「長編(完結)」
難攻不落の城
難攻不落の城 11 (最終話)
「じゃあ、決まりね。
その時に、わたくしを納得させる資料を持っていらっしゃい。」
え?
「資料と仰るのは・・・」
「H&S社は、ウチと契約したがってると聞いているけれど・・・
違ったかしら?」
会長は分かりきったことを確認してくる。
確かにそれは事実には違いないが、パッカへの「お礼」は「ジュースを飲みに行くこと」のはずで・・・。
さすがに驚きが顔に出てしまったようだ。
「パク・ハさんへのお礼は違うはずなのに?と思っているのね?」
「はい。」
「それはそれ、これはこれ、よ。」
そう言って悪戯っぽく笑う。
「わたくしは、何がなんでも今までと同じにしないといけないとは思っていないわ。
世の中は変わっていくものだともよく知ってる。
ただ、四百年間も守ってきたものを簡単に変えたり、むやみに大きくするのも違うでしょう?」
「はい、仰る通りです。」
「先人が大切にしてきたものを大切に思っているのは、あなたも同じだと思ったけれど?
韓服姿の婚約者を、ただ、綺麗だ、とだけ即答したあなたなら、ね。」
チョン会長は僕をじっと見た。
「私の・・・
いいえ、先人達の期待に応える資料を見せて頂戴ね。」
「分かりました。精一杯、努力いたします。」
「明日を楽しみにしているわよ?」
そう言い残すと、チョン・ウォンスク会長は、他の客人につかまっていたパッカに、にこやかに挨拶をして去っていった。
その時一人の女性がパッカの側を離れ、会長に付き従って行くのが見えた。
さりげなく、彼女の側に自分の秘書を置いていたらしい。
さすがだな。
僕は、顔を見るつもりでいただけだったのに・・・
小さく溜息を吐き、肩の力を抜く。
「難攻不落」の会長。
誰も越えることのできなかったその城壁を、パッカはいともたやすく越えてしまった。
とんでもない宿題をもらったものだ。
でも、やるしかない。
ここからは、僕の手腕が問われる。
「難攻不落の城」攻めは、最初から僕の仕事だったはずだ。
だけど、その牙城を崩すための突破口を開いたのは、僕じゃない。
パッカがくれたこのチャンス。
必ずモノにしてやる!
決意も固くそんな風に思ったけれど・・・
ひょっとして
これもピョ・テクス社長の戦略の内だったのだろうか?
チョン会長もだけど・・・
ウチの社長も、喰えない人だ。
と、そう思った。
***
盛大なパーティも無事にお開きとなった。
帰ろうとしたところで、またもやチョン・ウヌ社長に捕まってしまった。
僕は、今度こそ、パッカを社長に紹介した。
この人の祖母であるチョン会長が、冗談だと言いながらパッカを「嫁に欲しい」なんて言うから、牽制の意味も存分に込めてやった。
「いや、そうでしたか。貴女がヨン・テヨン本部長の?
韓服の綺麗なお嬢さんがいらっしゃると思っていましたが、
そうですか、ヨン本部長の!
