「長編(完結)」
生まれ変わっても
生まれ変わっても 3
テヨンは、デスクに着いたまま両腕を高く揚げてうーんと伸びをした。
本部長の辞令を受けたからと言って特に何も変わらない。
彼自身は、役職に興味もなければ、昇進を望んでいるわけでもない。・・・それを望んでいる人物も多いというのに。
もちろん仕事に対する面白味も感じてはいたし、実績を上げれば達成感もある。
ああ、でもパッカには知らせよう。
彼にとっては想い人に提供する話題ができて、それが嬉しいばかりなのだ。
南山公園で初めて会った日、いや、再会した日というべきか。
そのつもりはなかったのに、いきなり「好きだ」とパク・ハに告げた。
彼女は何も言わずにただ涙を流した。テヨンはそんな彼女の頬に優しくキスをした。
パク・ハはテヨンの告白に返事をしなかった。
テヨンが手を握っても、頬にキスをしても嫌がらなかった。
嫌いではないと言うことだ、とテヨンは自分を勇気づける。
いや、むしろ好きだろう?・・・何といっても僕は彼にそっくりだからな。そう思い至ると溜息が出た。
おばあ様を大切にしてくれた。
会社を守ってくれた。
結果的にテム従兄さんを救ってくれた、とも言える。
イ・ガクに頭が上がらない。そんな風に一生思っていかなければならないのだろうか。
彼に直接思いをぶつけることができたとしたなら、感謝は感謝として伝えることができたとしたなら、男として一人の女性を争ったとて何の憂いがあるだろうか。
彼女の心の中にはイ・ガクがいるに違いない。
よりによって、大恩あるイ・ガクが、だ。
よりにもよって、自分そっくりのイ・ガクが、だ。
彼が姿を現さないということが、自分に似ているということが、総てをややこしくしている。
そう思ってイ・ガクのせいにしてみても、責任転嫁に過ぎないことをテヨンは知っている。
パク・ハが自分を好いてくれるかどうかなどということは、彼女次第なのだ。
待つしかない。
テヨンはまた溜息をついた。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
ガラスをこつこつとノックする音がした。
閉店時間を過ぎメインライトが消された店内で、片付けと明日への簡単な準備をしていたパク・ハは音のする方を見た。
テヨンが手を振っている。
開・い・て・る。
パク・ハは声には出さずに口だけを動かしてドアの方を指差した。
カランと鐘が鳴って、テヨンがするりと入って来る。
「テヨンさん。お疲れさま。」
手は忙しく動かしながら、パク・ハはにこっと笑った。
リンゴジュースでいい?と訊く彼女に、今日はいいよ、とテヨンは答えた。
あれから、テヨンは仕事が終わると、三日と置かずにパク・ハの店を訪れている。
リンゴジュースを飲みながら店終いするまで待つこともあったし、今日みたいに片付けをしながらパク・ハの方が待っていることもあった。
その後は食事に行くこともあったし、そのまま店でしゃべっているだけのこともあった。
テヨンが、パク・ハを屋根部屋の下まで送っていって、明日は出張だとか、何時に退社できそうだとか伝えると車を降りて階段を上っていく。
恋人だと言っても差支えなさそうであったが、テヨンは、はっきりそう言い切れない釈然としない思いを持て余し気味だ。
今日は近くの食堂で一緒に食事をした。
テヨンは大会社の御曹司であるし、そうでなくても同年代の青年よりもずっと稼いでいる。
お洒落なレストランにパク・ハを連れて行ったりもしたが、気軽な食堂の方がよりパク・ハの笑顔を見られる気がした。
コーヒーでも飲もうか、と言って小さいけれど洒落た喫茶店に入った。
メニューを一通り眺めて、決まった?とテヨンがパク・ハに尋ね、彼女が頷くと店員を呼んだ。
テヨンに促され先にパク・ハが注文する。
「カプチーノを。」
「僕は、ウインナコーヒー。」
注文を復唱すると、店員はお待ちくださいと言ってその場を離れた。
パク・ハがテヨンをじっと見ている。
「何?」
「テヨンさんは、ブラックしか飲まないのかと思ってたから・・・。」
テヨンはいたずらっぽく笑うと、身を乗り出すようにしたので、向かいに座るパク・ハも思わずテヨンに顔を近づけた。
きょろきょろと周りを確認してから、テヨンはパク・ハの耳元で囁く。
「ここだけの話だけどね、実はホイップクリームたっぷりのウインナコーヒーが大好きなんだ。」
座り直すと、人差し指を唇の前で立てて、他の人には内緒だ、とテヨンが笑う。
気分が好いときはこういう喫茶店でウインナコーヒーを頼むようにしている、と片目を瞑って見せた。
私が飲むのは気分を好くしたいとき、逆ね、とパク・ハは思った。
でも、ホイップクリームが大好きだなんて・・・。
パク・ハは我知らず笑みを浮かべる。
店員がコーヒーを運んで来た。
「今日はご褒美だ、昇進したからね。」
「え?そうなの?・・・おめでとう。」
パク・ハは両手を合わせて喜んだ。
「めでたくもないよ。責任を押しつけられただけだから。・・・まあ、でも、こうしてパッカとウインナコーヒーを飲む口実にはなったな。」
テヨンはホイップクリームを舌先で舐めとると、うん、甘い、と言って微笑んだ。
