「長編(完結)」
生まれ変わっても
生まれ変わっても 15
メインライトを落とした店内のカウンターの中で、パク・ハはレジの集計をしていた。
夕方、テヨンからのメールで、今夜は遅くなりそうだ、と連絡があった。
仕事が遅くなる時は訪れないこともあったから、今日もそうなのかと思ったが、そうではなかった。
遅くなっても必ず行くから、待ってて欲しい。話があるんだ。
待ってる。だから、焦ったりしないでね。
ここ最近のテヨンは様子がおかしい。
ドアを押して店に入ってくるテヨンは、いつもどこかしら不安げに見えた。
とても疲れている様子で、上の空かと思ったら、パク・ハをじっと見つめたりする。
そのうちに、おびえた子供のような緊張感がとれてきて、いつもの穏やかなテヨンに戻りはするのだが。
元々愛情表現はストレートだったが、初めてキスを交わしてからは、そこにスキンシップが加わっていた。
しかし、ここ最近のテヨンは、必要以上にパク・ハに触れたがっているように思える。
毎日欠かさずパク・ハの店にやって来て、手を握り、抱きしめてキスをくれた。
パク・ハは、そうしたくなる心の動きに、身に覚えがある。
愛する者が、自分の許をたった今去って行ってしまうのではないか、という不安感。
片時も離れたくなくて、傍にいても固く手を握っていたい。どこにも行かないで欲しいと強く願いながら。
テヨンが何かを不安に思っているらしいのは明らかだった。
イ・ガクに関わることなのではないか、とパク・ハは思っていた。
何を話されてもありのままに受け入れ、何を訊かれてもありのままに伝えるしかない、と彼女は思っている。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
テヨンは腕時計を見た。午後8時を廻ろうとしている。
ずっとまともに眠っていなかったが、昨夜、いつもの夢を見た後、イ・ガクに対する種々の疑問に答えを見出してからは、久しぶりにぐっすり眠れた。
短時間であっても熟睡できたおかげで頭はすっきりしている。
肉体的にも、精神的にも張りつめた状態が続いていたから、ずっと仕事にも身が入っていなかった。重大なミスを犯さなかったのが不思議なほどに。
今日は、今までの遅れを取り戻すように仕事をこなした。
しかし、これ以上遅くなって、パク・ハを待たせ続けることは気が引ける。仕事も気にはなるが、パク・ハと会うのを明日以降に引き伸ばすのも落ち着かない。どうしても、今夜、パク・ハと話をしたかった。
テヨンはデスクの上の書類を手早くまとめ、パク・ハの店に向かうことにした。
朝、目を覚ました時、イ・ガクのことを考えたが、自分の考えが真実であることを否定できそうになかった。
しかも、受け入れた方が都合もいいのだ。
仕事上のイ・ガクへの評価、祖母の期待に応えていたという安心感、何よりパク・ハへの想いとパク・ハの愛情を独り占めしたい欲求。
総てが自分のものであると言ってもよくなるのだ。イ・ガクがテヨンであるとするならば。
複雑な心境ではあったが、否定し続けて苦しむよりも、前向きに受け入れていく方が好いに違いない。
そのためには、パク・ハとありのままを話す必要があった。
パッカなら僕を救ってくれる。
イ・ガクを受け入れた彼女だからそれが可能なのだ、とテヨンは確信していた。
////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
カラン。
来客を告げる鐘の音にパク・ハはドアの方を見た。
テヨンの顔を見て、安心したように微笑んだ。
ここ最近の疲れていた様子が嘘みたいに、すっきりした顔をしている。
「テヨンさん。いらっしゃい。」
「ごめん。随分、待たせたね。」
パク・ハは首を横に振った。リンゴジュースでいい?と尋ね、テヨンが答える前にジューサーが廻される。
まだ返事してないよ、とテヨンが笑うのへ、だって他の飲まないじゃない、とパク・ハが笑った。
カップを受け取ったテヨンは、店内の椅子に腰を下ろす。
パク・ハはカウンターから出てくると、ブラインドを下げ、メインライトを点けた。
急に明るさを取り戻した店内のテーブルで、二人は向かい合った。