こんな綺麗な方がご婚約者だとは、実に羨ましい。
しかもお二人はお似合いですね!」
相変わらずの調子の良さで誉めそやしてくる。
パッカは、ありがとうございます、と言ってはいるが若干引き気味だ。
無理もない。
「今日はありがとうございました。良いパーティーでしたね。
次は、商談の席でお会いしましょう。」
チョン社長はガシッと僕の両腕を掴んだ。
「ぜひ!よろしくお願いします!」
会長と僕とのやり取りを知っているのか、いないのか・・・
そうして、やっとのことで社長と別れ、パッカと二人で帰路に付いた。
僕達は、今日、運転手付きの車の後部座席に並んで座っている。
アルコールは、ほとんど口にしてはいないけれど、たまにはこういうのも悪くない。
「パッカ、今日はありがとう。疲れただろ?」
「そうね。少し、疲れたけど・・・楽しかったわ。」
パッカはそう言って、にっこりと微笑んだ。
「これからは、こんな機会が増えると思う。
また一緒に行ってくれるかな?」
嫌と言わせるつもりは、ないんだけどね・・・。
パッカはワザとらしく、うーん、なんて言って考える振りをしている。
「テヨンさんが一緒なら、いいわ。
ちゃんとエスコートしてくれるのよね?」
「もちろんだよ。」
運転手からは見えないように、そっと、パッカの手を取った。
そしてしっかりと握る。
彼女が、僕だけに微笑んでくれる。
本当は、僕がパッカにエスコートされているんだよ。
パッカが一緒ならば、きっと僕はどこへでも行ける。
何だって出来る気がするよ。
僕も、パッカに微笑み返した。
<おわり>
「難攻不落の城」これにて、一応、完結でございます。
城を攻める前ですが、「一応」終わりです。
続編を書き続けるには、あまりにも実生活に無理が生じそうで・・・
まあ、パッカ目線ぐらいはいくつか書くかもしれませんが、未定です。
皆様、お付き合いをありがとうございました。
ビバ!キリン化期!←おーい。
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その時に、わたくしを納得させる資料を持っていらっしゃい。」
え?
「資料と仰るのは・・・」
「H&S社は、ウチと契約したがってると聞いているけれど・・・
違ったかしら?」
会長は分かりきったことを確認してくる。
確かにそれは事実には違いないが、パッカへの「お礼」は「ジュースを飲みに行くこと」のはずで・・・。
さすがに驚きが顔に出てしまったようだ。
「パク・ハさんへのお礼は違うはずなのに?と思っているのね?」
「はい。」
「それはそれ、これはこれ、よ。」
そう言って悪戯っぽく笑う。
「わたくしは、何がなんでも今までと同じにしないといけないとは思っていないわ。
世の中は変わっていくものだともよく知ってる。
ただ、四百年間も守ってきたものを簡単に変えたり、むやみに大きくするのも違うでしょう?」
「はい、仰る通りです。」
「先人が大切にしてきたものを大切に思っているのは、あなたも同じだと思ったけれど?
韓服姿の婚約者を、ただ、綺麗だ、とだけ即答したあなたなら、ね。」
チョン会長は僕をじっと見た。
「私の・・・
いいえ、先人達の期待に応える資料を見せて頂戴ね。」
「分かりました。精一杯、努力いたします。」
「明日を楽しみにしているわよ?」
そう言い残すと、チョン・ウォンスク会長は、他の客人につかまっていたパッカに、にこやかに挨拶をして去っていった。
その時一人の女性がパッカの側を離れ、会長に付き従って行くのが見えた。
さりげなく、彼女の側に自分の秘書を置いていたらしい。
さすがだな。
僕は、顔を見るつもりでいただけだったのに・・・
小さく溜息を吐き、肩の力を抜く。
「難攻不落」の会長。
誰も越えることのできなかったその城壁を、パッカはいともたやすく越えてしまった。
とんでもない宿題をもらったものだ。
でも、やるしかない。
ここからは、僕の手腕が問われる。
「難攻不落の城」攻めは、最初から僕の仕事だったはずだ。
だけど、その牙城を崩すための突破口を開いたのは、僕じゃない。
パッカがくれたこのチャンス。
必ずモノにしてやる!
決意も固くそんな風に思ったけれど・・・
ひょっとして
これもピョ・テクス社長の戦略の内だったのだろうか?
チョン会長もだけど・・・
ウチの社長も、喰えない人だ。
と、そう思った。
***
盛大なパーティも無事にお開きとなった。
帰ろうとしたところで、またもやチョン・ウヌ社長に捕まってしまった。
僕は、今度こそ、パッカを社長に紹介した。
この人の祖母であるチョン会長が、冗談だと言いながらパッカを「嫁に欲しい」なんて言うから、牽制の意味も存分に込めてやった。
「いや、そうでしたか。貴女がヨン・テヨン本部長の?