本部長の辞令を受けたからと言って特に何も変わらない。
彼自身は、役職に興味もなければ、昇進を望んでいるわけでもない。・・・それを望んでいる人物も多いというのに。
もちろん仕事に対する面白味も感じてはいたし、実績を上げれば達成感もある。
ああ、でもパッカには知らせよう。
彼にとっては想い人に提供する話題ができて、それが嬉しいばかりなのだ。
南山公園で初めて会った日、いや、再会した日というべきか。
そのつもりはなかったのに、いきなり「好きだ」とパク・ハに告げた。
彼女は何も言わずにただ涙を流した。テヨンはそんな彼女の頬に優しくキスをした。
パク・ハはテヨンの告白に返事をしなかった。
テヨンが手を握っても、頬にキスをしても嫌がらなかった。
嫌いではないと言うことだ、とテヨンは自分を勇気づける。
いや、むしろ好きだろう?・・・何といっても僕は彼にそっくりだからな。そう思い至ると溜息が出た。
おばあ様を大切にしてくれた。
会社を守ってくれた。
結果的にテム従兄さんを救ってくれた、とも言える。
イ・ガクに頭が上がらない。そんな風に一生思っていかなければならないのだろうか。
彼に直接思いをぶつけることができたとしたなら、感謝は感謝として伝えることができたとしたなら、男として一人の女性を争ったとて何の憂いがあるだろうか。
彼女の心の中にはイ・ガクがいるに違いない。
よりによって、大恩あるイ・ガクが、だ。
よりにもよって、自分そっくりのイ・ガクが、だ。
彼が姿を現さないということが、自分に似ているということが、総てをややこしくしている。
そう思ってイ・ガクのせいにしてみても、責任転嫁に過ぎないことをテヨンは知っている。
パク・ハが自分を好いてくれるかどうかなどということは、彼女次第なのだ。
待つしかない。
テヨンはまた溜息をついた。
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ガラスをこつこつとノックする音がした。
閉店時間を過ぎメインライトが消された店内で、片付けと明日への簡単な準備をしていたパク・ハは音のする方を見た。
テヨンが手を振っている。
開・い・て・る。
パク・ハは声には出さずに口だけを動かしてドアの方を指差した。
カランと鐘が鳴って、テヨンがするりと入って来る。
「テヨンさん。お疲れさま。」
手は忙しく動かしながら、パク・ハはにこっと笑った。
リンゴジュースでいい?と訊く彼女に、今日はいいよ、とテヨンは答えた。
あれから、テヨンは仕事が終わると、三日と置かずにパク・ハの店を訪れている。
リンゴジュースを飲みながら店終いするまで待つこともあったし、今日みたいに片付けをしながらパク・ハの方が待っていることもあった。
その後は食事に行くこともあったし、そのまま店でしゃべっているだけのこともあった。
テヨンが、パク・ハを屋根部屋の下まで送っていって、明日は出張だとか、何時に退社できそうだとか伝えると車を降りて階段を上っていく。
恋人だと言っても差支えなさそうであったが、テヨンは、はっきりそう言い切れない釈然としない思いを持て余し気味だ。
今日は近くの食堂で一緒に食事をした。
テヨンは大会社の御曹司であるし、そうでなくても同年代の青年よりもずっと稼いでいる。
お洒落なレストランにパク・ハを連れて行ったりもしたが、気軽な食堂の方がよりパク・ハの笑顔を見られる気がした。
コーヒーでも飲もうか、と言って小さいけれど洒落た喫茶店に入った。
メニューを一通り眺めて、決まった?とテヨンがパク・ハに尋ね、彼女が頷くと店員を呼んだ。
テヨンに促され先にパク・ハが注文する。
「カプチーノを。」
「僕は、ウインナコーヒー。」
注文を復唱すると、店員はお待ちくださいと言ってその場を離れた。
パク・ハがテヨンをじっと見ている。
「何?」
「テヨンさんは、ブラックしか飲まないのかと思ってたから・・・。」
テヨンはいたずらっぽく笑うと、身を乗り出すようにしたので、向かいに座るパク・ハも思わずテヨンに顔を近づけた。
きょろきょろと周りを確認してから、テヨンはパク・ハの耳元で囁く。
「ここだけの話だけどね、実はホイップクリームたっぷりのウインナコーヒーが大好きなんだ。」
座り直すと、人差し指を唇の前で立てて、他の人には内緒だ、とテヨンが笑う。
気分が好いときはこういう喫茶店でウインナコーヒーを頼むようにしている、と片目を瞑って見せた。
私が飲むのは気分を好くしたいとき、逆ね、とパク・ハは思った。
でも、ホイップクリームが大好きだなんて・・・。
パク・ハは我知らず笑みを浮かべる。
店員がコーヒーを運んで来た。
「今日はご褒美だ、昇進したからね。」
「え?そうなの?・・・おめでとう。」
パク・ハは両手を合わせて喜んだ。
「めでたくもないよ。責任を押しつけられただけだから。・・・まあ、でも、こうしてパッカとウインナコーヒーを飲む口実にはなったな。」
テヨンはホイップクリームを舌先で舐めとると、うん、甘い、と言って微笑んだ。
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