「短編集」
読みきり
願いを叶える指輪
店のドアが開いた。カランカランと鐘が鳴る。
「いらっしゃいませ。」
パク・ハは条件反射のように言った。
目の前の客に注文されたジュースを渡して、ありがとうございます、と言うのもやはり条件反射のようだった。
数日前、独りで昌徳宮に行った時、芙蓉亭の石柱の下にイ・ガクからの手紙を見つけた。
端々が薄い褐色に変色してはいたが、その恋文は、愛しい恋人の瑞々しいその筆跡も、彼の愛情も、少しも色褪せさせることなくパク・ハに伝えてくれていた。
死して会えるならすぐにでも命を絶ちたい
一人の客が出て行き、今入ってきた男性客一人になった。
「リンゴジュースを一つ。」
注文を聞いているのかいないのか、パク・ハは返事もせずにジューサーに手を掛けた。
ぼんやりとして手を止めてしまったパク・ハに向かって、男性客は、リンゴジュースを、と繰り返す。
もっと愛してると言えばよかった
男性客が微かに微笑むのを、パク・ハは見ていない。
パク・ハ
愛している
そなたの笑顔が恋しい
どうか元気で
どうか幸せに
搾りたてのジュースをカップに注いで手渡す。
男性客が、ありがとう、と言うのへ、パク・ハは相変わらずぼんやりとしたまま、彼を見ようともせずに、またも条件反射的に、ありがとうございます、と言っただけだった。
カラン。
店内はパク・ハ独りになった。
左手の親指を内側に折り込むようにして、薬指にはまるリングを掌側から撫でてみる。
露店に並べられていたファッションリング。
"願いを叶える指輪" と書かれたポップを見て喜ぶパク・ハに、買わせるための文言に過ぎぬ、と店主に冷たい視線を送ったイ・ガク。
パク・ハは自分の指にリングをはめて、買って、とせがんだ。
彼女に手を貸せと言われたイ・ガクは、そっぽを向きながらも素直に手を差出し、彼女にリングをはめられた。
「これは、私が買うね。」
男が指輪など、そう言って外そうとするイ・ガクに、パク・ハは、恋人同士は、と言って彼を見直し、一呼吸おいて、指輪を贈り合うのよ、と告げた。
「そうか。」
ペアリングを着けて、街を歩き、いつものベンチに座って休んだ。
「何を願う?」
嬉しそうにそう問うパク・ハに、咳払いを一つしてからイ・ガクは答えた。
「信じぬと言ったはずだ。」
ちぇっと舌打ちを一つイ・ガクにくれて、パク・ハは目を閉じ、手を合わせて祈った。
どうか、この人と、ずっと、ずっと一緒に居られますように。
目を開け、隣でただ座っていた恋人を見た時、パク・ハは彼の身体を透かして向こう側を見てしまった。
思わず目を大きく見開いて、イ・ガクを見つめた。彼の姿が薄れていく。
彼女のその表情を不思議そうに見つめ返すイ・ガクが、今にも消えそうになっている。
そして、彼が実体として戻ったと見えた時、パク・ハはあわてた様子でイ・ガクの首にしがみついた。
お願い!ずっと、傍に居させて。
彼をそこに留めようとでもするかのように、彼女は必死にイ・ガクに抱きつく。
イ・ガクは、急にどうしたのだ、と驚いていたが、嬉しさ半分、パク・ハに身を任せていた。
パク・ハはリングを撫でた。
あんたの言う通り。・・・願いは叶わなかったね。
二日後、朝、店に行くとドアに何か挟まっているのに気付いた。
南山公園の絵ハガキ。
パク・ハの左手でリングがきらめいた。
ざわめく南山公園で、パク・ハはテヨンに初めて会った。
「遅かったね。長い間、待ってたのに。」
「どこにいたの?私はずっと、ここにいたのに。」
微笑んで差し出されたテヨンの右手に、パク・ハも左手をそっと差し出した。
リングのはまるパク・ハの手を優しく握るテヨン。
握り合った手をじっと見つめていたパク・ハが、ゆっくりと顔を上げた時、目の前にいたのはイ・ガクだった。
初めてパク・ハの前に現れた時の、王世子の衣を纏うイ・ガク。
どうか、この人と、ずっと、ずっと一緒に居られますように。
"願いを叶える指輪" が応えるようにきらめいた。
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「いらっしゃいませ。」
