「長編(完結)」
生まれ変わっても
生まれ変わっても 10
テヨンは自宅へと帰ってきた。
お手伝いさんには、食器だけ片付けたら休むようにと伝えてあったから、邸の明かりは消えていた。
リビングの明かりを点けると、金銀のモールが光を反射し、既に球体ではなくなってしまった久寿玉もキラキラと光っている。
そこかしこに置いてあった花たちは一か所に集められていた。
テーブルの上はきれいに片づけられ、そこらじゅうに舞い散っていた紙吹雪も、きれいに無くなっている。
大変だったろうな。
テヨンは階段を上がり自室に入った。
ベッドに腰かけ、手を組んで上に向けて伸びをする。
そのまま身体を右に倒し、また元に戻す。今度は左に倒して、元に戻る。
落ち着かない様子で、ストレッチなどしてみるのだが、頭は冴えたままで眠気もこない。
ドサッとそのまま後ろに倒れ込んだ。
先ほどのパク・ハの唇の柔らかさを思い出して、自然と頬が緩む。
キスなど挨拶にすぎない国で生活してきた。見慣れているはずだった。特別なことでも何でもないはずだった。
・・・最も彼は、そう簡単に挨拶のキスもしてはこなかったのだが。
人がしているのを見るのと、自分がするのとでは訳が違う。
まして、あれは単なる挨拶なんかではない。
彼女との口づけは特別だった。
わずかに残る余韻にでさえ、全身の血が沸き立つのを感じる。このままでは眠れなくなってしまう。
テヨンはむくりと起き上がり、シャワーを浴びるために部屋を出た。
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
パク・ハはきれいに編み込んであった髪をほどいた。髪留めをそっと外す。
鏡に映る自分の顔を見て、右手の人差し指で唇に触れてみた。テヨンの唇の感触を思い出す。
左手の中にある髪留めを見つめた。
テヨンに何を思い出して欲しかったのか、今となっては彼女自身もよく分からない。
記憶があれば、永遠に共に居られる。
嬪宮を想いながらイ・ガクが言った言葉だが、パク・ハは、そうじゃない、と思った。
記憶はなくても、あなたは私に会いに来てくれたわ。
テヨンが、そういうのは好きだ、よく似合っている、と言ってくれたアクセサリーを、ドレッサーの引き出しにしまった。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
ざわめく南山公園。
待ち合わせ場所で、テヨンはパク・ハを探した。
恋人の姿を認めると、彼は彼女の方に向かって駆けだした。
パク・ハは手を握られて、涙を流している。
彼女の手を取っている彼の頬もまた、涙で濡れていた。
テヨンは夢を見ていた。
パク・ハと初めて会うことのできたあの日の南山公園での情景を、まるでスクリーンに映る映像のごとく客観的に見せられている。
パク・ハの手を握っている青年は、間違いなくヨン・テヨンその人だ。
パッカ。それは誰?・・・イ・ガク?
テヨンがそう思った瞬間、恋人と共にいる自分が、自分ではなくなった。
パク・ハと共にいるテヨンにそっくりのその青年は、紺色の立派な韓服を身に纏い、頭には丈の高い被り物まで載せている。
まるで、史劇ドラマに出てくる役者のようだ。
二人は向かい合って無言のまま涙を流している。
あの日のテヨンとパク・ハのように。
訳も分からず見つめていると、イ・ガクの姿が透けていく。向こう側が、彼の身体を透けて見え始めたではないか。
パク・ハは哀しみの表情を浮かべて、消えつつある彼を見つめていた。
「パッカ!」
テヨンは思わず彼女の名を呼んだ。
次の瞬間、テヨンはパク・ハの手を握って立っていた。
消えてしまったイ・ガクと入れ替わった?
