事をこなしており、今受け取った辞令で役職名が追いついた格好だ。
「実質は今までと特に変わらんが・・・責任の所在がはっきりしたということだ。」
テクスがにやりと笑った。
テヨンの従兄のヨン・テムがいなくなってから空席になっていた経営企画本部長の仕事は、社長が責任を持つ形で、現実にはテヨンが采配をふるっていた。
テクスにしてみればこれは通過点に過ぎず、最終的にはヨン・テヨンを代表取締役に据えようというのが彼の目論みだ。
テヨンが目覚めたとき、最初から彼を社長に据えようと思っていた。ところがテヨンが戸惑いを見せ、実際、社会人としても初めてだったことから、とりあえずチーム長の位置につけた。
いきなりチーム長というのも不安がないではなかったが、テクスは敢えて個人のオフィスも与えて教育を始めた。
チーム長という立場で個人オフィスを持つなど異例のことで、社内に反発もあった。
しかし、テヨン自身がその反発の声を小さくさせた。
本人が実績を積み上げ、社内だけでなく社外でもその発言力を大きくしてみせたのだ。
そうあることを期待していたテクスも驚くほどの早さで。
もうすぐだ。もうすぐ本来の姿に戻る。
「微力を尽くします。」
テヨンはにこりと笑った。
テクスは、テヨンの表情を見てふふんと鼻を鳴らした。この頃、機嫌がいいと聞いてはいたが・・・。
「それで、どうだったんだ?」
「何がです?」
「とぼけるな。メールまでしてきたのは誰だ?」
ああ、とテヨンは小さくつぶやいて照れくさそうに、頭を掻いた。
女のコに会いに行って、どうだったかと聞かれても・・・。
「かわいかったです。」
は?なんだそれは。テクスは顔をしかめた。
「まあ、いい。無事に会えたんなら。・・・とにかく、辞令は渡したぞ。」
テヨンは入ってきたときと同様、一礼して社長室を出て行った。
デートの様子を根掘り葉掘り聞くような野暮な趣味を持ち合わせてはいない。
会えたのなら、それでいい。・・・後は本人同士の問題だ。
テヨンが目覚める前、パク・ハが引っ越したいと言ってテクスに連絡を寄こした。
当然、テヨンの身代わりの彼も一緒に屋根部屋を出るものだと思った。
テクスはテヨンが目覚めるのは難しいだろうと思っていたから、彼を遠くにやりたくないと考えていた。
ヨン・ドンマン、テム親子を排斥した後、社内の安定と体制強化に力を注いでいたテクスには、意識不明ではないヨン・テヨンが必要だったのだ。いざという時の為に。
彼らを引き留めようと、テヨンの唯一の身内となったソリを伴い屋根部屋に赴いたら、彼の姿はなかった。
それどころか、パク・ハを置いて姿を消したと言うではないか。
ソリは、彼がパク・ハを捨てたと言うが、ありえないとテクスは思った。
とにかくパク・ハを引き留めておけば帰って来るのではないか、というのがテクスの考えだった。
そうこうするうちにテヨンが目を覚ました。
目覚めただけでも奇跡だったのに、会社を継ぐ意思も見せた。
彼は、結局姿を見せない。
テヨンは巧くやっている。身代わりの彼も、今、仕事をこなしているテヨンではなかったのかと思うほどに。
もう、テヨンの代わりは必要ない。
ただ、パク・ハが気の毒だった。テヨンが目覚めたと知らせたとき、そのことを心から喜んでくれた彼女だったが、愁いを帯びたその姿は、テクスでさえも切なくさせた。
お節介にもソリが、パク・ハにテヨンを紹介しようか、と言い出し、テクスは、今は止めておいた方がいいと止めた。
テクスも、テヨンがパク・ハに出会えば恋に落ちるのではないか、と直感的に思ってはいたが、それは今ではない、とこれまた直感が教えていた。
テヨンが、屋根部屋に住む女性のことを訊いてきたとき、時が来たか、とテクスは思った。
止まっていた何かが動きだし、テヨンの身代わりだった「あいつ」の名前も、テヨン自身の口から教えられた。
時が来て二人は出会った。
後は本人同士の問題だ。
恋人関係になって、やがて結婚し、後継者も得られたら、それが本来の姿のような気がする。
テクスはゆっくりとかぶりを振って自嘲気味に薄く笑った。
本来の姿?ふん、俺の希望だな。・・・テヨンを社長にして、俺は会長になってのんびりしてやる。
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