同じ空の下

チョン社長は、僕に飲み物のグラスを渡してくれた。
ありがとうございます、と笑顔で受け取る。

「我が社は創業が四百年前でしてね。
三百年前には時の王様から目を掛けられまして、王宮にも商品を納めていたんですよ。」

「ええ。存じています。」

社長は嬉しそうに目を細めた。

「ヨン本部長はパクチーはお好きですか？」

いきなり、パクチー？
唐突な話題にどう反応していいのか分からない。

「・・・数年前から、流行ってますよね。」

「ウチはそのパクチーを王宮に納めていたんです。」

「王宮に?!」

「はい！三百年前、王様がパクチーを必要とされていたんですが、ウチがその入手ルートを確保したんです。」

三百年前に、パクチーだって?!

僕の思案顔をどう思ったのか、チョン社長は増々勢いづいてくる。

「それがきっかけで王様に認められるところとなり、ご先祖は王様からお言葉も賜りました！
そして、王宮御用達の香辛料問屋として発展を遂げることとなりまして、今の我が社があるのです。
私は、そのご先祖から数えて十三代目に当たります。」

それがよっぽど誇らしいのだろう。
チョン社長は飛び切りの笑顔だ。

・・・話を終える兆しは一向に見えない。


僕はさりげなく会場を見回した。

パッカが、いない！

さっきまでそこにいたと思っていたのに・・・。
充分に気を配っているつもりでいた。
目の端に、僕のポケットチーフと同じ色の布端が見えていて・・・
参加者はみんなドレスアップしている。
僕がパッカの衣装だと思っていたのは、別の女性のドレスにあしらわれたリボンだったのだ。

「熱意は存分に頂戴いたしましたので、
また改めてお伺いします。」

僕は焦るようにそう言って、何とか社長を振り切った。

恰好良くエスコートするはずだったのに。
初めてで緊張している彼女をリードするつもりでいたのに。

くそっ！
嘆いている場合か！ヨン・テヨン！

パッカを探さなきゃ！


パッカは今日、お義母さんが用意したチマ・チョゴリを着ている。


韓服（ハンボク）なんてパッカ一人だ。
すぐに見つかるはず。

なのに・・・

一体、どこに行ったんだ？
まさか・・・
誰かに連れ出された？


エスコートどころか、パッカを見失ってしまうなんて。

僕は呆然として、天井を仰いだのだった。













パクチーに気を取られているうちにパッカが居なくなっちゃった！
チマ・チョゴリはパッカだけですって！早く見つけてぇ。
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