テヨンは自分の涙で目を覚ました。
がばっと身を起こす。
なんで、こんな夢を?・・・あれは、あの日の僕達だった。
時計を見ると11時を廻っている。テヨンは考えるのを止めて、ベッドを抜け出した。
パク・ハとランチの約束をしていたのだが、ランチにしては遅めの2時に彼女の店に行くことにしてあった。
しかし、これから朝食を摂ったのではいささかタイミングが悪い。
コーヒーだけを飲むことに決めて、着替えて自室を出た。
リビングに下りていくと、昨夜の飾り付けのモールを外そうと、お手伝いさんが孤軍奮闘していた。
テヨンがあわてて駆け寄り、背伸びをして外してやる。
彼女は礼を言い、おはようございます、と言った。
テヨンも、おはようございます、と言った。
「高いところのは僕がやるよ。・・・大叔母様は?」
「まだ、おやすみでいらっしゃいます。」
「・・・そう。ああ、そうだ。コーヒーを、一杯お願いできませんか?」
お手伝いさんが、はい、と返事をした時、ソリがリビングにやって来たので彼女はソリに挨拶をした。
「おはよう。・・・うぅぅ、頭、痛い。」
「大叔母様、おはようございます。二日酔いみたいだね?」
「もう、いやんなっちゃう。昨夜のこと、全然覚えてないわ。でもね、とってもいい夢見たわ。」
「・・・どんな?」
「テクスさんにお姫様抱っこされたのよ。」
「・・・それ、現実だよ。」
「えっ?ほんとに?!」
ソリは自分が出した声が頭に響いて、痛たたた、と頭を押さえた。
テクスは確かにソリを抱き上げようとしていた。あのまま立ち上がっていたら実現したはずだから、あながち嘘でもあるまい。
テヨンはくすくすと笑いながら、コーヒー2杯ね、とお手伝いさんに言った。
ソリは椅子に腰かけて頭を抱えている。テヨンは脚立に昇って、昨夜の名残を取り外しに掛かった。
/////////////////////////////////////////////////////////////////
パク・ハの店に行くと、既に休憩中の札が掛けられている。
テヨンがドアを押すと、パク・ハがにこやかに迎えた。
「いらっしゃい。テヨンさん。」
「うん。お腹すいたよ。」
「もう、何よ。いきなり。」
「ごめん、ごめん。寝坊して、朝、抜きなんだ。」
パク・ハはくすくすと笑いながら、ウィンドウのブラインドをシャッと下げた。
これで外からの視線は遮断される。
「今日はお弁当を作ってきたの。ここで食べましょ。」
「おっ、いいね。さすが、パッカヌナ。」
もう、ヌナは止めてよ、そう言って尖らせたパク・ハの唇に、テヨンはちゅっとキスをした。
パク・ハは、一瞬目を丸くしたが、嬉しそうに微笑んだ。
店のテーブルの上にお弁当を広げる。
テヨンはパク・ハの手造り弁当をきれいに平らげた。おいしかった、と満面の笑みを浮かべる。
食後にリンゴ・ジュースを飲みながら、他愛もない話をした。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
「もう、お店を開けなきゃいけないけど、テヨンさんはどうするの?」
「うーん。パッカが終わるまで待ってるよ。」
「え?終わるまで?」
「うん。嫌?」
「嫌なんかじゃないけど・・・お店、狭いし・・・。」
じっと見られてたら、仕事にならないと言うか・・・ドキドキするじゃない。
「ああ、大丈夫。あそこに座って、絵でも描いてるから。」
テヨンは、店の道路を挟んだ向かい側、ちょっとした緑地帯の中のベンチを指差した。
ああ、なんだ。
パク・ハは少し残念なような気もしながら、微笑んだ。
お手伝いさんには、食器だけ片付けたら休むようにと伝えてあったから、邸の明かりは消えていた。
リビングの明かりを点けると、金銀のモールが光を反射し、既に球体ではなくなってしまった久寿玉もキラキラと光っている。
そこかしこに置いてあった花たちは一か所に集められていた。
テーブルの上はきれいに片づけられ、そこらじゅうに舞い散っていた紙吹雪も、きれいに無くなっている。
大変だったろうな。
テヨンは階段を上がり自室に入った。
ベッドに腰かけ、手を組んで上に向けて伸びをする。
そのまま身体を右に倒し、また元に戻す。今度は左に倒して、元に戻る。
落ち着かない様子で、ストレッチなどしてみるのだが、頭は冴えたままで眠気もこない。
ドサッとそのまま後ろに倒れ込んだ。
先ほどのパク・ハの唇の柔らかさを思い出して、自然と頬が緩む。
キスなど挨拶にすぎない国で生活してきた。見慣れているはずだった。特別なことでも何でもないはずだった。
・・・最も彼は、そう簡単に挨拶のキスもしてはこなかったのだが。
人がしているのを見るのと、自分がするのとでは訳が違う。
まして、あれは単なる挨拶なんかではない。
彼女との口づけは特別だった。
わずかに残る余韻にでさえ、全身の血が沸き立つのを感じる。このままでは眠れなくなってしまう。
テヨンはむくりと起き上がり、シャワーを浴びるために部屋を出た。
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パク・ハはきれいに編み込んであった髪をほどいた。髪留めをそっと外す。
鏡に映る自分の顔を見て、右手の人差し指で唇に触れてみた。テヨンの唇の感触を思い出す。
左手の中にある髪留めを見つめた。
テヨンに何を思い出して欲しかったのか、今となっては彼女自身もよく分からない。
記憶があれば、永遠に共に居られる。
嬪宮を想いながらイ・ガクが言った言葉だが、パク・ハは、そうじゃない、と思った。
記憶はなくても、あなたは私に会いに来てくれたわ。
テヨンが、そういうのは好きだ、よく似合っている、と言ってくれたアクセサリーを、ドレッサーの引き出しにしまった。
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ざわめく南山公園。
待ち合わせ場所で、テヨンはパク・ハを探した。
恋人の姿を認めると、彼は彼女の方に向かって駆けだした。
パク・ハは手を握られて、涙を流している。
彼女の手を取っている彼の頬もまた、涙で濡れていた。
テヨンは夢を見ていた。
パク・ハと初めて会うことのできたあの日の南山公園での情景を、まるでスクリーンに映る映像のごとく客観的に見せられている。
パク・ハの手を握っている青年は、間違いなくヨン・テヨンその人だ。
パッカ。それは誰?・・・イ・ガク?
