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「長編(完結)」
生まれ変わっても

生まれ変わっても 16

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もう遅いから、と食事はせずに真っ直ぐに屋根部屋へと向かった。

パク・ハは、車中で、テヨンがイ・ガクのことをあれこれ尋ねてくるのではないかと思っていた。
しかし、彼女が拍子抜けしてしまうほどに、何も訊かれなかった。さりとて、黙りこくっているわけでもなかったから、元気になってくれて良かった、とパク・ハは思った。


イ・ガクが実在の王で、自分がその生まれ変わりであるとパク・ハに確認したことだけで、テヨンは納得したのだろうか。

答えは否だ。

テヨンはイ・ガクを恋敵だと捉えている。
頭では理解しているつもりだが、パク・ハが自分より先にイ・ガクと恋に落ちたということを苦々しく思っている。要するに気に入らないのだ。

先に会ったのは僕なのに。

自分自身に嫉妬している。と言えばそうかも知れないが、イ・ガクとしての記憶がないのだから仕方がない。

・・・違う。イ・ガクが僕だから、余計に悔しいんだ。

自分は覚えていないのに、パク・ハは覚えている。
自分は自分として、自分のやり方でパク・ハを愛していけばいいと思っていたのに、パク・ハは既に自分からの愛を受けたことがあるのだ。自分の知らないうちに。

同じようにパク・ハを包み込んでやれるのか?物足りなさを感じさせたりしないだろうか?

それこそ杞憂というものだ。
イ・ガクは自分だったというのだから、テヨンとしてふるまったとしても、同じ自分だろうに。

そう簡単に受け入れられることではないと最初から解っていたことなのだから、総てをパク・ハと共有し共に乗り越えていってこそ、真に受け入れることができるだろう。
テヨンはそのことに気付かない。

そこが、感情的に受け入れられていない所以とも言える。

イ・ガクのことは気になるが、パク・ハに "気にしている" と思われるのが嫌で、余裕があるところを見せていたい、とそういったところか。


屋根部屋の下で車が停まった。

「明日は早く終わらせるから、食事に行こう。」

テヨンはパク・ハにそっと顔を寄せた。
彼女は目を閉じ彼の口づけを受け入れる。

目を開けたパク・ハはシートベルトを外したが、すぐに車を降りようとはしなかった。
テヨンに向き直って微笑む。

「テヨンさん。上がっていって。見せたいものがあるの。」

見せたいもの。それはイ・ガクとしての彼と共有したもの。屋根部屋自体であったり、彼からの恋文だったり。

恋人の言う "見せたいもの" が、イ・ガクに関わるものだろう、と思うと、またも嫉妬めいた感情が湧く。しかし、今は独り暮らしのその部屋に招かれて嬉しくないはずもない。

テヨンはエンジンを切り、シートベルトを外した。



パク・ハに附いて幅の狭い階段を昇った。その感覚に覚えがあるような、ないような・・・。

階段を昇り切った所で左を向くと、屋上に足を踏み入れることになる。
以前、テヨンはこの建物の向かい側の坂の上からここを見たことはあった。だが、足を踏み入れるのは初めてだ。

そこが、建物の屋上だとは思えないほど立派な屋根部屋。
ペントハウス前のテラスも広々として、テーブルや椅子も置かれている。庭と言ってよいだろう。
おまけに、向かって右には南国のビーチ。

パク・ハが立ち止まり、看板を見上げた。
テヨンを振り返ってにっこりと笑う。

「仕事に疲れた時はね、南国の浜辺を思い浮かべると気分が好くなったの。私がそう言ったから、あなたがこれをここに据え付けたのよ。」

テラスを進んで立派なペントハウスの前に立つ。
パク・ハがドアのロックを解除した。ドアを開け、中に進む。

こんな立派な屋根部屋は見たことがない、とテヨンは思った。
しかし、その空気というか、そこに立った時の感覚というか、確かにここを知っている、という気はした。
家の中心に立っている木も、広々としたリビングの上の吹き抜けも、初めて見たはずなのに、自分がそこに立つことは初めてではない、という気がした。

パク・ハに促されるままに、テヨンはリビングのソファに腰を下ろした。
自然にイ・ガクの指定席に座る。

「コーヒーでいい?」

「あ、うん。」



テーブルにカップが二つ置かれた。

これを見て欲しいの、とパク・ハはテヨンに竹製の小さな筒を手渡した。くすんだ色のそれは、微かに金色に塗られていた名残が見て取れる。元々は美しい光沢を放っていたのだろう。相当に古そうな物だった。

パク・ハもソファに腰かけた。エル字型のソファのテヨンの左手に座る。

テヨンは筒の蓋をゆっくりと引き抜いた。中には古びた紙が入っている。

手紙、か?

そっと引き出し、丁寧に広げた。

筆で書かれたハングルは、達筆だった。



パク・ハ


私は無事に戻った
暮らしはどうだ

そなたがこれを読むとすれば 実に300年後になるのだな
この文を発見できたのなら あんぽんたん と呼んだことを取り消そう

取り消す

ジュースの店は繁盛しておるか
私にできるのは 働く姿を思い描くことだけ
そなたは手の届かぬところにいる
そなたに会いたくてたまらない
そなたの声が聞きたい
そなたに触れていたい

死してそなたに会えるのなら
すぐにでも命を絶ちたい

もっと愛していると言えばよかった

パク・ハ

愛している

そなたの笑顔が恋しい
どうか元気で
どうか幸せに



テヨンの頬を涙が伝った。

この手紙を書いた時のイ・ガクの想いが手に取るように分かる。
それは、その時の想いが甦った、と言う方が相応しいほどに、テヨンの胸の奥から溢れ出てきて止まらない。
溢れる想いそのままに涙を流した。


この手紙は、僕が書いたものだ。

筆で文字を書いたことはない。こんなに達筆でもない。
それでも・・・僕が書いた手紙だ。


泣いているテヨンを、パク・ハが後ろからそっと抱きしめた。

背中と肩にパク・ハの温もりを感じる。
テヨンの顔のすぐ下で、パク・ハの白い両手が重なり合っていた。彼は彼女の手に唇を押しつける。

「僕は、何しに来たのかな?・・・君に会いに来たのかな?・・・ごめん、パッカ。覚えていないんだ。何も思い出せないんだよ。・・・だけど、僕がイ・ガクだってことは、解る気がする。」

パク・ハは後ろからテヨンの頬にキスをした。

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