韓服の綺麗なお嬢さんがいらっしゃると思っていましたが、
そうですか、ヨン本部長の!
こんな綺麗な方がご婚約者だとは、実に羨ましい。
しかもお二人はお似合いですね!」
相変わらずの調子の良さで誉めそやしてくる。
パッカは、ありがとうございます、と言ってはいるが若干引き気味だ。
無理もない。
「今日はありがとうございました。良いパーティーでしたね。
次は、商談の席でお会いしましょう。」
チョン社長はガシッと僕の両腕を掴んだ。
「ぜひ!よろしくお願いします!」
会長と僕とのやり取りを知っているのか、いないのか・・・
そうして、やっとのことで社長と別れ、パッカと二人で帰路に付いた。
僕達は、今日、運転手付きの車の後部座席に並んで座っている。
アルコールは、ほとんど口にしてはいないけれど、たまにはこういうのも悪くない。
「パッカ、今日はありがとう。疲れただろ?」
「そうね。少し、疲れたけど・・・楽しかったわ。」
パッカはそう言って、にっこりと微笑んだ。
「これからは、こんな機会が増えると思う。
また一緒に行ってくれるかな?」
嫌と言わせるつもりは、ないんだけどね・・・。
パッカはワザとらしく、うーん、なんて言って考える振りをしている。
「テヨンさんが一緒なら、いいわ。
ちゃんとエスコートしてくれるのよね?」
「もちろんだよ。」
運転手からは見えないように、そっと、パッカの手を取った。
そしてしっかりと握る。
彼女が、僕だけに微笑んでくれる。
本当は、僕がパッカにエスコートされているんだよ。
パッカが一緒ならば、きっと僕はどこへでも行ける。
何だって出来る気がするよ。
僕も、パッカに微笑み返した。
<おわり>
「難攻不落の城」これにて、一応、完結でございます。
城を攻める前ですが、「一応」終わりです。
続編を書き続けるには、あまりにも実生活に無理が生じそうで・・・
まあ、パッカ目線ぐらいはいくつか書くかもしれませんが、未定です。
皆様、お付き合いをありがとうございました。
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~ Comment ~
Re:瑞月さまへ
瑞月さま
ありがとうございます!
> するりと相手の懐に入っていってしまうパッカ。
> ビジネス抜きの「素」の人柄が、難攻不落と言われたチョン会長の心を開かせてしまったのですね~。
> パッカに攻めてた気持ちはこれっぽっちもなかったんだと思いますが。
そう、そう!チョン会長は、普段から裏がある人ばかりに接しているのでしょうから、
新鮮な驚きと共に、嬉しかったんじゃないですかねぇ。
> でも「うちの嫁に」とか言われたらテヨンも心配でしょうね~。
そこが一番問題だと思います!(笑)
> 無理のない範囲での更新を、また待っています!
ありがとうございます。無理してないから、むらっむらっです。(スミマセン。)
ありがとうございます!
> するりと相手の懐に入っていってしまうパッカ。
> ビジネス抜きの「素」の人柄が、難攻不落と言われたチョン会長の心を開かせてしまったのですね~。
> パッカに攻めてた気持ちはこれっぽっちもなかったんだと思いますが。
そう、そう!チョン会長は、普段から裏がある人ばかりに接しているのでしょうから、
新鮮な驚きと共に、嬉しかったんじゃないですかねぇ。
> でも「うちの嫁に」とか言われたらテヨンも心配でしょうね~。
そこが一番問題だと思います!(笑)
> 無理のない範囲での更新を、また待っています!
ありがとうございます。無理してないから、むらっむらっです。(スミマセン。)
お疲れさまでした!
するりと相手の懐に入っていってしまうパッカ。
ビジネス抜きの「素」の人柄が、難攻不落と言われたチョン会長の心を開かせてしまったのですね~。
パッカに攻めてた気持ちはこれっぽっちもなかったんだと思いますが。
でも「うちの嫁に」とか言われたらテヨンも心配でしょうね~。
無理のない範囲での更新を、また待っています!