テヨンは搾りたてのパク・ハのリンゴジュースを一口飲んで、カップをテーブルに置いた。
「単刀直入に言うよ。」
時間が遅くなってしまったこともあったのだが、何よりもテヨンに迷いがなかったことが、そう言わせた。
同じような夢を見続けていた、とテヨンは言った。
王世子姿のイ・ガクが消えること、自分も袞龍袍(コルリョンボ)を纏っていたこと、身体が消えてしまってパク・ハに二度と会えないかと思って恐ろしかったこと、事細かに、夢で見たこと、感じたことをパク・ハに告げた。
夢の中でパク・ハが彼を "チョハ" と呼んだから、まさかと思いつつインターネットで調べたら、歴史の中にイ・ガクという王が実在していた、と続けた。
パク・ハは身じろぎもせず、テヨンの話をじっと聞いている。
「イ・ガクがどこに行ってしまったのかと訊いたことがあっただろ?」
「ええ。」
「君は知ってるんだろ?」
「・・・ええ。」
「イ・ガクは、過去に還ってしまった?」
「・・・ええ。」
「イ・ガクの "生まれ変わり" は、ヨン・テヨン?」
「・・・ええ。」
突然、テヨンがはじけるように笑った。
それまで神妙な面持ちで会話をしていたパク・ハだが、驚いたと同時に緊張の糸が切れた。
「ええ、しか言ってないよ。」
可笑しそうに笑うテヨンを見ながら、それもそうね、と彼女は思った。自然に笑みがこぼれる。
「イ・ガクがタイムスリップして来た王世子だったとか、また過去に還ったんだとか、その生まれ変わりが僕だとか、ちょと・・・と言うか、随分おかしなことを言ってると思うんだけど?」
「だって、事実ですもの。」
「そうか。」
テヨンの真剣な顔が、イ・ガクのその表情と同じだった。
「パッカがそう言うなら、信じられるよ。」
いくらその状況の辻褄が合っていようと、いくらネット検索の結果がそれは真実だと告げていようと、パク・ハの言葉以上に信じられるものはない、とテヨンは思った。
「これで、安心して眠れる。パッカ、ありがとう。愛してるよ。」
テヨンは立ち上がると、パク・ハを抱くように立ち上がらせ、唇を重ねた。
夕方、テヨンからのメールで、今夜は遅くなりそうだ、と連絡があった。
仕事が遅くなる時は訪れないこともあったから、今日もそうなのかと思ったが、そうではなかった。
遅くなっても必ず行くから、待ってて欲しい。話があるんだ。
待ってる。だから、焦ったりしないでね。
ここ最近のテヨンは様子がおかしい。
ドアを押して店に入ってくるテヨンは、いつもどこかしら不安げに見えた。
とても疲れている様子で、上の空かと思ったら、パク・ハをじっと見つめたりする。
そのうちに、おびえた子供のような緊張感がとれてきて、いつもの穏やかなテヨンに戻りはするのだが。
元々愛情表現はストレートだったが、初めてキスを交わしてからは、そこにスキンシップが加わっていた。
しかし、ここ最近のテヨンは、必要以上にパク・ハに触れたがっているように思える。
毎日欠かさずパク・ハの店にやって来て、手を握り、抱きしめてキスをくれた。
パク・ハは、そうしたくなる心の動きに、身に覚えがある。
愛する者が、自分の許をたった今去って行ってしまうのではないか、という不安感。
片時も離れたくなくて、傍にいても固く手を握っていたい。どこにも行かないで欲しいと強く願いながら。
テヨンが何かを不安に思っているらしいのは明らかだった。
イ・ガクに関わることなのではないか、とパク・ハは思っていた。
何を話されてもありのままに受け入れ、何を訊かれてもありのままに伝えるしかない、と彼女は思っている。
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テヨンは腕時計を見た。午後8時を廻ろうとしている。
ずっとまともに眠っていなかったが、昨夜、いつもの夢を見た後、イ・ガクに対する種々の疑問に答えを見出してからは、久しぶりにぐっすり眠れた。
短時間であっても熟睡できたおかげで頭はすっきりしている。
肉体的にも、精神的にも張りつめた状態が続いていたから、ずっと仕事にも身が入っていなかった。重大なミスを犯さなかったのが不思議なほどに。
