「長編(連載中)」
生まれ変わっても -朝鮮編-
生まれ変わっても 57
イ・ガクの義父ソン・マンギは、いかにも穏やかそうで紳士然としている。
王世子に礼を捧げるその姿も、彼の律儀な性格を表わしているように見えた。
あの、聡明なユンジュの父親である。
王世子らしく落ち着いた表情で舅の挨拶を受けた後、その場に座るように勧めた。
マンギは促されるままに、向かいに腰を落ち着ける。
「チョハ。もう御身に大事はござりませぬか?」
先程の朝儀の場にもいた彼は、一時は麻疹に倒れたと言った王世子のことを心配しているらしい。
「大事ない。」
短いテヨンの返事に大きく頷いた。
「チョハ。麻疹に罹りてその命を生かせられし者、まこと、天命を賜りし者と存じます。」
マンギには何か言いたいことがあるのだろう。
少々まだるっこしいとテヨンは内心苦笑している。
「ソン大鑑。率直に申されるがよい。何か私に注進したいことでもあるのではないか?」
マンギは、おや?と言う風に眉を上げ、目尻を下げた。
「チョハには敵いませぬな。」
さすがはわが娘婿。そんな風に思っているのかも知れない。
その笑顔には慈愛すら感じられた。
パッカのお父さんが生きていたら・・・こんな感じなのだろうか?
ふとそんな考えがよぎり、テヨンの表情も柔らかくなった。
「チョハ、我が家には、過去に麻疹に罹りながらもその命、永らえし者がおります。」
麻疹から生還した者。
喉から手が出るほど欲していた人材。
「それは、真か?!」
テヨンは驚きに身を乗り出すようにした。
「はい。身分低き下働きの者ではございますが、我が家ではよく働いてくれておりまする。」
身分など関係があるものか!
人に指図することしか知らず、病を恐れて邸に籠ろうとする両班よりもよほど役に立つに違いない。
「して、男か?女か?」
患者には男性も女性もいる。老人も、幼子もいることだろう。
男手も女手も必要なのだ。
「男も女も居ります。」
ああ、神よ!
「ありがたい!ソン大鑑、その者達をすぐに私の許へ参らせよ!」
マンギは驚きに目を見開いている。
しまった!
イ・ガクなら、そんなに性急なことは、言わない?
テヨンは内心の動揺を隠したが、よく見れば目の前の舅の口角は微かに上がっていた。
「チョハ。身分いやしく不調法者共ゆえ、東宮殿に入れるわけにはまいりませぬ。」
今度ははっきりと笑みを作ってみせた。
日頃のイ・ガクとソン・マンギとの関係が伺い知れる行動だ。
「そう仰せになられるだろうと思い、我が家にて身支度を整えさせてございます。」
テヨンは密かに胸を撫で下ろし、余裕がある風を装って微笑んだ。
「ところで、ソン大鑑。なにゆえ、ソン家にはそのような者が二人も居るのだ?」
「今は二人ですが、以前はもう一人いました。その者にも使いを出しております。」
テヨンは驚きに目を見開いた。
「チョハは覚えておられましょうや?
今から十五、六年前の事になりますが・・・
その時は国の外れでのことでしたが、やはり麻疹が流行したことがございましてな。
病で親を亡くした子供達を、我が家で使用人として引き取ったのでございます。」
「・・・そうか。なんと、ありがたい。」
ポンソクをそんな親なし子にしたくない。
いや、ポンソクだけではない。手をこまねいていれば国中にそんな子供が溢れてしまうことだろう。
「私がソン家に参ろう。」
ソン家に居る麻疹の経験があると言うその者達にも会っておきたかった。
しかし、マンギは真面目な顔になって首を横に振る。
「チョハ。今は一刻を争う時にございます。その者達はチョハの赴かれる地に参らせます。」
発生源の村へ、一刻も早く。
ソン・マンギもそう思っているのだ。
「教育が行き届いておらぬゆえに至らぬ点もありましょうが、本人らも天命を受けたと心得ております。
端々の雑用を申し付けるには問題ない者達かと存じます。」
マンギは深々と頭を下げた。
教育が行き届いていない者が、天命を受けたと心得て行動できるとは思えない。
謙遜でそう言っているのは明らかだが、王世子が何を考え、何を望んでいるのか、この男にはよく分かっているらしい。
王世子をはめてやろうというような意志は感じられない。
世子嬪ソン・ユンジュの父親。
この父にしてあの娘あり。
ソン・マンギは信用に足る男だ。
テヨンはそう判断した。
「分かった。案内役の子供が居る。その者をソン大鑑の邸に向かわせよう。」
テヨン自身が、チャン・ポンソクを伴って彼の村に赴くつもりでいたが、麻疹の経験があるその下働きの男女を先に向かわせた方が得策と踏んだ。
宮殿内で準備しておきたいことは、まだ山のようにあるからだ。
「ソン大鑑、頼みたいことがある。」
「何なりと。」
「貴方は」
敢えて、『貴方』と呼び掛ける。
マンギに緊張の色が走った。
「王宮を離れてはならぬ。私の留守中、チョナの・・・そして嬪宮の身辺を、頼む。」
マンギは一瞬目を見開き、ははっと頭を下げた。
王宮にはイ・ガクの命を狙おうとした者がいるはずだ。
王はともかく、ユンジュの身が案じられた。
私利私欲にまみれた両班どもを牽制する必要もある。
世子嬪の実父、王世子の舅。地位においても分別においても、これほど相応しい人物はいないだろう。
「心得ましてございます。」
ソン・マンギは更に深く頭を下げた。
おっさんばかりで・・・華はテヨンにしかない。