パク・ハは条件反射のように言った。
目の前の客に注文されたジュースを渡して、ありがとうございます、と言うのもやはり条件反射のようだった。
数日前、独りで昌徳宮に行った時、芙蓉亭の石柱の下にイ・ガクからの手紙を見つけた。
端々が薄い褐色に変色してはいたが、その恋文は、愛しい恋人の瑞々しいその筆跡も、彼の愛情も、少しも色褪せさせることなくパク・ハに伝えてくれていた。
死して会えるならすぐにでも命を絶ちたい
一人の客が出て行き、今入ってきた男性客一人になった。
「リンゴジュースを一つ。」
注文を聞いているのかいないのか、パク・ハは返事もせずにジューサーに手を掛けた。
ぼんやりとして手を止めてしまったパク・ハに向かって、男性客は、リンゴジュースを、と繰り返す。
もっと愛してると言えばよかった
男性客が微かに微笑むのを、パク・ハは見ていない。
パク・ハ
愛している
そなたの笑顔が恋しい
どうか元気で
どうか幸せに
搾りたてのジュースをカップに注いで手渡す。
男性客が、ありがとう、と言うのへ、パク・ハは相変わらずぼんやりとしたまま、彼を見ようともせずに、またも条件反射的に、ありがとうございます、と言っただけだった。
カラン。
店内はパク・ハ独りになった。
左手の親指を内側に折り込むようにして、薬指にはまるリングを掌側から撫でてみる。
露店に並べられていたファッションリング。
"願いを叶える指輪" と書かれたポップを見て喜ぶパク・ハに、買わせるための文言に過ぎぬ、と店主に冷たい視線を送ったイ・ガク。
パク・ハは自分の指にリングをはめて、買って、とせがんだ。
彼女に手を貸せと言われたイ・ガクは、そっぽを向きながらも素直に手を差出し、彼女にリングをはめられた。
「これは、私が買うね。」
男が指輪など、そう言って外そうとするイ・ガクに、パク・ハは、恋人同士は、と言って彼を見直し、一呼吸おいて、指輪を贈り合うのよ、と告げた。
「そうか。」
ペアリングを着けて、街を歩き、いつものベンチに座って休んだ。
「何を願う?」
嬉しそうにそう問うパク・ハに、咳払いを一つしてからイ・ガクは答えた。
「信じぬと言ったはずだ。」
ちぇっと舌打ちを一つイ・ガクにくれて、パク・ハは目を閉じ、手を合わせて祈った。
どうか、この人と、ずっと、ずっと一緒に居られますように。
目を開け、隣でただ座っていた恋人を見た時、パク・ハは彼の身体を透かして向こう側を見てしまった。
思わず目を大きく見開いて、イ・ガクを見つめた。彼の姿が薄れていく。
彼女のその表情を不思議そうに見つめ返すイ・ガクが、今にも消えそうになっている。
そして、彼が実体として戻ったと見えた時、パク・ハはあわてた様子でイ・ガクの首にしがみついた。
お願い!ずっと、傍に居させて。
彼をそこに留めようとでもするかのように、彼女は必死にイ・ガクに抱きつく。
イ・ガクは、急にどうしたのだ、と驚いていたが、嬉しさ半分、パク・ハに身を任せていた。
パク・ハはリングを撫でた。
あんたの言う通り。・・・願いは叶わなかったね。
二日後、朝、店に行くとドアに何か挟まっているのに気付いた。
南山公園の絵ハガキ。
パク・ハの左手でリングがきらめいた。
ざわめく南山公園で、パク・ハはテヨンに初めて会った。
「遅かったね。長い間、待ってたのに。」
「どこにいたの?私はずっと、ここにいたのに。」
微笑んで差し出されたテヨンの右手に、パク・ハも左手をそっと差し出した。
リングのはまるパク・ハの手を優しく握るテヨン。
握り合った手をじっと見つめていたパク・ハが、ゆっくりと顔を上げた時、目の前にいたのはイ・ガクだった。
初めてパク・ハの前に現れた時の、王世子の衣を纏うイ・ガク。
どうか、この人と、ずっと、ずっと一緒に居られますように。
"願いを叶える指輪" が応えるようにきらめいた。
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Re: ハニです様へ
もうテヨンとは離れない、そんな思いを込めてみました。