今日は、今までの遅れを取り戻すように仕事をこなした。
しかし、これ以上遅くなって、パク・ハを待たせ続けることは気が引ける。仕事も気にはなるが、パク・ハと会うのを明日以降に引き伸ばすのも落ち着かない。どうしても、今夜、パク・ハと話をしたかった。
テヨンはデスクの上の書類を手早くまとめ、パク・ハの店に向かうことにした。
朝、目を覚ました時、イ・ガクのことを考えたが、自分の考えが真実であることを否定できそうになかった。
しかも、受け入れた方が都合もいいのだ。
仕事上のイ・ガクへの評価、祖母の期待に応えていたという安心感、何よりパク・ハへの想いとパク・ハの愛情を独り占めしたい欲求。
総てが自分のものであると言ってもよくなるのだ。イ・ガクがテヨンであるとするならば。
複雑な心境ではあったが、否定し続けて苦しむよりも、前向きに受け入れていく方が好いに違いない。
そのためには、パク・ハとありのままを話す必要があった。
パッカなら僕を救ってくれる。
イ・ガクを受け入れた彼女だからそれが可能なのだ、とテヨンは確信していた。
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カラン。
来客を告げる鐘の音にパク・ハはドアの方を見た。
テヨンの顔を見て、安心したように微笑んだ。
ここ最近の疲れていた様子が嘘みたいに、すっきりした顔をしている。
「テヨンさん。いらっしゃい。」
「ごめん。随分、待たせたね。」
パク・ハは首を横に振った。リンゴジュースでいい?と尋ね、テヨンが答える前にジューサーが廻される。
まだ返事してないよ、とテヨンが笑うのへ、だって他の飲まないじゃない、とパク・ハが笑った。
カップを受け取ったテヨンは、店内の椅子に腰を下ろす。
パク・ハはカウンターから出てくると、ブラインドを下げ、メインライトを点けた。
急に明るさを取り戻した店内のテーブルで、二人は向かい合った。
テヨンは搾りたてのパク・ハのリンゴジュースを一口飲んで、カップをテーブルに置いた。
「単刀直入に言うよ。」
時間が遅くなってしまったこともあったのだが、何よりもテヨンに迷いがなかったことが、そう言わせた。
同じような夢を見続けていた、とテヨンは言った。
王世子姿のイ・ガクが消えること、自分も袞龍袍(コルリョンボ)を纏っていたこと、身体が消えてしまってパク・ハに二度と会えないかと思って恐ろしかったこと、事細かに、夢で見たこと、感じたことをパク・ハに告げた。
夢の中でパク・ハが彼を "チョハ" と呼んだから、まさかと思いつつインターネットで調べたら、歴史の中にイ・ガクという王が実在していた、と続けた。
パク・ハは身じろぎもせず、テヨンの話をじっと聞いている。
「イ・ガクがどこに行ってしまったのかと訊いたことがあっただろ?」
「ええ。」
「君は知ってるんだろ?」
「・・・ええ。」
「イ・ガクは、過去に還ってしまった?」
「・・・ええ。」
「イ・ガクの "生まれ変わり" は、ヨン・テヨン?」
「・・・ええ。」
突然、テヨンがはじけるように笑った。
それまで神妙な面持ちで会話をしていたパク・ハだが、驚いたと同時に緊張の糸が切れた。
「ええ、しか言ってないよ。」
可笑しそうに笑うテヨンを見ながら、それもそうね、と彼女は思った。自然に笑みがこぼれる。
「イ・ガクがタイムスリップして来た王世子だったとか、また過去に還ったんだとか、その生まれ変わりが僕だとか、ちょと・・・と言うか、随分おかしなことを言ってると思うんだけど?」
「だって、事実ですもの。」
「そうか。」
テヨンの真剣な顔が、イ・ガクのその表情と同じだった。
「パッカがそう言うなら、信じられるよ。」
いくらその状況の辻褄が合っていようと、いくらネット検索の結果がそれは真実だと告げていようと、パク・ハの言葉以上に信じられるものはない、とテヨンは思った。
「これで、安心して眠れる。パッカ、ありがとう。愛してるよ。」
テヨンは立ち上がると、パク・ハを抱くように立ち上がらせ、唇を重ねた。
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