同じ空の下

何となく当たりは付けたけれど・・・
これ！という決定打がない。

ひょっとしたら、パッカ自身が着てみたいドレスがあるかも知れない。

とそんなことも思ったりした。
けれど・・・
僕が用意すると言った以上、本人に尋ねるというのも、なんとなく気が引けて。

そんなこんなで色々調べているのだけれど・・・

だめだ。
既成のものならともかく、新調するとなったらもう時間もないし。

・・・もう降参して本人に相談するか。


僕は、ジュースショップの休憩時間を狙って彼女に会いに行くことにした。



***



「パッカ、例のパーティーのドレスなんだけどさ・・・」

「・・・私も、そのドレスのことで話があって・・・」

やっぱり、パッカの希望のショップがあったんだな。

彼女は上目遣いに僕を見ている。

決まって遠慮している時はこんな視線を寄こすんだけど・・・
とりあえず、それ、反則だよ？分かってる？

「うん、何？教えて。」

男心が刺激されたことはどうにか隠しながら、遠慮がちなパッカに優しく催促してみる。

「私、パーティーなんて分からないから・・・
オンマに相談したの。」

「オンマ？・・・香港の、チャン会長？」

「ええ。そう。
そしたら、ものすごく張り切っちゃって・・・
衣装も用意して、美容院まで予約したって連絡がきたの。」

すっかり忘れてた！
この手のエキスパートが身近にいたじゃないか。
パッカのお母さん（オンマ）。香港のチャン会長その人が！

「これ、テヨンさんに渡して欲しいって。」

パッカが包みを差し出した。

僕に？
何だろう？

受け取ったその包みを開けてみると・・・
中身は薄紅色のチーフ。

そして手紙。




テヨンさんへ

パッカから話を聞いて、張り切ってしまいました。
勝手に進めてしまって、ごめんなさいね。

長い間、娘に何もしてあげられなかったことをずっと悔いてきました。
こんな素敵な機会を下さって、感謝しています。

チーフはパッカの衣装に合わせたモノよ。

パーティーも、そしてこれからの人生も
テヨンさんなら、娘を素敵にエスコートして下さると信じています。


チャン・ソンジュ




思わず姿勢を正した。
身が引き締まる思いがする。

『信じています』

『お願いします』と言われるよりも、その願いを大きく感じる。


「オンマは、何て書いてる？」

「パッカをよろしくって。」

僕は片目を瞑ってみせた。

「せっかく、テヨンさんが選んでくれるって言ってたのに・・・ごめんなさい。」

本当は白旗を振るつもりでいたから、パッカに謝らせるのも見当違いなんだけど・・・

「そんなの構わないよ。
お義母さんはどんなドレスを選んでくれたのかな？」

僕は彼女に甘えて、男の体面を保つ為の発言をする。

「当日までのお楽しみだって、教えてくれないの。」

「そうか。・・・でも、このチーフを頼りに僕のスーツも選べばいいから、助かるよ。
さすがは、君のお母さんだ。」

難航している契約の件も忘れて、当日が楽しみだ、なんて思っていた僕は、堪らず彼女を腕の中に囲った。

「パッカなら・・・」

小さなキスを落とす。

「どんなドレスでも似合うはずだよ。
お義母さんの見立てなら、なおさらだ。」

パッカは嬉しそうに微笑んだ。

「僕は・・・
何も着てない君の姿が一番綺麗だと思うけど・・・」

パッカが目を見開く。

「それを見るのは僕だけの特権だし・・・
脱がす愉しみも重要だからね。」

「もう！あんぽんたん！」

言うが早いかパッカの拳（パンチ）が飛んでくる。

「おっと！」

大袈裟に受け止めながら、二人して笑ったのだった。











オンマに助けられましたね。
さあ、当日が楽しみなテヨンですが、城攻めはどうする気なんでしょう？
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