テヨンがそう思った瞬間、恋人と共にいる自分が、自分ではなくなった。
パク・ハと共にいるテヨンにそっくりのその青年は、紺色の立派な韓服を身に纏い、頭には丈の高い被り物まで載せている。
まるで、史劇ドラマに出てくる役者のようだ。
二人は向かい合って無言のまま涙を流している。
あの日のテヨンとパク・ハのように。
訳も分からず見つめていると、イ・ガクの姿が透けていく。向こう側が、彼の身体を透けて見え始めたではないか。
パク・ハは哀しみの表情を浮かべて、消えつつある彼を見つめていた。
「パッカ!」
テヨンは思わず彼女の名を呼んだ。
次の瞬間、テヨンはパク・ハの手を握って立っていた。
消えてしまったイ・ガクと入れ替わった?
テヨンは自分の涙で目を覚ました。
がばっと身を起こす。
なんで、こんな夢を?・・・あれは、あの日の僕達だった。
時計を見ると11時を廻っている。テヨンは考えるのを止めて、ベッドを抜け出した。
パク・ハとランチの約束をしていたのだが、ランチにしては遅めの2時に彼女の店に行くことにしてあった。
しかし、これから朝食を摂ったのではいささかタイミングが悪い。
コーヒーだけを飲むことに決めて、着替えて自室を出た。
リビングに下りていくと、昨夜の飾り付けのモールを外そうと、お手伝いさんが孤軍奮闘していた。
テヨンがあわてて駆け寄り、背伸びをして外してやる。
彼女は礼を言い、おはようございます、と言った。
テヨンも、おはようございます、と言った。
「高いところのは僕がやるよ。・・・大叔母様は?」
「まだ、おやすみでいらっしゃいます。」
「・・・そう。ああ、そうだ。コーヒーを、一杯お願いできませんか?」
お手伝いさんが、はい、と返事をした時、ソリがリビングにやって来たので彼女はソリに挨拶をした。
「おはよう。・・・うぅぅ、頭、痛い。」
「大叔母様、おはようございます。二日酔いみたいだね?」
「もう、いやんなっちゃう。昨夜のこと、全然覚えてないわ。でもね、とってもいい夢見たわ。」
「・・・どんな?」
「テクスさんにお姫様抱っこされたのよ。」
「・・・それ、現実だよ。」
「えっ?ほんとに?!」
ソリは自分が出した声が頭に響いて、痛たたた、と頭を押さえた。
テクスは確かにソリを抱き上げようとしていた。あのまま立ち上がっていたら実現したはずだから、あながち嘘でもあるまい。
テヨンはくすくすと笑いながら、コーヒー2杯ね、とお手伝いさんに言った。
ソリは椅子に腰かけて頭を抱えている。テヨンは脚立に昇って、昨夜の名残を取り外しに掛かった。
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パク・ハの店に行くと、既に休憩中の札が掛けられている。
テヨンがドアを押すと、パク・ハがにこやかに迎えた。
「いらっしゃい。テヨンさん。」
「うん。お腹すいたよ。」
「もう、何よ。いきなり。」
「ごめん、ごめん。寝坊して、朝、抜きなんだ。」
パク・ハはくすくすと笑いながら、ウィンドウのブラインドをシャッと下げた。
これで外からの視線は遮断される。
「今日はお弁当を作ってきたの。ここで食べましょ。」
「おっ、いいね。さすが、パッカヌナ。」
もう、ヌナは止めてよ、そう言って尖らせたパク・ハの唇に、テヨンはちゅっとキスをした。
パク・ハは、一瞬目を丸くしたが、嬉しそうに微笑んだ。
店のテーブルの上にお弁当を広げる。
テヨンはパク・ハの手造り弁当をきれいに平らげた。おいしかった、と満面の笑みを浮かべる。
食後にリンゴ・ジュースを飲みながら、他愛もない話をした。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
「もう、お店を開けなきゃいけないけど、テヨンさんはどうするの?」
「うーん。パッカが終わるまで待ってるよ。」
「え?終わるまで?」
「うん。嫌?」
「嫌なんかじゃないけど・・・お店、狭いし・・・。」
じっと見られてたら、仕事にならないと言うか・・・ドキドキするじゃない。
「ああ、大丈夫。あそこに座って、絵でも描いてるから。」
テヨンは、店の道路を挟んだ向かい側、ちょっとした緑地帯の中のベンチを指差した。
ああ、なんだ。
パク・ハは少し残念なような気もしながら、微笑んだ。
← 【 お礼画像と、時々SS 掲載してます 】
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