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「短編集」
Always beside of YU

あなたの横に―― 選択と決断

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東の空が白み始めた。
鳥たちが囀り始める。

芙蓉池プヨンヂの水面を吹き渡る風は、幾分か冷ややかだ。
昼間は汗ばむようになってきたとはいえ、朝夕は冷える。
水面の蓮の蕾はまだ固く、まだ一輪の花もない。

王は、静かに目を閉ざした。

・・・どうすれば良い?
私は、どうすれば良いのだ?



*


重臣が、居室を訪ねてきた。
朝議で諮る前に、根回しにやって来るのはよくあること。

イ・ガクは黙して臣下の話を聞いた。


殿下チョナ。ご英断を・・・」

左義政チャイジョンがそう言って深々と頭を下げた。

「・・・どうしても、必要か?」

「はい。」

「少し、時間が欲しい。」

殿下チョナ。先日もそのように申されたではございませぬか。
もう、一刻の猶予もございませぬぞ。」

強い口調でそう言われ、イ・ガクは左義政を睨みつける。
しかし、左義政は平然としていた。

殿下チョナ。ご英断を・・・」

先程と同じ言葉を繰り返す。

「・・・五日、いや、三日待て。」

「明日までにご決断下さい。」

イ・ガクは静かに目を閉じる。
しばしの沈黙が流れた。

王は目を開けると、絞り出すように答えた。

「・・・左義政、明後日の朝だ。・・・よいな?」

左義政の口角が微かに上がった。

「明後日の朝、また参りまする。」


*



朝日の光を瞼に感じる。

王はゆっくりと目を開き、眩しさに顔をしかめた。

「・・・私に、どうしろと言うのだ・・・。」

「思し召しのままに。」

凛として涼やかな声に、イ・ガクはゆるりと振り返る。

「いつから・・・そこに?」

王妃はにこりと笑った。

「今、参ったばかりにございます。
殿下チョナ。お考えの通りになされませ。」

王妃ソン・ユンジュは静かに頭を下げる。

中殿チュンジョン。・・・もし、私が、間違ったらどうするのだ。」

殿下チョナは、朝鮮の王でございますれば・・・
殿下チョナこそが正義でございましょう。」

イ・ガクはまた池の水面に視線を戻した。


国としての正義
王としての正義
人としての正義

己自身の正義

どれも同じとは限るまい。

私の正義は何処にある?


どうすれば良いのかと問うてみても、誰からも答えは得られない。


愛してくれた者の命と引き換えに、生き永らえた。
愛した者との別れと引き換えに、王となることを選択した。

王は、国を導く者。
王は間違ってはならぬ。
王は正しくあらねばならぬ。

総てを、正しく選択できる人間などいるはずがない。
間違わない人間などいるはずがない。

王は、人に非ず。

民にとって、王は間違いを犯す人間であってはならない。



『天が下す罰もあるわ。』


その言葉に、悔しさを紛らわせているのだと思っていた。

あれは、私への戒めの言葉だったのかもしれぬ。

この孤独は・・・
天が私に下された罰であろうか?




芙蓉池の水面を風が渡る。

芳しい蓮の香りが、イ・ガクの鼻腔をくすぐった。
花は一輪も咲いていないのに・・・。

愛しき者の声が、聞こえる気がした。



***



テヨンはコーヒーカップを置き、伸びをした。
ふーっと溜息を一つ。

「どうしたの?悩み事?」

パク・ハが後ろから声を掛けてくる。彼はパク・ハを振り返った。

「悩みって言うか・・・。どうするのが良いのかなって思って・・・」

「仕事?」

「うん、まあ、そうだね。」

テヨンは曖昧に笑った。

「テヨンさんの思う通りにすればいいわよ。」

「・・・僕が間違ってしまったらどうするんだよ?」

パク・ハもコーヒーカップをテーブルに置き、テヨンの隣に腰かける。

「そんなこと、・・・今は分からないわよ。」

「無責任だな。」

会社に責任を持つべきはテヨンであってパク・ハではない。そんなことが分からないテヨンではないが、思わず、そんな言葉が口を突いて出た。

「んー。でも、間違ってるかどうかなんて、後から結果を見て言うんでしょ?今は分からないわよ。」

確かにパク・ハの言う通りで、テヨンの選択が、吉と出るか凶と出るかは分からないのだ。
だから、悩んでいる。

「でも、私、知ってるわ。」

テヨンは、えっ?とパク・ハの顏を見た。

「何を?」

「テヨンさんは、どんな選択をしてどんな結果が出たとしても、その総てに責任を持とうとしてる。
責任の持てない『決断』はしないってこと。」

テヨンの立場なら、結果が見えていなかったとしても決断を迫られることは往々にしてある。
どんな結果だとしても、選択する前にそれが見えているとしたら、どれほど気が楽だろうか。

「あらゆる可能性を考えるから悩むんでしょ?
それに、結果が予測を大きく外れても、責任を持とうとしてるわよね?
その覚悟ができてから『決断』するじゃない。」

テヨンは目を見開いたあと、くすりと笑った。

「買いかぶり過ぎだ。
僕の立場上、責任は持たなきゃならないけどね、覚悟なんてそんなモノ、いつもあるとは限らないよ。」

「でも、その時もし覚悟ができてなかったとしても、結果が出るまでの過程で、必ず、覚悟を決めるでしょ?
まだ見えていない結果が、いつも間違ってない、いつも正しい、そんな人、いるわけないわ。」

パク・ハは片目を瞑ってみせた。

「テヨンさんの思う通りにすればいい。私はその選択と決断を受け入れるわよ?
でも、会社のことは私には関わりが無いから・・・
やっぱり、無責任よね。ごめんね。」

彼女はぺろりと舌を出した。

「会社のことに関わりが無くても・・・
僕が間違った選択をして大失敗をすれば、君も笑ってはいられないよ。それでもいいの?」

テヨンの問いかけに、パク・ハが唇を尖らせる。

「そんなの・・・その覚悟がなくて、どうして家族になる『決断』なんてできるのよ?」

テヨンは、パク・ハとの間を詰め彼女の腕を掴んだ。
パク・ハがキャッと小さく叫んだのもお構いなしに、彼は腕を掴んだそのままの勢いで彼女を引き寄せ、愛する者を抱きしめていた。



***



正しくなくてもいい。
間違ったとしてもいい。
そのままの貴方でいてほしい。

何があっても
私は、いつもあなたの横にいるから・・・



















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