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王世子に礼を捧げるその姿も、彼の律儀な性格を表わしているように見えた。
あの、聡明なユンジュの父親である。
王世子らしく落ち着いた表情で舅の挨拶を受けた後、その場に座るように勧めた。
マンギは促されるままに、向かいに腰を落ち着ける。
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先程の朝儀の場にもいた彼は、一時は麻疹に倒れたと言った王世子のことを心配しているらしい。
「大事ない。」
短いテヨンの返事に大きく頷いた。
「チョハ。麻疹に罹りてその命を生かせられし者、まこと、天命を賜りし者と存じます。」
マンギには何か言いたいことがあるのだろう。
少々まだるっこしいとテヨンは内心苦笑している。
「ソン大鑑。率直に申されるがよい。何か私に注進したいことでもあるのではないか?」
マンギは、おや?と言う風に眉を上げ、目尻を下げた。
「チョハには敵いませぬな。」
さすがはわが娘婿。そんな風に思っているのかも知れない。
その笑顔には慈愛すら感じられた。
パッカのお父さんが生きていたら・・・こんな感じなのだろうか?
ふとそんな考えがよぎり、テヨンの表情も柔らかくなった。
「チョハ、我が家には、過去に麻疹に罹りながらもその命、永らえし者がおります。」
麻疹から生還した者。
喉から手が出るほど欲していた人材。
「それは、真か?!」
テヨンは驚きに身を乗り出すようにした。
「はい。身分低き下働きの者ではございますが、我が家ではよく働いてくれておりまする。」
身分など関係があるものか!
人に指図することしか知らず、病を恐れて邸に籠ろうとする両班よりもよほど役に立つに違いない。
「して、男か?女か?」
患者には男性も女性もいる。老人も、幼子もいることだろう。
男手も女手も必要なのだ。
「男も女も居ります。」
ああ、神よ!
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マンギは驚きに目を見開いている。
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イ・ガクなら、そんなに性急なことは、言わない?
テヨンは内心の動揺を隠したが、よく見れば目の前の舅の口角は微かに上がっていた。
「チョハ。身分いやしく不調法者共ゆえ、東宮殿に入れるわけにはまいりませぬ。」
今度ははっきりと笑みを作ってみせた。
日頃のイ・ガクとソン・マンギとの関係が伺い知れる行動だ。
「そう仰せになられるだろうと思い、我が家にて身支度を整えさせてございます。」
テヨンは密かに胸を撫で下ろし、余裕がある風を装って微笑んだ。
「ところで、ソン大鑑。なにゆえ、ソン家にはそのような者が二人も居るのだ?」
「今は二人ですが、以前はもう一人いました。その者にも使いを出しております。」
テヨンは驚きに目を見開いた。
「チョハは覚えておられましょうや?
今から十五、六年前の事になりますが・・・
その時は国の外れでのことでしたが、やはり麻疹が流行したことがございましてな。
病で親を亡くした子供達を、我が家で使用人として引き取ったのでございます。」
「・・・そうか。なんと、ありがたい。」
ポンソクをそんな親なし子にしたくない。
いや、ポンソクだけではない。手をこまねいていれば国中にそんな子供が溢れてしまうことだろう。
「私がソン家に参ろう。」
ソン家に居る麻疹の経験があると言うその者達にも会っておきたかった。
しかし、マンギは真面目な顔になって首を横に振る。
「チョハ。今は一刻を争う時にございます。その者達はチョハの赴かれる地に参らせます。」
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ソン・マンギもそう思っているのだ。
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マンギは深々と頭を下げた。
教育が行き届いていない者が、天命を受けたと心得て行動できるとは思えない。
謙遜でそう言っているのは明らかだが、王世子が何を考え、何を望んでいるのか、この男にはよく分かっているらしい。
王世子をはめてやろうというような意志は感じられない。
世子嬪ソン・ユンジュの父親。
この父にしてあの娘あり。
ソン・マンギは信用に足る男だ。
テヨンはそう判断した。
「分かった。案内役の子供が居る。その者をソン大鑑の邸に向かわせよう。」
テヨン自身が、チャン・ポンソクを伴って彼の村に赴くつもりでいたが、麻疹の経験があるその下働きの男女を先に向かわせた方が得策と踏んだ。
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「王宮を離れてはならぬ。私の留守中、チョナの・・・そして嬪宮の身辺を、頼む。」
マンギは一瞬目を見開き、ははっと頭を下げた。
王宮にはイ・ガクの命を狙おうとした者がいるはずだ。
王はともかく、ユンジュの身が案じられた。
私利私欲にまみれた両班どもを牽制する必要もある。
世子嬪の実父、王世子の舅。地位においても分別においても、これほど相応しい人物はいないだろう。
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